落合順平 作品集

現代小説の部屋。

農協おくりびと (46)独身男 3人衆

2015-11-13 12:03:29 | 現代小説
 農協おくりびと (46)独身男 3人衆



 定刻の午前8時。松島が運転する8人乗りのワンボックスが時間通り、
集合場所のJA共済の駐車場へ到着する。
駐車場には、すでに6人の男女が待機している。


 独身3人衆の残りの2人。
山崎はキュウリ農家の後継ぎで 現在28歳。
もうひとりの荒牧はナス農家。3人衆の中では最年長にあたる30歳。
隣りに立っているのはちひろと、少し厚化粧をしている先輩女子。
離れた場所に首から輪袈裟(わげさ)を下げた、妙子と圭子が立っている。



 「ご苦労、諸君。誰ひとり、遅刻しないとはさすがだね。
 よほど今日という日が来るのが、楽しみだったようだ。
 さて、早速だが、本日の座席割を発表する」



 コホンと咳ばらいした祐三が、胸から小さくたたんだメモ用紙を取り出す。



 「俺が徹夜で考えた。席替えは一切しない。
 異論、反論はいっさい受け付けない。言われたことに服従することが条件だ。
 それでよければ、席順を発表する」



 じろりと全員を見回す。誰ひとり反論の様子を見せない。
「よかろう。異存はないと見た。では、お待ちかねの席順を発表する」
誰かがゴクリと生唾を呑み込む。全員の顔に、軽い緊張の色が走る。
それはそうだ。席替えが不可となれば、好むと好まざるに関わらず、
今日一日を、隣で共有することになるからだ。
期待と不安が入り混じる中。運命の席順が、祐三の口から発表されていく。



 「運転は先日の約束通り、松島。
 2列目のシートには、俺と山崎と荒牧の男3人。
 3列目のシートに、さくら会館の磯崎さん(先輩の本名)と、ちひろ。
 もうひとり、臨勝寺の妙子さん。
 したがって残念ながら残った助手席には、臨勝寺の圭子さんに座ってもらう。
 以上。早速乗ってくれ諸君。目的地に向かって出発しょうぜ」



 地面からそれぞれの荷物を拾い上げた男と女が、ワンボックスのドアに集まる。
いくら開放的なドアとはいえ、6人が殺到したのでは入り口が混乱する。
どうぞと譲られたちひろが、ステップに足をかけた瞬間。
「ちょっと待て。ひとつ忘れていた」と背後から、祐三の大きな声が飛んできた。



 「男子諸君が、先に乗り込んでくれ。
 先に乗り込む君らには、大事な任務が車内で待っている。
 2列目のシートの向きを変えること。対面式にシートをセットしてくれ。
 どうだ。これなら美女たちと、こころいくまで対面できる」



 最新のワンボックスでは、従来から重視されてきた後部シートのフルフラット機能や
対面式の座席機能が廃止されているケースが多い。
理由は車内の、高品質化だ。
2列目のシートだというに、本革張りが当たり前になった。
シートも大型化されており、高級セダン並みのパワーシートまで装備されている。
8人乗りで、かつ後部座席が対面式と言うのは、特注により可能になったものだ。
そのことは発案した祐三に、すでに予備知識が有った。



 ワンボックスの後部に、男女6人が向かい合うかたちの大きな空間が誕生する。
男たちは、運転席の2人に背を向けることになる。
女たちは目の前に座った男3人の肩越しに、運転席を見ることになる。
幸か不幸か。運転席と助手席に座った2人は、大人たちの好奇の視線から
なぜか結果として解放されたことになる。


 「ラッキ~ィ♪」小さくガッツポーズを見せる運転席の松島に、助手席に座った圭子が
なんともいえない笑顔を見せる・・・



 ※輪袈裟(わげさ) 
  幅が狭く、輪のようにして首に掛け、胸に垂らす袈裟のこと。



(47)へつづく

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