農協おくりびと (93)長谷寺の参道
長谷寺は、奈良県桜井市初瀬にある真言宗豊山派の総本山。
万葉集や枕草子、源氏物語の中にも登場する大きな寺だ。
大和と伊勢を結ぶ初瀬街道を見下ろす初瀬山の中腹に、本堂があり、
70あまりの伽藍が一帯にひろがっている。
仁王門をくぐり、緩やかな回廊式の登廊を登っていくと399段の石段が
目の前に現れる。
登廊は二度、折れ曲がる。登るにつれて傾斜もきつくなる。
本堂の東まで続いていくが、 のぼりつめると、ちょっとした広場があらわれる。
参拝者がほっと一息つける場所であり、朱印所もここにある。
本堂も本尊も、国内最大級の大きさを誇る。
荘厳な本堂は1650年、徳川家光によって再建されたものだ。
本尊の高さ10mの十一面観音菩薩像は、日本最大をほこる木造仏。
金色の巨像は、厨子の中に納められている。
外陣から本尊の上半身だけ、拝むことができる。
ちょうど十一面観音の足元にひざまずいて、合掌する形になる。
橋が見えてきたところで、ちひろが携帯を取り出す。
指定された電話番号の総務室は、すぐに出た。
「昨日お電話したちひろと言うものですが、修行僧の光悦さんをお願いします」
と伝えただけで、「おう。俺だ」と光悦がすぐに出た。
近くに待機していたのだろうか。あまりの速さに、ちひろが軽いとまどいを覚える。
「おう。無事に着いたか。どこだ、いま?」
「橋が見えてきました。
右に長谷寺温泉と言う看板が見えてきました」
「よかった、迷わず来たか。方向音痴のお前さんにしては、上出来だ。
すぐに行く。そのまま歩くと左側に、泊瀬長者亭という食事処が有る。
そこで待っていてくれ。
ランチタイムにだけ提供する、しょうが焼き定食がおすすめだ。
ちょっと待てよ・・・今の時間じゃ早すぎるな、食事処はまだ開いていないか」
「食事処はまだのようです。でもお隣のお土産屋さんが開いています。
店先に、わらしべ長者の里と言うのぼりがはためいています。
もしかして、わたしの知っているあの、昔話のわらしべ長者のお話でしょうか?」
「わらしべ長者は、長谷寺から生まれた昔ばなしだ。
なんだ。長谷寺へ来たくせに、そんなことも知らなかったのか、お前は」
「すいませんねぇ、何も知らない田舎者で。
もう切ります。お土産物を物色していますから、いいから早く来て」
ふんと鼻を鳴らして、ちひろが携帯を切る。
長谷寺が花の寺という事は知っていたが、わらしべ長者の里だということは、
のぼりを見るまで、まったく知らずにいた。
お土産品がいろいろと並ぶ中。わらしべ長者のパンフレットも並んでいる。
民話調のイラストに惹かれて、ちひろが思わず手を伸ばす。
「このあたりの民話なんですって?。わらしべ長者のお話しって」
「そうです。花の寺も有名ですが、わらしべの里もよく知られています。
どちらからですか?。言葉のなまりが、このあたりではないようですね?」
「群馬からです。今朝の夜行のバスで着きました」
「おやまあ、ずいぶんとまた遠くから。
さぞかし長旅でお疲れでしょう。よかったらお茶をさしあげましょう。
女性のひとり旅。何か深い事情でもお有りのようです」
店の女将がお茶でも入れましょうと、ちひろを手招きする。
(あら、早速、わらしべ長者のご利益かしら・・・
うふふ。女のひとり旅もそうそう捨てたものじゃ、ありませんね)
嬉しそうにちひろが、にっこりとほほ笑む。
(94)へつづく
新田さらだ館は、こちら
長谷寺は、奈良県桜井市初瀬にある真言宗豊山派の総本山。
万葉集や枕草子、源氏物語の中にも登場する大きな寺だ。
大和と伊勢を結ぶ初瀬街道を見下ろす初瀬山の中腹に、本堂があり、
70あまりの伽藍が一帯にひろがっている。
仁王門をくぐり、緩やかな回廊式の登廊を登っていくと399段の石段が
目の前に現れる。
登廊は二度、折れ曲がる。登るにつれて傾斜もきつくなる。
本堂の東まで続いていくが、 のぼりつめると、ちょっとした広場があらわれる。
参拝者がほっと一息つける場所であり、朱印所もここにある。
本堂も本尊も、国内最大級の大きさを誇る。
荘厳な本堂は1650年、徳川家光によって再建されたものだ。
本尊の高さ10mの十一面観音菩薩像は、日本最大をほこる木造仏。
金色の巨像は、厨子の中に納められている。
外陣から本尊の上半身だけ、拝むことができる。
ちょうど十一面観音の足元にひざまずいて、合掌する形になる。
橋が見えてきたところで、ちひろが携帯を取り出す。
指定された電話番号の総務室は、すぐに出た。
「昨日お電話したちひろと言うものですが、修行僧の光悦さんをお願いします」
と伝えただけで、「おう。俺だ」と光悦がすぐに出た。
近くに待機していたのだろうか。あまりの速さに、ちひろが軽いとまどいを覚える。
「おう。無事に着いたか。どこだ、いま?」
「橋が見えてきました。
右に長谷寺温泉と言う看板が見えてきました」
「よかった、迷わず来たか。方向音痴のお前さんにしては、上出来だ。
すぐに行く。そのまま歩くと左側に、泊瀬長者亭という食事処が有る。
そこで待っていてくれ。
ランチタイムにだけ提供する、しょうが焼き定食がおすすめだ。
ちょっと待てよ・・・今の時間じゃ早すぎるな、食事処はまだ開いていないか」
「食事処はまだのようです。でもお隣のお土産屋さんが開いています。
店先に、わらしべ長者の里と言うのぼりがはためいています。
もしかして、わたしの知っているあの、昔話のわらしべ長者のお話でしょうか?」
「わらしべ長者は、長谷寺から生まれた昔ばなしだ。
なんだ。長谷寺へ来たくせに、そんなことも知らなかったのか、お前は」
「すいませんねぇ、何も知らない田舎者で。
もう切ります。お土産物を物色していますから、いいから早く来て」
ふんと鼻を鳴らして、ちひろが携帯を切る。
長谷寺が花の寺という事は知っていたが、わらしべ長者の里だということは、
のぼりを見るまで、まったく知らずにいた。
お土産品がいろいろと並ぶ中。わらしべ長者のパンフレットも並んでいる。
民話調のイラストに惹かれて、ちひろが思わず手を伸ばす。
「このあたりの民話なんですって?。わらしべ長者のお話しって」
「そうです。花の寺も有名ですが、わらしべの里もよく知られています。
どちらからですか?。言葉のなまりが、このあたりではないようですね?」
「群馬からです。今朝の夜行のバスで着きました」
「おやまあ、ずいぶんとまた遠くから。
さぞかし長旅でお疲れでしょう。よかったらお茶をさしあげましょう。
女性のひとり旅。何か深い事情でもお有りのようです」
店の女将がお茶でも入れましょうと、ちひろを手招きする。
(あら、早速、わらしべ長者のご利益かしら・・・
うふふ。女のひとり旅もそうそう捨てたものじゃ、ありませんね)
嬉しそうにちひろが、にっこりとほほ笑む。
(94)へつづく
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