早春の東海を横断するバスと地方私鉄の旅@静岡(2)の続きです
熱海での宿泊は旅館街の中心部、「大湯」のすぐ近くにある旅館です。
翌朝、旅館を辞して街をぶらぶらすると、市内あちこちで源泉に出会います。やはり温泉としてのポテンシャルは衰えていないようです。
「熱海のぉ、海岸ん、散歩するぅー」
熱海の散策で外せないのがここ。尾崎紅葉の金色夜叉で有名な「お宮の松」です。その隣、お宮を足蹴にする貫一の銅像も名所のひとつです。しかしこれ、金色夜叉を知らない外国人が見たら、単なるDVに見えるんやないかと少し心配してしまうが…
新幹線に乗って西に戻る前に、豆相人車鉄道の熱海駅跡を示すモニュメントを発見しました。人車鉄道とは蒸気力でもなく馬力でもなく、ましてや電力でもない、人力によって動いていた明治時代の鉄道のことで、芥川龍之介の作品、「トロッコ」の舞台となったことで知られています。当時は人件費も安かったんですね。
熱海から「こだま」に乗ること2時間弱、一気に豊橋までやってきました。豊橋駅は新幹線と東海道線、飯田線、名鉄のターミナルで、大きな駅ビルが建っています。ここから案内表示にしたがって新豊橋駅に向かって歩道橋を渡ります。
巨大ターミナルの端っこに現れたのは何とも貧相・・・失礼・・・遠慮深い駅が豊橋鉄道の起点、新豊橋駅です。
駅は小さいが3両編成の電車が、15分おきに運転されている割と元気なローカル私鉄です。
車両は東急電車の払い下げ。のどかな景色の中、三河田原に向かって渥美半島の根元を走っています。
三河田原駅で伊良湖岬行きの豊鉄バスに乗り換えます。バスの起点は豊橋駅で、最初からこのバスに乗ってもよかったのだが、ローカル私鉄も乗ってみたかったので、今回は途中の三河田原で乗り継ぎました。このバスは都市間連絡と観光用を兼ねているようで、車両はふそうの1ドア車。短区間の乗客は少ないようです。
渥美半島の先端を走るバスの車窓には、菜の花畑とキャベツ畑が広がっています。
終点の伊良湖岬に着くころには乗客はワタシのほか2組の観光客だけになっていました。伊良湖岬には「道の駅クリスタルポルト」として、真新しいビルが建っています。中はフェリーターミナルや土産物屋のほか、島崎藤村の詩「椰子の実」をテーマにした「やしの実博物館」があります。
-名も知らぬ 遠き島より 流れよる 椰子の実ひとつ-
誰もが知ってるこの詩は、民俗学者の柳田國男が伊良湖に滞在したときに、椰子の実の偶然拾ったことを親友の島崎藤村に話したところ、藤村がイメージを膨らませて詩化したとのこと。
フェリーの出航までまだまだ時間があるので、伊良湖岬灯台まで歩いてみることにしました。向こうに見えるのは神島、そこはもう三重県です。太平洋や伊勢湾・三河湾を睨む位置に建つこの灯台は「日本の灯台50選」にも選ばれているそうです。
フェリーターミナルのセルフサービスのカフェテリアでちょっと遅めの昼食を。うどんではなくきしめんがなのはこの地らしい。
ようやく時間となり、伊勢湾フェリーの大きな口から、自動車と一緒に乗船です。船は乗用車にして約50台の車両と、500名が乗船できる2300トンもの大きさ。広々とした船内は、さすがに食堂こそないものの売店でビールやつまみものぐらいは手に入れることができる。さらに320円の追加料金を支払えば特別室も利用できるが、この日は空いていたため一般客室でも十分快適です。
出航して間もなく、左舷に先ほど訪れた伊良湖岬の灯台が見えます。わかりますか?岬の先っぽにある小さい出っ張りがそれ。今や、実質的な灯台機能は丘の上の無人灯台が担っているようです。
右舷に答志島、左舷に菅島が見えると、伊勢湾横断が終了。ここから菅島水道を進んでいくと、突き当りが鳥羽港です。55分の船旅はあっという間です。
鳥羽に接岸すると、旅客専用のボーディングブリッジが着けられました。伊良湖より設備は整っているようです。鳥羽水族館の一角にあるフェリーターミナルを素通りし、歩いて鳥羽駅に向かうことにしました。すでに近鉄特急の座席指定は船の中から携帯のチケットレスサービスで取っているものの、意外に駅が遠い!
間に合った!急いで乗車券と缶チューハイを買ってプラットホームへ。最近の近鉄特急は車内販売がないので困りものです。難波行きの伊勢志摩ライナーに飛び乗ったら、すぐにドアが閉まりました。
先頭車両まで揺れる車内を移動してデラックスシートへ。束の間の贅沢を楽しみながら今回の東への旅を反芻していました。
- 訪問日:2007年2月5・6日