晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

瀬名秀明  『パラサイト・イヴ』

2009-04-06 | 日本人作家 さ
たとえ、専門用語のオンパレードで理解に戸惑うにしても、前後の文脈から、こういう
ものであろうという推測をつけて読み進めていく、というのは、なんだか英語のテスト
の長文問題を解くのに似ています。

本作『パラサイト・イヴ』でも、大学の薬学部での実験の様子であったり、手術の描写
であったり、正直いって全部理解するのは、文系脳であるという言い訳を棚に上げたと
しても、かなり困難だなあ、と思うのです。

ミトコンドリアという細胞内の小器官は、細胞に寄生しながら生きながらえてきたので
すが、生命誕生から生物が進化を遂げて、長い間、細胞とミトコンドリアの関係は宿主
と従者という立場であったものが、その関係性が「あるきっかけ」で逆転してしまった
としたら・・・

生物学の基礎知識がある程度〈高校で習うくらい)ないと、これを読み進めていくのは、
けっこう苦痛じゃないのかなと思うのですが、それでも、特筆すべきは、迫りくる臨場感。
視覚的効果も無く、よく文字だけでこれを味わわせることができるのか、頭の中で立体
化するという作業を読者に行わせるのは、容易ではないでしょう。

するとここで、ふた通りの楽しみ方ができるんだ、ということに気付きました。それは、
まず薬学、生理学の知識がある人は文中に出てくる実験室や手術の描写が手にとるよう
に理解でき、その臨場感が深く味わえるということ。
もうひとつに、基礎知識がなくても、その「分からなさ」が、より恐怖を煽る、という
こと。

こういったホラーの類は、へたに誰が読んでも分かりやすくしてしまうと、安っぽさ感
の漂うB級C級コメディホラーな内容になりがちで、隠し味も工夫も無い、イマイチな
料理みたいになってしまうことがあるので、分からないなら分からないなりにじゅうぶ
ん楽しめたのは、良作の証。
コメント
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