昨日、安倍総理は60回目の誕生日を迎えた。私は祝意を表す気になれないが、海外から誕生日プレゼント(何かは分からん)をくれ、さらに「誕生日、おめでとう」と電話をかけてきた大物政治家がいる。
そう書けば、読者の大半は、当然アメリカ大統領のオバマ氏だと思うだろう。が、違う。なんと日本が制裁を加えているロシアのプーチン大統領だ。一番驚いたのが、お祝いの電話を受けた安倍総理ではないか。
電話の内容は、もちろん誕生日のお祝いだけではない。早期に首脳会談を行いたいとの申し入れだった。さあ、突然ラブコールされた安倍総理は困った。
「突然」と書いたが、もちろん外交筋を通して首相官邸には電話で会談の申し入れがあったはずだ。事前の根回しなしに、首脳同士が電話会談するなどといったことはありえない。
また安倍総理もそうだが、超多忙なはずのプーチン大統領が寸暇を割いて安倍総理と10分間という長電話をしたのは、相当な熱意の表れとみてよい。報道によれば、プーチン氏は首脳会談で平和条約の締結や経済関係の発展に向けて関係を強化したいという考えを示したようだ。
安倍総理も超多忙な外交活動を行っている。総理就任以降1年9か月で海外訪問は50回を超え、歴代総理の海外訪問回数の記録を塗り替えた。単に外交関係の緊密化を図るという目的だけでなく、日本産業界の営業本部長として東奔西走している。日ごろ安倍総理に対して手厳しい私も、日本産業活性化のために尽くしていただいているご努力には、素直に感謝の気持ちをささげたい。
が、今回のプーチン大統領のラブコールには、日本の国益がかかっている。絶対に受け損ねてはいけない。
とりあえず、安倍総理は11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で首脳会談を行いたいと、先延ばしした。安倍総理としては、オバマ大統領の了解なしに早期の日ロ首脳会談を行うわけにはいかないと判断したのだろう。さらに安倍総理はプーチン大統領に対し「ウクライナ情勢をめぐる対応では、アメリカなどG7での連携を重視する方針である」という意向も示したようだ。
待ってよ、安倍さん。G7とは何か、分かっているの?
G7は先進7か国(日・米・独・英・仏・伊・加)の財務大臣・中央銀行総裁による世界経済の発展と投機的な為替の変動に対する対策などを話し合う場だ。もともとは日・米・独・英・仏の財務大臣・中央銀行総裁が一堂に会して、自由で公正な貿易を推進するための金融政策を決めることが目的で作られたG5が原点である。
が、驚いたことにネットでもG5についてはまったく検索できない。いったいいつ発足したのかもわからない。で、私が1992年に上梓した『忠臣蔵と西部劇』から抜粋する。世界史上もっとも有名になったG5が開かれた1985年のことである。
「1985年9月、ニューヨークのプラザホテルに日米英仏独五か国の大蔵大臣・中央銀行総裁が集まり(日本からは竹下蔵相と澄田日銀総裁が出席)、一つの合意事項を決定した。
この年、アメリカは71年ぶりに純債務国に転落するのだが、疲弊しきった国際競争力を回復させるため、各国中央銀行(日本の場合は日銀)が為替相場に協調介入して、ドル高を是正しようということにしたのである。
このプラザ合意を契機に、怒涛のように円高が進みだす」
こうして世界の金融政策を誘導してきたG5に対して「経済大国のエゴ」との批判が国際社会で生じ、イタリア、カナダが加わり、ついでロシアも参加してG8となった。いまG11とかG20なども生まれ、わけのわからん国際金融会議になっている。
そうした状況の中でウクライナ紛争が生じた。この問題に国益がかかっているEUやロシアが介入してEUとロシアの関係が悪化した。ただEUやロシアの国益は、きわめて微妙である。ウクライナがEU側に着くとなるとEUにとっては安全保障上、非常に有利になる。が、ロシアにとっては逆に安全保障上の不安定要素が増大することになる。
一方経済関係は、EU内部でも足並みはそろっていない。フランスは軍需産業の有力な買い手のひとつがロシアである(ちなみに中国も同じ)。また日本と同様エネルギー資源を輸入に頼らざるを得ないドイツにとっては、ロシアからの天然ガスの輸入に問題が生じるようなことがあると、先進工業国家としての産業政策に大きな影響が生じかねない。はっきり言ってEU内部でも国益は必ずしも一致していない。
自国の国益への影響がほとんどないアメリカは、国益への影響がないだけに国内世論はまとまりやすい。オバマ大統領にとっては中間選挙を有利に進めることが民主党の党益であり(国益ではない)、国際社会の中で低下しつつあるアメリカの威信を回復する絶好の機会がウクライナ紛争であった。で、犬も食わない夫婦ケンカに介入することにした。先陣を切ってロシアへの制裁を加えようとEUに働きかけたのである。
すでに述べたようにEU各国の国益は必ずしも一致していない。安全保障を優先する国と、経済関係を優先する国もあり、一枚岩というわけにはいかない。はっきり言ってアメリカの介入(干渉と言ってもよい)は、EUにとってもありがた迷惑な面がある。が、北海油田を擁していてロシアの天然ガスに頼る必要がなく、かつつねにアメリカと行動を共にしているイギリスは、このときもアメリカの介入を支持した。イギリスにとってどんなメリットがあるのかわからないが、アメリカの介入を支持したことで、いちおうEUは足並みを揃えてロシア制裁を始めることにした。
メディアはまったく気づいていないが、アメリカの国際的威信はウクライナ紛争よりイギリスの分裂が生じていたら、間違いなく大きく低下していた。スコットランドの独立運動が成功していたら、イギリスは再分裂の危機に直面することになっていただろうし、そうなればアメリカは最大の同盟国を失うことにもなりかねなかった。アメリカの覇権主義はイギリスの後ろ盾があって初めて可能だったわけで、そうなるとアメリカは世界の警察官としての地位保全の協力者を、おそらく日本に求めることになっていたであろう。
仮定の話を続けても仕方がないので、ウクライナ紛争に関連して、なぜ日本がロシアへの制裁を始めたのか。安倍さんも、さすがに「オバマ大統領の命令に従って」とは言えない。やむを得ずG7の連携関係重視を持ち出した。が、すでに述べたようにG7は国際紛争を解決するための機関ではない。その矛盾にメディアはまったく気づかない。昨日のブログでは日本のメディアも捨てたものではないと書いたが、手のひらを返すようだが、やはりアホ集団と評価を変えることにする。
はっきり言えば日ロの経済関係の緊密化や平和友好条約の締結は、ロシアの国益がかかっている。が、日本にとっても重大な国益がかかっている問題でもある。
ロシア領土のシベリヤや樺太には膨大な資源が眠っているとみられている。少なくとも石油や天然ガスなどのエネルギー資源の宝庫であることは間違いないようだ。他にどんな資源が眠っているか。調査すらほとんど手つかずの状態だが、日本の先端産業に欠かせないレアメタルやレアアースなどの資源が眠っている可能性も大きいようだ。
が、ロシアには、その資源を開発する技術も資金も不足している。かつ、せっかくエネルギー資源を開発しても、売り先が見つからなければビジネスにはならない。まさか現在のヨーロッパへのパイプラインを延長してペイするなどとは中学生でも考えまい。だからロシアは、北方領土問題の解決を釣竿の先にぶら下げて、日本に資源開発のための技術と資金面の協力を求めてきたのだ。
一方、日本にとっても大きなチャンスだった。北方領土問題を一気に完全解決することは無理だと思うが、とりあえず2島返還、残り2島は次世代に任せようというくらいの線で折り合いは付けられると思う。また産業界にとってもビッグチャンスが転がり込んできた話だった。まず、技術を売り込み、資源開発の技術の延長で新幹線技術や宇宙開発技術の共同開発など、日本の技術力でロシア産業の近代化を実現してやれば、そのこと自体が日本産業界にとって大きなビジネスになるし、さらに開発したエネルギー資源の買い手としても日本はきわめて有利なポジションを得ることになることは疑いを容れない。
日本のエネルギーコストは欧米先進国に比べ極めて高い。日本への輸出国に
とって日本は完全な売り手市場であり、天然ガスなどは国際相場の倍で日本は輸入している。「国際相場にのっとって、もっと安くしてくれ」と日本は何度もお願いしているが、「この値段を呑めないなら買わなくてもいいよ」と、完全に足元を見透かされている。ロシアから安い天然ガスや石油が輸入できるとなると、現在の日本への輸出国も競争原理が働くから、当然値下げ要求に応じざるを得なくなる。足元を見るのは、今度は日本になる。
さらに安全保障面では、日本はかつてないほど安定する。ロシアはアメリカに次ぐ世界第2位の軍事大国であり、そのロシアと平和友好条約を結べるようになれば、中国や北朝鮮も身動きが取れなくなる。アメリカの属国的な屈辱外交を続ける必要もなくなるし、沖縄の防衛はもう必要ないから沖縄から米軍基地は撤去してくれ、と大きな顔をして言えるようになる。
ロシアにとっても安全保障面のメリットは大きい。日本がロシアと仲良くなったからと言って、アメリカが日本を敵視することなどありえない。そんなことになったら、国際社会からアメリカは見捨てられる。EUだって「そんなアメリカにはとてもついていけない」ということになる。アメリカが孤立を避けるには、腰を低くして日本との友好関係を維持したいと、そういう対日外交政策をとらざるを得なくなる。
中韓との関係も激変する。いま中韓は日本敵視政策で共同歩調を取ろうとしているが、日ロの友好関係が確立すれば、中国の態度は一変する。ロシアを敵に回して勝てるわけがないから、むしろ日本との関係をよくしてロシアを敵に回すことを避けるという外交政策に転換せざるを得なくなる。もうそうなれば、いつまでも慰安婦問題で日本に対する敵視政策を続ければ、韓国がアジアで孤立化する。
私は、そうした国際環境の激変に乗じて日本が再びアジアに覇を唱えるなどとバカなことを考える政治家が将来出てこないとは限らないから、かつて軍事政権を育てたメディアが再びバカなことはやらないという前提で書いている。
その矢先にウクライナ紛争が生じた。これもはっきり言うが、ウクライナがどうなろうと、こうなろうと、日本の国益には微々たる影響もない。知らん顔をしていればよかったのだ。お隣の韓国のように…。
が、どうしても日本をアメリカ合衆国の第51番目の州にしたいオバマ大統領にとっては、日本が金魚の糞のようにどこまでアメリカの穴にくっ付いてくるかの試金石になるケースでもあった。で、安倍総理に、ウクライナ紛争に関連してロシアへの制裁を始めるよう命じた。どんな弱みをオバマに握られているのかはわからないが、なぜか安倍総理はオバマ大統領の恫喝に唯々諾々と応じることにした。「もっと制裁を強めろ」と言われれば、そうしてきた。アホか、と言いたい。
いまウクライナ情勢がようやく沈静化に向かいだした、この時期にプーチン大統領が安倍総理にラブコールを送ってくれたことの意味を大切に考えたい。もちろんまだウクライナ情勢は混とんとした要素を残してはいる。が、東部の分離独立派は、一部の跳ね返り武装集団も民意が我に非ずという現実を認めざるを得なくなったようで、いまはポロシェンコ政権との条件闘争に入っている。最終的にはドネツク州など分離独立派が優勢な地域が一つにまとまって、自治共和国として「国家内国家」という自治権拡大の状態をポロシェンコ政権が認めるという形で決着がつくのではないか。ちなみにメディアはウクライナ東部の分離独立派を「親ロシア派」と定義しているが、この定義もアメリカの受け売りだ。そんな定義をしている国は海外にほとんどない。お隣の韓国がウクライナでの対立関係をどう位置付けているか調べてみたらすぐ分かる。
そうした状況の中で、プーチン大統領が再び送ってくれたラブコールだ。今度こそ「G7との連携」がどうのこうのと、バカな発想から抜け出して「日本の国益にとって本当の大切なことは何か」を思考のど真ん中において、安倍総理はプーチンとの首脳会談に臨んでほしい。安倍さんはNHKの国際放送の収録で「国益を重視して」とは言ってくれたようだが、まだ腰が引けているのが垣間見える。もう60歳。ど根性を据えてもいい歳だ。
そう書けば、読者の大半は、当然アメリカ大統領のオバマ氏だと思うだろう。が、違う。なんと日本が制裁を加えているロシアのプーチン大統領だ。一番驚いたのが、お祝いの電話を受けた安倍総理ではないか。
電話の内容は、もちろん誕生日のお祝いだけではない。早期に首脳会談を行いたいとの申し入れだった。さあ、突然ラブコールされた安倍総理は困った。
「突然」と書いたが、もちろん外交筋を通して首相官邸には電話で会談の申し入れがあったはずだ。事前の根回しなしに、首脳同士が電話会談するなどといったことはありえない。
また安倍総理もそうだが、超多忙なはずのプーチン大統領が寸暇を割いて安倍総理と10分間という長電話をしたのは、相当な熱意の表れとみてよい。報道によれば、プーチン氏は首脳会談で平和条約の締結や経済関係の発展に向けて関係を強化したいという考えを示したようだ。
安倍総理も超多忙な外交活動を行っている。総理就任以降1年9か月で海外訪問は50回を超え、歴代総理の海外訪問回数の記録を塗り替えた。単に外交関係の緊密化を図るという目的だけでなく、日本産業界の営業本部長として東奔西走している。日ごろ安倍総理に対して手厳しい私も、日本産業活性化のために尽くしていただいているご努力には、素直に感謝の気持ちをささげたい。
が、今回のプーチン大統領のラブコールには、日本の国益がかかっている。絶対に受け損ねてはいけない。
とりあえず、安倍総理は11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で首脳会談を行いたいと、先延ばしした。安倍総理としては、オバマ大統領の了解なしに早期の日ロ首脳会談を行うわけにはいかないと判断したのだろう。さらに安倍総理はプーチン大統領に対し「ウクライナ情勢をめぐる対応では、アメリカなどG7での連携を重視する方針である」という意向も示したようだ。
待ってよ、安倍さん。G7とは何か、分かっているの?
G7は先進7か国(日・米・独・英・仏・伊・加)の財務大臣・中央銀行総裁による世界経済の発展と投機的な為替の変動に対する対策などを話し合う場だ。もともとは日・米・独・英・仏の財務大臣・中央銀行総裁が一堂に会して、自由で公正な貿易を推進するための金融政策を決めることが目的で作られたG5が原点である。
が、驚いたことにネットでもG5についてはまったく検索できない。いったいいつ発足したのかもわからない。で、私が1992年に上梓した『忠臣蔵と西部劇』から抜粋する。世界史上もっとも有名になったG5が開かれた1985年のことである。
「1985年9月、ニューヨークのプラザホテルに日米英仏独五か国の大蔵大臣・中央銀行総裁が集まり(日本からは竹下蔵相と澄田日銀総裁が出席)、一つの合意事項を決定した。
この年、アメリカは71年ぶりに純債務国に転落するのだが、疲弊しきった国際競争力を回復させるため、各国中央銀行(日本の場合は日銀)が為替相場に協調介入して、ドル高を是正しようということにしたのである。
このプラザ合意を契機に、怒涛のように円高が進みだす」
こうして世界の金融政策を誘導してきたG5に対して「経済大国のエゴ」との批判が国際社会で生じ、イタリア、カナダが加わり、ついでロシアも参加してG8となった。いまG11とかG20なども生まれ、わけのわからん国際金融会議になっている。
そうした状況の中でウクライナ紛争が生じた。この問題に国益がかかっているEUやロシアが介入してEUとロシアの関係が悪化した。ただEUやロシアの国益は、きわめて微妙である。ウクライナがEU側に着くとなるとEUにとっては安全保障上、非常に有利になる。が、ロシアにとっては逆に安全保障上の不安定要素が増大することになる。
一方経済関係は、EU内部でも足並みはそろっていない。フランスは軍需産業の有力な買い手のひとつがロシアである(ちなみに中国も同じ)。また日本と同様エネルギー資源を輸入に頼らざるを得ないドイツにとっては、ロシアからの天然ガスの輸入に問題が生じるようなことがあると、先進工業国家としての産業政策に大きな影響が生じかねない。はっきり言ってEU内部でも国益は必ずしも一致していない。
自国の国益への影響がほとんどないアメリカは、国益への影響がないだけに国内世論はまとまりやすい。オバマ大統領にとっては中間選挙を有利に進めることが民主党の党益であり(国益ではない)、国際社会の中で低下しつつあるアメリカの威信を回復する絶好の機会がウクライナ紛争であった。で、犬も食わない夫婦ケンカに介入することにした。先陣を切ってロシアへの制裁を加えようとEUに働きかけたのである。
すでに述べたようにEU各国の国益は必ずしも一致していない。安全保障を優先する国と、経済関係を優先する国もあり、一枚岩というわけにはいかない。はっきり言ってアメリカの介入(干渉と言ってもよい)は、EUにとってもありがた迷惑な面がある。が、北海油田を擁していてロシアの天然ガスに頼る必要がなく、かつつねにアメリカと行動を共にしているイギリスは、このときもアメリカの介入を支持した。イギリスにとってどんなメリットがあるのかわからないが、アメリカの介入を支持したことで、いちおうEUは足並みを揃えてロシア制裁を始めることにした。
メディアはまったく気づいていないが、アメリカの国際的威信はウクライナ紛争よりイギリスの分裂が生じていたら、間違いなく大きく低下していた。スコットランドの独立運動が成功していたら、イギリスは再分裂の危機に直面することになっていただろうし、そうなればアメリカは最大の同盟国を失うことにもなりかねなかった。アメリカの覇権主義はイギリスの後ろ盾があって初めて可能だったわけで、そうなるとアメリカは世界の警察官としての地位保全の協力者を、おそらく日本に求めることになっていたであろう。
仮定の話を続けても仕方がないので、ウクライナ紛争に関連して、なぜ日本がロシアへの制裁を始めたのか。安倍さんも、さすがに「オバマ大統領の命令に従って」とは言えない。やむを得ずG7の連携関係重視を持ち出した。が、すでに述べたようにG7は国際紛争を解決するための機関ではない。その矛盾にメディアはまったく気づかない。昨日のブログでは日本のメディアも捨てたものではないと書いたが、手のひらを返すようだが、やはりアホ集団と評価を変えることにする。
はっきり言えば日ロの経済関係の緊密化や平和友好条約の締結は、ロシアの国益がかかっている。が、日本にとっても重大な国益がかかっている問題でもある。
ロシア領土のシベリヤや樺太には膨大な資源が眠っているとみられている。少なくとも石油や天然ガスなどのエネルギー資源の宝庫であることは間違いないようだ。他にどんな資源が眠っているか。調査すらほとんど手つかずの状態だが、日本の先端産業に欠かせないレアメタルやレアアースなどの資源が眠っている可能性も大きいようだ。
が、ロシアには、その資源を開発する技術も資金も不足している。かつ、せっかくエネルギー資源を開発しても、売り先が見つからなければビジネスにはならない。まさか現在のヨーロッパへのパイプラインを延長してペイするなどとは中学生でも考えまい。だからロシアは、北方領土問題の解決を釣竿の先にぶら下げて、日本に資源開発のための技術と資金面の協力を求めてきたのだ。
一方、日本にとっても大きなチャンスだった。北方領土問題を一気に完全解決することは無理だと思うが、とりあえず2島返還、残り2島は次世代に任せようというくらいの線で折り合いは付けられると思う。また産業界にとってもビッグチャンスが転がり込んできた話だった。まず、技術を売り込み、資源開発の技術の延長で新幹線技術や宇宙開発技術の共同開発など、日本の技術力でロシア産業の近代化を実現してやれば、そのこと自体が日本産業界にとって大きなビジネスになるし、さらに開発したエネルギー資源の買い手としても日本はきわめて有利なポジションを得ることになることは疑いを容れない。
日本のエネルギーコストは欧米先進国に比べ極めて高い。日本への輸出国に
とって日本は完全な売り手市場であり、天然ガスなどは国際相場の倍で日本は輸入している。「国際相場にのっとって、もっと安くしてくれ」と日本は何度もお願いしているが、「この値段を呑めないなら買わなくてもいいよ」と、完全に足元を見透かされている。ロシアから安い天然ガスや石油が輸入できるとなると、現在の日本への輸出国も競争原理が働くから、当然値下げ要求に応じざるを得なくなる。足元を見るのは、今度は日本になる。
さらに安全保障面では、日本はかつてないほど安定する。ロシアはアメリカに次ぐ世界第2位の軍事大国であり、そのロシアと平和友好条約を結べるようになれば、中国や北朝鮮も身動きが取れなくなる。アメリカの属国的な屈辱外交を続ける必要もなくなるし、沖縄の防衛はもう必要ないから沖縄から米軍基地は撤去してくれ、と大きな顔をして言えるようになる。
ロシアにとっても安全保障面のメリットは大きい。日本がロシアと仲良くなったからと言って、アメリカが日本を敵視することなどありえない。そんなことになったら、国際社会からアメリカは見捨てられる。EUだって「そんなアメリカにはとてもついていけない」ということになる。アメリカが孤立を避けるには、腰を低くして日本との友好関係を維持したいと、そういう対日外交政策をとらざるを得なくなる。
中韓との関係も激変する。いま中韓は日本敵視政策で共同歩調を取ろうとしているが、日ロの友好関係が確立すれば、中国の態度は一変する。ロシアを敵に回して勝てるわけがないから、むしろ日本との関係をよくしてロシアを敵に回すことを避けるという外交政策に転換せざるを得なくなる。もうそうなれば、いつまでも慰安婦問題で日本に対する敵視政策を続ければ、韓国がアジアで孤立化する。
私は、そうした国際環境の激変に乗じて日本が再びアジアに覇を唱えるなどとバカなことを考える政治家が将来出てこないとは限らないから、かつて軍事政権を育てたメディアが再びバカなことはやらないという前提で書いている。
その矢先にウクライナ紛争が生じた。これもはっきり言うが、ウクライナがどうなろうと、こうなろうと、日本の国益には微々たる影響もない。知らん顔をしていればよかったのだ。お隣の韓国のように…。
が、どうしても日本をアメリカ合衆国の第51番目の州にしたいオバマ大統領にとっては、日本が金魚の糞のようにどこまでアメリカの穴にくっ付いてくるかの試金石になるケースでもあった。で、安倍総理に、ウクライナ紛争に関連してロシアへの制裁を始めるよう命じた。どんな弱みをオバマに握られているのかはわからないが、なぜか安倍総理はオバマ大統領の恫喝に唯々諾々と応じることにした。「もっと制裁を強めろ」と言われれば、そうしてきた。アホか、と言いたい。
いまウクライナ情勢がようやく沈静化に向かいだした、この時期にプーチン大統領が安倍総理にラブコールを送ってくれたことの意味を大切に考えたい。もちろんまだウクライナ情勢は混とんとした要素を残してはいる。が、東部の分離独立派は、一部の跳ね返り武装集団も民意が我に非ずという現実を認めざるを得なくなったようで、いまはポロシェンコ政権との条件闘争に入っている。最終的にはドネツク州など分離独立派が優勢な地域が一つにまとまって、自治共和国として「国家内国家」という自治権拡大の状態をポロシェンコ政権が認めるという形で決着がつくのではないか。ちなみにメディアはウクライナ東部の分離独立派を「親ロシア派」と定義しているが、この定義もアメリカの受け売りだ。そんな定義をしている国は海外にほとんどない。お隣の韓国がウクライナでの対立関係をどう位置付けているか調べてみたらすぐ分かる。
そうした状況の中で、プーチン大統領が再び送ってくれたラブコールだ。今度こそ「G7との連携」がどうのこうのと、バカな発想から抜け出して「日本の国益にとって本当の大切なことは何か」を思考のど真ん中において、安倍総理はプーチンとの首脳会談に臨んでほしい。安倍さんはNHKの国際放送の収録で「国益を重視して」とは言ってくれたようだが、まだ腰が引けているのが垣間見える。もう60歳。ど根性を据えてもいい歳だ。