落合順平 作品集

現代小説の部屋。

農協おくりびと (86)キュウリの等級と階級 

2015-12-26 12:51:06 | 現代小説
農協おくりびと (86)キュウリの等級と階級 




 キュウリの曲がりは、キュウリ農家の悩みの種だ。  
キュウリはなぜか、曲がりやすい。
東北大学の金浜 耕基教授(園芸学)によれば、曲がる原因はキュウリがもつ、
実の構造に起因するという。


  種の部分に、ちょっとした秘密がある。
発生学説によれば、葉が変形したものを(しんぴ)と呼ぶ。
きゅうりは、この心皮が3枚寄り添った独特の構造をもっている。
3枚の心皮には、上下関係がある。
上に位置している心皮は、下の心皮よりも成長が遅い。



  太陽の光が良くあたり、光合成で作られる栄養分が充分にいきわたるとき、
心皮に成長の差は出ない。
そのため、ほとんどのキュウリはまっすぐ育つ。
しかし。天気の悪い日が続き、光合成が不十分になると栄養分の奪い合いで、
成長の差が出てくる。その結果、キュウリに曲がりが出てくる。



 光が十分にあたり光合成が活発になるよう、余分な葉は取り除いていく。
繊細なキュウリをまっすぐ育てるためには、かなり緻密な管理が必要になってくる。
光をさえぎる葉をこまめに間引きするなど、丁寧な仕事をしている農家ほど、
キュウリの曲がりは少ないという。



 しかし。最近は品種の改良が進み、以前ほど曲がらなくなってきた。
だがキュウリほど厳しくランク分けされている野菜は、他にない。
曲がりの幅が1㌢未満、長さ20~23㌢のキュウリが、最も良いキュウリとされている。
曲がりが大きくなるほど等級も下がり、価格も下がる。
4㌢以上曲がると市販品にならず、加工品に回されてしまう。



 「最盛期になると、忙しくなるから家の人だけでは大変でしょう。
 応援の人とか、パートさんを使っているの?」



 「収穫は、朝7時からはじまる。
 間に合わせるため、パートのおばちゃんを4人頼んでいる。
 3時間ほどで収穫はおわるが、キュウリ農家は、そのあとが戦争になる。
 キュウリは曲がりの等級と、大きさによって階級が決められている。
 1㌢以内の曲がりは、A級。
 B級はAにつぐ曲がりで、2㌢以内と決められている。
 C級はBにつぐもので、曲がりの程度は3㌢以内と決まってる。
 それ以上のものは販売にまわされず、加工用として漬物屋などに引き取られていく」



 「だから採りたてのうちに、手で、きゅうりの曲がりを直すのね!」



 「採りたてで、水分がたっぷりあるうちはある程度の修正が効く。
 だが強くやりすぎると、折れることもある」


 「折れてしまったキュウリは、どうなるの?」



 「ほとんどが、破棄処分だ。
 一本でもおおくA級品にしようと欲をかいた結果、廃棄していく羽目になる。
 きゅうり農家の宿命さ。別に気にすることはねぇ」



 「大きさによる階級と言うのは?」



 「18㌢から19㌢未満が、SSサイズ。
 18㌢から21㌢未満が、Sサイズ。
 21㌢から23㌢未満が、Mサイズ。
 23㌢から25㌢未満が、LLサイズと決まってる。
 だがそれだけじゃねぇ、箱詰めにもこまかい規則が有る。
 SSは1箱につき、58本から60本で、14本並びにする。
 Sは1箱につき52本で、13本並び。
 Mは1箱につき45本から48本で、11本から12本並び。
 Lは1箱につき38本から40本だ。
 どうだ。頭が痛くなって来ただろう。
 キュウリ農家は、決められた等級と階級を守って、サイズごとに
 せっせと箱詰めするんだ。
 忙しい時なんか、仕事が終わるのは深夜になる・・・」


(87)へつづく


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