小林紀興の「マスコミに物申す」

第三の権力と言われるマスコミは政治家や官僚と違い、読者や視聴者の批判は一切無視、村社会の中でぬくぬくと… それを許せるか

消費税増税を強調した谷垣氏の目的は何か? それが読めないようではジャーナリズムの資格がない。

2014-09-14 09:42:34 | Weblog
 昨日(13日)のNHKがニュース7で、自民党・谷垣幹事長の「消費税増税発言」を伝えた。今朝の朝日新聞、毎日新聞などがやはり谷垣氏の増税発言を伝えた。一方、読売新聞は麻生副総裁・財務相の増税発言を報じた。
 政治家、とくに政府高官や与党の重要な立場にある人の発言には、それなりの意図が隠されている。メディアは、その裏に隠された政治家の狙いを見抜く力をつけなければいけない。
 この消費税増税は、来年10月に実施が予定されている現行8%から10%への増税を行うかどうかの決断を、安倍内閣は年内に行うことになっており、再増税にメディアや世論がどう反応するか、見極めるためのアドバルーンを打ち上げることを目的とした発言である。
 おそらく安倍総理のこの問題についての腹は決まっているのだろう。そして、年末に「来年10月に予定されている消費税増税は、経済情勢や国民の経済活動の状態から見て困難であり、今回の増税は見送る」という決定を行うためのアリバイ作りが目的と考えられる。
 文字化し、要約された新聞の報道より、谷垣氏の生の声を伝えたNHKの報道から、その意図を分析してみよう。(転載するのはNHKオンラインから)

 (谷垣氏は)「上げなかった場合のリスクを乗り越えるのは、かなり難しいものがあるのではないか」と述べ、予定通り実施するのが望ましいという考えを示しました。
 この中で、谷垣幹事長は、今年4月に消費税が8%に引き上げられたことに関連して、「4月から6月のGDP=国内総生産の数字は、駆け込み需要の反動で相当悪くなっているのは事実だが、いろいろなエコノミストの話を聞くと、7月から9月の数字は緩やかな回復過程になってくるのではないか」と述べました。
 そのうえで、谷垣氏は、来年10月に予定されている10%への引き上げについて、「折り込み済みのことをやらない場合の影響や、リスクを考えないといけない。消費税率を上げることのリスクは乗り越えることは可能だが、上げなかった場合のリスクを乗り越えるのは、かなり厳しいものがあるのではないか。法律に定められたことを、きちんと実施していけるように、いろいろな手を打っていく」と述べ、予定通り実施するのが望ましいという考えを示しました。

 一見、民主党政権時代に3党合意(民自公)に達した、消費税の段階的引き上げを行う安倍内閣の決意を示した発言のように思えるが、実はそうではない。はっきり言って、とりあえず「3党合意で約束したことは実行しますよ」と前向きに誰もがとれるメッセージを、政府や自民党の幹部がメディアや国民にすることで、消費税増税を行うという姿勢をとりあえず見せておいて、メディアやエコノミスト、国民の声(具体的には各メディアが当然行うだろう消費税増税についての賛否を問う世論調査の結果)に耳を傾けた結果、「民意に添って、来年10月に実施する予定だった増税は、経済環境が好転するまで延期する」という結論を正当化するために打った布石である。
 谷垣氏が敢えて事実と異なるエコノミストの分析を述べたのは、今極めて日本経済の先行きが不透明な中で、国民消費生活活動は冷え込んだままであるにもかかわらず、「緩やかな回復過程」と明らかに間違った「エコノミスト」の分析を援用して、消費税増税の環境が整いつつあると前向きな姿勢を強調したことに意味がある。
 実態が違うことはエコノミストの分析を改めて聞くまでもなく消費者自身が、いま財布のひもを緩めているか締めているかによって明らかに分かる。GDPの大きな要素を占める国民消費は7月以降も冷え込んだままだ。日銀黒田総裁は、つい先日そうした消費実態を認めた上で「これは天候不順によるもので一時的な現象」と超楽観的な感想を述べたが、日本経済の実態はそれほど甘くはない。
 安倍総理と黒田総裁はタッグを組んで「デフレ退治のための円安誘導への為替介入や金融政策」を次々に打ってきたが、輸出産業の輸出量(例えば自動車の輸出台数や電気製品の輸出数量)は、円安によってもほとんど増えていないことはすでに明らかにされている。なぜなのか。正直、私にもわからない。円安によって強くなったはずの日本企業の国際競争力を台無しにするほどの海外企業の対策(たとえばアメリカなどの大消費国へのダンピング輸出や、日本製品の海外市場ニーズとのミスマッチなど)によって、思ったほど日本企業の国際競争力が回復しなかったのか……そうした肝心の分析を政府が行っている気配も見えないし、メディアはそうしたことにそもそも関心すら示そうとしない。
 一方景気が回復しているかに思える経済指標も確かにある。株価が一本調子ではないにしても、上昇傾向を示していることは事実だ。
 が、なぜ日経平均が上昇したのかの分析はエコノミストも論理的に行っていない。日経平均とは、日本経済新聞社が選んだ東証上場企業の代表銘柄225社の平均株価を計算したものである。代表銘柄とされる225社はしばしば入れ替えられており、業績が不振な企業は外され、好調な企業が組み込まれるという、日本経済新聞社らしい選択方法をとっている。かつ225社の株価の単純平均のため、少数の値嵩株の値動きによって日経平均が乱高下するという欠陥は、専門家からは何度も指摘されている。
 そしていま、日経平均を押し上げているのは輸出関連企業(メーカーや商社、金融業界など)であり、とくに自動車や電機など輸出産業は、輸出量が増えていないのに、円安誘導のための金融政策の恩恵を受けて史上空前の利益を計上し株価も急上昇した。輸出入は基本的にどの国との貿易であっても米ドル建てで行うことになっている。輸出量が増えていないのに、輸出関連企業が史上空前の利益を上げているのは、ひとえに為替マジックの故である。
 たとえば1個1ドルで輸出している商品があったとする。為替相場が1ドル=90円の円高時代だったら日本での売り上げは90円にしかならない。が、いまの急激な円安によって1ドル=110円時代が目の前に来ている。そうなるとその商品を輸出すれば、日本での売り上げは110円になってしまうのだ。生産コストや輸出コストは変わらないのに、収益は約20%も増大することになる。これが私の言う為替マジックのしからしめる結果なのだ。
 円安によって日本製品の国際競争力が増し、輸出量が増大すれば、メーカーは増産体制に入り、設備投資も活発になり、人材採用ニーズも増える。そういう好循環が生まれたのであれば、アベノミクスは成功したと言えるのだが、現実の日本経済の実態は私が指摘した状態なのだ。これは日銀・黒田総裁も否定できないはずだ。
 一方輸入品は、円安の打撃をもろに受けている。日本人の消費生活は生鮮食品によってのみ支えられているわけではない。消費のどれだけを生鮮食品とくに野菜類が占めているかは私も知らないが、多くても数%だろう。その数%は天候不順の影響をもろに受けたが、消費低迷の理由を天候不順に求めるような日銀総裁では、これからの金融政策のかじ取りをお願いするには心もとないことおびただしい。
 
 はっきり言ってアベノミクスは見直しが必要である。私は安倍政権が誕生した直後の12年12月30日に投稿したブログ『今年最後のブログ……新政権への期待と課題』の中で税制改革について大胆な提言をした。その提言は、相続税と贈与税の考え方の大転換についてのものだった。
 日本の税制が、相続税を有利に、贈与税を不利にしてきたのは、戦後の経済復興とその後の高度経済成長のためには産業育成の資金(設備投資資金など)が必要であり、国民の金融資産を、金融機関を経由して産業界に還流させることに目的があった。
 いま、大企業は金融機関からの間接金融から、証券市場などからの直接金融に転換している。そうして傾向は、株式の時価発行が認められ、また社債発行の条件もかなり緩和された時期から始まっていたにもかかわらず、無能な歴代大蔵大臣(現在は財務大臣)と、やはり無能な官僚が時代に即した税制改革に取り組もうとしてこなかった結果である。
 はっきり言って、GDPの大きな要素を占める国内消費活動を活発化させないことには、デフレ不況は克服できないと私は主張した。そしてそのためには、金融機関に眠っている高齢者の金融資産(死にカネ)を子供や孫など若い世代に移動させ、生きカネにすることによって消費意欲を生み出すしか方法はないと主張した。
 その後、安倍内閣は孫の教育資金に使途を限定して贈与を非課税にする制度を発足させたが、学習塾の経営が潤うことによって日本経済が活性化すると、安倍総理や財務官僚は本気で思っていたのだろうか。そうだとしたら「バカにつける薬はない」としか言いようがない。
 最近、ようやく相続税を高くすることにしたが、行き当たりばったりの政策では死にカネが、本当に日本経済を活性化するための消費活動に結びつく生きカネに変えることはできない。知識と経験だけに頼る官僚の発想を転換しない限り、私は日本の将来に安心感を持って、あの世に行く日を迎えることができない。