早春の東海を横断するバスと地方私鉄の旅@静岡(1)の続きです
修善寺駅から、今度は南伊豆の河津へ向かう東海バスの天城線に乗ります。このバスは「伊豆の踊り子」が辿った下田街道を縦走する路線。途中、湯ヶ島の温泉を通るが、こここそ川端康成が「伊豆の踊り子」を執筆したところです。ただし、ワタシはこの作品を読んでないので、これを機に映画で観てみよっかな…と思い、帰ってから調べてみると…1954年・美空ひばり、1960年・鰐淵晴子、1963年・吉永小百合、1967年・内藤洋子、1974年・山口百恵……なんと5本もある。山口百恵のは有名だが、内藤洋子って…ひょっとして「ルンナ」?
そろそろ頭の中に石川さゆりの歌声がぐるぐる廻ってきました。「隠れ宿」の湯ヶ島を過ぎると「九十九折、浄蓮の滝」。前方には「山が燃える」天城です。浄蓮の滝のバス停には大きな駐車場と土産物屋が建ち並んでいます。ここで他の乗客がすべて降りてしまって、ワタシ独りになってしまいました。ここからは「くらくら燃える火をくぐる」天城越え区間で、「何があってももういい」気分…
人気のない車内はテープの車内放送と唸りを上げるエンジン音だけ。松本清澄原作の映画、「天城越え」で印象的だった旧天城隧道にも行きたいところ。明治後期に掘り抜かれた現存する最も長い石造トンネルだが、時間の関係でそのままバスに乗り続け、バスは新天城トンネルを抜けていきます。結局、バスの運転士のオヂサンと二人の「天城越え」でした…「恨んでもぉー、 恨んーでもぉ」
直径80m、高低差45mの「河津七滝(かわづななだる)ループ橋」で一気に高度を下げます。河津七滝は溶岩流の末端にできた滝で、上流から、七つの滝(たる)が続いているらしい。バスは湯ヶ野温泉のあたりで下田街道から別れて河津方面へ向かいます。湯ヶ野温泉は河津温泉郷のひとつで、ここも「伊豆の踊り子」に描かれていたところらしい。あー、読んで来るんやった。この時期に、早くも咲いている桜を見ながら伊豆急行の河津駅に着きました。
ここから伊豆急行で、といっても、下田方面から現れた電車はJR東日本の「スーパービュー踊り子」、池袋行きですが…伊豆急行は東急グループの総帥、五島慶太の強い意志によって伊東と下田の間に建設された1961年開業の比較的新しい私鉄です。戦後、高度成長の時代に西武グループ(伊豆箱根鉄道)、小田急グループ(東海バス)、そしてこの東急グループである伊豆急がこの地域の覇権を激しく争いました。その激しさは「伊豆戦争」と称されるほどだったそうです。
「スーパービュー踊り子」は全席座席指定の特急。JRの発足の3年後、最後のバブル期に登場したせいか、室内は豪華で展望もいい。乗車口は10両編成のうち5ヵ所に限定されており、乗車時にアテンダントが指定券をチェックするようになっています。
列車は伊豆熱川に停車、車窓から沸き上がる湯煙がそこここに見える。豊かな源泉があるようです。それより熱川といえば、ワタシ世代には花登筺のTVドラマ「細腕繁盛記」に尽きる!
-銭の花の色は清らかに白い-
-だが蕾は血のにじんだように赤く-
-その香りは汗の匂いがする-
冒頭のナレーションは30年以上経過した今でもソラで言えます。このドラマ、悪役の富士真奈美が例の台詞で主役の新珠三千代より印象が強い。
「佳ぁ代ぉ…おみゃぁに食わせる飯はにゃぁずら!!」
質問!京橋はどんなところ?
解答は…
「ええとこだっせ!グランシャトーがおまっせ!」
では伊東は?
「伊東に行くならハトヤ」
伊東を過ぎてすぐに車窓から「サンハトヤ」の巨大な建物が見えてきました。ハトヤのスゴイところは、ワタシ世代の関西人なら誰でも知っているところ。昔は関西でもCMを流していたからね。
「電話は4126(ヨイフロ)」
夕暮れになって、熱海に到着。熱海駅前は旅館の送迎バスやタクシーで賑わっています。今夜の宿泊はこの熱海です。それにしても、熱海ってまたベタっていうか安直って言うか…伊豆には他にも名泉があるでしょうに。ここは高度成長時代やバブル期にたいそう賑わった日本を代表する歓楽型温泉地。しかし今や、団体旅行から個人旅行に嗜好が移ってしまったなかで、凋落が著しいと聞きます。逆にそんな地では、栄華を極めた昭和の高度成長の臭いを発する温泉情緒に触れることができるのではないかとの期待があったのです。
徒歩で旅館に向かう観光客は少ないようで、駅前の商店街は照明こそ賑やか。しかし、そこを歩く人影は疎らです。平日だからでしょうか。
熱海温泉の旅館街にたどり着くと、そこは昭和の情緒タップリ。レトロな看板に興味が惹かれます。巨大ホテルも華やかな時代の面影を残しています。このスナック喫茶「****」なんか、昭和のあの時代なら特に気にされることもなかったのでしょうが、今やこんな看板はあり得ない。
裏通りにたまたま見つけたフランス料理店。どこか気品が感じられるこの店構えに惹かれてフラフラ入ってしまいました。温泉旅行でフランス料理ってのもイイんでは?
続く…