まわる世界はボーダーレス

世界各地でのビジネス経験をベースに、グローバルな視点で世界を眺め、ビジネスからアートまで幅広い分野をカバー。

ロシアのスイーツ「ゼフィール」とギリシャ神話と手塚治虫

2022-04-24 22:51:53 | 食べ物
江東区清澄白河(平野町)のOKスーパーの建物の2階にある地中海料理のSuny’z Language and Art Cafe。外見からはそこにレストランがあるとはわかりにくく、またお店の名前も学校なのか飲食店なのかわかりにくい。でもそこは、本格的なモロッコやレバノンなどの地中海料理を気軽に食べられるレストランなのです。



ランチタイムには、道路沿いでお弁当を売っているので、かろうじてそこにレストランがあるということがわかります。健康のためのウォーキングで何度も通ったことがあるのですが、ランチタイムに通ったことがありませんでした。

たまたま妻がお昼前にそこを通り、地中海料理のお弁当を売っている外国人と話をして、そこにレストランがあるということを知ったと教えてくれました。数日後、ずっと気になっていたそのお店を訪ねてみました。フムス、オリーブ、ターメリックライス、モロッコ風のミートボールなど、本場の味です。ランチのセットはミントティーが付いて何と1000円!こんな近所に、こんなちゃんとしたレストランがあったとは、と驚きました。

私は昨年の12月までシンガポールに滞在していたのですが、ギリシャ料理や、スペイン料理、中近東料理のお店には時々行っていました。昔、パリやドバイに出張で行ったときも、レバノン料理はよく食べていたので、この地中海料理は非常に懐かしい感じがしました。

道路沿いでお弁当を売っているのは、ジェリー・マクラフリンというアイルランド人です。話をしていたら、本当はカメラマンで、世界中を旅していて、たまたま東京に来て、日本が好きになり、そのまま居ついてしまったのだそうです。

彼のサイトを見たら、東京で撮影した写真が紹介されているのですが、素晴らしい作品でした。着飾って構えた写真は無く、無防備な東京の、どちらかと言えば見て見ぬふりをしたいような写真が多いのですが、その表現の力強さに圧倒されました。彼の作品のサイトはこちらです→ www.gerrimclaughlin.com
今年の5月にそのお店で写真展を開催するそうです。

先日の金曜日に、妻とそのお店にランチに行ったのですが、お店の前でジェリーさんと話をした際に、そこに、前は見かけなかった綺麗な色のスイーツを発見しました。「サニーのワイフがロシア人で、これは彼女が作ったロシアのスイーツ。お店でサニーが詳しく話してくれるよ」と英語で教えてくれました。



世界中の美味しいものに目がない私としては、まだ食べたことも見たこともないスイーツには興味津々です。NHKの朝ドラ的に言えば、「ちむどんどん」です。お店に入るやいなや、サニーさんに、カウンターに置いてあるそのスイーツのことを尋ねました。

「これはロシアのスイーツで、名前はゼフィールと言う。何でそういう名前なのかは知らない」とのこと。サニーさんは、イスラエルの生まれで、ロンドンで育ったのだそうです。こちらがSani’z Language and Art Caféのサイトです。レストランの情報はこのサイトの一番端っこのCafeのところだけですが。
http://www.wondersani.com

で、食事を終えた後、そのゼフィールというロシアのスイーツを買ったわけです。購入したのは、ストロベリーとブルーベリーのコンビネーションのものですが、ストロベリーだけのもの、ブルーベリーだけのもの、そしてラズベリーだけのものがありました。ラズベリーだけのものは350円ですが、それ以外のものは550円でした。



早速食べてみたのですが、マシュマロよりも弾力があり、グミよりも柔らかい感じのスイーツでした。甘すぎず、素朴な風味です。言葉で説明するとわかりにくいので、こちらにYouTubeの動画をアップしておきます。ラトビア出身のAllaさんのレシピですが、ロシアおよび旧ソ連圏では定番のスイーツのようです。



ロシアのスイーツというとウクライナ問題とかで、ネガティブなイメージになってしまいますが、お菓子に罪があるわけではなく、ロシアだけでなく、ウクライナ、バルト3国などでも食べられているようです。

ストロベリーや、ブルーベリーのピューレに、卵白と砂糖を混ぜ、寒天で固めにしたものを星型口金付きのクリーム絞りで絞り出して形にします。おそらくその模様が風を連想させるので、この名前がついたのではないかと思いました。

ゼフィールとは、語源を辿ると、ギリシャ語のゼピュロスに辿り着きます。ギリシャ神話にゼピュロスという神様が登場するのですが、これは西風を意味しています。ギリシャでは西風は、春を運んでくるそよ風なんですね。こんな感じで、絵画で表現されていました。



母親はEos(イーオス)という暁の女神で、風の神々(アネモイ)と、惑星の神々がその子供でした。風の神々には、西風のゼピュロスの他に、北風のボレアス、南風のノトス、東風のエウロスという兄弟がいました。この四兄弟の中で、一番の色男がゼピュロスでした。

ゼピュロスは、虹の女神イーリスを妻としていましたが、数々の浮名を流します。有名なのは、精霊(妖精)クローリスを無理やり我が物とし、その後、謝罪のためにクローリスに神の地位を与え、フローラという花の女神になるというエピソードがあります。クローリスを狙っていたのは、ゼピュロスだけでなく、兄弟のボレアス(北風)もだったのですが、最終的にはゼピュロスがクローリスを射止めます。そしてクローリスとの間に生まれた子供がカルポスという果実の神と言われています。

実は、ゼピュロスはボッティチェリが描いた有名な『ヴィーナス誕生』に登場しています。





左上の頬を膨らませて、薔薇の花とともにヴィーナス(またの名をアフロディーテ、愛と美の女神)に風を送っているのがゼピュロス。抱きかかえている女性がクローリス。この時はすでに花の女神フローラになった後なのかもしれません。ちなみに右側でヴィーナスに衣を纏わせようとしているのは、季節と秩序を司る時間の女神のホーラと言われています。

またボッティチェリの別の絵画の『プリマヴェーラ(春)』にも登場しています。



この右端の青白い男性が女性を奪い去ろうとしていますが、これが西風の神のゼピュロスです。頬が膨らんでいますね。そして女性がクローリス。クローリスはギリシャ語の緑(chloros)と関連していて、葉緑素の英語名クロロフィル(chlorophyll)の「クロロ」の部分はクローリスから来ているんですね。先ほどご紹介した『ヴィーナス誕生』のクローリスの姿がちょっと緑っぽく、纏っている布も緑っぽいのはそういう理由なのでしょう。

ゼピュロスは、女性だけでなく、美少年にも恋をしていました。ヒュアキントスというスパルタの王子はイケメンの美少年だったのですが、芸術、光明、予言の神のアポロンとの三角関係となっておりました。ヒュアキントスはアポロンを選んだため、ゼピュロスは嫉妬に狂います。

アポロンとヒュアキントスが円盤投げを楽しんでいる時に、ゼピュロスは突風を起こし、風に飛ばされた円盤がヒュアキントスの頭にあたり、ヒュアキントスは亡くなってしまいます。嘆き悲しむアポロンは、流れたヒュアキントスの血から、花を咲かすのですが、その花がヒアシンスだと言われています。ヒアシンス(Hyacinth)の花の語源は実は、美少年ヒュアキントスだったのです。赤色のヒアシンスの花言葉は「嫉妬」、紫色のヒアシンスは「悲しみを超えた愛」を意味しているそうです。



上の相関図はゼピュロスを取り巻く人間関係というか神様関係(?)の図です。ごちゃごちゃしているので情報を整理するために図式化してみました。左下隅にポダルゲーというのがありますが、これは鳥と人間の女性の合体したような生物です。ゼピュロスはこういうわけのわからない生物との間にも子供をもうけています。生まれたのはバリアスとクサントスという不死の名馬で、後にホメロスの叙事詩の英雄となるアキレウス(アキレス)の馬車となるのだそうです。

ゼフィルスと言う名前で忘れてならないのは、シジミチョウという蝶々の名前にもゼフィルスという名前が付けられていることです。日本にも生息しているようですが、この蝶が何故ゼフィルスと呼ばれるようになったのかは不明です。



1971年に手塚治虫は『ゼフィルス』という漫画を少年サンデーで発表しています。第二次世界大戦中の話で、蝶のゼフィルスの採集に熱中する少年が主人公です。



また、手塚治虫は、1968年4月から1969年7月にビッグコミックに『地球を呑む』という漫画を連載していますが、そこに登場するのは謎の美女ゼフィルス。1968年から71年の間に手塚治虫氏は、何故か「ゼフィルス」という言葉にこだわりました。それは何故かはわかりませんが、不思議な響きがあったのだと思います。



ゼフィール、ゼフィルス、ゼピュロス、それらはすべて同じ言葉を元にしているのですが、スイーツの名前から、時空を超えて果てしない旅をした感じですね。個人的な興味の赴くままの話に最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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ライラックの花とT.S.エリオットの「荒地」の詩

2022-04-22 16:20:46 | 文学的な
ライラックという花がどこにあるのだろうかとずっと探していました。ヨーロッパ原産で、フランスではリラと呼ばれています。春先に、紫や白の花をつけ、葉っぱはハート型をしており、ヨーロッパではお馴染みの植物です。

花屋の店先や、近所の公園などで、ずっとライラックを探していたのですが、なかなか見つかりませんでした。四月になってから、SNSで#ライラックを検索したら、何と東京の木場公園という投稿を発見しました。4月になって木場公園でライラックが咲き出したという投稿で、写真もついています。これはすぐに確認しなければと思いました。

私は、昨年の12月に長年住んでいたシンガポールから東京に戻ってきたのですが、木場公園は家から歩いていける近距離にあります。ウォーキングではよく行く場所だし、植物園のような場所もあります。しかし、すぐには見つかりませんでした。

木場公園は、葛西橋通りを挟んで北と南にわかれていて、北と南が歩行者専用の橋で繋がっています。最初見たのは、南側だったのですが、別の日に北側(東京現代美術館のある側)に行ってみました。





テニスコートの周辺で、白く咲き誇るライラックの花を見つけました。「ライラック」というプレートもあったので、それがまさしくライラックであるという確信を得ました。不思議なもので、一度発見すると、テニスコートの周辺にあるライラックが次々と見えてきます。ちょうど、ライラックが満開の時期だったので、こんなに沢山のライラックがここにあったのかと驚きました。



何度も通ったことのある道なのに、花が咲いていないと全く気付きませんでした。数日後の4月17日の日曜日に見たら、あんなに咲いていた白いライラックはほとんど散って無くなっていました。

しかし、この近所で発見したのは、白いライラックだけではありませんでした。木場公園の西側に三ツ目通りという通りがあるのですが、深川消防署の前あたりから北の道路沿いに、薄紫のライラックが咲いているのを発見しました。4月の17日の時点で満開で、白いライラックよりも1週間くらい開花がずれている感じです。







ライラックの花が気になっていたのは、大学時代に英文学の授業で習ったT.S.エリオットの「荒地」という詩の冒頭の部分にライラックの花が登場するのですが、それが頭から離れなかったからです。



April is the cruellest month, breeding
Lilacs out of the dead land, mixing
Memory and desire, stirring
Dull roots with spring rain.


思潮社「エリオット詩集」の日本語訳を見ると、こんな風に書かれています。
「四月は残酷きわまる月で、
死んだ土地からライラックを育て、
記憶と欲望をまぜあわせ、
鈍重な根を春雨で刺激する」


そしてこちらが、T.S.エリオットの本人による朗読です。


この詩は難解な詩として有名で、日本で西脇順三郎などのモダニズム、ダダイズム、シュルレアリズムなどに大きな影響を与えた詩なのですが、ライラックの花を実際たらこの詩をより理解できるだろうかという漠然とした期待がありました。

結果としてはそういうことはなかったのですが、実際にライラックの花を見ることによって、T.S.エリオットが実際に見て、詩に込めた情報の一部を共有できた気がしました。花の名前ということはわかっていたのですが、実物を知ることによって、難解な詩を解読するための手がかりを得たと思ったのです。

T.S.エリオットが「荒地」を発表したのは1922年。ちょうど100年前で、2022年の今年は「荒地」の100周年となります。

100年前の1922年はどんな年だったのでしょうか?第一次世界大戦が終わったのが1918年11月11日ですが、第一次世界大戦末期の1918年の春先から世界に蔓延したのがスペイン風邪でした。欧米から世界中に拡大し、大正時代の日本でも多くの人の命を奪いました。当時の世界の人口の4分の1に相当する5億人が感染し、世界中で1,700万人から5千万人が死亡したと言われています。



現在のコロナ禍とロシアの侵攻によるウクライナの惨状を見ると、奇しくも100年前の状況と酷似しています。ワクチンはなかったのですが、マスク、手洗い、隔離などの対策は何ら変わりないし、人々の不安感も同じようなものだったのではないかと思われます。パンデミックが始まって2年を過ぎてやっと、アフターコロナへの動きが出てきましたが、100年前も蔓延期間は2、3年で非常に似ています。

さらに、ウクライナの状況を見ると、戦いの方法は100年前の第一次世界大戦の頃の戦いと酷似しています。兵器は進化したものの、戦いの方法は、戦車や鉄砲の陸上戦です。

100年前と同じように、地球上に疫病での死者が溢れ、ウクライナなどでの戦争の死者が溢れています。このような環境の中で、あらてめてT.S.エリオットの「荒地」を読んでみると、コロナ以前の時代とはまた違った印象が得られる気がします。詩や文学のリテラシーは時代の環境に左右されることを実感として感じます。

ライラックの花を見て、連日、コロナやウクライナの情報に取り囲まれた今は、かつて西脇順三郎氏が感じたのとは別の感覚でT.S.エリオットの詩とシンクロできているのではないかと感じています。それは錯覚なのかもしれませんが、何か時代の巡り合わせの不思議さを感じる今日この頃です。

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イタリアのコロンバとヨーロッパのイースターのダイバーシティー

2022-04-17 10:19:25 | 食べ物
3月の終わり頃、偶然通りかかった東京駅の近くのイタリア食材店のEatalyというお店で、不思議な形のパンが売られているのを発見。これは何だろうと調べたら、それはイースターの時期に食べるコロンバ(Colomba)というパンでした。正式名称は、コロンバ・パスクアーレ(Colomba Pasquale)と言います。

イースターのパンとしてイギリスのホットクロスバンには以前から着目していて、このことはホットクロスバンとイースターについて知っておくべきことという記事の中で紹介しておりますので、そちらをご覧ください。



キリスト教圏では、イースターが、クリスマスと同等の重要な祝祭日であるのに、日本ではほとんどよく知られていません。ディズニーランドのイースターパレードとか、一部のチョコレート屋でタマゴやウサギの形をしたチョコレート商品が置かれているくらいのイメージでしかありません。キリスト教の宗教的イメージは取り除かれて、春の到来を祝うイベントとして認識されている感じです。

シンガポールで見かけたホットクロスバンを通して、キリスト教の宗教行事としてのイースターに興味を持ったのですが、イタリアのコロンバを見て、

イタリアのコロンバは、鳩の形をしたパネトーネのようなパンで、上部にあられ糖がまぶされています。なぜ鳩の形なのかは、いろいろと古くからの言い伝えがあるようですね。

西暦572年のイースターの前日に、ロンゴバルド人の王が現在のパヴィア市付近に攻めてきた際に、地元のパン職人が鳩の形をしたパンを差し出して平和を実現したという伝説もあります。

別の伝説では、612年頃にアイルランドの聖職者の聖コロンバンがロンゴバルド族の女王テオドリーナを訪問したとき、女王はコロンバンと従者たちを豪勢な昼食でもてなそうとしたことがあったそうです。しかし、この日は肉食が禁じられている聖金曜日だったので、聖コロンバンたちは、御馳走を食べることができません。聖コロンバンは肉の塊を鳩の形をした白いパンに変えて、女王の用意してくれた御馳走を楽しむことができたと言われています。

Eatalyに売られていたコロンバは、イタリア直輸入のもので、かなり大きめでした。パーティーでみんなで食べるのならよいのですが、個人的に食べるのには大きすぎます。スタンダードなコロンバだけでなく、チョコレート味のもの、レモン風味のものなどいろいろと並んでいました。



ある日、日本橋三越のパン屋のジョアン(Johan)で小ぶりのコロンバを売っていたという貴重な情報を妻が提供してくれました。三越のジョアンに行ってみると、手頃な大きなのコロンバが売っているのではないですか。



早速購入して、食べてみました。パネトーネ風の生地の中に、オレンジピールが入っているのはわかりました。上にまぶしてあるのはあられ糖で、かなりの甘みがあります。



イタリアのコロンバを経験した後、他の国ではどうなっているのだろうと調べてみました。イースターの時期は、いろんな国でいろんなパンが食べられているのがわかりました。日本では、入手できませんでしたが、ざっと地図にしてみたのがこちらです。



この地図はまだ完璧なものではなく、調査が十分でない情報や、誤った情報が混じっているかもしれませんが、いろんな国にイースターの期間に食べるパンがあるのがわかました。東欧やロシア、ウクライナなどでは、パスカやクリーチと呼ばれるパンがあります。パネトーネのような形をしています。ギリシャにはツォレキ、スウェーデンにはセムラというパン、スペインや、ポルトガル、ドイツ、オランダなどにもイースターのパンがあります。

はるか東のジョージアの南にアルメニアという国がありますが、ここは古くからのキリスト教国で、ここにはチョレグというパンがあるそうです。日本では食べることはできないでしょうが、このへんもう少し研究して、来年はさらに精度の高い情報をお知らせしたいと思います。

イースターはユダヤ教は祝わないのですが、同じ時期にペサハ(過越祭)というユダヤ教のイベントがあります。旧約聖書に記載された出エジプトの頃、奴隷としてエジプトで虐げられていたユダヤ人たちが、モーセの導きのもと自由の民になったというエピソードを追体験する伝統です。この時期には、ユダヤ教では、発酵させたパンは禁じられていて、イースト菌を使わない「種無しのパン」を食べるのだそうです。マッツァーと呼ばれるクラッカーのようなもののようです。こんな感じみたいですね。



イースターは日本語では「復活祭」と言われることもありますが、英語のイースターの語源は、東(East)とは関係なく、またキリスト教とも関係なく、Eostreという伝説の女神の名前なのだそうです。春を祝うお祭りがヨーロッパにあったようで、多産のシンボルのウサギや、生命の誕生の象徴であるタマゴなどがシンボルとなり、それがイエスキリストの再生のイメージと結びついたと言われています。



Eostreが英語でEasterとなり、ドイツでは、Osternとなりました。ところが、ヨーロッパの他の地域を見てみると、東欧を除きほとんどの国で、パスカやパスクアあるいはそれに似た音になっています。これのルーツは、ユダヤ教のペサハ(過越祭)なのです。ユダヤ教とキリスト教は、全く違う宗教と思っていたのですが、共通の部分も多いのですね。



ロシアや東欧のイースターのパンは「パスカ 」と呼ばれますが、これはユダヤ教のペサハに繋がっているのですね。こちらの地図は、イースターをどのように現地語で表記するかを示しています。イタリアもスペインもパスクア、ポルトガルはパスコア、フランス語はパック、ギリシャ語、ロシア語はパスカ 、オランダ語はパセン、北欧諸国はパスクに似た音になっています。アイスランドもパスカ です。ユダヤ教のペサハがこんなにも影響力があったんですね。

イエスキリストはユダヤ教の環境にいたのですが、最後の晩餐はユダヤ教のペサハ(過越祭)の期間中の出来事と言われています。

こちらの地図は、ヨーロッパのカトリックとプロテスタント、正教の分布を簡単にまとめたものです。宗教はそれぞれの国で明確にわかれているわけではなく、様々な宗教が混在していて、無宗教の比率が高い国もあります。



ヨーロッパはキリスト教が多いですが、大雑把にわけて東方と西方で分かれます。東方と西方でイースターの日付の設定が若干異なり、2022年は、イースターの日付の設定は西方では17日なのに対して、東方では1週間ずれて4月24日になっています。この日付は毎年、変動するので、これはあくまでも2022年の場合のみです。



今、ウクライナではロシアの侵攻を受けて戦争状態にありますが、ウクライナは正教がメインですが、ウクライナ正教会とロシア正教会が混在しています。大統領のゼレンスキー はユダヤ教なのですが、ウクライナの苦難を見ていると、旧約聖書の中の出エジプトのモーセの役を役者ゼレンスキー が演じようとしているのではないかとさえ見えてしまいます。

早く平和が訪れますように。



















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ホットクロスバンとイースターについて知っておくべきこと

2022-04-06 16:37:00 | 食べ物
昨年12月、長年住んでいたシンガポールから日本に戻ってきたのですが、春になり、イースターが近づいてくるなかで、シンガポールでは当たり前のようにあったのに、日本ではなかなか見つからないものがあります。それは、丸っこいパンの上に十字の模様のついたホットクロスバンです。

小麦粉と、卵、イーストに、レーズンやカランツ、オレンジピールなどのドライフルーツを混ぜ、シナモン、ナツメグ、カルダモンなどのスパイスを入れて焼いたパンで、ほんのりとした甘さが特徴です。上部に十字の切り込みを入れたり、十字模様をつけたりしますが、この季節ならではのパンです。

シンガポールでは、イギリス系のマークス・アンド・スペンサーのスーパーのベイカリーでは日常的に売っていたのですが、4月のイースター(復活祭)が近づくにつれて、いろんなベイカリーでホットクロスバンを売り出していました。それが、イースター前の季節の重要なアイテムと知ったのは、つい一年前のことでした。

シンガポールに住んでいたコンドミニアムのそばに、小さなベイカリーがありました。妻がそこのお店のインスタグラムをフォローしていたのですが、3月頃、ホットクロスバンを大量に焼いているという情報を見つけました。イースターが近づくとホットクロスバンをあちこちで見かけるようになるというのだそうです。

3月の中旬になって、日本でホットクロスバンを売っているお店がないかと探していたのですが、やっと見つけたのが、市ヶ谷(九段南)にあるスワン&ライオン(Swan & Lion)というお店でした。



英国伝統のパイ専門店でお店が開いているのが木金のみ(現在では水曜日も開いている)。このお店で、イースターまでの季節限定商品としてホットクロスバンを作って販売しています。

https://www.swanandlion.com

オンライン販売もしているのですが、先日このお店まで訪ねていき、3個購入しました。お店の人は、「日本でホットクロスバンを知っている人はほとんどいないので、すごく嬉しい」と喜んでいました。さらに、このお店では、夏みかんのマーマレードと、ブランデーバターも販売していて、ホットクロスバンには非常に合うと紹介してもらったので、それも購入しました。



ホットクロスバンを水平に半分に切り、トーストして、マーマレードや、ブランデーバターを塗って食べてみたのですが、感動的な味でした。ホットクロスバン自体に香りが付いているのですが、ちょっと苦味の感じられる夏みかんマーマレードや、ブランデーバターと食べると格別でした。

イースターはキリスト教では重要なイベント

シンガポールは日本のような四季がないのですが、旧正月、ハロウィン、クリスマスや、イスラムのハリラヤや、インドのディパバリなどに加えて、イースターも大切にしています。イースターの直前のグッドフライデーという金曜日はシンガポールでは祝日となっています。

日本ではイースターはディズニーランドで行われるイースターパレードとか、うさぎや、卵など漠然としたイメージしかありません。宗教的にそれが何の意味なのかもほとんど認識されていません。

日本の3月から4月にかけては、お彼岸、卒業式、花見、入学式、入社式などイベント満載なので、イースターが入る隙間がほとんどありません。バレンタインデーやホワイトデーは、デパート業界もかなり力を入れるのですが、イースターはほとんどスルーです。従ってホットクロスバンは残念ながら出番がほとんどないのです。

イエス・キリストが磔になり、亡くなった後、その三日後に蘇るのですが、そのイエス・キリストの復活を祝うのがイースターです。日本語では「復活祭」とも言われます。その直前の金曜日がグッド・フライデーで、イエス・キリストが十字架に掛けられた日です。

イースターは常に日曜日なのですが、「春分の日の後の、最初の満月の次の日曜日」と決められています。ということで、2022年の今年は、4月17日の日曜日がイースター、その直前の金曜日の4月15日がグッドフライデーとなります。通常、欧米ではグッドフライデーは祝日となり、イースターの翌日のイースターマンデーまで長期連休となる国も多いそうです。

イースターから遡って、40日(日曜日を除く)がレント(Lent, 四旬節または受難節)と呼ばれる時期で、イエス・キリストが荒野の断食で、40日間悪魔の誘惑と戦ったという話をもとに期間が設定されています。キリスト教徒は、イエス・キリストの受難を思い、この期間、節制をすることになっています。

そのレントの期間の始まりが「灰の水曜日」と呼ばれる日で、不要になった木製の十字架などを燃やしてできた灰を使って、信者の額に十字を記すという神聖な儀式です。今年の2022年は3月2日でした。

灰の水曜日からイースターまでの関係を図式化してみるとこんな感じになります。



たまたま私は大学で英文学を専攻していたのですが、授業でTSエリオットという詩人の授業があり、担当教授が“Ash Wednesday”(灰の水曜日)という詩について説明していたことがありました。当時は、この儀式についても、イースターについてもよく理解していなかったのですが、「灰の水曜日」という神秘的な言葉はずっと記憶の中に留まっていました。

マニアックすぎるので、無視してもよいのですが、こちらがTSエリオットの肉声の“Ash Wednesday”の詩です。呪文のような、お経のような感じですね。



西方と東方のキリスト教、ユダヤ教、そしてイスラム教

今年のイースターが4月17日というのは、カトリックやプロテスタント、英国国教会など西方キリスト教の話なのですが、ギリシャ正教や、ロシア正教などの東方正教会では、イースターの日付が異なり、2022年の場合、4月24日となります。西方キリスト教とは1週間ずれているんですね。

東方正教会といえば、ギリシャを含む東欧、ロシアがその版図となりますが、ロシア正教会、ウクライナ正教会など各国の正教会が存在しています。ウクライナは、ウクライナ正教会と、ロシア総主教庁系のウクライナ正教会、東方カトリック教会などが混在していて、宗教的には実は複雑です。政治的に、軍事的に、ロシアとは縁を切りたくても、宗教的にはロシアとの繋がりを断ち切れない人々は少なからずいると思われます。

さらにゼレンスキーは、宗教的には少数派のユダヤ教です。ユダヤ教は、旧約聖書と類似の書物を聖典としていますが、春の時期に過越の祭(すぎこしのまつり、またはヘブライ語で「パサハ」)と呼ばれる祝祭日があります。時期としては、イースターの時期に近いので、紛らわしいのですが、これは旧約聖書の「出エジプト」を祝したもので、ユダヤ教の祝祭日の中でも重要なものの一つです。イスラエルの場合、2022年の過越の祭は4月16日から22日までの間となっています。

少し前の報道で、ロシアは5月9日に戦争を終結するように考えているというのがありましたが、東方正教会のイースターとなる4月24日には停戦となっていたいのではないかと思います。イースターはキリスト教では重要な日なので、この日に殺し合いをするのは宗教的には容認できないのではないでしょうか。

今、ロシアとウクライナの停戦が懸案事項となっていますが、宗教的に言うと、ゼレンスキーにとっては4月16日の繰越の祭までには戦争を終わらせたく、プーチン、およびロシア、ウクライナの大半の国民にとっては、正教のグッドフライデーである4月22日以前には戦争を終わらせていたいのではないかと思われます。

西方キリスト教国では、4月15日がグッドフライデーでもあるし、ユダヤ教が4月16日に繰越の祭になるし、さらにイスラム教は4月3日から5月2日までラマダンの期間になっています。ラマダンは断食の季節としても知られていますが、イスラム教では、心身をリセットするための重要な期間となっています。ラマダンの時期は毎年ずれていくのですが、2022年は偶然にもイースターの時期と重なっています。

西方キリスト教、東方キリスト教、ユダヤ教、イスラム教のすべてにとって、苦難からの解放、そしてその祝祭が4月から5月頭にかけて重なります。そしてそこにロシアのウクライナ侵攻の行方と、コロナ禍の終焉への希望(これはどうなるかわかりませんが)が重なるという歴史的に稀に見る重要な時期となります。

ホットクロスバンの歴史

昨年のレントの時期、シンガポールのBakery Breraという小さなパン屋のインスタグラムに、近くの複数の教会から大量のホットクロスバンのオーダーを受けたというポストがアップされました。焼きあがったばかりの大量のホットクロスバンを教会に納品するということでした。ある教会では、グッドフライデーの朝にホットクロスバンを信者に配ることになっていたようです。



ホットクロスバンの歴史は、700年前に遡ります。イギリスのロンドンの北に隣接してハートフォードシャーという地域がありますが、ここにセント・オルバンという都市があり、聖オルバンズ大聖堂(St. Albans Cathedral)という有名な教会があります。



14世記、この教会にトーマス・ロクリフ(Thomas Rocliffe)という修道士がいました。この人が、1361年のグッドフライデーに、十字架の印のついたパンを焼き、それを貧しい信者たちに振る舞ったというのがホットクロスバンの起源と言われています。

聖オルバン教会を紹介した動画はこちらです。



この教会、および都市の名前にもなっている聖オルバンについても知っておいてよいでしょう。こちらの動画に、聖オルバンの話が短くまとめられています。ローマ帝国の時代、キリスト教は4世紀に公認されるまで、公式には禁止されていたんですね。キリスト教徒はローマ帝国から迫害を受けていました。イギリス人のオルバンという人が、キリスト教聖職者を家に匿い、その科で処刑されてしまうのですが、そのことで、聖オルバンはイギリス最初の聖人となったのだそうです。



聖オルバンが処刑された場所に修道院が作られるのですが、現在の大聖堂の基礎となる建築工事が行われたのは11世紀頃と言われています。かつてはイギリス第一の修道院で、1215年に制定されたマグナ・カルタ(現在の英国憲法の基礎ともなった憲章)の草案がここで書かれたのだそうです。ちなみに、東京にも聖オルバン教会という名前の教会が存在します。

14世紀のヨーロッパといえば、英国とフランスは100年戦争の最中でしたが、ヨーロッパ大陸は黒死病(ペスト)が蔓延していました。1347年にイタリアの港から欧州に広がった黒死病で、1351年までの5年間にヨーロッパの人口の三分の一が失われたと言われています。

1361年にトーマス・ロクリフ修道士がホットクロスバンをグッドフライデーに配った頃は、そんな疲弊した時代から立ち上がろうとしていた頃かもしれません。疫病や、戦争で疲れ果てていた人々は、このパンをもらって、明日への希望を見出したのかもしれません。

このホットクロスバンは、その後どんどん人気商品となっていきます。1592年、エリザベス一世の時代に、London Clerk of Marketsは、あまりに日常的になってしまったホットクロスバンに対して、イースターと、クリスマス、および葬儀のみに限定するという法令を出すのです。この法律は次のジェームズ一世の時代にも引き継がれることになります。

この影響で、ホットクロスバンは、各家庭でこっそりと焼かれるようになっていったのだとか。こういう歴史を経て、ホットクロスバンは世界に広がっていきます。と言っても、あくまでも英連邦諸国や英国に関わりのある国の話。イギリス、カナダ、アメリカ、オーストラリア、シンガポールなどですね。インドの新聞にも紹介されていたので、インドでも探せばあるのでしょうね。
https://timesofindia.indiatimes.com/life-style/food-news/the-story-of-hot-cross-buns-and-how-they-are-linked-to-good-friday/photostory/75072114.cms

マザーグースの童謡にもホットクロスバンの歌があるので、ご紹介しておきましょう。



メロディはバリエーションがありますが、歌詞は同じす。「一つでも1ペニー、二つでも1ペニー」と歌われていますが、もともとは無料で配布されるためのパンだったので、儲けは度外視したものだったのでしょう。

他のキリスト教国でも、イースター向けにいろんなパンが存在しているようです。ロシア、ウクライナ、東欧、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガルなど、いろんな国で似たようなパンが作られていて、興味深いので、これはまた別の機会にご紹介したいと思います。
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ウォッカにまつわる地政学的に複雑な話

2022-04-01 12:04:20 | 食べ物
ロシアのウクライナ侵攻が始まってから、各国のロシアへの制裁が続いています。ロシアから撤退する企業も多いのですが、ロシアに関わるもの、ロシア的なものすべてに対する嫌悪へとその影響が広がっています。

英語で“russophobia”(ルッソフォビア)という単語があります。以前から存在している言葉なのですが、「ロシア恐怖症」とか「ロシア嫌悪」を意味しています。日本や欧米のマスコミは、ロシアを悪、ウクライナを正義、ウクライナ支援者は正義の味方と決めつけて報道しているのですが、まさに勧善懲悪の構図です。

水戸黄門で言うならば、プーチンが悪代官、ゼレンスキーが悪代官の手下に囲まれて素手で戦おうとしている町人。恋人の町娘が人質に取られて泣き崩れている。オーディエンスとして感情移入すべきは町人と町娘なのですが、はたして物事をこんなに単純化してよいのだろうかという思いがあります。余計な発言をすると炎上しそうなので、あまり深くは語らないようにしたいと思います。

ウクライナ侵攻の問題は、現代ロシアのプーチン政権の問題なのですが、現在のロシアとは関係のない、ロシア料理、ロシア文学、ロシア演劇、ロシア音楽などにまで影響が出てきているのは行き過ぎではないかという気がします。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いといいますが、今はロシアを感じさせるものはすべて辛い立場に追いやられているのですね。

映画「ドライブ・マイ・カー」は、カンヌ国際映画祭、ゴールデングローブ賞、全米映画批評家協会賞、英国アカデミー賞、そして直近ではアカデミー賞国際長編映画賞など数々の受賞に輝いていますが、実はこの映画の中で、ロシアを代表する劇作家、チェーホフの「ワーニャ伯父さん」という戯曲が物語の重要な要素になっています。この映画、製作がウクライナ侵攻後だったとしたら、脚本上の「ワーニャ伯父さん」を何か別の戯曲に変更していたでしょうか?

「桜の園」や「かもめ」、「三人姉妹」などの戯曲で有名なチェーホフですが、彼が生まれたのは黒海の北東部の湾になっているアゾフ海沿いのタガンログという町です。実は、ここはニュースは最近頻繁に登場するウクライナのマリウポリのすぐそばなのです。タガンログはロシア領内ですが、マリウポリから数十キロしか離れていません。



チェーホフの「ワーニャ伯父さん」と言えば、最近ロシアから撤退したマクドナルドの店舗が「ワーニャ伯父さん」という名前で営業を始めるというニュースがありました。こちらがそのロゴです。



下の白い文字が英語で言うと“Uncle Vanya”という意味になります。「ワーニャ」は英語では「ヴァーニャ」なのですが、ロシア語のBの発音は英語のVと同じなんですね。マクドナルドのロゴのMを縦にすると「ヴァーニャ」のBになります。マクドナルドを継承していながら、ロシア化するという実に巧妙なネーミングですね。

さて、本題のウォッカに関しての話に移りましょう。日本語では「ウォッカ」や「ウオッカ」と表記するのが普通ですが、たまに「ウォトカ」と表記する人もいます。英語では“vodka”で、「ヴォトカ」と発音します。トの音はあまり聞こえない場合も多く「ヴォッカ」のように聞こえます。ロシア語の表記は、водка (ヴォートカ)になります。ロシア語ではBの文字が英語のVの発音になるんですね。

ウォッカというとロシアのお酒というイメージが強いのですが、ロシアだけでなく、ポーランド、スウェーデン、フィンランド、リトアニアなどが有名ですが、今では世界各国で製造されています。後述しますが、ウクライナのウォッカも有名です。

もともとはロシアや北欧で、ストレートで飲む強いスピリッツだったのですが、20世紀になってからアメリカでカクテルが流行り出し、カクテルの重要な素材としてのウォッカが人気となります。

今では世界的に有名になっているカクテルのかなりのものがウォッカをベースにしています。スクリュードライバー、ブラッディメアリー、モスコミュール、コスモポリタン、ソルティードッグ、カミカゼ、ロングアイランドアイスティー、ブラックルシアン、セックスオンザビーチ、チチなど、いずれもウォッカベースです。ウォッカトニックや、ウォッカマティーニなどももちろんそうですね。

007のシリーズで、ジェームズ・ボンドがウォッカ・マティーニを注文する場面がよく登場しますが、「ウォッカ・マティーニを、ステアではなく、シェイクで」(Vodka martini, shaken not stirred)と言う台詞が何度も出てきます。ヴェスパー(Vesper)というマティーニも登場しますが、これはジンとウォッカの両方が入っています。



私は広告代理店に長年勤めていたのですが、アブソルートウォッカの広告キャンペーンが広告クリエイティブの世界で一世を風靡していた頃、日本向けのアブソルートウォッカの広告に関わっていたことがありました。アブソルートはスウェーデンのウォッカなのですが、スウェーデンのアブソルートの会社にも訪問しましたし、アブソルートの伝説的なキャンペーンを作り出したニューヨークの広告代理店のオフィスなども訪問しました。

ちなみにこちらがアブソルートウォッカが世界的に有名になるまでのストーリーの動画です。



仕事でアブソルートウォッカに関わったことがある影響で、飛行機の機内でお酒を頼む時は、だいたい、ウォッカトニックか、ブラッディメアリーを注文しました。地上のバーで飲む時は、香港に駐在していた4年間はスコッチウィスキー、それも特にアイラ島産に拘っていました。その後、二度目のシンガポール駐在で、インドに頻繁に行くようになった頃は、ジンベースのカクテルや、ペルノなどのアニス系リキュールに凝っていたこともあります。

コロナ禍になってから、あまり酒は飲まなくなり、時々グラスワインを飲む程度だったのですが、ロシアのウクライナ侵攻後、ロシアへの制裁が始まって、アメリカではロシア製ウォッカをお店の棚から撤去するというニュースを数週間前に聞いてから、ウォッカのことを思い出したわけです。

それで、コンビニでたまたま見かけたスミノフ・アイスというのを飲んでみました。冒頭の写真がそれです。ウォッカベースのカクテル飲料でいわゆるチューハイなのですが、ジュースのように口当たりがよく、ぐいぐい飲めてしまうのですが、アルコール分は5%あります。



スミノフは、ウォッカとしては世界トップクラスの販売量を誇っていますが、日本のコンビニで売られているスミノフ・アイスは、キリンビールが販売していて、製造元は広島県の宝積飲料株式会社となっています。日本で造られたものだったんですね。

先日、東京の銀座のリカーマウンテンという酒屋を覗いたのですが、このお店にも「ロシア産ウォッカの販売中止」の張り紙が出ていました。



さらに、スミノフが韓国で製造されているという表示と、ストリチナヤがラトビアで製造されているという表示も。



ウォッカというとロシアというイメージが強く、スミノフもストリチナヤもロシア産と思われがちですが、じつは、そうではないんですね。世界的に売られているウォッカはロシア産でないものが多いのです。アブソルートはスウェーデンですし、ズブロッカはポーランドです。



上の写真の右のほうに写っているプラウダ(Pravda)とベルベデール(Belvedere)はポーランド産、グレイグース(Grey Goose)はフランス産です。そのほか、スカイ(SKYY)やティトズ(Tito’s)などはアメリカ産です。

スミノフは、もともとロシア皇帝御用達のウォッカだったのですが、ロシア革命を機に、国外に亡命したロシア人がフランスやアメリカでスミノフを復興させます。現在ではイギリスのディアジオ社の傘下になっており、日本ではキリンビールが販売権を持っています。日本市場向けの商品は、韓国のディアジオ社の工場で製造されているようです。

こちらの動画はスミノフの歴史です。激動の時代を生き延び、アメリカのカクテル文化の中で成長して、世界ナンバー1ウォッカとなるという、すごい歴史のウォッカだったのですね。



スミノフ・アイスも登場してくるのが感動的です。

ストリチナヤですが、「首都の」を意味するその名前が意味するように、モスクワを起源とするこのブランドは、以前はかなりロシアを強調しておりました。こちらのコマーシャルはもろ



現在、ストリチナヤを世界的に販売するStoli Groupは、本社はルクセンブルグにあり、ロシアでのオペレーションは行っておらず、製造はラトビアなどで行っているようです。Stoli Groupのサイトのトップに、ロシアのウクライナ侵攻に対して断固反対するという表明が掲示されています。

https://stoli.com

ロシア産のウォッカとして有名なブランドとしては、Russian Standardというのがあります。ロシア制裁のために、欧米の酒店では店頭から撤去されています。



実はウクライナも有名なウォッカ生産国なのです。現在どのような状況かわかりませんが、ウクライナ産のウォッカはいくつか存在しています。



中でも世界的に有名なのは、ネミロフというウォッカです。ウクライナのウォッカ生産の歴史は古いのですが、このネミロフは1872年創立のようですが、ウォッカとしては世界各国の免税店で販売されているメジャーブランドのようです。



こちらがネミロフの昔のコマーシャル。世界的に有名なブランドであるということがよくわかり、ウクライナ人としての誇りも感じられる作品です。



こちらはのネミロフのプロモーションイベントの映像です。



こちらもネミロフの数年前のコマーシャルですが、かなりマッチョな世界観です。



このコマーシャルの最後に、UFCのロゴが出てきますが、UFCとは、Ultimate Fighting Championship(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)はアメリカ発の総合格闘技で、2018年からネミロフはこのスポンサーになっていたんですね。



ネミロフが製造されているのは、ウクライナ中央部やや西寄りのネムィーリウ(Nemyriv)という小さな町です。ロシア侵攻地域からは離れているのですが、現在はどんな感じなんでしょうね。

今回のロシア侵攻で、ウクライナは不屈の精神で対抗しているのですが、ネミロフのブランドに込められたブランドメッセージと一致している気がするのは私だけでしょうか?ウォッカは酒のカテゴリーとしてはスピリッツですが、ネミロフはウクライナのスピリッツ(精神)を象徴しているような気がします。我々にはできることは限られますが、早く戦火が止むよう祈っています。





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