オヤジ達の白球(60)車の立ち往生
「愛人と国道17号で立ち往生?。
もう、そんなに降っているのか、水上方面も」
事務室で談笑していたはずの柊が2人の背後へ、携帯を片手に戻ってきた。
「えっ。ということはほかにもまだ、立ち往生が発生している道路があるのですか?」
慎吾の問いかけに、「まぁな」と柊が苦笑を見せる。
「県庁から緊急の呼び出しが来た。
県内の国道と県道の通行の安全を確保するのが、俺の仕事だからな。
この雪のせいで、あちこちで車の立ち往生がはじまりそうだ」
「大変ですねぇ、総合土木職という仕事も。
車が立ち往生するだけで、県庁から緊急出動の連絡が来るのですか」
「公務員は住民の公僕だ。
人手が足らなけりゃ、除雪車を運転することもある」
「へぇぇ。公休日に仕事する公務員がこの世に居たとは驚きだ。
この雪だ。気をつけて行けよ。
お前さんまで立ち往生したら、現場で指揮をとる責任者がいなくなるからな」
「わかっているさ、そのくらい」じゃ行ってくるぜと柊が、
バッティング・センターをあとにする。
2本のわだちが駐車場から県庁へ向かう県道へ伸びていく。
午後4時。打撃練習を終えた男たちが、居酒屋へひきあげる。
この頃、積雪は5㌢をこえていた。
動き始めた車の屋根から、座布団のような雪のかたまりが滑り落ちてくる。
店へ戻った一行のもとへ、テレビから車の立ち往生の様子が伝わって来る。
柊が向かった県境の碓氷峠では、すでに400台から500台の車が立ち往生している。
長野県と山梨県を結ぶ国道20号線も、茅野市から富士見町までの間が通行止めになった。
こちらでも300台から400台の車が立ち往生になっている。
「おい。山のほうじゃ大変なことになっているぜ」
「どうやら雪見酒などと、のんびり呑んでいる場合じゃなさそうだ。
本降りになってきたぜ。このままじゃ、このあたりも大雪になりそうだ」
店の前の雪がみるみる厚みを増していく。
数分前に通り過ぎた車のわだちが、あっというまに雪にかき消されていく。
「おっ・・・先輩から続報が来たぞ。
なになに、国道に止まったままはやくも3時間。車はまったく動かねぇだと。
愛人はやたら不機嫌になってくるし、このままだと俺もカミさんに浮気がばれる恐れがある。
はやくなんとかしたいが、まったく打つ手が見つからねぇ。
八方ふさがりとはこのことだ・・・か。
やれやれ。ご愁傷さまなことだぜ。まったく」
(天罰だ)とぺろりと舌を出し、北海の熊が携帯をポケットへしまう。
「おい。おれたちもいつまでも呑んでいないで、いいかげんで帰った方がいい。
南岸低気圧がますます発達して、今晩当たり、最大限の勢力に達するそうだ」
「南岸低気圧が最大限に発達すると、いったいどうなるんだ?」
「南岸低気圧が北からの寒気を呼び込んで、関東に大量の雪を降らせる。
いまの降りかたは、まだまだ序の口らしい」
「ホントか!」
「これまで経験したことのない歴史的な大雪になる、という警報が出た。
予測で、前橋で60㌢をこえるそうだ」
「前橋で60㌢・・・ということは、このあたりではどのくらい積もるんだ?」
「おなじくらい積もるか、もうすこし積もるだろう。
いずれにしても長居は無用だ。
今日はこれくらいにして、みんな、さっさと家へ帰ろうぜ」
北海の熊が先頭きって立ち上がる。
「そうだな。雪見酒などと洒落こんでいる場合じゃねぇ。
熊のいう通りだ。
おい、帰ろうぜ、みんな。
大将も早く帰って、大雪の対策をした方がいいぞ」
(61)へつづく
「愛人と国道17号で立ち往生?。
もう、そんなに降っているのか、水上方面も」
事務室で談笑していたはずの柊が2人の背後へ、携帯を片手に戻ってきた。
「えっ。ということはほかにもまだ、立ち往生が発生している道路があるのですか?」
慎吾の問いかけに、「まぁな」と柊が苦笑を見せる。
「県庁から緊急の呼び出しが来た。
県内の国道と県道の通行の安全を確保するのが、俺の仕事だからな。
この雪のせいで、あちこちで車の立ち往生がはじまりそうだ」
「大変ですねぇ、総合土木職という仕事も。
車が立ち往生するだけで、県庁から緊急出動の連絡が来るのですか」
「公務員は住民の公僕だ。
人手が足らなけりゃ、除雪車を運転することもある」
「へぇぇ。公休日に仕事する公務員がこの世に居たとは驚きだ。
この雪だ。気をつけて行けよ。
お前さんまで立ち往生したら、現場で指揮をとる責任者がいなくなるからな」
「わかっているさ、そのくらい」じゃ行ってくるぜと柊が、
バッティング・センターをあとにする。
2本のわだちが駐車場から県庁へ向かう県道へ伸びていく。
午後4時。打撃練習を終えた男たちが、居酒屋へひきあげる。
この頃、積雪は5㌢をこえていた。
動き始めた車の屋根から、座布団のような雪のかたまりが滑り落ちてくる。
店へ戻った一行のもとへ、テレビから車の立ち往生の様子が伝わって来る。
柊が向かった県境の碓氷峠では、すでに400台から500台の車が立ち往生している。
長野県と山梨県を結ぶ国道20号線も、茅野市から富士見町までの間が通行止めになった。
こちらでも300台から400台の車が立ち往生になっている。
「おい。山のほうじゃ大変なことになっているぜ」
「どうやら雪見酒などと、のんびり呑んでいる場合じゃなさそうだ。
本降りになってきたぜ。このままじゃ、このあたりも大雪になりそうだ」
店の前の雪がみるみる厚みを増していく。
数分前に通り過ぎた車のわだちが、あっというまに雪にかき消されていく。
「おっ・・・先輩から続報が来たぞ。
なになに、国道に止まったままはやくも3時間。車はまったく動かねぇだと。
愛人はやたら不機嫌になってくるし、このままだと俺もカミさんに浮気がばれる恐れがある。
はやくなんとかしたいが、まったく打つ手が見つからねぇ。
八方ふさがりとはこのことだ・・・か。
やれやれ。ご愁傷さまなことだぜ。まったく」
(天罰だ)とぺろりと舌を出し、北海の熊が携帯をポケットへしまう。
「おい。おれたちもいつまでも呑んでいないで、いいかげんで帰った方がいい。
南岸低気圧がますます発達して、今晩当たり、最大限の勢力に達するそうだ」
「南岸低気圧が最大限に発達すると、いったいどうなるんだ?」
「南岸低気圧が北からの寒気を呼び込んで、関東に大量の雪を降らせる。
いまの降りかたは、まだまだ序の口らしい」
「ホントか!」
「これまで経験したことのない歴史的な大雪になる、という警報が出た。
予測で、前橋で60㌢をこえるそうだ」
「前橋で60㌢・・・ということは、このあたりではどのくらい積もるんだ?」
「おなじくらい積もるか、もうすこし積もるだろう。
いずれにしても長居は無用だ。
今日はこれくらいにして、みんな、さっさと家へ帰ろうぜ」
北海の熊が先頭きって立ち上がる。
「そうだな。雪見酒などと洒落こんでいる場合じゃねぇ。
熊のいう通りだ。
おい、帰ろうぜ、みんな。
大将も早く帰って、大雪の対策をした方がいいぞ」
(61)へつづく