晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

山本一力 『損料屋喜八郎始末控え』

2011-08-08 | 日本人作家 や
この作品は山本一力のデビュー作で、前に直木賞受賞作
「あかね空」を読み、その素晴らしさに圧倒されて、ぜひ
ともデビュー作から読みたいと思った次第。

「損料屋」とは、聞きなれない職業(時代小説マニアなら
ご存知でしょうが)ですが、鍋や釜、炬燵、七輪、蚊帳、
その他生活用品を貸す、現代風にいえば「生活用品レンタル」
といった職業で、隠居した人たちが細々と商いをするのが
一般なのですが、この主人公の喜八郎というのは、まだ
三十前後と若いのです。

というのも、損料屋というのはあくまで「表の顔」であって、
実は、元は同心を務めていたのですが、上司のミスの責任を
かぶって辞めて、しかし奉行所の与力が、表向きは損料屋と
して、何かあったときの隠密行動をしてもらうために、大金
を喜八郎に渡してあったのです。

そして、この小説のもうひとつのあまりお馴染みではない
職業に「札差」が出てきます。簡単にいうと米の仲買業者
で、武士の給金は米で支給されるのですが、日々の暮らし
では通貨が必要で、換金してもらわなければならず、そこ
で登場するおが、公に認められた札差なのです。
が、武士たちは体面を保つために、来年度の石高分を担保
(切米という)に入れて札差から金を借りるということも
しており、中には2~3年先の切米まで担保に入れ、その
借金が返せないと、札差の分際で武士にたてつくのか、と
逆ギレするたちの悪い武家もあったそうで、札差は一年後
の切米のみの担保しか出せないと貸し渋りをすると、武士
のほうは担保期間を延ばしてもらおうと、ヤクザ的な人物
を雇って札差と交渉させます。このヤクザ的なのが「蔵宿師」
という職業。

喜八郎は、札差「米屋」の初代に返しきれない恩義があり、
その初代の遺言に、頼りにならなくて不安な2代目の後見役
になってくれとあり引き受けることに。そこで、力のある
他の札差の家と駆け引き勝負になるのですが・・・
さながら江戸時代版「金融腐食列島」といったところですか。

深川や神田といった情景や庶民の生活描写が美しく、じつに
生き生きとしていて、ラストにはスカッと、それでいてホロリ。

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