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まわる世界はボーダーレス

世界各地でのビジネス経験をベースに、グローバルな視点で世界を眺め、ビジネスからアートまで幅広い分野をカバー。

英語パワポの極意 — 知らないと恥をかく!英語パワーポイント作りの注意点

2023-08-29 18:15:43 | ビジネス
最近、急に英語でプレゼンテーションをしなければならなくなったという人が増えています。社内の公用語が英語になってしまったとか、上司が外国人になってしまったとか、海外の会社に売り込みをしなければならなくなったとか、状況はいろいろありますが、英語プレゼンの需要はどんどん増えています。

私は、海外向けの広告を主な仕事とする広告代理店で働いてきましたので、パワーポイントでのプレゼンテーションは数えきれないほど作ってきました。パワーポイントという便利なツールが開発される前は、ページメーカーというソフトを作って、スライドを作り、それをOHP(オーバーヘッドプロジェクター)のフィルムに出力し、プレゼンテーションをするなどということもやっておりました。

その存在すら歴史の中で忘れさられようとしていますが、OHPはコピー機でモノクロでしか印刷できなかったので、色はセロファンで上から貼ってつけていました。などと言っても、ピンとこないでしょうから、そんな話は止めますが、そんな昔からプレゼンテーション資料を作ってきたわけです。

ついOHPと今のプレゼンテーションの比較を説明したいという誘惑に駆られたのですが、多くの若い読者の皆様を離脱させてしまいそうなので、早速本論に入りたいと思います。

プレゼンテーションのスライドを作るためのツールは、パワーポイント以外にも、インデザインだったり、グーグルスライドだったりがあるのですが、現在、国際的に一般的に使われているマイクロソフトのパワーポイントということで話を進めさせていただきます。



注意点としてはいくつもあるのですが、上の4点で説明させていただきます。

英語の文章の正確さ

日本語でも英語でも同じですが、文章は正確に表現されている必要があります。ただし、正確と言っても簡潔さが重要です。いくら正確でも、長くて冗長な表現はプレゼンテーションには向きません。そのためには時として、学校で習った英文法を無視することさえ必要です。

たとえば、私の能力ということで、箇条書きで記載する場合、
・Can speak Japanese language fluently.
・Experienced as a business person.
のように分かりきっている主語は割愛することもあります。

スクリーン上の面積は限りがあるので、最も重要なメッセージは何かを常に意識し、文字はできるだけ節約し、簡潔に表現する必要があります。伝わってほしいメッセージは伝えながら、余計なものは削ぎ落として行くという姿勢が必要です。

日本語のプレゼンでもよくありますが、文字でぎっしり埋められたスライドは文字を追うだけで苦痛ですよね?重要度の低い言葉は、なるべく削り、このスライドで言いたいことは何かを常に意識してテキストを作るようにしましょう。

私は広告の仕事で、雑誌広告や、テレビCMを制作もしていたのですが、言いたいことを簡潔に表現できないと、結局は何も伝わらないのです。広告主はあれもこれも言いたいのですが、詰め込みすぎると逆説的に、何がいいたいのかさっぱり理解できず、読者や視聴者の理解を強要するだけで、不快感を残し、何の目的も達成できないのです。

それと同じようにあれもこれも詰め込まれれた文章は、プレゼンテーションとしてはNGなのです。

スティーブ・ジョブズはプレゼンテーションで、長ったらしい文章は決して使いませんでした。短い言葉、時に単語だけということもありました。文字の全くないスライドだってありましたね。

そこまでの潔いプレゼンターになれたらよいのですが、彼のように高度な口頭のプレゼンテーションスキルのない人は、パワーポイントのプレゼンテーションの助けを借りるのが賢明です。

英文レイアウトの流儀

日本語と違って、英語でパワーポイントのスライドを作るには、英文文字組みの流儀に従う必要があります。注意すべき点はいくつもあって、キリがないのですが、少しばかり例を挙げてみたいと思います。

まずは、フォント(書体)の選択です。英語になっていれば、どんな書体でもよいというものではありません。適切な書体を、適切に使うことが重要です。

英語の文章は、日本語フォントのままでも打てます。日本人から見ると、一見何の問題もないように見えるのですが、欧米人から見ると、その違和感はすぐにわかってしまいます。

こちらをご覧ください。



上の4つの文章は、どれも読めないわけではありません。しかし、1と3は何か文単語と単語の間が広過ぎて見えるし、文字がくっつきすぎているところや、開き過ぎているところがありますよね?

1は日本語のMSゴシックで打った文章、3はMS明朝で打ったものです。2と4は英語のフォントを使って打ったものです。読みやすさと、文字組の美しさが全然違いますよね?

日本語は等幅フォントになっていることが多いのですが、英語のフォントはプロポーショナルと言って、文字毎に幅が調整されているんですね。英語のパワーポイントを作る際は、日本語のフォントは使わないようにしましょう。日本語のパワーポイントを英語に置き換える際に、ついつい忘れがちになってしまいますが、これは要注意です。

あと、注意すべきは、約物の使い方ですね。約物と書いて、「やくもの」と読みます。「やくぶつ」と読んでしまうととんでもないことになってしまうのでご用心。約物とは、文字数字以外の句読点等を意味します。英語で言うと、パンクチュエーション(punctuation)ということになります。

英語の約物には、クオーテーションマークや、アポストロフィ、プライム、ハイフン、エンダッシュなどが含まれます。このへんは、英語の授業では教えてくれないので、間違った使い方のまま気づかない人も多いです。

たとえばこちら。



どれも正しそうに見えますが、左の二つが間違い、右が正解です。右で正しく使われているのは「アポストロフィ」という記号です。左の文字は、A' (Aダッシュ)の時などに使う、「プライム」という記号です。何分何秒という表記の時に使ったりします。

クオーテーションマークの代わりに、間違えて、ダブルプライム(")を使ったりするのもたびたび見かけますが、これは間違いなので注意しましょう。

私は長年、横文字のカタログとか広告の編集をやっていたので、何世紀にも渡る欧文文字組の歴史に培われた流儀は、大体理解しているのですが(知らないこともまだまだあると思いますが)、このへんは地道に勉強していくしかないですね。

非常に参考になるのがこちらの本です。



「伝わるデザインの基本」という本(技術評論社、高橋佑磨、片山なつ著)です。パワーポイントだけでなく、一般的な資料作りの際にも役にたつことがよくまとまっています。

パワポデザインの機能美

私は、パワポの構成から、各ページのデザインまで、機能美が必要だと思っているのですが、まずその原点として、美しいフォント(書体)を選びたいということを強調したいと思います。

横文字(欧文書体)は日本語書体よりも長い歴史があり、多くのフォントデザイナーが様々に改良をしてきたため、数多くのフォントが存在しています。あまりに多いので、どれを使ったらよいのかよくわからなくなってしまいます。

ついついカッコ良さそうなフォントや、時代の最先端を行っていそうなフォントを使いたくなってしまう人もいるでしょう。が、お待ちください。いたずらに奇抜なフォントを使うのは避けてください。読みにくくなってしまったり、内容が伝わらなくなってしまうリスクがあります。あくまでも内容で勝負するという心構えが重要かと思います。

また、いろんなフォントを何種類も混ぜて使ったりするのもよくありません。基本的には一つの種類の文字を使います。欧文フォントには、セリフ系(日本語で言うと明朝体のように、あるいはTimesなどのように飾りのついている書体)とサンセリフ系(日本語で言うとゴシック体のような書体)の2種類がありますが、パワーポイントでは通常、サンセリフ系(ゴシック体)をお勧めします。

こちらに欧文のサンセリフ体のポピュラーなフォントを並べてみました。



似ているので、区別をするのも大変ですが、文字の形とか、幅とか、間隔とかが微妙に異なります。

数年前は、6番目のNoto Sansを好んで使っていました。この書体は、日本語と合わせて使ってもマッチングがスムーズで、理想的なフォントデザインだと思ったからです。

しかし、このフォントをパワーポイントに組み込んで保存した場合、ファイルがやたら重くなってしまうという問題がありました。その問題を解決するためにArialを使うようになりました。悪くないのですが、先ほどご紹介した「伝わるデザインの基本」の本の中で、Segoe UIが紹介されていて、これは美しいと思ったので、最近はこれを多く使っています。

Segoe UIは「セゴエ・ユーアイ」ではなく、「シーゴー・ユーアイ」と発音されるのですが、マイクロソフトのフォントです。ちなみに日本語では、「メイリオ」を最近はよく使います。

パワポデザインの機能美ということで言うと、デザインのメリハリと、文字の読みやすさがポイントとしてあげられます。

タイトル文字は、ボールドで、ある程度大きく、アテンションを引きたいです。通常、プレゼンテーションは複数ページあると思いますので、すべてのページで統一感も必要かと思います。文字数はできるだけ少なめで、広告や新聞記事の見出しのように、パッと内容がわかるような長さが理想です。

あと、スライド上に記載される文字は、一行が長過ぎないよう注意が必要です。文字の大きさと、長さのバランスですが、長いと次の行に視線を移す時にスムーズに行きません。またここで、行間が狭いと、読みにくさが増すという問題も出てきます。文字数はできるだけ少なめにし、簡潔、明瞭にするに限ります。

伝えたいことの伝達力

文字、デザイン、内容、構成、メリハリ等、それぞれに重要ですが、伝えたいメッセージをさらに伝える脇役が、図表や、イラスト、写真、矢印等のエレメントです。

単に飾りとして使うと逆効果なこともありますが、効果的に使うと、メッセージがより強く伝わります。雑誌や新聞の広告も文字だけではインパクトがないですが、ビジュアル要素があってはじめて読者は目をとめ、興味を持って内容に引き込まれていきます。

一つ一つのスライドでそのような工夫があると、プレゼンテーションの内容がインパクトを持ってオーディエンスに語りかけていきます。

私は、学生時代、演劇をやっていて、いまでもミュージカルは好きでたまに見ますが、プレゼンテーションはまさに演劇と同じだといつも思っています。きちっとした脚本があって、役を演じるキャストがいて、演出がいて、照明や、音楽や、舞台美術がいる。それらが一体となって、観客に何かを伝える。

プレゼンテーションも、伝えたい内容があり、文章表現があり、文字があり、デザインがあり、グラフィック要素があり、プレゼンをするプレゼンターがいる。それらが有機的に一体化して、メッセージを伝えることで、見ている人は、そのプレゼンテーションを評価するのだと思います。

自分以外のプレゼン資料を作ることも最近多いですが、そんな時も、常にこんなことを考えながらパワポを作っています。

CoconalaでもSuper Sonic Manという名前でサービスをアップしているので検索をしてみてください。
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「人権デューデリジェンス」、それって何?

2021-06-27 17:22:32 | ビジネス
シンガポールに「オンランサロン川端会議」という勉強会があり、2020年の10月のスタート時から参加させていただいています。ASEANやアジアの様々な情報を、月に2度ほど、議長の川端隆史さん(元外交官、NewsPicsを経て、現在米国リスクコンサルティングファームのクロールのシンガポール支社のシニアバイスプレジデント)が、いろいろな切り口で、独自の視点で報告してくれる会です。

参加メンバーはシンガポールにいる人だけでなく、日本や、中国や、タイで仕事している方も何人かいます。たとえアジアの中にいても、刻々と変化するアジアの動きは捉えにくいので、こういうところでアジア情報を、マクロxミクロの視点でキャッチアップしていく必要があると感じて、この会に参加させていただいています。興味のある方はこちらをご覧ください。

https://www.oneandco.sg/ja/community/kawabatakaigi/

2021年6月22日(火曜日)の夕方から開催された第18回川端会議の議題は「人権デューデリジェンス」でした。テーマはわりと直前に発表されるケースが多いのですが、今回のこのテーマは、正直、自分にとって関連があるのかどうかよくわかりませんでした。「人権」という言葉と、「デューデリジェンス」という言葉はそれぞれ聞いたことがあったのですが、両社が合体した「人権デューデリジェンス」という言葉を聞いたのはそれが最初でした。

この会議からの学びをベースに、個人的な感想などを付け加えて、まとめたものがこちらの文章です。「人権デューデリジェンス」に関して、これからの企業活動の中で重要な概念になると思ったので、少しでも多くの人に知ってもらっておいたほうがよいのではないかと感じました。私の文章で正確に伝わるのかどうかわかりませんが、とりあえず書いてみたいと思います。またこの中で、川端会議で実際に報告された内容以外の情報も含まれていることをあらかじめお知らせしておきます。

「人権」という言葉について

「人権」に関しては、新疆ウィグル自治区の問題やミャンマーの問題は連日報道されていたので、「人権」が各地で大変なことになっているなというのは感じておりました。

また、私は、香港に2007年から2011年まで住んでいて、その後も数年間は毎年何回か香港に行っていましたので、香港の自由が失われていく過程に、心を痛めておりました。香港では、天安門事件追悼集会が毎年開催されていたし、2014年には雨傘運動などもあり、2019年の民主化デモとその弾圧、2020年には香港国家安全維持法が施行され、そしてつい最近は香港の自由の旗振り役であったApple Daily(リンゴ日報)が歴史に幕を閉じるという悲しい出来事がありました。

香港が1997年に中国に返還された後も、報道の自由を追求していたApple Dailyは個人的にとても好きでした。若者に人気があり、日本企業の広告をこの新聞に掲載したことも何度かありました。巨大な権力に報道の自由が踏み潰されていく瞬間を目撃するのはとても辛い思いがします。

私は、ミュージカルとか演劇が好きで、特にミュージカルの「レミゼラブル」が好きということもあり、心情的には民衆側を応援したくなる傾向があります。民主化運動の中で歌われた、「香港に栄光あれ(願榮光歸香港)」の曲を聞くと、いつも涙が溢れてきました。



「人権」は、ウィグルや、ミャンマーや、香港だけでなく、世界各地で問題化しています。これは現代に限らず、古来から、征服された民族は、差別を受け、排除されるか、奴隷化するのが通例でした。現代でも、人種差別、性差別、児童労働、人身売買、強制労働など様々な形で人権は脅かされています。

こちらにご紹介するのは人権擁護組織、アムネスティの動画です。世界各地の人権に関わる問題が短い映像の中に凝縮しています。



最後の“What we are is up to us”(私たちのあり方は私たち次第です)というメッセージ、印象的です。

「デューデリジェンス」という言葉

「デューデリジェンス」という言葉に関しては、これまた個人的な思い出があります。数年前、私がいた東京の会社が、すでに上場していた会社から出資を受けるということがありました。わかりやすく言えば買収です。その時に身をもって経験したのが「デューデリジェンス」でした。

買収前には、相手側の財務内容だけでなく、あらゆることを徹底的に調べるというプロセスがあります。それを専門用語で「デューデリジェンス」と言います。経理財務などのことだけでしたらいいのですが、買い手側は、我々の仕事のプロセスや、考え方、コスト管理の考え方など、それまで私たちがあまり考えていなかった部分に遠慮なく踏み込んできます。私は当時会社の役員をやっていたので、デューデリジェンスという荒波をもろに被ることになりました。人権的な観点はなかったのですが、経営、財務、人事的な様々な方面からするどい質問を受けることになったのです。

それから何年か後に、今度は自分が買い手として、インドのローカル会社を買収するということも経験しました。インド人はただでさえ妥協をしない感じなのですが、M&Aのような法的交渉事になるとなおさらそうです。今度は自分たちが相手方に対してデューデリジェンスを行うということになりました。インドのローカル会社は、調べてみるといろいろとわけのわからないことが出てきます。ですが、向こうも交渉のプロなので、簡単には実態を開示しません。最終的にはお互いに妥協点を見つけて合意に至るわけなのですが、デューデリジェンスとは、やるほうも、やられるほうも大変だと身をもって感じたわけです。

今回の「人権デューデリジェンス」の話を川端さんに伺っている中で、これはM&Aの時に理解していた「デューデリジェンス」とはちょっと違うのではないかと気付いたわけです。

「デューデリジェンス」は英語の「Due Diligence」のことで、重要なM&A用語の一つです。もともとは、投資用の不動産取引、または企業合併や買収などで把握しておくべき情報、つまり「企業の資産価値」「企業が受けるリスク」「予想される収益性」などを、状況に合わせて適性に査定・評価する一連の義務活動となるのだそうです。企業M&Aや投資取引ではリスクが伴いますが、収益の見込みや正当な価値を含め、企業を総合的に評価することはとても重要なことです。そのための会社の身体検査のようなものなのですね。

これまで過去の経験から、デューデリジェンスというのは、M&Aの時に単発的に行うプロセスだと理解していたのですが、今回の「人権デューデリジェンス」の話を聞いて、それは、M&Aとは関係なく、企業評価を行うことで、「監査」とか、「企業の信用調査」に近い概念なのではないかと理解するに至ったのです。

「人権デューデリジェンス」はこれから日本で話題になる言葉

さて、「人権デューデリジェンス」なのですが、これは、企業の検査を、財務状況とかではなく、人権という観点で行うということなんですね。人権というと国家レベルの話かと思ってしまうのですが、実は、これは、欧米では、法制化されてい国も多く、企業活動としても非常に重要な要素になってきているということでした。

日本ではまだあまり話題に出てきていないのですが、議長の川端さんは「一般化2年説」ということを言われていました。あるテーマが巷でささやかれ初めて、2年経ってやっと一般化するということです。

「人権デューデリジェンス」というのは欧米ではすでに一般化してきている概念なのですが、日本はかなり遅れを取っている。日本は今年やっと「人権デューデリジェンス元年」と言えるかどうかということで、すでにいろいろと動きがあるけれど、これが一般化して、テレビとか週刊誌とかで取り上げられるようになるにはあと一、二年かかるのではないかということでした。

というようなことを聞きましたので、私としては、なおさら、これが一般化する前にこのテーマに関して触れておきたいと思ったわけです。

2021年1月、アメリカの税関当局が、中国の新疆ウイグル自治区での強制労働をめぐる輸入停止措置に違反した疑いがあるとして、日本のユニクロのシャツの輸入を差し止めていたという事件がありました。これも「人権デューデリジェンス」の世界的なムーブメントの中で生じた事象でした。

ミャンマーもクーデター後、国軍傘下の企業との取引を行ってきた外資系企業は、国軍の資金源となってしまうことを避けるため、撤退ないし業務縮小を余儀なくされています。

「人権デューデリジェンス」は実は2011年に国連人権委員会で承認されていて、各国政府や各企業での実質的なガイドラインとなっていたようなのですね。欧米では法制化がすでに進んでいて、英国では「現代奴隷法」という法律が2015年に制定されたそうです。他の国も同等の法制化が進んでいるそうです。「奴隷」というのはすでに死語となっていると思っていたのに、実態としては、人身取引や、強制労働はいまだに存在しているとのことです。

日本政府が対応を考え出したのはつい最近のことのようですが、まだ日本では法制化の動きにまでは至っていません。欧米に比べると日本の対応は周回遅れとのことです。

「ESG」の重要な一部としての「人権デューデリジェンス」

最近、「ESG投資」ということがよく言われるようになりました。E=Environment(環境)、S=Society(社会)、G=Governance(ガバナンス)なのですが、これまで企業は利益の追求を究極の善として考えていたのが、利益ではなくて、ESGが大切、つまりESGにしっかり対応していない企業は投資する価値がないというようなことになってきたわけです。

投資は英語で“investment”なのですが、その反対語が“divestment”というのも初めて知りました。投資家は、企業のESGの対応如何で投資を引き下げることもあるということなんですね。

このトレンドについては何となく理解していたわけなのですが、ESGと聞くと、環境への貢献、ダイバーシティ、インクルージョンのような部分だけを想像していました。しかし、「人権デューデリジェンス」という話を聞き、これもESGの重要な一部だったのだと気付いたわけです。

ESGや、SDGsの概念は、企業やその商品やサービスを超えて、広く地球環境、地域社会、関連するあらゆる国とその人々を包括していて、「誰も置き去りにしない」という「誰も」というのは、直接繋がっている人(従業員、家族、地域住民、ユーザー、顧客、取引先)だけでなく、間接的に繋がっている人(あらゆる末端のサプライヤー、生産地、我々の子孫たち)をも含む広い概念だったんだと気付いたわけです。そんなダイナミックな広がりの中にこの「人権デューデリジェンス」というテーマが浮上してきているというふうに理解しました。

「紛争鉱物」の話

人権デューデリジェンスの背景として、紛争鉱物の話も出てきました。紛争鉱物とは重大な人権侵害を引き起こす内戦や紛争や戦争によって武装勢力や反政府組織の資金源となっている鉱物のことです。このへんあまり知らなかったのですが、コンゴやその周辺のアフリカ諸国での鉱物資源はこの問題があり、欧米では紛争鉱物を製品に使わないようするというのが一般化しており、あるいはもし使っていることが判明した場合はその製品の不買運動に発展することもあったそうです。

『ブラッド・ダイヤモンド』(Blood Diamond)という映画のことも川端さんが話されていました。これは、2006年製作のアメリカ映画で、シエラレオネの内戦(1991年 - 2002年)での、「ブラッド・ダイヤモンド(紛争の資金調達のため不法に取引される、いわゆる紛争ダイヤモンド)」を巡るサスペンスです。レオナルド・ディカプリオが主演していて、2006年のアカデミー賞の数部門でノミネートされた作品です。トレーラーをこちらに紹介しておきます。



これは、シエラレオネ内戦時のダイヤモンドの取引に関連した話なのですが、実際に映画を見てみました。一つのダイヤモンドをめぐって血みどろの殺戮が展開されるのですが、武装勢力、強制労働、子供兵士などの人権テーマが臨場感溢れるタッチで描かれています。

この映画は鉱物と言ってもダイヤモンドだったのですが、本来の紛争鉱物とは、コンゴおよびその周辺国で採れるスズ(Tin)、タンタル(Tantalum)、タングステン(Tungsten)、金(Gold)の4つの鉱物がメインで、武装勢力の資金源となっていることが多いそうです。これら鉱物は、携帯電話や、パソコンや様々な工業製品に使われているので、アメリカでは鉱物供給元開示が数年前から義務付けられているのだそうです。

原料はできるだけ安く仕入れるべしという概念の崩壊

製造業のビジネスの基本として、原材料はできるだけ安く仕入れるというのがありました。許容できる品質の範囲で、より安く調達できる原材料や部品を探して、さらに買い叩くというのが購買部や調達部の腕の見せ所でした。結果的に、商品を競合メーカーよりも安くして、価格競争に勝つというのがかつてのマーケティングの基本でした。

ところが、紛争鉱物や、人権デューデリジェンスが一般化してくると、価格を無理に下げることよりも、これらルールをきちっと守ることのほうが重要になってきます。たとえそれを守ることで、価格的に高くなってしまったとしても、そのほうが社会的には評価されるということになります。単に安ければよい、安いほうがよい、というのは過去の概念になっていくのかと感じています。

しかし、もし世界の大半が人権デューデリジェンスをきちっと守った商品開発、製造を行なっていったとしても、人権デューデリジェンスを全く無視している国があって、その国で製造される製品が圧倒的な価格競争力を持って世界市場に送りだされる場合、市場原理がどのようになってしまうのか心配ではあります。市民が人権デューデリジェンスを理解した上で、不買運動とかで対抗できるのか、それとも安いほうがいいという大衆の力に負けてしまうのかよくわかりません。貧富の差はなかなか無くならないでしょうし、安いほうが歓迎される消費は残ります。その時、金儲けを追求する権デューデリジェンス国ないし、企業はどのような仕打ちを受けることになるのでしょうか?

人権デューデリジェンスが一般化した場合、それに適合しない会社はブランド力や信頼性を失っていくことは考えられます。日本の特にB2C系のメーカーの場合、人権デューデリジェンスの視点を十分理解し、サプライチェーンに関わる調達先の調査、見直しを行い、自信をもって開示できるような体制を目指していかなければいけなくなります。そうしておかないと、世界市場で、日本の携帯電話や家電が負けていったのと同じように、人権デューデリジェンスに対応していなかったからという理由で負け落ちていくメーカーも出てくるでしょう。

今後は、原材料を安く仕入れて利益を追求するというビジネスモデルが崩れ、人権デューデリジェンスを守りながら、価格は適正な価格にしていくということになっていくのでしょう。それを消費者や、顧客に受け入れてもらうためには、情報の開示ということが重要な要素になっていくのだと思います。

率先して人権デューデリジェンスに関しての情報発信をしていくということ

企業は、いろいろなところから叩かれるリスクを持っています。特に、人権デューデリジェンスに関わることだと、サプライチェーン上の調達先のさらにその先の調達先、そして物によっては、さらにその先まで調査し、状況を把握しておく必要が生じます。まったく関係なさそうな国の問題が実は関わっていたというような事態もありえます。

調達先の実態を徹底的に調べていくということが企業に課せられた義務となっていきます。企業は人権デューデリジェンスに関して、マニュアルを整備していく必要があるでしょうし、調達先や取引先に対してもそれを敷衍していくことになるのでしょう。

人権デューデリジェンスだけでなく、ESG全般への対応およびその考え方などは、対投資家や、顧客だけでなく、取引先や、従業員、地域社会に対しても率先して発信していくことが重要な時代になってきています。

ひとつの方法としては、信頼性の高い新聞媒体(およびそのオンラインメディア)を使って、従来型の広告ではなく、記事広告という形で、企業の考え方を開示しておくという方法も考えられます。企業規模によって方法は様々ですが、例えば、Financial Timesのアジアパシフィック版や、シンガポールだとBusiness Times、テレビ系のメディアだとChannel NewsAsiaなどのメディアを使って情報発信をしていくことも考えられます。このへんのアレンジは私のほうで可能ですので、ご興味がございましたら、お問い合わせください。一応こちらがフェイスブックページになります。

https://www.facebook.com/wings2fly.co

国際市場で企業活動をしていく企業は、このように対外的に情報発信していかないと、製品やサービスは評価されていても、企業の信頼性は評価されないという事態になっていく危険があります。そんなリスクを、この「人権デューデリジェンス」というテーマで感じました。ということで、このテーマが一般化していく流れの中で、もっとこれを掘り下げて、勉強していかなければならないと思いました。まとまりのない長文で失礼いたしました。最後までお読みいただき感謝です。何かのヒントになりましたら幸いです。
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魔法の言葉“WIIFM”を知っておくと、説得力が向上する

2021-06-12 17:14:41 | ビジネス

この言葉を知ったのは、つい最近のことです。知らないと、新しいラジオのFM局か何かかと思ってしまいますが、全然違います。ある英語のフレーズの頭文字ですが、これを理解しておくと、プレゼンテーションや、セールストークなどに説得力が出てきます。企業や、組織で、多くのスタッフを動かさないといけないときにも、これを押さえておくとうまくいきます。簡単な概念なので、ご存知ない方はこの機会に覚えておきましょう。

この言葉は、“What’s In It For Me?”という言葉の頭文字。「ウィーフム」と発音します。「それが自分にとってどんなメリットがあるのか?」ということなのですが、これを明確に伝えておくことが、プレゼンテーションにおいても、スタッフを説得する場合にも重要なポイントになるということです。逆にこれが共有されていないと、どんなに強制的に「俺の話を聞け」とか「言うことを聞かないとひどい目にあわせるぞ」とか脅しても効果は期待できません。

私がこの言葉を聞いたのは、EXAFORUM 2021というオンライン展示会でのことで、元インテル社エバンジェリストであり、未来学者でもあるSteve Brown氏のセミナーの中でのことでした。ベストセラー「the Innovation Ultimatum」を出している方で、めちゃくちゃわかりやすい、面白いセミナーでした。AIやIoT、ロボティクスなどの複数の技術が融合し、社会を変えるテクノロジーの津波になるという話です。企業はデジタル・トランスフォーメーションを進めないといけないのですが、なかなかうまくいかない。抵抗勢力が出てきて、その動きが潰されてしまうというのです。それを克服する方法は何かという文脈の中で出てくるのがこの言葉です。



ビジネスリーダーは、明確なビジョンを持ち、変化を拒む人たちを助けなければいけません。そこで必要になってくるのが“WIIFM”であると、Steve Brown氏は語ります。ここはDX(デジタルトランスフォーメーション)の話をしている中でのことだったので、「DX後の未来の世界では、あなたの役割はこう変わり、あなたにとってすばらしい世界になります。新しい役割であなたは成功するでしょう。そういう未来図を説明できないのであれば、DXは大変困難になるでしょう」と語っています。



概念としては前からあったと思いますが、“WIIFM”という言葉ができて、さらにこの目的意識の明確化にフォーカスがあたってきました。最近はやたら新しい言葉が出てきました。DXもそうですが、SDGs、ESG、CSRなど、ちょっと勉強していないと置いていかれそうな言葉が次から次へと出てきます。

ビジネスリーダーの皆さんもついていくのが大変かと思いますが、中途半端な理解しかしていない状態で、これをやれと命令するだけでは、スタッフはどんどん脱落し、誰もついてこない状況になってしまいます。何でこれをやらなければいけないのか、それをやることで、どんないいことがあるのかを自分事として納得してもらわなければならないのです。

これはプレゼンテーションの場合も同じです。みんな忙しく、それぞれ抱えている問題は異なります。これを聞いてどんなメリットが自分にあるのかわからない状態で長いプレゼンテーションに付き合っている余裕はありません。これを聞いたら、どういうことがわかるのか、それがわかるとどんな得をするのかなどを冒頭で押さえてもらえると、聴衆は積極的に話を聞くようになります。

私は、広告会社に長年いて、海外向けの企業広告や、コマーシャルや、会社案内や、商品カタログなどを作ってきました。ここで学んだことは、企業が伝えたいことを一方的に伝えるのでは誰も聞いてくれないということでした。あるカメラメーカーのアメリカ法人のマーケティング責任者はいつもFAB(Feature, Advantage, Benefit)を明確にするようにと言っていました。製品特長だけをアピールしても消費者は興味を示さない。アドバンテージとは、その特長が、他社と比べてどれほど優れているのか。そして最も重要なのが、その特長やユーザーにとってどのような利便があるのかということでした。

商品広告や商品カタログでは、製品の特長や優位点を洗いだし、考えられる限りのベネフィットを書き出すというのが重要な仕事でした。どんな些細な特長でも、何かしらのベネフィットがあります。製品の重さが軽ければ、持ち運びが楽とか、旅行に便利、長く持っていても疲れないとか、筋力のない人でも持てるなどのベネフィットが考えられます。こういう考え方は、“WIIFM”に共通するものがありますね。相手の立場にたって、どんな得があるのかということを探すということですので。

商品マーケティングではユーザーの立場にたってベネフィットをアピールするというのは昔から基本的なことですが、デジタルトランスフォメーション(DX)や、SDGs、ESGなど新しく、抽象的で捉えにくい概念の場合は、“WIIFM”が特に重要になります。それがないと、何だかんだできない理由をつけて、変化することを阻んでくる人たちによって、プロジェクトは頓挫していくわけです。

今後は、世の中の変化に伴い、こういう新しい概念は続々と出てくるでしょうし、落ちこぼれそうになっていく人たちを救うために、“WIIFM”が活躍していくのでしょう。

トップ画像は私が描いたチョークアートです。この言葉があまりに厳かに思えたので、何か視覚的にインパクトのある形にしたかったのです。私にとっては、こうやってビジュアル化したいほど魅力的な言葉だったわけです。皆さんにとってはあまり意味のないことだったかもしれませんが、所詮自己満足なので、笑って流してくださいませ。

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連邦議会議事堂事件後に発せられた米国企業からのメッセージ

2021-01-13 16:41:04 | ビジネス

1月11日の広告業界メディアのCampaign Asiaに、6日の米国連邦議会議事堂乱入事件を受けて、いくつかのブランドがメッセージを発信しているという記事が掲載されました。トランプ大統領の弾劾訴追の準備も進行していて、共和党の何人かの議員も距離を置きつつあります。SNSも凍結され、各方面からの非難が集中している大統領ですが、大企業が続々と公式メッセージを発信しだしました。

これまで大統領選挙に関しての情報は、メディアやSNSの発言が大半でしたが、企業からのメッセージを見ていると、混乱した社会を修復していこうという自浄作用のようなものを感じます。SNSでの偏ったコメントが氾濫している状況にあって、何が正しいのか、間違っているのかわかりにくくなっているのですが、このような企業の「常識的」な発言に触れると、何かほっとした気持ちになるのは私だけでしょうか。



まずはコカコーラ社。文章を訳してみるとこんな感じになります。「ワシントンDCで起きたことは、アメリカ民主主義の理想への攻撃」と題するコメントを出しました。「約250年にわたってアメリカ合衆国は民主主義のお手本となってきました。いかにして異なった視点やアイデアが社会を強くできるかを示す明るい灯火となってきました。ワシントンDCで繰り広げられた非合法で乱暴な事件は私たちすべてを驚かせました。選挙の結果が公式に認められた今、アメリカ民主主義を尊重して、平和裡に政権の移行を行い、共に力を合わせてアメリカを一つの国家にしていきましょう」



ボーイング社のCEOのメッセージとしてこのようなコメントが発信されています。「ボーイング社は米国政府のお客様とともに、この国および世界中で民主主義を擁護するために積極的な役割を、誇りを持って担っていきたいと思います。国民による投票と平和的な政権移行は民主主義の根幹です。弊社は選挙で選ばれた皆さまと長年仕事をしてまいりました。超党派の精神で、選挙で選ばれた大統領のバイデン氏がこの国を一つにまとめていけるよう協力したいと思います」



シェブロン社です。「私たちは合衆国政府の平和な移行を望んでいます。ワシントンDCの暴動は、法を遵守するという二世紀にわたる伝統に泥を塗るものでした。選挙で選ばれたバイデン氏と彼の行政チームがこの国を前進させてくれることを心待ちにしています」



こちらはバンク・オブ・アメリカ。「我が国の議事堂での本日の痛ましい事件は、すべてのアメリカ国民が団結し、我が国の建国以來、途切れることなく行われてきた政権の平和的な移行という最も大切な原則を守ることの大切さ、そしてその緊急性を思い知らせてくれました。私たちは、共に、平和的に、尊敬の念を持って、アメリカの理念という単一の共通の方向に向かって前進しなければならないと考えます」



こちらはUPS社。「米国連邦議事堂で繰り広げられた無法の暴力に対し遺憾に思うと同時に、破壊行為とそこに生命を賭するという非合法な活動に参加した各個人の行動を強く非難したいと思います。私たちは平和的に、建設的に、合衆国憲法に従って、この国を前進させていく方法を、政権を平和的に移行させていく方法を、見出していかなければなりません。
UPSは民主的なプロセスが、アメリカの基本的で犯すべからざる基盤であると信じています。建国以来、我が国は自由で、公平で、平和な選挙を守ってきました。直近の選挙結果は明白であり、平和的な政権移行が必要であると考えます。この分断された国家を癒し一つにまとめていくためには多くの努力が必要でしょうが、今こそ共に、力を合わせていきたいと思います。
UPSは毎日必要な物をアメリカ国民や世界中の人々にお届けし続けます。私たちは率先して統一を応援し、公平さと誠実さを守って活動を続けていきたいと思っております。そしてあらゆる人々の正義とビジネス機会を前提とした、安全で強固で、困難にも挫けない社会を目指して世界を前進させていきたいと思っております」

翻訳の文章は少々分かりにくいところもあるかもしれませんが、おおよその意味を汲み取っていただければと思います。この困難な状況を乗り越えて、明るい未来に向かって進んで行ってほしいですね。このような状況にあっても、各企業は企業姿勢を明確に発信することで、信頼できる企業としてのブランディングを進めているのだと思います。
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Cスイートの話

2021-01-08 20:05:05 | ビジネス

C-Suite(Cスイート)という言葉があります。CEO(Chief Executive Officer/最高経営責任者)、CFO (Chief Financial Officer/最高財務責任者)、COO (Chief Operating Officer/最高執行責任者)、CIO (Chief Information Officer/最高情報責任者)、CMO (Chief Marketing Officer/最高マーケティング責任者)、CDO (Chief Digital Officer/最高デジタル責任者、Chief Data Officer/最高データ責任者)など頭にCがつく役職をまとめてC-Suiteと呼びます。企業経営に関わる役職ですね。



2019年5月に、カナダのバンクーバーで広告関係の国際ネットワークの会議が三日間行われ、私はそれに参加しました。その最終日にゲストで登場したのが、マイクロソフトのスティーブ・クレイトン(Steve Clayton)という人でした。何と、その人のタイトルが、チーフ・ストーリーテラー (Chief Storyteller)だったのです。ストーリーテラーというのは、物語を語る人、語り部。そんな役職の人がいたとはと驚きました。

マイクロソフトは、GAFAMと呼ばれる世界の5大IT企業 (Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)の一つで、1975年にビル・ゲイツとポール・アレンによって設立された会社です。現在のCEOは、インド人のサティア・ナデラ(Satya Nadella)です。

スティーブ・クレイトンはイギリスのリバプール出身ですが、アストラ・ゼネカに就職した後、マイクロソフトに転職します。最初はテクニカル・セールスの担当で、技術的なことを誰にもわかるようにブログで紹介していたそうです。そのブログが話題となり、マイクロソフト本社から声がかかり、やがてチーフ・ストーリーテラーという役職を得ることになります。

このへんの事情は、英語ですが、以下の動画で語られています。興味のある方はご覧ください。



チーフ・ストーリーテラーとして彼はマイクロソフトの企業文化や、企業としての考え方を社内外に語っていく役割を担っています。彼自身のサイトはこちらにありますので、ご参考まで。
http://www.stevecla.com/about

私はシンガポールで働いておりますが、2年ほど前、シンガポールの楽天のオフィスで開催されたセミナーに参加したことがありました。楽天はいち早く英語を公用語として採用した企業ですが、企業文化の国際的共有ということにも注力しています。そのセミナーの中で、会社の組織図が紹介されたのですが、小林正忠という人がChief People Officerというタイトルになっていました。



小林正忠さんは楽天の創業メンバーの一人ですが、現在は楽天の常務取締役で、Chief Well-being Officerとなっています。以前のChief People Officerがこの名前に変わったようですね。人々が(社員も顧客も社会も含めて)みんな幸せになることを目指す役職とのことです。

私は一年前にシンガポールで起業したのですが、自分自身のタイトルをどうするか考えた結果、Chief Navigation Officerというのにしました。もともとは船舶の「主任航海士」という職業名だったのですが、海外市場の広告を主な仕事としていて、水先案内人の役割もあるので、これをタイトルとしました。



船が航行していくにあたって、星の位置や、緯度経度や、岩礁などを把握しながら、安全に、目的地に向かって船を進めていく。そのためのビジネスのナビゲーションをしていくのが自分の使命だという思いがありました。日本やシンガポールの企業が、未知の市場で広告活動をする場合でも、自分の会社がナビゲーターとして的確な市場分析をし、媒体選択、クリエイティブ制作をしていくというメッセージを込めました。

そういうタイトルをつけたのですが、スタッフが沢山いるわけではないので、実はほとんどすべての業務を自分でやらざるを得ず、ナビゲーションだけしていればよいというわけではないんですが…

ということで、チーフ何とかというタイトルはいろいろとあるんですが、これからも珍しい、クリエイティブなタイトルがいろいろと出てくることでしょうね。今後時代はどんどん変化していき、既存の知識や過去の経験では的確な企業の舵取りができない状況となるでしょう。そんな時代には、既存の組織体系を超えた柔軟な考え方が必要となるでしょうし、チーフなんとかという新しいタイトルが出てくるのではないかと思います。
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