奈良に住む友人は、
わたしが末っ子を産むとき、お世話になった産婆さんが
「ねぇ。Tさん知ってる?自然育児の権化。」
と、のたまった人物である。
その時点では、直接の知り合いではなかったけど、その名前はやはり、わたしの周辺ではとどろいていた。
娘たちも年頃が同じだった事もあり、いつしか直接の知り合いになり、交流するようになったのだった。
それが、八年前。
しかし、原発事故の後、Tさん一家は奈良に引っ越した。
奈良には、そうした意識の似ている人々が集まっているらしかった。
さて、わたしたちは、夜の22時にこちらを出て、朝方着いたら迷惑かしら、などと話していたのに、結局到着は朝の8時半。
ずいぶん遅かったね。と、迎えてもらった。
子供たちは、いきなり懐かしく意気投合し、あちらの中学2年生の娘さんの作った小屋に夢中。
大人たちは、ご自宅の横の原っぱで、シートを広げて横になり、コーヒーとスープと、巻きストーブで焼いてくれたチャパティをいただいた。
そういえば、わたしは髪が延び放題に延びており、そんな状態でこの旅に出発してしまった事が密かに悔やまれていたのだが、
なんと、まもなく、出張でカットしてくれる美容師さんがやって来るというので、やってもらう事にした。
旅先で髪をカットしてもらうという事を、前から一度やってもらいたかった。
まるで、そこの土地の住民みたいで、旅先の人や土地と親密な時間を持てそうだからである。
11時頃美容師のアマネさんはやってきて、カットを即快諾してくれ、
そのまま原っぱのキャンピングチェアでフードをかぶった。
いつもの美容院と同じ感じ、こんな感じで、と注文して
アマネさんは、はいはいと了解し、手早くカットが始まった。
旅先でのカットは初めてだし、外でのカットも初めてだったけど、何もかもが自然でおかしかった。
そして、やがてできあがったヘアスタイルが素晴らしく良くて、とても嬉しかった。かつてアマネさんは、京都で売れっ子スタイリストだったという。なるほど、納得。
そのまま、土に落ちたわたしの髪がさっぱりしたぶん一山あった。
どうしましょう。
とTさんに聞くと、
「大丈夫。そのあたりに撒いとくから。
昨日も鹿がきて、新芽を全部食べちゃったから。」
わたしが、「?」という顔をしたのだろう。
「人間の髪を撒いとくと、鹿がこないの。人間の匂いがするんだと思う。」
と、補足説明あり。
わたしの髪が、しばらくTさん一家を鹿から守るのか。変な感じ。だけど、ちょっとお役に立てて誇らしい感じ。
子供たちは向かいの川で遊び、探検と言って家の回りをぐるぐるし、全然大人によってこないので、わたしたちは移動の疲れを癒す事に専念した。
(つまり、ゴロゴロ)
昼御飯は、そのあたりの野草の新芽を天ぷらにしていただいた。
午後は元気が出て、Tさんたちが開催するオーガニックマーケットのチラシを近所に配り、ちょっと離れたところにある五平餅屋さんにいった。
五平餅は美味しくて、こんな店が近所にあったら、ヤバい!毎日行ってしまう。
そんな感じで、全くゆったりと奈良の時間は流れているのだった。
奈良編後半へつづく。