店主敬白(悪魔の囁き)

栄進大飯店の店主さがみやがおくる日々の悪魔の囁き。競馬予想や文学・音楽・仕事のグチやちくりまでいろいろ。

この痛ましき女性

2005-07-13 22:23:47 | 小説・読んだ本
 「花衣ぬぐやまつわる・・・」
 という田辺聖子氏の本を読んだ。
 昭和初期の女流俳人、杉田久女の評伝で、以前にここに書いたシルヴィア・プラスのときと同じように非常に痛ましい生涯を送り、不遇のまま世を去った様子をていねいに書いてある。
 また、今までの伝記が、師匠である高浜虚子サイドから流れ出た話をもとにしてあるので、ずいぶん誤解されてストーカー扱いされたりしていたり、師匠サイドの圧力で句集もなかなか満足に出せなかったらしい。
「自分は何故認められないのだろう」
 才能ある女性なら、この苦しみは重い。
 しかもこの女性の夫も浮気したヒューズほどではないが、この作品の中では、精神的に落ち込んでいる彼女をさらに追い詰めるような言動をじゃんやじゃん吐き、やたら外ヅラだけはいい。
 今度は夫側の関係者から抗議がくるんじゃないかと思うほど「女性の才能に理解のない加害者」として描かれている。
 だがここで問題になるのは「折り合い」だ。
 アホ夫(ときとして利用価値はあったみたいだが)をどうにかして、師匠に頼りきらずになんとかする道・・・それが「折り合い」だと思うのだが、この女性はシルヴィア以上に依存心が強かった。
 自我も強かったが、師匠・カタチを変えた家族への依存をぬけ切れなかったので最後まで夢を見続けたところが、戦い続けて自爆したシルヴィアとの違いかもしれない。
 読んでいくうちに、あまりの痛ましさ、不器用さに悲しくなってきた。
  でもその痛ましさの中から、清冽な数々の俳句ができてきたのかと思うと、
「忍耐は創作に必ずしもマイナスでもない、でも決してプラスでもない」
 そんなふうに考えてしまった。
 師匠の側も師匠の側だ・・・。
 迷惑な手紙をさんざん寄こされて彼女を切り捨てのはしかたないけれど、何かうす暗い。
あわてて死後にいろいろしてやったみたいだが、もう少し生きているうちになんとか彼女をいい方向へ導いてやれなかったものか?
 このあたりに師匠の傲慢さがちらちらするのだが。