というわけで、沢木耕太郎『流星ひとつ』(新潮社、2013年)を読んでみました。
(目次)
□一杯目の火酒
□二杯目の火酒
□三杯目の火酒
□四杯目の火酒
□五杯目の火酒
□六杯目の火酒
□七杯目の火酒
■最後の火酒
□後記
最後の火酒
5
「……月だね。さっきまで、この窓からは見えなかったのに」
__それにしても、綺麗な三日月だなあ。
「うん、綺麗だね。でも、月のまわりが少しぼんやりしてる」
__えっ? 視力は、悪いの?
「すごくいい」
__……そうか。
「二重に見えるよ、あたしには。……にじんで、ぼんやりしてる」
__そうか……。
「うん、そう。空は蒼いんだよね。いまは暗くて黒いけど、ほんとはまっさおなんだね。……そう?」
__そう、だろうね、きっと。空は蒼いんだろうね。
「綺麗だね、ここから見ると。暗い空も、ネオンの街も……」
__最後にもう一杯、ウォッカトニックを呑もうか。
「うん、乾杯しよう」
__何に乾杯する? あなたの前途に対して?
「ううん、そんなのつまらないよ……」
__では、このインタヴューの……。
「成功を祝して?」
__いや……このインタヴューは失敗しているような気がする。
「どうして?」
__本当に、どうしてそんな気がするんだろう……。
「あたしのインタヴューなんて、成功しても失敗してもどっちでもいいけど……じゃあ、失敗を祝して、盛大に乾杯しよう!」
__うん、いいね、そうしよう……。
【解説】
__いや……このインタヴューは失敗しているような気がする。
順調に進んだインタビューと思われましたが、沢木耕太郎さんにとっては失敗したと感じられたとのこと。
その理由は、「後記」で語られます。
獅子風蓮