落合順平 作品集

現代小説の部屋。

つわものたちの夢の跡・Ⅱ (30)四条通りを舞妓が横断する

2015-05-05 11:27:26 | 現代小説

つわものたちの夢の跡・Ⅱ

(30)四条通りを舞妓が横断する



 レクチャーを終えた日野自動車の一行が、恵子の置屋『市松』を後にする。
2人の舞妓と恵子を先頭に、日の暮れた路地を歩き始めた一行は2分足らずで
通行の激しい四条通りの歩道に出る。

 
 四条通りは、かつての平安京の四条大路にあたる。
広い通りは、京都市東西の中心部を貫いていく。
四条河原町の交差点を中心に、京都最大の繁華街が形成されている。
八坂神社の石段下から、右京区の梅津段町の交差点までは4車線の道路が続き、
そこから西は、2車線の道路に変る。



 一行が目指すお茶屋『池田屋』は、四条通りを横断した北に位置している。
北には、京都で真っ先に歴史的景観の保存地区として指定された新橋地区が有る。
新橋地区には、昔ながらの茶屋街のたたずまいが残っている。


 6時を過ぎた四条通りは、一日の中でも最大限といえる混雑を見せている。
暮れの28日という事も有り、物流を担うトラックの姿は少ない。
そのかわり。買い物のために移動する市民の姿や、年末の休みで京都へ押しかけてきた
他県ナンバーの車が目立つ。



 「へぇぇ・・・異常なほど道が渋滞しているぜ。
 まるで、日本中から京都へ、車が集まって来たような感が有る。
 九州ナンバーが通過したかと思えば、立て続けにその後ろを北陸や関東、
 東北地方のナンバーをつけた車が走って来る。
 30秒ほど前になるが、北海道のナンバーをつけた乗用車が走り抜けて行った。
 姿が見えないのは休みに入ったのは、大型トラックだけだな」


 「椎名。いいかげんで仕事の事は忘れろ。
 通りに出れば、トラックの姿ばかり探すのは、お前の悪い癖だ。
 今日で今年の仕事はすべて終わったはずだ。
 明日からは、年末年始の長い休暇がはじまる。
 なによりも今日は、お前さんたちが念願だった、お茶屋遊びが叶う日だ。
 トラックの姿ばかり探さないで、頭の中を遊びモードに切り変えたらどうだ」


 「別にそういう意味じゃない。
 俺はただ、たくさんの車の流れを見ながら、別の事を考えていた」


 「トラック以外の、別の事を考えていた?。
 へぇぇ珍しいなぁ。お前が、トラック以外の事を考えるなんて」



 「さきほどの女将さんの話だ。
 四条通りを舞妓が、横断歩道でもない場所で横切るという話。
 深夜の交通量の少ない時間帯ならともかく、これほど交通量の多い時間帯でも、
 舞妓はやっぱり、通りを横断できるのかな。
 治外法権の舞妓が足を踏み出すと、ホントに、車やタクシーが停まるのかな?」



 「馬鹿を言うな。この時間帯だ。どう見ても車の数が多すぎる。
 舞妓といえども横断歩道以外の場所で、道路を渡るには無理がある。
 普通に考えたら、自殺行為だ。
 だいいちこの混雑した時間帯に、道路を横断をしていく必然性がない。
 いまの時間なら舞妓でも安全に渡るために、もう少し前方にある
 あっちの横断歩道を渡るだろう」


 「それが最善の選択だろうと、俺も思う。
 だがよ。右を見ても左を見ても、一番近い横断歩道まで200メートルはある。
 どう見ても遠すぎないか。向こう側に渡るための横断歩道は」


 「仕方がないだろう。このあたりは繁華街で、交通量も多い。
 たびたび渋滞が発生するそうだが、祇園祭になるとさらに激しくなるという。
 山鉾が道を占有するために、渋滞がピークになる。
 車が停止している大渋滞の時なら、隙間を縫って舞妓がヒョイヒョイと、
 渡っていくこともあるだろう。
 それ以外は、とてもじゃないが次々と車がはしるこの通りを横断するのは、
 まず不可能だろうな・・・」


 「そうでもおへん。
 お座敷に遅刻しそうになった舞妓が、実は、強行突破したことがあんのどす」



(31)へつづく


『つわものたちの夢の跡』第一部はこちら

最新の画像もっと見る

コメントを投稿