晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

乙川優三郎 『霧の橋』

2013-04-21 | 日本人作家 あ
この作品は、第7回時代小説大賞を受賞した作品。前に直木賞を受賞した
「生きる」を読んだとき、文章は上手いなあとは思いましたが、悲しいくらい
暗くて、それでもラストに光明が見いだせるかと期待したらラストも暗い、
うーん、この『霧の橋』も、タイトルからして暗そうでしたが、裏表紙の
短いあらすじ紹介のところに「鮮やかなラストシーンが感動的」とあった
ので、ちょっと安心。

江坂惣兵衛という武士が、林房之助という同じく武士を「八瀬」という店に
話があるといって誘います。
惣兵衛は、「八瀬」の女将に惚れていて、若くして妻に先立たれて長男は
すでに家庭を持って、次男は剣術の達人で道場を開きたいといって、ここら
で再婚を、と話そうとすると、房之助は女将を見たとたん「どこぞでお会い
したかな」と言うのです。

そして、女将がふたりの部屋から出るや、房之助は、あの女は「奥津の娘だ」
と思い出します。

奥津とは、藩の普請奉行だった男で、城の工事で不正をしたかどで両外追放と
なっていて、そのときに一緒に藩から出て行った娘のふみだ、と。
そのとき、房之助は勘定吟味方をしていて、奥津の不正を見抜いて上役に報告
したのです。

しかし、厠に立った房之助が廊下で女将に出くわし「お前は奥津の娘ふみだろう」
と問いますが、違います、と認めません。

部屋に戻り、惣兵衛に「あの女は奥津の娘だ、やめておけ」と言いますが、惣兵衛
は本気で、険悪な雰囲気に。そこに女将が部屋に入ってきて、なんと房之助は女将
に斬りかかり・・・

ここで話はがらっと変わって、江戸、深川の小間物問屋の主人、紅屋惣兵衛という
男が登場。
こちらの惣兵衛は、江坂惣兵衛の次男で、父親は「八瀬」で房之助に斬り殺され、
その後房之助は逃亡。次男は仇討ちに出かけ諸国を彷徨い、10年目に江戸でようやく
見つけ出し父の仇討ちに成功して国に戻ったら、なんと兄が横領の罪で切腹、江坂家
は消えて亡くなっていたのです。
次男は江戸に戻って、ある日、女が襲われていたところを助けます。その女とは、
小間物問屋「紅屋」の主人の娘で、それがきっかけとなり、主人に見込まれ、娘と
結婚し、紅屋を継ぎます。もう武士に未練は無く、「江坂与惣次」という名前を捨
てて、新しく紅屋惣兵衛を名乗ります。

それから、小さな商いですが堅実に働き、先代が築いてきた紅屋の扱う紅の評判を
落とさぬように頑張っています。
そんなある日、勝田屋という同じ小間物問屋ですがこちらは紅屋よりもずっと大店
で、そんな勝田屋から、おたくの紅をうちで扱わせて欲しいと持ちかけられますが、
なにぶん紅屋は小さな店で勝田屋さんに卸すほどは作れませんと断りますが、相手は
諦めません。
すると、勝田屋は、惣兵衛に「前職は武士で仇討ちをしたでしょう」などと話しはじめ
ます。どうしてこんな席でと訝りつつ、その場では返事を濁して惣兵衛は帰ります。

それからしばらくして、同業の「巴屋」という店の経営が立ち行かなくなって、そこに
入ってきたのが勝田屋。息子に巴屋を継がせます。勝田屋の目的は巴屋で扱っていた
「白梅散」という評判の良い白粉だったのです。そればかりか、紅の仲買にまで手を出し
はじめます。

どうやら、まずは白粉市場を、最終的に紅を独占しようという魂胆で、しかし紅屋の
ような小さい店は、勝田屋に食いつぶされるか、傘下に入るかしかなく、騒兵衛は
悩みます。

そんなとき、惣兵衛のもとに、かつて住んでいた藩の祐筆頭(武家の秘書、文官)という
人から会いたいと言われ、出かけてみると、そこには志保と名乗る祐筆頭の次女がいます。
志保は、惣兵衛の前の名前、つまり武士だったことを知っています。
すると、「江坂さまは、奥津ふみという名に覚えがおありでしょうか」と・・・

ここから、奥津家が両外追放になった真相が分かり、それが父が殺されたことと
どう関係してくるのか。あの仇討ちはなんだったのか・・・

物語の後半、惣兵衛はとんでもない話を聞かされ、さらに勝田屋の陰謀にも腹が立ち、
それを惣兵衛の妻は「夫は武士に戻ってしまうのではないか」と心配してしまうあたり
ぐらいから、ぐっと引き込まれます。

読み終わって、思わず「ほうっ」と唸る、いい話。


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