獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

佐藤優『日米開戦の真実』を読む(その19)

2024-11-15 01:31:51 | 佐藤優

創価学会の「内在的論理」を理解するためといって、創価学会側の文献のみを読み込み、創価学会べったりの論文を多数発表する佐藤優氏ですが、彼を批判するためには、それこそ彼の「内在的論理」を理解しなくてはならないと私は考えます。

というわけで、こんな本を読んでみました。

佐藤優/大川周明「日米開戦の真実-大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解く」


興味深い内容でしたので、引用したいと思います。

これまでは、大川周明氏の講演に対して、そのつどあたかも佐藤氏がこのブログを書いているかのように、私のブログのスタイルをまねて、この本の内容を再構成しました。

前回からは、佐藤氏の主張を本文として伝え、それに対して、私がコメントをするという従来のスタイルに戻しています。

ご理解の上、お読みください。

日米開戦の真実
――大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解く

□はじめに
□第一部 米国東亜侵略史(大川周明)
□第二部「国民は騙されていた」という虚構(佐藤優)
□第三部 英国東亜侵略史(大川周明)
■第四部 21世紀日本への遺産(佐藤優)
〇第四章 歴史は繰り返す
 □「地政学」と「普遍主義」
 □イギリスはいかにして帝国となったか
 □19世紀の英中関係
 □普遍主義にシフトするアメリカ
 □「世界最終戦」構想には種本があった
 □国家を廃絶するために作られた国家
 □20世紀初頭と現代の「相違」
〇第五章 大東亜共栄圏と東アジア共同体
 □広く共有されていた日米開戦の「不可避性」
 □「戦争による死」への肯定的評価
 ■「東アジア共同体」構想の舞台裏
 □「力の均衡」か「共通意識」か
〇第六章 性善説という病
 □外交を「性善説」で考える日本人
 □「善意の人」が裏切られたと感じると……
 □国家主義思想家、蓑田胸喜
 □愛国者が国を危うくするという矛盾
 □大川は合理主義者か
 □大川周明と北一輝
 □イギリスにみる「性悪説」の力
〇第七章 現代に生きる大川周明
 □「自国の善をもって自国の悪を討つ」
 □自己絶対化に陥らないためには……
 □各国・地域で形成される「国民の物語」
 □日本に残されたシナリオは何か
□あとがき


――第四部 21世紀日本への遺産

第五章 大東亜共栄圏と東アジア共同体

「東アジア共同体」構想の舞台裏

廣松が提唱した21世紀の「日中を軸にした東亜の新体制」は、その10年後に左翼ではなく、日本政府によって採用された。2005年1月、第162国会の施政方針演説で小泉純一郎総理は、「多様性を包み込みながら経済的繁栄を共有する、開かれた『東アジア共同体』の構築に積極的な役割を果たしていきます」と述べた。しかし、これだけでは「東アジア共同体」が何を意味しているのかはわからない。現在、東アジア共同体構想を巡って日本と中国の綱引きが激しくなっている。この構図は2005年12月にクアラルンプールで行われたASEANサミットを分析してみるとよくわかる。少し細かい話になるが、お付き合い願いたい。「神は細部に宿りたもう」のだ。

マレーシアの首都クアラルンプールで行われたASEANプラス日中韓首脳会談(12月13日)、東アジアサミット(12月14日)で、今後の東アジア共同体構想を巡り、日本と中国の間で激しい綱引きが行われた。東アジア共同体形成に向けた議論を民主主義的価値観を共有するインド、オーストラリア、ニュージーランドを加えた東アジアサミットの16カ国で行うことが日本は有利と考えた。これに対して中国はASEANプラス日中韓の13カ国で行った方が中国に有利に事態を進捗させることができると考えたようである。そして日本案での開催が決まると、中国は方針を転換し、東アジアサミットの「空洞化」を狙って、参加国拡大を積極的に容認する姿勢をとった。
「当初は東アジアサミットの宣言文には共同体構築に関する文言は入っていなかったが日本などの主張で『重要な役割(significant role)』が盛り込まれた」(日本経済新聞2005年12月15日朝刊)と外務省は中国を抑え込んだ日本外交の手腕を強調しているが、事実はどうもそうではないらしい。中国が重視する13カ国が東アジア共同体構築に関して「主要な手段(main vehicle)」となるという文言がASEANプラス日中韓会議の共同宣言に含まれているからだ。
率直に言って、筆者にはこの日中間の綱引きが東アジア共同体構想において本質的な意味をもつとは思えない。「重要な役割」と「主要な手段」のどちらが重みがあるかなどという議論は一種の神学論争で、現実の外交にほとんど影響を与えないからだ。日中外交当局は、当事者以外には意味のないゲームの勝ち負けに過度に熱中しているようにしか思えない。東アジア共同体構想がわかりにくいのはマスコミの報道や専門家の論評に問題があるからではない。そもそもこの構想の基本構造が明らかになっていないからだ。このことに関連して、ある重要な証言から最近明らかになったことがある。田中均元外務審議官(財団法人日本国際交流センター・シニア・フェロー)が2005年11月に上梓した田原総一朗との対談本『国家と外交』(講談社)で述べた日本政府の戦略についてである。田中は小泉首相の信任が厚く、日朝首脳会談の下準備とシナリオ作りをしたことで有
名で、その評価については種々の議論があるが、有能な人物であることは間違いない。日本では批判ばかりされてきたが、世界の外交・インテリジェンス専門家の田中に対する評価は意外と高い。田中が外交官として残したなかで日本の国家戦略に今後最も大きな影響を与えうるのは、日朝関係ではなく東アジア共同体構想を日本政府の外交方針に正式に組み入れたことだと専門家たちは考えている。筆者自身は東アジア共同体構想を支持しない。その理由は後述するが、先に「田中均戦略」の内在的論理を明らかにしたい。まず、東アジア共同体構想では、アジア諸国のナショナリズムを克服することが目的とされている。


田原 ところで、いまおっしゃった東アジアの問題についてですが、東アジア共同体というものが中国でも日本でも大きな話題になっている。中国側は、自分たちが主導権を握っていこうとしていますね。それに対して日本は、この東アジア共同体をどう考え、どう取り組んで、どういう形にするといいんですか?

田中 その前に、なぜ東アジア共同体を作るべきなのかをはっきりさせておくと、一つはナショナリズムの問題があります。中国でもナショナリズムがあり、韓国でもナショナリズムがあり、日本でもナショナリズムがある。ナショナリズム自体が悪いわけじゃありませんが、それが排他的なものになっていくと非常に厄介なことになる。
そこで、自分たちの祖国という存在以外に、東アジア地域で一緒に暮らしている人々と共通のコミュニティをつくっていくことによって、そういうナショナリズムが別の方向に吸収されていくという面があるんですよ。自分は日本人だけど、同時にアジアという地域の人間なんだと思えるようになれば、排外的なナショナリズムは影を潜めます。(田中均/田原総一朗『国家と外交』講談社、2005年、181-182頁)

同時に田中は、ヨーロッパ型の安全保障を軸にした共同体は東アジアにできないということを冷徹に認識している。そこで東アジアに経済共同体を形成することが現実的と考える。しかし、この経済共同体の裏に日本の対中牽制戦略が潜んでいる。

田原 ヨーロッパは、かつてはソ連の脅威から安全保障を共通の価値にしていたし、いまはどっちかというと、アメリカの一極支配に対抗して、もう一つの極をつくろうということが価値になっている。じゃあ東アジアの共同の価値って何ですかね?

田中 それはないんですよ。だから、東アジアでは安全保障の共同体はできない。安全保障の共同体ができないっていうことは、ヨーロッパのような共通の価値を持つ大きな共同体はできないということです。
だけど、経済共同体はできると思うんですね。中国がとっている市場開放政策は必ず政治改革に繋がります。だから日本は中国に対して「経済共同体をつくりましょう」と積極的に働きかけるべきなんです。経済共同体内で人や資本、モノの流れがほんとうに自由になると、最後はやはり統治の問題になってきます。
同じような価値、それはね、やっぱり民主主義的価値のほうが強いと思うんですよ。政治的な自由があるほうが、政治的な不自由より強いと思うんですよ。だから長いスパンで考えてみるとですね、アジアだって価値を同一にした共同体はできるんじゃないかと思っています。その結果、安全保障についても、大きな枠組みで地域の安全保障のようなことができるんじゃないかと思うんだけど、それはいまの話ではない、いまの話ではないから、さっき申し上げたように、東アジア共同体の話をするときには、必ずやっぱりバランスが必要になる。アメリカとか、オーストラリアとか、インドとか。
やっぱり中国っていうのは大きな国だから、ある程度中国にきちんとしたルールに従った行動をとらせるような監視の仕組みが必要なわけですよ、それは。そのためには力が必要なんです。(前掲書、183-184頁)

田中は東アジア共同体構想の隠された、そして真の目的が中国の共産主義体制を市場経済と民主主義の力で破壊することにあると明言してみせた。日本政府の東アジア共同体構想は田中がアジア局長、政務担当外務審議官時代に策定したものだ。この構想の最終目標が中国の共産主義体制を内側から破壊することで、それには時間がかかるから、過渡期に中国に対する「監視の仕組み」が不可欠となる。しかし、そのためには「力が必要」なのでインド、オーストラリア、ニュージーランドを連れて来る。要するに中国を封じ込めて、共通の価値を受け入れるようにして、結果として日本主導の東アジア共同体を構築するという戦略だ。田中の東アジア共同体には、廣松のような日本と中国が共に変容して共通の世界観を形成するという理想主義的要素はない。共産体制をとる中華人民共和国はあくまでも封じ込めの対象なのである。これが日本政府の本音だが、現役外交官は公の場では語れない。しかし、田中はこの腹案を小泉首相に説明し、この戦略が国益に合致すると小泉首相が判断したから、日本は東アジア共同体構想を前面に打ち出すようになったのだ。
中国も日本の戦略には気づいている。だからこそ、東アジア共同体が共通の価値観で結びつけられることがないように種々の画策をしているのだ。
中国は急速に国力をつけ、人口、政治、経済、軍事など全ての面で大国から超大国になる途上にあるにもかかわらず、国際的に承認された主要国の「ゲームのルール」を無視した行動が目立つ。2005年末に発覚した中国公安当局が在上海日本総領事館の電信官を女性問題をネタに脅し、情報提供を迫って自殺に追い込んだ事例などは、直ちに外交の世界から追放される「レッド・カード」だ。また、2005年1月9日の日中政府非公式局長級会議では、崔天凱アジア局長が佐々江賢一郎アジア大洋州局長に対し、「日本のメディアはなぜ、中国のマイナス面ばかりを報道するのか。良い報道がなされるよう中国ではメディアを指導している。日本政府も指導すべきだ」などという民主主義の根幹である報道の自由を無視した驚くべき要求を日本政府に対して行っている。これについては、中国の内在的論理を好意的に紹介する傾向が強い朝日新聞(1月10日朝刊)ですら「中国が報道規制にすら言及するといったいびつな日中関係が続けば小泉政権後に関係改善をはかる手だても失われる」と中国側の姿勢を批判している。このような中国を変えるために、各国が共同行動をとるという戦略は間違えていない。


解説
田中は東アジア共同体構想の隠された、そして真の目的が中国の共産主義体制を市場経済と民主主義の力で破壊することにあると明言してみせた。

なるほど、大川周明の大東亜共栄圏思想と現代の東アジア共同体構想には歴史的つながりがあるのですね。


獅子風蓮



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