晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

ウォルター・ワンゲリン 『小説「聖書」』

2010-10-12 | 海外作家 ラ・ワ
今まで、世界で一番発行されている本は?という問いに、
ハリー・ポッターと答えるのはある種のギャグ。正解は
聖書です。

キリスト教徒はもちろん必読ですが、それ以外の宗教あるい
は無神論者でも読んだことがあるという人は相当数います。

この聖書を、難解な書としてではなく、ドラマチックに、
エンターテインメント性あふれる「小説」にして、聖書に
出てくる有名なキリストの奇跡の前後には、弟子たち、村人
たちとこんな会話が交わされていた、など、2000年前の
イスラエルが舞台のある奇跡の物語として描かれています。

まず冒頭、イエス誕生のころのイスラエルの状況が説明されて
います。当時はローマ帝国の支配下にあり、その地に君臨して
いたのは、ヘロデ王。ユダヤ人たちは圧政に苦しめられますが、
しかし完全に帝国スタイルに同化させるのではなく、あくまで
統治として、ユダヤ人のために神殿を新築したりもします。

イエス誕生の前に、マリアとヨセフのちょっとした恋物語が
描かれ、マリアの父は、年齢差のある結婚にはじめこそ躊躇い
をみせますが、大工として働き者のヨセフを気に入り、婿と
して認めます。

そして、例の有名な、馬小屋での生誕、の前に、ひとりの重要
な人物の生誕が先に描かれます。それはのちにイエスを洗礼する
ことになる、イエスの親戚にあたるヨハネ。

聖書をすみからすみまで読んだわけではないので、この本を読んで
はじめて知ったのですが、ヨハネもまた「天からの啓示」によって
この世に現れるのです。釘職人のザカリア、妻のエリザベトは、
連れ添って長く、しかし子どもはもうけませんでした。しかしある日
ザカリアは天使ガブリエルの声を聞きます。
「あなたの妻はあなたに男の子を産む。あなたはその子をヨハネと
名づけなさい」
そして、かなりの高齢(65歳!)ではありますが、妊娠します。
そんな中、エリザベトの甥の子ヨアキムの子、マリアが訪ねてきたの
です。すると、マリアも、神からの恵みをうけ、子をみごもり、男の子
をやどすと言われたのです。

ヨハネが誕生し、マリアのお腹の子も成長し、マリアは家に戻ります。
しかし、マリアとヨセフはこの時点でまだ婚約中だったのです。
結婚前に妊娠するとは不義の子であるはずで、はじめヨセフはマリア
と婚約解消を考えますが、ある夜、夢に天使が出てきて、マリアのお腹
の子は聖霊によって身ごもったのであって、おそれてはならない、と
告げたのです。

いよいよ、かの有名な、馬小屋でのイエス生誕のシーンとなるところ
ですが、そもそも妊娠中のマリアがロバに乗って、どうしてナザレから
ベツレヘムへと向かっていたのか。それは当時のローマ統制下の、今で
いう「国勢調査」が行われ、夫ヨセフはダビデ王の血筋であったため、
身重ではありましたが、登録のために、ダビデ王生誕地のベツレヘム
へと向かっていたのです。

イエスが誕生し、大きくなって親戚のヨハネから洗礼を受け、それから
お弟子さんたちが集まって、ありがたい言葉をかけ、村人たちにさまざま
な奇跡、施しを与え、ユダヤの安息日でありながらも病を治したりして、
それが律法学者やユダヤ教の熱心な信者から反感を買います。
また、罪人や病気の人は、心が悪いからそうなるのだ、としていた当時の
ユダヤの教えに背き、彼らの病気を治し、罪人と語らいます。
「健康な者に医者はいらない。いるのは病人だ」
これは、じつは本来の教えを実践したにすぎないのですが、なにかと保身
に走り、空疎な教えをばらまく祭司らにとっては厄介で、しかしイエスは
そんな彼らをやりこめます。

それらが、イエスが十字架で処刑となる原因となるのですが、ここから
ユダの裏切り、理不尽な裁判、そしてゴルゴダの丘での処刑と描かれます。
これが、けっこう生生しく描写されていて、「あ、痛いっ」と思わず
顔をゆがめてしまうほど。
さらに、死から3日後のイエスの復活、その後、弟子たちは各地へ旅立ち
イエスの教えをひろめるのです。

訳者もあとがきで書かれていたように、あれ、聖書ってこんな話だっけ?
と思うシーンもあったりしますが、それでも2000年前の生活様式が
細かく描かれていて、そこで生きる市井の人々の息づかいまでもが感じ
られるような、そして、イエスと弟子たちとの会話、最後の晩餐での
緊迫したシーンなどは、とても興味深かったです。

マグダラのマリアがフィーチャーされていて、イエスは世界初の男女同権論者
だというダン・ブラウンの作品中に出てくる教授の言葉を思い出しました。


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