晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

浅田次郎 『王妃の館』

2013-04-24 | 日本人作家 あ
浅田次郎の作品はずいぶん読んできましたが、集英社文庫から出てる
灰色の背表紙の作品は、どれも大好きな作品ばかり。「鉄道員(ぽっぽや)」
「プリズンホテル」「天切り松 闇がたり」と、感動モノから任侠モノ
まで、そしてこの『王妃の館』は、そのふたつを合わせたような作品。
といってもヤクザは出てきませんが。

桜井香という三十代後半の独身OLが、とあるツアー会社にいます。香は、
上司と不倫をしていて、上司が昇格することになって「身辺を精算」する
ということで体よく”捨てられて”会社も辞めて、リストラ奨励金で行く
パリの豪華旅行の説明を受けています。
飛行機はファーストクラス、宿泊するホテルはパリの最高級、世界中の
観光客の憧れ「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ」、10日間ペアでなんと
150万円、おひとり様だと200万円。

45歳、独身、彼女いない歴が年齢そのままの元警察官、近藤誠も、パリの
旅行の説明を受けています。しかしこちらは、10日間で19万8千円という
格安ツアー。でも、泊まるホテルは、パリの最高級、世界中の観光客の憧れ
「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ」です。

じつは、このツアーは、香が参加するのは「光(ポジ)」で、近藤が参加
するのは「影(ネガ)」、どういうことかというと、同じ日程で2組のツアー
がパリを旅行、しかも泊まるホテルも同じ、でも、「ポジ」はちゃんとホテル
の客室に泊まれるのですが、「ネガ」は、午後から夜9時まで「ホテルの部屋を
自由に使っていい」というだけで、寝るのは地下のワインセラーを改装した狭い
部屋。ようは、意図的なダブルブッキング。

「ポジ」ツアーには、敏腕ツアコンの朝霞玲子が先導し、香、ベストセラー作家
の北白川右京とその担当編集者、工場が潰れ借金を抱えてパリ旅行を”冥土の土産”
にしようとしている夫妻、不動産成金と恋人の7人が参加。

一方「ネガ」ツアーは、近藤、「クレヨン」こと本名・黒岩源太郎というオカマ、
その正体は詐欺師という不気味な夫婦、元夜間高校の先生とその奥さん、そして、
北白川右京の担当ですが「ポジ」ツアーに参加している人とは別の出版社の2人、
こちらは8人、お世辞にも敏腕とはいえない戸川光男というツアコンが先導します。

とりあえず、戸川の最優先課題は、絶対に「ポジ」とバッティングしないこと。

はたして、こんなムチャクチャなツアーが無事成功するのか。

ところで、2組のツアー客が泊まる「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ」とは、”太陽王”
ルイ14世が最愛の王妃とその息子のために建てた、外観は建設当時のまま残る、
第2次大戦でドイツ軍がパリを攻略した際、ヒトラーが宿泊を希望したにも関わらず
「ご紹介がありません」という理由で断った、地位や金があるだけでは泊まれない
威厳のあるホテル。しかし、最近ではそんなことを言ってては経営が成り立つはずもなく、
海外ツアーを宿泊させるまで成り下がってしまいました。

そんな「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ(王妃の館)」に暮らしていたプティ・ルイと
母親ディアナ、そして館の周りに住む人々、ルイ14世が君臨した17世紀の話が
交互に描かれます。

「ポジ」と「ネガ」がニアミスしたり、最終的に2組が合流するまでの構成は見事
としか言い様がありません。
ルイ14世の苦悩、宮廷料理人の親子にまつわる話、”太陽の子”プティ・ルイの純真さ、
その母に片思いする元軍人でコックの男、などなど、17世紀の話も美しいです。


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