夜の帰り道、薄暗い駐車場の街灯の下に
可愛い子猫のシルエットが浮かんでいた。
『白石さん』の息子の『栗坊』だ。
思わず立ち止まって遊んで帰るのが
ちょっとした日課になっていた。
その日もちょっと立ち寄るつもりでいると
駐車場の奥のマンションから女の人が駆け寄って来た。
話してみると、以前「猫の住所録」に登場した女性だった。
どうやら、かなり近所にお住まいだったらしく
毎日私が通るのを知っていて声を掛けて来たのだ。
「猫に用事のある人」に声を掛けては会話を楽しんでいる様子で
私の他にも数人、ココの猫達に会いに来る人が居るらしい。
『栗坊』には兄妹猫の『白子』が居たのだが、
不幸にもこの近所で交通事故で亡くなったと、その女性から聞いた。
道理で、いつもの屋根の上のメンバーが随分と寂しくなっていた訳だ。
白い猫が大好きなその女性は、
『白子』を家族にと思っていたらしいが
残念な事になってしまった。
そもそも、あの『白石さん』の性格を受け継いだ『白子』は
とても警戒心の強い猫で、人間が近付くのすら
一苦労だったので、捕まえる事はまず無理だったとは思う。
どちらかと言えば、この『栗坊』の方が
好奇心が強い分、ある程度時間を掛ければ可能な気がする。
どうしても「白猫」「子猫」にこだわるその女性は
私の母に近い年齢、「子猫」を飼うよりも成猫の方が
向いている気もするのだが。
どっちにしても、私の知っている白猫達はもう成猫だし
希望に見合う猫の住所を教える事は叶わなかった。
白くはないけど、とても可愛い顔をしているのに
『栗坊』の家路は、とても近くて遠いままのようだ。
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