まわる世界はボーダーレス

世界各地でのビジネス経験をベースに、グローバルな視点で世界を眺め、ビジネスからアートまで幅広い分野をカバー。

ラッフルズホテルのシンガポール・コーヒーと空に帰るエンジェル

2021-12-12 17:15:57 | シンガポール
シンガポールから帰国して10日が経ちました。シンガポールの記憶を整理するために、いろいろと書いておきたいと思いながら、14日間の自宅待機の期間もすでに半分以上が終わってしまいました。

記憶が鮮明なうちに書いておきたいと思っているのは、シンガポールを夜の飛行機で出発するその日にも訪問したSingapore Coffeeというカフェのことです。



そのカフェは、シンガポールのラッフルズホテルの敷地内の一階にあり、ノースブリッジロード側からも、中庭(コートヤード)側からも入ることができました。

私たちが夫婦で最初にその店を訪れたのは、11月5日の昼下がりのことでした。ノースブリッジロードに面した入り口のドアを開けようとしていたら、お店の女性が内側から開けてくれました。

シンガポールでは昨年からあたりまえになった追跡アプリでチェックインをした後、席に案内され、メニューはテーブルについているQRコードから見られることを知らされます。この一、二年で、シンガポールではスマホなしでは生活ができないようになっていました。

コロナ以前はQRコードを使うこともほとんどありませんでした。また、シンガポールでは、2021年10月13日からワクチン接種完了者(二回接種)しか、飲食店での外食も商業施設の利用もできなくなったのですが、スマホの追跡アプリのワクチン表示が必須となっていました。

店内は、ラッフルズホテルの雰囲気を活かしたクラシックでエレガントな雰囲気。天井についている南国のうちわが連なったような扇風機は、ラッフルズホテルのロングバーにもあったのと同じものでした。

たまたま店内でかかっていたBGMがシャンソンだったこともあり、雰囲気はパリのカフェという感じでした。

ラッフルズホテルには、100年以上前、英国の作家のサマセット・モームが滞在していたことがあります。彼はバンコクのオリエンタル・ホテルにも滞在していたことがあり、どちらのホテルにもサマセット・モーム・スイートという部屋があります。

彼が書いた「月と六ペンス」は、ポール・ゴーギャンをモデルとして描かれたと言われていますが、絵を描くために安定した生活を捨て、パリに行き、そしてタヒチに行くのです。

サマセット・モームもパリで生まれ、作家活動以外に、秘密諜報部員としても活動していたらしく、「007」のジェームズ・ボンドのモデルとも言われているのですが、そんな歴史の蓄積がラッフルズ・ホテルを特別なものとしています。

かつて私は、ロンドンやパリに何度も出張で行っていたので、パリのカフェや、ロンドンのティールームも何度も訪れていたのですが、このお店は当時の記憶が蘇ってくるような場所でした。

そこに来ているお客さんも、余裕のある雰囲気の人々が多く、コロナ禍でも、ストレスを抱えているような重苦しい雰囲気が全くありませんでした。それはまるで砂漠の中で遭遇したオアシスのような、蜃気楼のような場所でした。

そのお店をさらに特別な場所にしたのが、その日私たちを接客してくれた女性店員でした。私たちは一瞬で彼女の対応に魅了され、妻はそれ以来、彼女のことを勝手に「エンジェル」と呼ぶようになります。

私は飲食店の店員に過度な期待をしているわけではありませんし、お客さんを神様として対応することを強要しているわけではありません。

しかし、彼女の気配りとホスピタリティーの素晴らしさは、決して接客業という職業上のものではなく、天性のものだと私たちは感じました。声のトーン、話し方、態度、お店の商品知識、すべてが魅力的でした。店員という役割を超えて、一人の人間としての魅力を感じたのでした。

同時に、このようなスタッフを採用できたこのお店を羨ましくも思いました。どうしてこんな優秀なスタッフが、こういうお店で働いているんだろう。経営者がそのような人材を集めることに長けているのだろうか。ここで働くことに魅力を感じるようなモチベーションがうまく引き出せる仕組みとかあるんだろうか。自分の会社も、こういう人材を採用できていたら、どんなに仕事が拡大できていただろうかなどということも感じたのでした。



その日、私は、ローカルのミルクティーのテタレ(Teh Tarik)とバターミルクスコーンを、妻はコピシコソン(砂糖なしのミルク入りのローカルコーヒー)を注文しました。

ローカルのコピやテタレは、屋台街やフードコートでは100円くらいなのですが、ここでは何倍もします。中身はあまり変わらないのかもしれないのですが、容器や雰囲気で特別に美味しく感じられます。

フードコートや、ヤクンカヤトーストやトーストボックスとかのローカルのお店では、コピやテタレはわりと雑に作られます。溢れていてもあたりまえという感じです。

でもこのお店では、カウンターでまるでカクテルを作るかのようにエレガントに作られます。コピに入れる練乳もカクテルを作る時に使うメジャーカップで正確に測っていれていました。そこまでする必要はないかもしれないのですが、何かお店の心意気が感じられました。

ガラスのカップに入れられたテタレは、金色の金属皿に乗せられ、ベーシックなテタレが一気に貴族的な気品を身に纏った感じです。たとえて言えば、マイフェアレディで、卑しい素性のイライザが、外見だけではなく、心も身体も淑女になった感じです。味が通常のテタレとどれだけ違うのかは何とも言えませんが、とても美味しくいただきました。

また、バターミルクスコーンは、クロテッドクリームとストロベリージャムが添えられていて、こちらも素晴らしい味でした。

次にこのお店を訪問したのは、11月11日のことでした。この日もエンジェルが見事な対応をしてくれました。この日、私はお店のおすすめのコーヒーを注文しました。

普通のアメリカーノとかを注文しようと思っていたのですが、お店のブレンドコーヒーをサイフォンで淹れたものを勧められたので、せっかくなのでそれにしました。



フラスコのようなガラス容器にいれられてきて、それをショットグラスのようなガラスカップに注いで飲みます。酸味、濃さ、風味が秀逸で、ブラックでも飲みやすく、コーヒーってこんなに美味しかったのかと思うような味でした。

このコーヒーは複数のコーヒー豆のブレンドなのですが、オークでローストしたカカオとチョコレートの風味なのだそうです。

このコーヒーの名前が「優しい征服者」(Gentle Conqueror)というのも魅力的でした。その名前の通り優しいコーヒーの風味が、心まで虜にするということかと勝手に解釈しました。

私がこのコーヒーを味わっている間、店の片隅にある商品陳列コーナーで妻はエンジェルから商品の説明を受けていたようです。その説明がとても丁寧だったと妻は言っていました。

次にこのお店を訪れたのは、11月17日でした。エンジェルはいませんでした。別の男性の店員が対応してくれましたが、彼の対応も素晴らしかったです。

私は彼に「前、Gentle Conquerorを飲んだ」と伝えると、「前はサイフォンで淹れたのを飲んだのでしたら、今度はフィルターで淹れたのも飲んでみて、違いを確かめたらどうでしょうか?サイフォンよりもちょっと時間はかかりますが」という提案。彼のアドバイスに従って、私はコーヒーをフィルターで淹れてもらうことにしました。

正直あまり違いがわからなかったのですが、ちょっと味が濃いような気がしました。同じコーヒーをサイフォンとフィルターで飲み比べるという経験はなかなかないことでした。



この日、チョコレートロールケーキを注文したのですが、これも美味しかったです。店員の男性は、「本当のこと言うと、自分もこれが一番好き」と言っていました。この男性の対応も非常に好感が持てました。



次に訪問したのは11月23日でした。ランチタイムにはチキンライスや、ラクサなどのローカルフードがコピ、テタレ付きで提供されているというので、一度試してみようと思ったのです。私はシンガポールフライドヌードルを、妻はナシゴレンを注文しました。これもとても美味でした。この日はエンジェルも、前にいた店員もいませんでした。

ナシゴレンは、サテーや、プローンクラッカーもついていて見かけも豪華な上、美味でした。シンガポールフライドヌードルは、焼きビーフンのような感じですが、こちらも上品でとても美味しかったです。

海外で「シンガポールヌードル」というと黄色のカレー味のビーフンを何度か見かけたことがあるのですが、これはカレー味ではなく、中華風の味付けで、美味でした。

最後に来たのは、12月2日の昼下がり。この日の夜の便で日本に帰国するというタイミングでした。最後にもう一度エンジェルに会えるかもしれないと期待してこのお店に来たのですが、残念ながらエンジェルはいませんでした。



別の男性店員がいて、私たちは今日の飛行機でシンガポールを去ることを伝えました。その店員はそんなに親しいわけではないのに、驚いた表情で残念がっていました。

「ところであの女性スタッフは来ていないのですか?」と聞くと、「ああ、Hennyのことですね。今日は休みなんですが、次に来るのは土曜日。今日の飛行機で旅立たれるのでしたら来られないですよね?でも、やがて空の上で会えるでしょう」との彼の返事です。

「え、空の上?」と、私は尋ねました。
「そう、実は、彼女はキャビンアテンダントなんです」
「シンガポール航空のキャビンアテンダント?」
「そう、コロナで飛行機が飛べなくなったので、ここで働いていたんです。コロナが終わって、再び旅行ができるようになったら、彼女は空に戻ることになっているんです。あなたたちのことは彼女に伝えておきます」
という彼の話を聞いて、シンガポールを去る最後の日にすべての謎が解けた気がしました。何というドラマチックなエンディングなんでしょう。
彼女の対応が普通ではなかったのもそういうことだったからなんですね。

再びエンジェルがこのお店で働いている姿を、私たちは二度と見ることはないでしょうが、帰国前の短い期間に、彼女にこのお店で出会えたことは奇跡でした。

たまたまコロナの期間に臨時にこのお店で働いていたエンジェル。帰国前にたまたま数回訪れた私たち。彼女に会ったのはたった二回だけなのですが、彼女にここで出会ったという事実は、私たちにとってかけがえのない思い出となりました。

まるで、かぐや姫が月に帰ってしまうように、空に帰ってしまうエンジェル。シンガポール航空の制服を身に纏い、空の上で嬉々として接客サービスをしている彼女の姿を思い浮かべながら、私たちは彼女のような人に出会えたことに感謝するのでした。


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シンガポールから東京へ

2021-12-06 16:41:22 | シンガポール
長年住んでいたシンガポールから日本に帰国しました。シンガポールに住み始めたのは1997年。2007年に香港に転勤し、2011年に東京、そして2016年に再びシンガポールに戻る。シンガポールには合計で16年弱住んでいたことになります。コロナ禍になってから一度だけ帰国したのですが、今回は一年ぶりの渡航となりました。

オミクロン株の感染拡大を防ぐため、水際対策が強化されたさ中でした。一時、日本に到着するすべての国際線に関しての予約受付が停止されたりしましたが、すぐに撤回されるということもありました。

2021年12月2日の夜のシンガポール発羽田行きのANA便に搭乗。チェックインには、72時間以内のPCR検査の陰性証明が必要だったので、11月30日の午後2時半に検査を受け、翌日中に陰性証明の書類を入手していました。

シンガポールではかなり前から3回目の接種が始まっていて、私も10月に3回目の接種を受けていました。3回目までのワクチン接種証明書も出力して持っていましたが、今回の渡航ではこれが必要となることはありませんでした。

飛行機に乗るまでは、特に変わったことはありませんでしたが、チャンギ空港内の免税店やお店がかなり開いているのを見て、オミクロン株の脅威はあるものの、コロナ収束に向けての動きを感じたものでした。

ANA便に乗る時に、搭乗者全員に30周年の記念品が配られました。シンガポール羽田就航30周年なのか、正確にはよくわからなかったのですが、偶然この記念日に飛行機に乗れたことが嬉しく思えました。



機内で、通常の税関の書類以外に、誓約書などいくつかの書類が配られました。書類は典型的な法律文書の書き方で、読んで意味を理解するだけで頭が痛くなりそうでした。

しかもレイアウトが美しくない。内容がわかりにくい上に、読みにくい。機内では読みたくない種類の文書でした。



誓約書は、いきなり注意義務を怠った場合の警告が列挙してあります。どんなことを守らないといけないのかわからないうちに、これから言うことを守らなかった場合は、処罰を受ける可能性があるということがいくつか書かれています。何か脅迫されているような嫌な気分になりました。

表現が難しくわかりにくい上に、一行の行幅が長すぎる。行間が詰まっていて、読み手に優しくないレイアウトです。さらに無駄にアンダーラインを使っていたりして、さらに読みにくい。急に小さな文字で書いてある箇所があり、老眼の人はルーペを使わずには読めないだろうと思える箇所もあります。

さらに、名前や、パスポート番号、メールアドレスなどを書き入れる欄が小さすぎて、記入するのにとても苦労します。お役所の書類は、こういう書き手の立場を無視したものが多くて、悲しくなります。日本の工芸技術や、建築美術はこんなにも美しいのに、どうして公式文書では様式美や機能美が無視されるのかと泣きたくなりました。

誓約書は詳細を確認したい方は、オンラインでこちらで閲覧できます。
https://www.mhlw.go.jp/content/000836303.pdf

こういうのこそ、デジタル化してペーパーレス化してほしいものです。それ以前に、文章は簡潔に、わかりやすく、読みやすく改善してほしいですね。

これら書類に加えて、日本入国前に、「新型コロナウィルス感染症対策質問票回答受付」という厚生労働省のサイトで、質問に答えておく必要もあります。
https://arqs-qa.followup.mhlw.go.jp/#/
到着日、便名、座席番号、氏名、国籍、性別、生年月日、日本の住所、過去14日間の滞在地域(国)、過去14日間の発熱や咳の状況、体調の異常の有無、到着後14日間の待機場所、公共交通機関以外の移動方法を確保しているかどうか、メールアドレス、電話番号などこれらすべてを入力を完了すると、QRコードが発行されます。これのスクリーンショットを撮ってスマホ内に保存しておく必要があります。

空港到着後のわりと最初のチェックポイントで、このQRコードの提示を求められますが、これを行なっていなかった人たちは、その場で、このサイトにアクセスし、回答を入力しなければならないのですが、結構時間がかかり面倒です。

後で考えてみたら、このオンラインで入力した情報があれば、書類で同じような情報を書き込む必要もないのではないかと思いました。誓約書などに書き込む項目は、このオンラインで入力する項目とほとんどだぶっています。この情報を活用したら、もっとスムーズに入国者の管理ができるはずです。

到着前にやっておいたほうがよいのは、MySOS(入国者健康居所確認アプリ)というアプリと、接触確認アプリ(COCOA))の二つのダウンロードです。到着後にやってもよいのですが、ダウンロードしてパスポート番号、生年月日などを入力しておくと到着してからが楽です。これらは、14日の隔離中の管理で使用されるものですが、これがきちんとスマホに入っているかどうか、すぐに使える状態になっているかどうかをチェックされます。(COCOAのほうはよくわかりませんが、MySOSは14日間の隔離期間、ほぼ毎日お世話になるアプリとなります。

到着した羽田は雲ひとつない晴天で、昇ったばかりの朝日が眩しく、これから始まる日本での新たな生活を歓迎してくれているかのように思えました。前日までいたシンガポールの風景を思い出して感傷に浸っている間もなく、日本の現実が私たちを待ち構えていました。

所々に立っている係員の案内に従って、乗客は進んでいきます。いくつもの関門をクリアーしていかないといけません。書類がそろっているかをチェックする関門、QRコードがダウンロードできているかをチェックする関門、アプリがダウンロードできているかどうかをチェックする関門、などいくつかの関門がありました。

それぞれの関門で十数人のスタッフが待機していて、滞りなく乗客をさばいていこうとしている感じです。先月、「イカゲーム」を見たのですが、この入国のプロセスは、命を失う恐れはないものの、ゲームで次々とステージをクリアーしていくような感じがしました。「イカゲーム」では、次のゲームに向かうのに階段を登るシーンがありますが、次のチェックポイントに向かう自分を、その階段を登っているシーンに当てはめたりしていました。

クライマックスは唾液での感染検査です。小さな漏斗と、唾液を溜める容器を渡されて、選挙の投票所の記入ブースのようなブースで、唾液を出さなければいけないのですが、それぞれのブースの壁面に、レモンや梅干しの写真が貼ってありました。この作業は、まさに「イカゲーム」的な雰囲気でした。

この唾液が検査に回され、検査で陰性者だった場合、待合スペースの電光掲示板に番号が掲示されることになります。自分の番号を確認して、カウンターに向かい、ここですべての関門をクリアーしたことになります。やっと入国審査です。



入国審査や税関審査は従来通りのもので、そこを出ると、普通の日常の羽田空港でした。公共交通機関は使ってはいけないということで、ハイヤーを手配していたのですが、そこから先の行動は誰もチェックしていなかったので、ちょっと拍子抜けした感じでした。

入国審査までのあの異常なまでの水際対策は、税関を通過した後は全くなくなってしまっている。どうせなら、本当に公共交通機関を使わないかどうか最後までチェックしてほしいものだと思ったりしました。

その後、自宅で14日間になったら、MySOSのアプリで、1日に何度か現在地確認のボタンを押したり、ビデオ通話で自分の顔と背景を撮影しなければならなくなりました。AIが管理しているらしいですが、結構これは厳しいですね。

自分が隔離場所と指定した場所にいなかったり、アプリに反応しなかった場合、どのようなことになるのかわかりませんが、一回だけ対応できませんでした。アプリからの連絡がいつ来るかわからないですし、現地確認の音は聞き逃しそうな小さな音だし、すぐに出ないと受付てもらえないので、これは結構大変です。これも「イカゲーム」のゲームの一つのような気がしてしまいます。命を失うことはないですが、負けたくはないので、アプリからの指示を聞き逃さないようにしたいと思います。

ということで、まだ日本での生活は始まっているのかいないのかよくわからない状況です。ちょっと前までいたシンガポールの記憶がまだ鮮明に残っていますが、これからの新たな生活、頑張っていきたいと思います。


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シンガポール2021年ナショナル・デー・パレードの音楽パフォーマンス

2021-08-29 17:11:07 | シンガポール
シンガポールは8月9日が独立記念日、「ナショナル・デー」は、祝日になっていて、大規模なイベントが行われますが、今年は、コロナ感染を避けて、少しずらして8月21日に開催されました。場所は、マリーナベイの水上ステージ、観客はかなり絞って行われました。前半はわりと儀式的なもので、後半はエンターテインメント的なものですが、シンガポールの一体感を確認するための一大イベントとなっています。



今年の後半はアニメと歌とダンスのショーでしたが、3人の男性歌手が、クィーンの「ボヘミアン・ラプソディ」を歌い出してから、シンガポール大学のサテライト会場での学生たちのダンス、そして、メイン会場でのパフォーマンスから、5つの星が空中で、シンガポールの国旗の月と星を形作るまでの一連の流れが非常によくできていたと思います。

「ボヘミアン・ラプソディ」や、「ケセラセラ」、「We Shall Overcome」などの懐かしい曲が挿入されているのはすぐにわかったのですが、最初から最後まで流れているのは一つの曲なのだと思っていました。歌詞のところどころに“Wings”という歌詞が出ていて、シンガポール大学のグランドに描かれた翼の形や、メイン会場の翼のグラフィック、そして、5つの星とサテライト会場で描かれる月の形の人文字(文字ではないですが、絵文字とすれば文字ですね)がシンガポール国旗の形に決まるエンディングで流れる“Wings Are Made To Fly”という歌詞。テーマが一貫しているし、メロディーも、リズムも統一感があったので、一つの曲のように聞こえました。しかし、実は、全然違ういくつもの曲をつなぎ合わせたものだったのです。



たまたま東京オリンピックの開会式でも、スーザン・ボイスの「翼をください」の英語のカバー曲が使われました。これについては、私の記事をご参照ください。また、シンガポールのナショナルデーイベントの数日後に行われた東京パラリンピックの開会式。そのテーマが、“We Have Wings”というものでした。このシンガポールのこのパフォーマンスも“Wings”なので、偶然にも同じようなテーマが見事に重なり、しかも昨年頭に私が自分の会社に付けた名前が“Wings2Fly”(ウィングズ・トゥー・フライ)だったので、偶然ではありながら何か運命的なものを感じておりました。

シンガポールのこの“Wings Are Made To Fly”という歌詞を持つこの曲は一体なんという曲なのだろうと調べてみたのですが、なかなかわかりませんでした。ナショナルデーに参加した若者たちが歌っているからには有名な曲に違いない。こんな曲をオリジナルで作れるアーティストはシンガポールにはおそらくいないし、こんな曲が作れたらそれこそ世界的に話題になっているはず。

なかなか検索にひっかからなかったのですが、先週の金曜日の午後、偶然に歌詞の一部がヒットした時は、とても嬉しかったです。それは、10年くらい前に登場したイギリスのガールズグループLittle Mixの“Wings”という曲でした。(昔は4人でしたが現在は3人のようです)



Mama told me not to waste my life
She said spread your wings my little butterfly

という歌詞で始まるこの曲だったのです。サビの部分で、“Wings Are Made To Fly”という歌詞が登場しています。素晴らしい!このパフォーマンスを企画した人は、よくこの曲を持ってきたと思いました。

しかしいろいろと調べていると、この曲は重要な部分で使われているけれど、実際には、全く違う複数の曲がつなぎ合わされていて、一つの曲のように聞こえているのだということを発見しました。見事な構成です。どういう曲が実際に繋がれていのかというのをまとめて紹介しておきたいと思います。

まず、こちらが実際のパフォーマンスの動画です。シンガポール以外でも見られることを祈ります。前半が3人の男性歌手が登場するシーンです。



そして後半です。3人の女性歌手が、「ケセラセラ」で登場します。「ケセラセラ」の後、早着替えでLittle Mixの“Wings”となっていきます。



この中で使われていた原曲を、流れに従って、紹介していきたいと思います。



まず最初は、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディー」の導入部分。

Queen “Bohemian Rhapsody”



「ボヘミアン・ラプソディ」では、“Mama, just killed a man…”という母親への語りかけの歌詞が登場しますが、ナショナルデーのイベントでは、これは使われていません。しかしこの後に登場してくる3つの楽曲が、母親との会話を歌詞にしているところがまた素晴らしいです。「ケセラセラ」もリトルミックスの「Wings」も母親が言ったことがテーマになっています。導入の「ボヘミアン・ラプソディ」の母親への語りかけというテーマが、この後のいくつかの曲につながっているという構成が見事だと思いました。

そんな中で登場する次の曲は、パニックアットザディスコという米国のグループの“High Hopes”。歌詞の歌い出しが“Mama said”です。母親が言ったことというテーマが繋がります。

Panic! At the Disco “High Hopes”



そして、3人の女性シンガーが登場して歌うのが、懐かしのドリス・デイの「ケセラセラ」。



Doris Day “Que Sera Sera”



早着替えの後、リトル・ミックスの“Wings”です。



Little Mix “Wings”



“Wings”の歌詞にまざって聞こえてくるのが、“What’s wrong with being confident”というデミ・ロヴァートの歌う“Confident”という曲。

Demi Lovato “Confident”



そして、“We Shall Overcome”。懐かしい。昔の有名なプロテストソングですが、いろんな人が歌っていました。こちらはジョーン・バエズのバージョン。

“We Shall Overcome”



そして、トロイ・シヴァンの “Youth”。

Troye Sivan “Youth”



一瞬の静けさの中で聞こえてくるのは2005年のNDP(ナショナル・デー・パレード)ソングの“Reach Out for the Skies”という曲のワンフレーズ。



Rui En & Taufik, NDP 2005 Theme Song “Reach Out for the Skies”



そしてFunの“We Are Young”。

Fun “We Are Young”





そして最後のフレーズは、再び、リトルミックスの“Wings”の“Wings Are Made To Fly”という歌詞。全く別々の曲を切り貼りして、見事につなぎ、一つのパフォーマンスとしたのは見事です。古い曲もあれば、かなり新しい曲もあり、これらを国家的なイベントで使うというシンガポールの感度は素晴らしいと思います。



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シンガポールの2021年のナショナルデー・テーマソングが感動を呼ぶ

2021-07-15 17:47:00 | シンガポール
シンガポールのナショナルデー(独立記念日)は8月9日。建国56年目となりますが、今年はマリーナベイの会場でリアルに開催される予定です。国に対して国民が“Happy Birthday!”と言ってお祝いする雰囲気は日本ではなかなか味わえません。前後数週間、街のあちこちに国旗が飾られ、花火が打ち上げられ、国の誕生日が盛大に祝われます。

ナショナルデーは毎年テーマソングが作られるのですが、2021年の曲は一週間前に公開されました。“The Road Ahead”というタイトルです。「進むべき道」、未来に向かって伸びている道です。



作ったのは、リンイン(Linying)という27才の女性シンガーソングライターと、エヴァン・ロウ(Evan Low)のコンビ。ミュージックビデオには、リンインの他に、セザイリ・セザーリ(Sezairi Sezali, 34)、シャイアン・ブラウン(Shye-Anne Brown, 18)、シャビール・タベー・アラム(Shabir Tabare Alam, 36)などのミュージシャンが登場しています。長年シンガポールにいる私も知らない人ばかりです。新たなタレントが出てきているんですね

こちらがそのミュージックビデオです。



バスが道路を進んでいくオープニング映像。路上に登場する曲のタイトル。“The Road Ahead”このグラフィックが洒落ています。



そしてバスの中のリンイン。芸能人っぽさが全くなく、普通のシンガポーリアンという感じです。彼女がバスの窓に自転車の絵をかざすと、それがアニメとなってストーリーが展開していきます。





おそらくコロナ禍の規制で、しばらく外食も、大がかりなロケ撮影もできなかったので、アニメということにしたのかもしれません。しかし、これが素朴な味わいを醸し出しています。



こちらはシンガポールリバーのボートの上のセザイリ・セザーリ。彼も素朴なルックスです。



別の船に乗っている人たち。過去と現代が混ざっていますが、赤い頭巾で、青い服の女性は、1920年から1940年の間、広東省山水からシンガポールに出稼ぎに来ていた女性。建築現場とかで働いていました。看護婦、建築家、郵便配達などが乗っています。



そして登場するのがシャイアン・ブラウン。庭の草木は太陽に向かって伸びていると歌います。



そして渋い感じで登場するシャビール・タベー・アラム。「夜明け前が一番暗い」という歌詞が印象的ですね。英語ではよく使われる表現です。



最後に登場する道路はECP (East Coast Parkway)からサンテック地区のビル群が見えてくるあたりですね。昔、このへんを運転して会社に通っていたので、懐かしい光景です。

曲調は非常に静かで、ノスタルジッックな感じです。コロナ禍の中で、不安を感じながらも、未来に向かって進んでいくというのを静かに歌っています。歌詞も、メロディーも、映像も、大げさな感じがなく、素朴な感じで、心に響いてきます。

新聞報道によると、通常は、ネットで賛否両論の議論が捲き上るのだそうですが、今年はポジティブな意見が多いとのことでした。1998年のナショナルデーソングになった“Home”を彷彿とさせる雰囲気の曲になっています。

“Home”はディック・リー(Dick Lee)が作曲し、キット・チャン(Kit Chan)が歌った非常に人気の高いナショナルデーソングですが、昨年のコロナ禍のイベントで、みんなで自宅でこの歌を歌うというのがありました。それに関しては、こちらのブログ記事をご覧ください。

https://blog.goo.ne.jp/singaporesling55/e/54a943f034cf3b131bbb549c357f7335

https://blog.goo.ne.jp/singaporesling55/e/41173b678395a6ed9b85be840b245eb2

こちらは、2021年のテーマソングの“The Road Ahead”の歌詞と、私の翻訳です。

One man on an island
島に一人しかいなくても
One drop in the sea
海への一滴であったとしても
All it takes to set a wave in motion
気持ちのウェーブを作るのに必要なものは
Is a single word, an action
一つの言葉、一つの行動
A hope that we can be
ずっと望んでいた変化に自分自身がなれるという
The change that we’ve been longing to see
一つの希望
For our home, our land, our family
私たちの家、私たちの土地、私たちの家族
It’s all within our reach
それらは全部手の届く場所にある
See this island, every grain of sand
この島を見て、砂の一粒一粒を見て
Hear this anthem, it’s the voices of our friends
この国の歌を聞いて、それは友の声
Come whatever on the road ahead
進むべき道の先に何が来ようが
We did it before, and we’ll do it again
それは私たちがかつて行ったこと、それをもう一度やるだけのこと
When the moments turn to hours
瞬間が長い時間になり
And the day’s last light is gone
一日の最後の光が消え去る
Look around us always and remember
いつもまわりを見回して思い出す
There were times we were uncertain
先の見えない時がかつてあったのだと
But we just kept walking on
しかし私たちは歩み続ける
It’s always darkest just before the dawn
夜明け前がいつも一番暗いのだから
See this island, every grain of sand
この島を見て、砂の一粒一粒を見て
Hear this anthem, it’s the voices of our friends
この国の歌を聞いて、それは友の声
Come whatever on the road ahead
進むべき道の先に何が来ようが
We did it before, and we’ll do it again
それは私たちがかつて行ったこと、それをもう一度やるだけのこと
Our home, the home we share
私たちの家、私たちが共有する家
Where the garden always grows toward the light
そこでは庭はいつも光に向かって伸びている
Though the road ahead is daunting,
進むべき道の先はちょっと怖いけれど
I know we’re gonna be alright
私たちは大丈夫だと知っている
See this island, every grain of sand
この島を見て、砂の一粒一粒を見て
Hear this anthem, it’s the voices of our friends
この国の歌を聞いて、それは友の声
Come whatever on the road ahead
進むべき道の先に何が来ようが
We did it before, and we’ll do it again
それは私たちがかつて行ったこと、それをもう一度やるだけのこと
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シンガポールのニューノーマルに向けてのロードマップ

2021-07-10 18:30:48 | シンガポール
2021年7月に入って、シンガポールのニューノーマルに向けての歩みが明確になってきた感じがあります。こちらが、シンガポール政府が発表した新たなビデオ。タイトルは、”Let’s Test, Trace and Vaccinate”。ニューノーマルへの三つの重点事項「検査、追跡、ワクチン接種」をアピールするキャンペーンになっています。



飛行機に乗ると、離陸前に、安全のためのセーフティービデオが流れますが、このビデオはまさにその体裁で、しかもラップミュージック風に作られています。シンガポールチャンギ空港のJEWELを背景に、キャビンアテンダント風の女性が、「ご登場ありがとうございます」と、語りかけます。これからニューノーマルという目的地に向かっての旅が始まるというわけなのですが、その旅立ちにあたって、安全確認をきちっと守ってほしいということなのです。



この女性は、アネット・リー(Annette Lee)というシンガポールのシンガーソングライターですが、ナレーションで”There’s no better place than Our Little Red Dot”というフレーズがあります。”Our Little Red Dot”というのは、シンガポールのニックネーム、「小さな赤い点」ということで、国の小ささをちょっと自虐的に表現した言葉ですが、こんな素敵な場所はないと言っています。



飛行機だと、機長が挨拶したりしますが、バスの運転手が、3つの注意を。英語、中国語、マレー語、タミール語というシンガポールの4つの公用語で「3」という言葉を表しているのもシンガポールらしいですね。



そして車の運転手が窓から叫びます。この人、シンガポール人ならば誰もが知っているお馴染みのコメディー俳優のマーク・リー(Mark Lee)。”Win Liao Lor. Hurry Up. Faster Share”—シングリッシュです。英語と中国語が混ざったような感じですが、「もうわかったから、急いで、早くシェアしよう」というような感じですね。“Win”は英語で、相手が勝ったこと、つまり自分は降参を意味します。”Liao”は中国語(ホッケン語)の“了”ですね。最後の“Lor”はシンガポール人が語尾につける、”Lah” とか”Lo”とかと同じ感じです。この“Win Liao Lor”というのはマーク・リーの定番のセリフです。



調理場の女性が強い火力で炒め物をしていますが、”Firing Up Our Testing”という言葉が入ります。”Fire Up”というのは「燃え立たせる」という意味もありますが、「始動させる」というという意味もあります。検査をどんどん始めようということなのですね。



そして腹筋をしている青年。この人はNg Ming Weiというテコンドーの選手。「検査はどんどんやっているから心配ないよ」と言う言葉に、「いろんな種類の検査が可能になった」という女性の声が被ります。この青年の後ろで、笑っているおじさんは彼の父親。Tik Tokの面白動画で有名になったコンビです。(TikTokのアカウントは@mingweirocks )



医療関係者の女性が登場します。簡易検査で、家でも検査ができるようになったとアピール。この女性、シティ・カリジャー(Siti Khalijah)という女優。



自転車の二人がトークンを常にポケットに入れておこうと言っています。追跡アプリはスマホでできるのですが、スマホのない人もトークンを持っていれば大丈夫ということです。



ラッパーが登場して、常にスマホをオンにして、チェックインの際は追跡アプリを使おうと歌います。この人は、ユン・ラジャ(Yung Raja)というインド系ヒップホップシンガー。シンガポールは実にインターナショナルですね。



そして、もよりのワクチンセンターでワクチン接種をと呼びかけます。



シンガポールのラッフルズホテルの名物インド人ドアマンまで登場します。



そして、リーシェンロン首相の演説。これは5月31日の演説ですが、この中で、検査、追跡、ワクチン接種という方針が明確に登場しています。まるで曲の一部のような感じに聞こえますね。

明るく、ポジティブに、一致団結して、ニューノーマル再開に向けて進んでいこうというメッセージです。

ちなみにこちらが直近の感染者数のグラフ。何度か小クラスターは出ているのですが、感染拡大はコントロールされているという感じです。



そしてこちらは、ワクチン接種の状況。



1日に7万6000人の接種が行われていて、人口の3分の2が少なくとも一回の接種を終えている。7月の26日までには、人口の半数が二回の接種を終える予定とのことです。年齢別のグラフは少なくとも一回接種の人の比率ですが、70以上は逆に比率は低いですね。

ワクチンはデルタ変異株に対して効力が弱いと言われていますが、有効性は69%となっていますね。

日本だと、この数字だけで、ワクチンは効き目が弱いと決めつけていますが、実はシンガポール毎日発表されるこちらの数字。



過去28日間での重症者と死者の数、そして、その内、ワクチンを一回だけ打った人の数と、二回打った人の数、打っていない人の数。重症者のほとんどはワクチンを接種していない人というのがわかります。一回だけだと重症になる可能性もあるということなのですね。数は少ないですが。

統計数字をどのように取り上げるかですが、ワクチンの有効性をネガティブにアピールしたければ、感染者のうち、ワクチン二回接種者の数などをクローズアップするのでしょうが、そういうことはしていません。ワクチン接種は、感染を100%防げるわけではないかもしれないけれど、少なくとも重症化は確実に防いでいる、だからワクチン接種をすることが、医療の状況を助けるし、社会を健全に保つことにつながるというメッセージです。

日本はいたずらに、ワクチン接種に関するネガティブな情報を拡散し、副反応の怖さを強調し、ワクチンは効き目がないばかりか、身体に悪影響を与える、そしてワクチン接種が原因で死に至るケースが続出しているという誤情報の広がりを放置しています。また、ワクチン接種の重要さよりも、ワクチンを打たない選択の自由が強調されていますし、補償がなければ感染を防ぐ責任を放棄してもよいという雰囲気になっています。

つまり、日本は、積極的なコロナ対策を取らず、ワクチン接種が進まず、オリンピックがあろうが、緊急事態宣言が発令されようが、感染者は減らず、未来永劫コロナに怯えながら、経済も国民も疲弊し、世界から取り残されていくつもりなのかなと思えてしまいます。



シンガポールは、7月の12日から、これまで2人までだった会食の人数が5人になります。また結婚式は事前の検査を前提として、250人までが認められます。ジムも2人から5人に、授業も30人から50人までに拡大します。



さらに、7月末までにワクチン2回接種者が50%を超えた後は、会食は8人まで、コンサートや結婚式などは500人まで拡大されることになるようです。そして、ワクチン接種完了が重要な決め手となっていくのです。ニューノーマルに向けて、シンガポールは着実に動き出している感じです。

今後はいろんなところでワクチン接種完了者が優遇されていくことが考えられます。イベントの参加の条件などにもなっていく可能性があります。ハンバーガーショップのShake Shackでは、7月1日から、ワクチン接種者にはポテトが無料になるというキャンペーンを始めています。こういうのはいろんなところで増えていくことでしょう。

日本は、ハイリスク国になっているので、シンガポール入国時には、入国許可を申請する必要があり、さらにホテル隔離が必要になっています。早く感染者数を少なくして、ハイリスク国の指定を外してもらいたいものですね。日本の皆さん、よろしくお願いします。
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