いろんなジャンルで楽しませてくれる浅田次郎作品ですが、
とりわけ時代小説と悪漢(ピカレスク)小説が面白くて、この
『天切り松 闇がたり』は、そのふたつが合わさった、いわば
「面白くないはずがない」と、読む前から楽しみでした。
時は現代、とある警察署の雑居房に、老人が入ってきます。
中には先客がいて、老人を「懲役太郎」と小馬鹿にします。
「懲役太郎」とは、年末年始あるいは寒い時期に、暖と食事
のためだけに、軽微な罪で留置場に入ってくる人のこと。
しかしこの老人、どうやらただ者ではなさそうです。
そこで、「闇がたり」という、夜盗の得意技で、その部屋から
は声が漏れない音量で語りはじめるのです・・・
ここから、「天切り松」こと松蔵が、まだ小さな頃に、大正時代の
東京にいた盗賊集団の一家に預けられることになり、彼らの活躍を
雑居房にいる面々ならびに看守、ときには警察署長まで、話を聞か
せる、という流れになっています。
松蔵の母親は病気だったのですが父は家に帰らず博打に精を出して
あげく母は亡くなり、美人の娘(松蔵の姉)を吉原に売り飛ばし、
松蔵を、盗賊の「仕立屋銀次」一家に預けます。
仕立屋銀次と父は刑務所にいたころに知り合って、何かあったら
息子を頼む、とお願いしていたようですが、銀次はまだ収監されて
いて、その代わりに銀次の弟子の安吉が出てきます。
すると、安吉は、松蔵の父親に向かって「お子さんは、預かるの
ではなく、貰いうけます」と言うのです。
しかし、目先の金が欲しい父はこれを了承。
かくして、松蔵は「抜弁天の安吉」のもとで暮らすことに。
さて、安吉には4人の弟子がいて、上から若頭の「説教寅」こと
寅弥兄ィ、「黄不動の英治」こと英治兄ィ、「振袖おこん」こと
おこん姐ェ、そして「書生常」こと常次郎兄ィ。
寅は説教強盗、英治は屋根から家に侵入する夜盗、おこんはスリ、
常は詐欺。親分の安吉もスリですが、「中抜き」という、スった
財布の中身だけを抜いて、またもとに戻すという”離れ業”。
ある日、安吉のもとに、東京地検のエリート検事が訪ねてきます。
検事は、近いうちに銀次が釈放されて東京に戻ってくるので、その
ときに、銀次を引退させて、跡目を安吉に継いでほしい、と。
というのも、この時代は警察と盗っ人は、ある意味「持ちつ持たれつ」
で、ある窃盗事件が起きたら、盗賊は組織化されていたほうが犯人が
分かりやすく、場合によっては盗んだ金品は返す、という不文律があり、
2千人のトップに君臨する銀次は、もうそのスタイルは古く、新しい
関係を築きたい警察と検察は、安吉にトップになってほしいのです。
が、安吉は「わたしは銀次親分の弟子に変わりありません」と断ります。
そして、銀次が帰京する日、東京市にいる銀次の弟子やその他もろもろ
大勢が上野駅に出迎えます。
すると、銀次が汽車から降りて安吉と再会したところで、銀次が警察に
捕まります。
安吉、裏切ったな、と銀次。
そこには、銀次の弟子たち、安吉にとっては兄貴分たちが勢ぞろいしていて、
その傍らには先日の検事が。
跡目を安吉に、となるところでしたが、安吉は「仕立屋銀次の子分にござんす」
と言って、彼らと縁を切るのです。
そして、安吉と4人の子分、そして松は、それまで住んでいたお屋敷を夜逃げ
して、うらぶれた長屋に引っ越します。
という背景があって、ここから短編形式に、松が見たり聞いたりした安吉一家の
かっこいいエピソードが「闇がたり」で語られていくのです。
「槍の小輔」では、山県有朋元帥が登場、おこんが元帥の金時計を盗んだことが
きっかけでふたりはなんといっしょに暮らすことに・・・
「百万石の甍」では、加賀百万石の前田侯爵をペテンにかけて金をせしめ・・・
そして「白縫華魁」「衣紋坂から」では、吉原に売り飛ばされた松の姉の話で、
もうこれは涙なくしては読めません。
ここで出てくるのが、この後のシリーズでも登場する、松の親友、康太郎。
偶然出会った、年齢が同じのふたり。康太郎は、吉原では大店の跡取り
息子。慶応の中学に通うおぼっちゃまですが、クラスメートには遊郭の”せがれ”
であることは話していません。不思議とウマの合う康太郎と松。
吉原で姉と再会する松。なんとかして吉原を抜けさせたいのですが・・・
寅兄ィがカッコ良すぎます。
とりわけ時代小説と悪漢(ピカレスク)小説が面白くて、この
『天切り松 闇がたり』は、そのふたつが合わさった、いわば
「面白くないはずがない」と、読む前から楽しみでした。
時は現代、とある警察署の雑居房に、老人が入ってきます。
中には先客がいて、老人を「懲役太郎」と小馬鹿にします。
「懲役太郎」とは、年末年始あるいは寒い時期に、暖と食事
のためだけに、軽微な罪で留置場に入ってくる人のこと。
しかしこの老人、どうやらただ者ではなさそうです。
そこで、「闇がたり」という、夜盗の得意技で、その部屋から
は声が漏れない音量で語りはじめるのです・・・
ここから、「天切り松」こと松蔵が、まだ小さな頃に、大正時代の
東京にいた盗賊集団の一家に預けられることになり、彼らの活躍を
雑居房にいる面々ならびに看守、ときには警察署長まで、話を聞か
せる、という流れになっています。
松蔵の母親は病気だったのですが父は家に帰らず博打に精を出して
あげく母は亡くなり、美人の娘(松蔵の姉)を吉原に売り飛ばし、
松蔵を、盗賊の「仕立屋銀次」一家に預けます。
仕立屋銀次と父は刑務所にいたころに知り合って、何かあったら
息子を頼む、とお願いしていたようですが、銀次はまだ収監されて
いて、その代わりに銀次の弟子の安吉が出てきます。
すると、安吉は、松蔵の父親に向かって「お子さんは、預かるの
ではなく、貰いうけます」と言うのです。
しかし、目先の金が欲しい父はこれを了承。
かくして、松蔵は「抜弁天の安吉」のもとで暮らすことに。
さて、安吉には4人の弟子がいて、上から若頭の「説教寅」こと
寅弥兄ィ、「黄不動の英治」こと英治兄ィ、「振袖おこん」こと
おこん姐ェ、そして「書生常」こと常次郎兄ィ。
寅は説教強盗、英治は屋根から家に侵入する夜盗、おこんはスリ、
常は詐欺。親分の安吉もスリですが、「中抜き」という、スった
財布の中身だけを抜いて、またもとに戻すという”離れ業”。
ある日、安吉のもとに、東京地検のエリート検事が訪ねてきます。
検事は、近いうちに銀次が釈放されて東京に戻ってくるので、その
ときに、銀次を引退させて、跡目を安吉に継いでほしい、と。
というのも、この時代は警察と盗っ人は、ある意味「持ちつ持たれつ」
で、ある窃盗事件が起きたら、盗賊は組織化されていたほうが犯人が
分かりやすく、場合によっては盗んだ金品は返す、という不文律があり、
2千人のトップに君臨する銀次は、もうそのスタイルは古く、新しい
関係を築きたい警察と検察は、安吉にトップになってほしいのです。
が、安吉は「わたしは銀次親分の弟子に変わりありません」と断ります。
そして、銀次が帰京する日、東京市にいる銀次の弟子やその他もろもろ
大勢が上野駅に出迎えます。
すると、銀次が汽車から降りて安吉と再会したところで、銀次が警察に
捕まります。
安吉、裏切ったな、と銀次。
そこには、銀次の弟子たち、安吉にとっては兄貴分たちが勢ぞろいしていて、
その傍らには先日の検事が。
跡目を安吉に、となるところでしたが、安吉は「仕立屋銀次の子分にござんす」
と言って、彼らと縁を切るのです。
そして、安吉と4人の子分、そして松は、それまで住んでいたお屋敷を夜逃げ
して、うらぶれた長屋に引っ越します。
という背景があって、ここから短編形式に、松が見たり聞いたりした安吉一家の
かっこいいエピソードが「闇がたり」で語られていくのです。
「槍の小輔」では、山県有朋元帥が登場、おこんが元帥の金時計を盗んだことが
きっかけでふたりはなんといっしょに暮らすことに・・・
「百万石の甍」では、加賀百万石の前田侯爵をペテンにかけて金をせしめ・・・
そして「白縫華魁」「衣紋坂から」では、吉原に売り飛ばされた松の姉の話で、
もうこれは涙なくしては読めません。
ここで出てくるのが、この後のシリーズでも登場する、松の親友、康太郎。
偶然出会った、年齢が同じのふたり。康太郎は、吉原では大店の跡取り
息子。慶応の中学に通うおぼっちゃまですが、クラスメートには遊郭の”せがれ”
であることは話していません。不思議とウマの合う康太郎と松。
吉原で姉と再会する松。なんとかして吉原を抜けさせたいのですが・・・
寅兄ィがカッコ良すぎます。