上州の「寅」(31)

巣箱の設置がはじまった。
まとめて一ヶ所へ置くわけでは無い。
ひとつずつ離して置いていく。それも最低300mは離す。
巣箱は全部で20個ある。
300mずつ離して置いていくと、トータル距離は6000mを超える。
ゴルフ場を一周するのとほぼ同じ距離。
「新居を置いたって、それだけでミツバチが入ってくれる訳じゃない。
魚を釣るときだって集めるため、撒き餌をするでしょう」
「撒き餌が有るのか。ミツバチ用の?」
「あるわ。それもとっておきのやつが。
それがこれ。
はい。日本ミツバチ捕獲のための強い味方、その名も待ち箱ルアー」
「なんだこれ?。新手の芳香剤か」
「当たらずとも遠からず。
これは蜜蜂蘭(みつばちらん)と呼ばれるキンリョウヘン(金稜辺)。
キンリョウヘンは日本ミツバチを誘引する花なの。
そのフェロモンを科学的に再生したものが、この待ち箱ルアー」
「花じゃなくて、芳香剤を巣箱へぶら下げるだけか。
こんな小細工でホントに、日本ミツバチが集まって来るのか?」
「キンリョウヘンは中国原産のランで、小型のシンビジュームの一種。
明治時代に栽培が流行したけど、さいきんは派手な花の咲くシンビジュームが
好まれて、地味な花のキンリョウヘンは人気がありません。
でも痩せても枯れてもキンリョウヘンはランの一種。
素人が栽培するのは難しい。
それでもハチを集めるために、キンリョウヘンのフェロモンが必要。
というわけで、こんな便利な化学兵器が登場したのです」
「へぇぇ・・・花のフェロモンが、ニホンミツバチを呼び集めるのか」
「家畜として改良されてきたセイヨウミツバチと異なり、
ニホンミツバチは野生種。
ハチも販売されていないため、巣箱に誘導する手段がどうしても必要となる。
ニホンミツバチは毎年春に群れが2群に分かれる。
1群は新しい巣を見つけて移動する。これを分蜂といいます。
新しい巣へ飛び立った群れを捕獲する。
その誘導のために必要なのが、このキンリョウヘン。
キンリョウヘンは中国原産。
トウヨウミツバチは、フェロモンに誘われて集まって来るけど、
セイヨウミツバチには効果がないの。
どう?。凄いでしょ」
「キンリョウヘンは大学生にも効くのかな?」
「どういう意味?」
「どこかの美大生が、キンリョウヘンのフェロモンみたいなものに誘われて、
こんな辺鄙な場所までやってきた。」
「それってわたしに、キンリョウヘンの魔力があるということかしら。
わたしのような金髪女が好みなの?。寅ちゃんは?」
「あっ・・・いやっ・・・その、あの、そんなつもりで言ったのでは・・・」
「じゃ、どういう意味で言ったのさ!」
「キンリョウヘンには毒がありそうだから、気をつけなきゃ。
と、ふとそう思っただけだ・・・」
「ふん!。口が悪くて、素直じゃない寅ちゃんなんか大嫌いだ。
卒業できそうもない美大生なんて、誰が相手にするものか」
(32)へつづく

巣箱の設置がはじまった。
まとめて一ヶ所へ置くわけでは無い。
ひとつずつ離して置いていく。それも最低300mは離す。
巣箱は全部で20個ある。
300mずつ離して置いていくと、トータル距離は6000mを超える。
ゴルフ場を一周するのとほぼ同じ距離。
「新居を置いたって、それだけでミツバチが入ってくれる訳じゃない。
魚を釣るときだって集めるため、撒き餌をするでしょう」
「撒き餌が有るのか。ミツバチ用の?」
「あるわ。それもとっておきのやつが。
それがこれ。
はい。日本ミツバチ捕獲のための強い味方、その名も待ち箱ルアー」
「なんだこれ?。新手の芳香剤か」
「当たらずとも遠からず。
これは蜜蜂蘭(みつばちらん)と呼ばれるキンリョウヘン(金稜辺)。
キンリョウヘンは日本ミツバチを誘引する花なの。
そのフェロモンを科学的に再生したものが、この待ち箱ルアー」
「花じゃなくて、芳香剤を巣箱へぶら下げるだけか。
こんな小細工でホントに、日本ミツバチが集まって来るのか?」
「キンリョウヘンは中国原産のランで、小型のシンビジュームの一種。
明治時代に栽培が流行したけど、さいきんは派手な花の咲くシンビジュームが
好まれて、地味な花のキンリョウヘンは人気がありません。
でも痩せても枯れてもキンリョウヘンはランの一種。
素人が栽培するのは難しい。
それでもハチを集めるために、キンリョウヘンのフェロモンが必要。
というわけで、こんな便利な化学兵器が登場したのです」
「へぇぇ・・・花のフェロモンが、ニホンミツバチを呼び集めるのか」
「家畜として改良されてきたセイヨウミツバチと異なり、
ニホンミツバチは野生種。
ハチも販売されていないため、巣箱に誘導する手段がどうしても必要となる。
ニホンミツバチは毎年春に群れが2群に分かれる。
1群は新しい巣を見つけて移動する。これを分蜂といいます。
新しい巣へ飛び立った群れを捕獲する。
その誘導のために必要なのが、このキンリョウヘン。
キンリョウヘンは中国原産。
トウヨウミツバチは、フェロモンに誘われて集まって来るけど、
セイヨウミツバチには効果がないの。
どう?。凄いでしょ」
「キンリョウヘンは大学生にも効くのかな?」
「どういう意味?」
「どこかの美大生が、キンリョウヘンのフェロモンみたいなものに誘われて、
こんな辺鄙な場所までやってきた。」
「それってわたしに、キンリョウヘンの魔力があるということかしら。
わたしのような金髪女が好みなの?。寅ちゃんは?」
「あっ・・・いやっ・・・その、あの、そんなつもりで言ったのでは・・・」
「じゃ、どういう意味で言ったのさ!」
「キンリョウヘンには毒がありそうだから、気をつけなきゃ。
と、ふとそう思っただけだ・・・」
「ふん!。口が悪くて、素直じゃない寅ちゃんなんか大嫌いだ。
卒業できそうもない美大生なんて、誰が相手にするものか」
(32)へつづく