落合順平 作品集

現代小説の部屋。

農協おくりびと (47)目指すは、出雲崎

2015-11-17 11:10:49 | 現代小説
農協おくりびと (47)目指すは、出雲崎



 「最初の目的地は、良寛和尚が生まれた出雲崎だ。
 最寄りのインターから北関東道に乗る。
 終点の高崎から関越道に乗り換えて、長岡JCで北陸道に乗り換える。
 西山インターで降りて、一般道を北に向かえば良寛が生まれた出雲崎だ。
 最初の見学地は、記念館が有る良寛と夕日の丘公園だ」


 祐三の説明に、運転席に座った松島が「ええっ・・・」と反論の声を上げる。



 「到着するのが11時で、いきなり日本海の夕日を見る絶景地じゃ、
 計算が大幅に狂うなぁ。
 圭子ちゃんと肩を並べて、夕日を眺めるのがおいらの今日の夢だったのに・・・
 真昼間じゃ、ムードも雰囲気も有ったもんじゃねぇ」



 「馬鹿やろう。夕日が沈むのを見ていたら、群馬へ帰って来るのは10時過ぎになる。
 尼さんの2人は、遅くとも8時までにお寺へ送り届ける。
 今日はそういう約束だ。
 そういうわけだから、今日は残念ながら、真昼の海で我慢しろ」



 (なんだよ。作戦その1が、早くも挫折しちまうのか・・・ついてねえなぁ)
当てが外れ、がっくりとうなだれる松島を、圭子がうふふと楽しそうに見つめる。



 「そのかわり昼飯は、美味いカニをたらふく食べさせる。
 出雲崎から少し移動すれば、寺泊に新鮮な海産物を食わせるエリアがある。
 そこで本日の昼食をとる予定だ」


 「先輩。カニの漁期といえば真冬です。
 残暑のこのくそ暑い時期に美味いカニが、本当に食えるんですか?」



 「松葉ガニや越前ガニと呼ばれる本ズワイの漁期は、11月からはじまる。
 だが深海に住んでいる紅ズワイの漁期は、9月1日からだ。
 つまり。解禁されたばかりのカニが、これでもかというほど店頭に並んでいる」
 


 「お~おっ~」という歓喜の声が、一斉にあがる。
「知らなかったわねぇ」と、先輩とちひろも顔を見つめあう。
8人を乗せたワンボックスが、ゆっくりとJA共済の駐車場をあとにする。
駐車場から1キロほど北へ向えば、北関東道のインターへ出る。



 新潟へ行く関越道と青森まで行く東北道を、扇の形でつないでいる高速が北関東道だ。 
東側が伸びて現在の東端は、茨城県ひたちなか市まで到達している。
全線が開通したのは、忘れもしない2011年。
3・11を予測したかのように、東北道までの全線が数日前に完成した。
開通直後の高速道路を、信越方面から来た救援トラックたちが走り抜けた。
東北へ向かうボランティアたちも、同じように、出来たばかりの北関東道を駆け抜けた。



 あれから4年。土がむき出しだったのり面も、すっかり緑で覆われている。
1メートル足らずだった苗木が、大きく背丈を伸ばし、枝が天に向かって伸びている。
高崎の乗り換えまで、20キロ足らず。
あっというまに終着点がやって来て、関越道の乗り換えが待っている。



 新潟方面への乗り換えは、関越道の上空をパスしていく。
ジェットコースターように、天空に向かって迂回の道がぐんぐん上昇する。
最頂点からくるりと向きを変え、一転して、関越道めがけて道路が落下していく。
2車線に降りると、前方の上越の山並みに向かって道路が北へ突進していく。



 群馬県と新潟県をへだてる上越国境の山々の標高は、2000m前後。
山脈としては、それほど高くない。
だが山々の尾根には、中央分水嶺が走っている。
北に降った雨は日本海へ流れ、南側の雨は関東平野を下って太平洋へ注ぎ込む。



 標高は低いが、中央分水嶺の気象はきわめて厳しい。
日本海側と太平洋側の空気が、分水嶺の上で激しくぶつかり合うからだ。
気候の変化が目まぐるしいため、日照時間が短くなる。
夏・冬ともに降水量は多くなる。集中豪雨や豪雪、雪崩などが頻発する。
もともと急峻な山がおおく、浸食されることでさらに、荒々しい山肌になっていく。



 上越国境のど真ん中を、関越道の長いトンネルが貫いていく。
ここから良寛和尚が生まれた出雲崎まで、およそ222㎞。
時間にして2時間40分余りの旅が、ワンボックスに乗った8人を待っている。


(48)へつづく

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