昔からある薬屋の軒先に、三毛猫の背中が見える。
近づいてみると、右目が黒い膜で覆われ、その目は見えていない様子だ。
しかし、煉瓦塀の上に移動する身のこなしは、
良く聞こえる耳とバランスを保つヒゲがあれば大丈夫なのか、
あまり見えていなくても普通の猫と変わらない。綺麗な猫だ。
まるで自分が一番綺麗に見える場所を知っている様に煉瓦塀の上に座っている。
三毛猫と言えば、代表的な日本猫だが、煉瓦塀と古い家屋の壁が良く似合う。
そこだけ知らない外国の風景みたいで不思議な感覚を憶える。
片目が不自由なので、勝手に『ジャック』と呼んでいたが、
良く考えると三毛猫は大体が雌なので『ジャック』は失礼か…。
店の前にある自動販売機の補充に出てきた女店主が『ミーディ』と呼んだ。
お洒落で以外な名前にびっくりした。
猫と遊ぶ私に、子猫の時に痩せてボロボロの姿でやって来て、
餌をあげたら居着いたので、ずっと飼っている…と話してくれた。
「片目やけど、綺麗な猫やろ。独りじゃ可哀想やけんね…」
と笑顔で話す女店主は、
少し足が不自由な様子で、足を引きずりながら歩きにくそうに店内へ戻って行った。
「足が悪いけど、心の綺麗な人やろ。独りじゃ可哀想やけんね…」
猫が、こっちを見ていた。
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