海上自衛隊横須賀基地で、またいじめ自殺が明るみにでた。
いじめ自殺事件は教育現場や企業などで後を絶たないが、同じ組織で再発するといったケースは、私が知る限りこれまではない。
海上自衛隊横須賀基地でのいじめ自殺事件は、10年前の2004年10月に生じていた。護衛艦「たちかぜ」乗組員の1等航海士(当時21歳)がいじめを苦にして自殺し、遺族が国などを訴えていた。この訴訟に先立ち海自は同年11月に全乗組員190人を対象に艦内生活実態アンケートを実施し、1士が先輩隊員(2等海曹)からエアガンで撃たれたことなど、いじめの実態を把握していた。
が、遺族が訴訟を起こした途端、海自は「アンケート資料は破棄した」と重要な証拠を隠ぺいした。いじめの事実についての証拠がないまま1審の横浜地裁は賠償を認める判決を出したが、証拠不十分のため「自殺までは予想できなかった」との認定にとどめざるを得なかった。
この裁判の過程で、海自の組織ぐるみの証拠隠しに怒りを覚えた訴訟の国側代理人だった3等海佐が、アンケートの原本が保管されていることを知り、08年には防衛省の公益通報窓口に告発したが、海自は「隠している事実はない」と回答したため、3佐は判決当日にアンケートを情報公開請求した。が、それでも海自は「破棄した」と回答し、証拠の隠滅は成功したかに見えた。
が、組織内での立場が不利になることを百も承知で3佐は遺族側の弁護士に手紙で相談し、実名で東京高裁に「アンケートを国が隠している」とする陳述書を提出したため、「もう隠しきれない」と海自は12年6月になってようやくアンケートの存在を明らかにし、当時の海自トップの杉本正彦海上幕僚長が謝罪した。こうして10年がかりの裁判を経て、今年4月に東京高裁は賠償を増額して約7350万円の支払いを命令し、国の証拠隠しを認定した。
この間、内閣府の情報公開・個人情報保護審査会が防衛省について「組織全体として不都合な事実を隠ぺいしようとする傾向がある」と認定していた。(13年10月)
が、海自は、この内部告発した3佐について、3佐がアンケートのコピーを持ち出して保管していたことについて「行政管理が不適切だった」と指摘、規律違反の疑いで審理することを通知し、懲戒処分も検討しているという。こうした行為も「組織ぐるみのいじめ」ではないか。少なくとも3佐の規律違反を問題にするなら、まずアンケートの存在を組織ぐるみで隠ぺいしようとした関係者全員に対する厳しい処分が先決だろう。
こうした事件が過去にあったにもかかわらず、海上自衛隊横須賀基地で再びいじめ自殺事件が生じた。その事件を私が知ったのは昨日のNHKのニュース7である。いじめを行った1等海曹の実名報道だった。加害者の1等海曹は書類
送検されたというが、この段階で実名報道したことに、何となく違和感を感じ
た。で、NHKのふれあいセンターに電話をして聞いた。最初窓口に出た女性は、いったん「上司に代わります」といった後、上司に代わらずに「警察が発表したようです」と答えたので、「この段階で警察が実名を公表することはちょっと考えにくい」と再回答を求めたところ、責任者が電話に出て「肩書がつくと書類送検でも実名報道することがあります。おそらく新聞も同様の扱いをすると思いますよ」ということだった。
それでもなんとなく釈然としなかったが、今日の朝刊を見て分かった。過去のいじめ自殺に対する組織ぐるみの隠ぺい工作があったため、横須賀地方総監部の中西正人幕僚長と護衛艦司令部の酒井良幕僚長が記者会見で実名公表に踏み切ったようだ。
が、21歳の一等航海士に対して繰り返し暴行を加え自殺に追い込んだ元2等海曹はいぜんとして実名報道されていない。アンケートの結果が明るみにでた以上、この2等海曹は刑事責任も問われているはずで(時効は中断している)、報道の不整合性がかえって明るみに出ることになった。
海自がこの段階で実名公表に踏み切ったのは、本当に二度と不祥事を起こすまいという厳しい決意の表れであれば、それなりに評価するにやぶさかではないが、責任が上層部に及ぶのを防ぐためにトカゲの尻尾切りで事を済ませることが目的であった可能性も否定しきれない。
マス・メディアは海自の発表を受けて実名報道に踏み切った以上、なぜ同じ組織で不祥事が相次いだのかの、徹底的な追跡取材をする責任がある。とくに今後、こうした不祥事が「自衛隊員の士気にかかわり、国の安全保障上問題が生じかねない」などという屁理屈で隠ぺいされるようなことも十分考えられるため、海自の体質(海自だけではないかもしれない)に徹底的なメスを入れる必要がある。海自、という組織が書類送検されたいじめ自殺の加害者を実名公表したのはなぜか、過去の隠ぺい事件との関係で海自の体質を明らかにしてもらいたい。
いじめ自殺事件は教育現場や企業などで後を絶たないが、同じ組織で再発するといったケースは、私が知る限りこれまではない。
海上自衛隊横須賀基地でのいじめ自殺事件は、10年前の2004年10月に生じていた。護衛艦「たちかぜ」乗組員の1等航海士(当時21歳)がいじめを苦にして自殺し、遺族が国などを訴えていた。この訴訟に先立ち海自は同年11月に全乗組員190人を対象に艦内生活実態アンケートを実施し、1士が先輩隊員(2等海曹)からエアガンで撃たれたことなど、いじめの実態を把握していた。
が、遺族が訴訟を起こした途端、海自は「アンケート資料は破棄した」と重要な証拠を隠ぺいした。いじめの事実についての証拠がないまま1審の横浜地裁は賠償を認める判決を出したが、証拠不十分のため「自殺までは予想できなかった」との認定にとどめざるを得なかった。
この裁判の過程で、海自の組織ぐるみの証拠隠しに怒りを覚えた訴訟の国側代理人だった3等海佐が、アンケートの原本が保管されていることを知り、08年には防衛省の公益通報窓口に告発したが、海自は「隠している事実はない」と回答したため、3佐は判決当日にアンケートを情報公開請求した。が、それでも海自は「破棄した」と回答し、証拠の隠滅は成功したかに見えた。
が、組織内での立場が不利になることを百も承知で3佐は遺族側の弁護士に手紙で相談し、実名で東京高裁に「アンケートを国が隠している」とする陳述書を提出したため、「もう隠しきれない」と海自は12年6月になってようやくアンケートの存在を明らかにし、当時の海自トップの杉本正彦海上幕僚長が謝罪した。こうして10年がかりの裁判を経て、今年4月に東京高裁は賠償を増額して約7350万円の支払いを命令し、国の証拠隠しを認定した。
この間、内閣府の情報公開・個人情報保護審査会が防衛省について「組織全体として不都合な事実を隠ぺいしようとする傾向がある」と認定していた。(13年10月)
が、海自は、この内部告発した3佐について、3佐がアンケートのコピーを持ち出して保管していたことについて「行政管理が不適切だった」と指摘、規律違反の疑いで審理することを通知し、懲戒処分も検討しているという。こうした行為も「組織ぐるみのいじめ」ではないか。少なくとも3佐の規律違反を問題にするなら、まずアンケートの存在を組織ぐるみで隠ぺいしようとした関係者全員に対する厳しい処分が先決だろう。
こうした事件が過去にあったにもかかわらず、海上自衛隊横須賀基地で再びいじめ自殺事件が生じた。その事件を私が知ったのは昨日のNHKのニュース7である。いじめを行った1等海曹の実名報道だった。加害者の1等海曹は書類
送検されたというが、この段階で実名報道したことに、何となく違和感を感じ
た。で、NHKのふれあいセンターに電話をして聞いた。最初窓口に出た女性は、いったん「上司に代わります」といった後、上司に代わらずに「警察が発表したようです」と答えたので、「この段階で警察が実名を公表することはちょっと考えにくい」と再回答を求めたところ、責任者が電話に出て「肩書がつくと書類送検でも実名報道することがあります。おそらく新聞も同様の扱いをすると思いますよ」ということだった。
それでもなんとなく釈然としなかったが、今日の朝刊を見て分かった。過去のいじめ自殺に対する組織ぐるみの隠ぺい工作があったため、横須賀地方総監部の中西正人幕僚長と護衛艦司令部の酒井良幕僚長が記者会見で実名公表に踏み切ったようだ。
が、21歳の一等航海士に対して繰り返し暴行を加え自殺に追い込んだ元2等海曹はいぜんとして実名報道されていない。アンケートの結果が明るみにでた以上、この2等海曹は刑事責任も問われているはずで(時効は中断している)、報道の不整合性がかえって明るみに出ることになった。
海自がこの段階で実名公表に踏み切ったのは、本当に二度と不祥事を起こすまいという厳しい決意の表れであれば、それなりに評価するにやぶさかではないが、責任が上層部に及ぶのを防ぐためにトカゲの尻尾切りで事を済ませることが目的であった可能性も否定しきれない。
マス・メディアは海自の発表を受けて実名報道に踏み切った以上、なぜ同じ組織で不祥事が相次いだのかの、徹底的な追跡取材をする責任がある。とくに今後、こうした不祥事が「自衛隊員の士気にかかわり、国の安全保障上問題が生じかねない」などという屁理屈で隠ぺいされるようなことも十分考えられるため、海自の体質(海自だけではないかもしれない)に徹底的なメスを入れる必要がある。海自、という組織が書類送検されたいじめ自殺の加害者を実名公表したのはなぜか、過去の隠ぺい事件との関係で海自の体質を明らかにしてもらいたい。