晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

森絵都 『DIVE!!』

2010-01-12 | 海外作家 マ
スポーツをテーマにした小説には、そもそもはじめからハンデが
あるといいますか、躍動感などはおおまかですが視覚によって
心に刻まれるもので、それを文章で表現するという困難があり、
さらに『DIVE!!』では、飛び込み競技というマイナーな
スポーツをテーマにすることにより、さらにその困難は増します。

しかし、与えられた「条件」の範囲内で、人間の持つ表現の力を
駆使すれば、これほどまで臨場感あふれる描写ができるのかと
感動を通り越して畏敬すら覚えます。

しばしば、ラジオでプロ野球の実況を聴いている時、音声のみの
表現であるにもかかわらず、テレビよりも心が打ち震える瞬間が
あります。テレビとラジオの優劣や上下という問題ではなく、
そこに聴いている側の想像力が加わって、例えばただのホームラン
でも、ひょっとしたら球場を飛び越えて夜空の中に白球が消えて
月に星にまで届くのではないかと頭の中に「物語」を重ねるのです。

『DIVE!!』は、東京にある小さなダイビングクラブに、
ある日ひとりの女性がコーチに就任し、クラブの存続の条件と
して、オリンピック選手を出すという突拍子もないことを言い
出します。
その候補は、高校生でクラブの花形選手と、まだ中学生の選手。
さらにそこに、青森から「伝説のダイバー」の孫という選手も
現れて・・・

少年たちの心の葛藤、反発、成長が、青々しい若葉から茎を太ら
せて太陽に向かい背を伸ばしやがて花を咲かせるといったような
自然界の営みに似た、力強さを感じます。

そんなにこの作者の作品を読んだわけではありませんが、「風に
舞い上がるビニールシート」と「永遠の出口」、そして『DIVE
!!』を読んで思ったことは、とにかく森絵都という作家は、多様
性と柔軟性を持ち合わせているなあ、と。

先述した、足りない情報から独自の「物語」を重ねるというもの、
森絵都作品を読むと、「物語」の創作がほとばしります。
それが、立体化した作品よりも心に残る。
本を読むという醍醐味を教えてくれるのです。

力強さと繊細、ユーモアとシリアス、複雑とシンプル、対極な表現
がビンの中で混ざり合い、水と油が乳化するように一体となる。
そう、ドレッシングのような小説家。
もし万が一、いや億が一、ご本人がこの例えを見て気分を害されたら
ごめんなさい。
コメント
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