江東区清澄白河(平野町)のOKスーパーの建物の2階にある地中海料理のSuny’z Language and Art Cafe。外見からはそこにレストランがあるとはわかりにくく、またお店の名前も学校なのか飲食店なのかわかりにくい。でもそこは、本格的なモロッコやレバノンなどの地中海料理を気軽に食べられるレストランなのです。
ランチタイムには、道路沿いでお弁当を売っているので、かろうじてそこにレストランがあるということがわかります。健康のためのウォーキングで何度も通ったことがあるのですが、ランチタイムに通ったことがありませんでした。
たまたま妻がお昼前にそこを通り、地中海料理のお弁当を売っている外国人と話をして、そこにレストランがあるということを知ったと教えてくれました。数日後、ずっと気になっていたそのお店を訪ねてみました。フムス、オリーブ、ターメリックライス、モロッコ風のミートボールなど、本場の味です。ランチのセットはミントティーが付いて何と1000円!こんな近所に、こんなちゃんとしたレストランがあったとは、と驚きました。
私は昨年の12月までシンガポールに滞在していたのですが、ギリシャ料理や、スペイン料理、中近東料理のお店には時々行っていました。昔、パリやドバイに出張で行ったときも、レバノン料理はよく食べていたので、この地中海料理は非常に懐かしい感じがしました。
道路沿いでお弁当を売っているのは、ジェリー・マクラフリンというアイルランド人です。話をしていたら、本当はカメラマンで、世界中を旅していて、たまたま東京に来て、日本が好きになり、そのまま居ついてしまったのだそうです。
彼のサイトを見たら、東京で撮影した写真が紹介されているのですが、素晴らしい作品でした。着飾って構えた写真は無く、無防備な東京の、どちらかと言えば見て見ぬふりをしたいような写真が多いのですが、その表現の力強さに圧倒されました。彼の作品のサイトはこちらです→ www.gerrimclaughlin.com
今年の5月にそのお店で写真展を開催するそうです。
先日の金曜日に、妻とそのお店にランチに行ったのですが、お店の前でジェリーさんと話をした際に、そこに、前は見かけなかった綺麗な色のスイーツを発見しました。「サニーのワイフがロシア人で、これは彼女が作ったロシアのスイーツ。お店でサニーが詳しく話してくれるよ」と英語で教えてくれました。
世界中の美味しいものに目がない私としては、まだ食べたことも見たこともないスイーツには興味津々です。NHKの朝ドラ的に言えば、「ちむどんどん」です。お店に入るやいなや、サニーさんに、カウンターに置いてあるそのスイーツのことを尋ねました。
「これはロシアのスイーツで、名前はゼフィールと言う。何でそういう名前なのかは知らない」とのこと。サニーさんは、イスラエルの生まれで、ロンドンで育ったのだそうです。こちらがSani’z Language and Art Caféのサイトです。レストランの情報はこのサイトの一番端っこのCafeのところだけですが。
http://www.wondersani.com
で、食事を終えた後、そのゼフィールというロシアのスイーツを買ったわけです。購入したのは、ストロベリーとブルーベリーのコンビネーションのものですが、ストロベリーだけのもの、ブルーベリーだけのもの、そしてラズベリーだけのものがありました。ラズベリーだけのものは350円ですが、それ以外のものは550円でした。
早速食べてみたのですが、マシュマロよりも弾力があり、グミよりも柔らかい感じのスイーツでした。甘すぎず、素朴な風味です。言葉で説明するとわかりにくいので、こちらにYouTubeの動画をアップしておきます。ラトビア出身のAllaさんのレシピですが、ロシアおよび旧ソ連圏では定番のスイーツのようです。
ロシアのスイーツというとウクライナ問題とかで、ネガティブなイメージになってしまいますが、お菓子に罪があるわけではなく、ロシアだけでなく、ウクライナ、バルト3国などでも食べられているようです。
ストロベリーや、ブルーベリーのピューレに、卵白と砂糖を混ぜ、寒天で固めにしたものを星型口金付きのクリーム絞りで絞り出して形にします。おそらくその模様が風を連想させるので、この名前がついたのではないかと思いました。
ゼフィールとは、語源を辿ると、ギリシャ語のゼピュロスに辿り着きます。ギリシャ神話にゼピュロスという神様が登場するのですが、これは西風を意味しています。ギリシャでは西風は、春を運んでくるそよ風なんですね。こんな感じで、絵画で表現されていました。
母親はEos(イーオス)という暁の女神で、風の神々(アネモイ)と、惑星の神々がその子供でした。風の神々には、西風のゼピュロスの他に、北風のボレアス、南風のノトス、東風のエウロスという兄弟がいました。この四兄弟の中で、一番の色男がゼピュロスでした。
ゼピュロスは、虹の女神イーリスを妻としていましたが、数々の浮名を流します。有名なのは、精霊(妖精)クローリスを無理やり我が物とし、その後、謝罪のためにクローリスに神の地位を与え、フローラという花の女神になるというエピソードがあります。クローリスを狙っていたのは、ゼピュロスだけでなく、兄弟のボレアス(北風)もだったのですが、最終的にはゼピュロスがクローリスを射止めます。そしてクローリスとの間に生まれた子供がカルポスという果実の神と言われています。
実は、ゼピュロスはボッティチェリが描いた有名な『ヴィーナス誕生』に登場しています。
左上の頬を膨らませて、薔薇の花とともにヴィーナス(またの名をアフロディーテ、愛と美の女神)に風を送っているのがゼピュロス。抱きかかえている女性がクローリス。この時はすでに花の女神フローラになった後なのかもしれません。ちなみに右側でヴィーナスに衣を纏わせようとしているのは、季節と秩序を司る時間の女神のホーラと言われています。
またボッティチェリの別の絵画の『プリマヴェーラ(春)』にも登場しています。
この右端の青白い男性が女性を奪い去ろうとしていますが、これが西風の神のゼピュロスです。頬が膨らんでいますね。そして女性がクローリス。クローリスはギリシャ語の緑(chloros)と関連していて、葉緑素の英語名クロロフィル(chlorophyll)の「クロロ」の部分はクローリスから来ているんですね。先ほどご紹介した『ヴィーナス誕生』のクローリスの姿がちょっと緑っぽく、纏っている布も緑っぽいのはそういう理由なのでしょう。
ゼピュロスは、女性だけでなく、美少年にも恋をしていました。ヒュアキントスというスパルタの王子はイケメンの美少年だったのですが、芸術、光明、予言の神のアポロンとの三角関係となっておりました。ヒュアキントスはアポロンを選んだため、ゼピュロスは嫉妬に狂います。
アポロンとヒュアキントスが円盤投げを楽しんでいる時に、ゼピュロスは突風を起こし、風に飛ばされた円盤がヒュアキントスの頭にあたり、ヒュアキントスは亡くなってしまいます。嘆き悲しむアポロンは、流れたヒュアキントスの血から、花を咲かすのですが、その花がヒアシンスだと言われています。ヒアシンス(Hyacinth)の花の語源は実は、美少年ヒュアキントスだったのです。赤色のヒアシンスの花言葉は「嫉妬」、紫色のヒアシンスは「悲しみを超えた愛」を意味しているそうです。
上の相関図はゼピュロスを取り巻く人間関係というか神様関係(?)の図です。ごちゃごちゃしているので情報を整理するために図式化してみました。左下隅にポダルゲーというのがありますが、これは鳥と人間の女性の合体したような生物です。ゼピュロスはこういうわけのわからない生物との間にも子供をもうけています。生まれたのはバリアスとクサントスという不死の名馬で、後にホメロスの叙事詩の英雄となるアキレウス(アキレス)の馬車となるのだそうです。
ゼフィルスと言う名前で忘れてならないのは、シジミチョウという蝶々の名前にもゼフィルスという名前が付けられていることです。日本にも生息しているようですが、この蝶が何故ゼフィルスと呼ばれるようになったのかは不明です。
1971年に手塚治虫は『ゼフィルス』という漫画を少年サンデーで発表しています。第二次世界大戦中の話で、蝶のゼフィルスの採集に熱中する少年が主人公です。
また、手塚治虫は、1968年4月から1969年7月にビッグコミックに『地球を呑む』という漫画を連載していますが、そこに登場するのは謎の美女ゼフィルス。1968年から71年の間に手塚治虫氏は、何故か「ゼフィルス」という言葉にこだわりました。それは何故かはわかりませんが、不思議な響きがあったのだと思います。
ゼフィール、ゼフィルス、ゼピュロス、それらはすべて同じ言葉を元にしているのですが、スイーツの名前から、時空を超えて果てしない旅をした感じですね。個人的な興味の赴くままの話に最後までお付き合いいただきありがとうございました。
ランチタイムには、道路沿いでお弁当を売っているので、かろうじてそこにレストランがあるということがわかります。健康のためのウォーキングで何度も通ったことがあるのですが、ランチタイムに通ったことがありませんでした。
たまたま妻がお昼前にそこを通り、地中海料理のお弁当を売っている外国人と話をして、そこにレストランがあるということを知ったと教えてくれました。数日後、ずっと気になっていたそのお店を訪ねてみました。フムス、オリーブ、ターメリックライス、モロッコ風のミートボールなど、本場の味です。ランチのセットはミントティーが付いて何と1000円!こんな近所に、こんなちゃんとしたレストランがあったとは、と驚きました。
私は昨年の12月までシンガポールに滞在していたのですが、ギリシャ料理や、スペイン料理、中近東料理のお店には時々行っていました。昔、パリやドバイに出張で行ったときも、レバノン料理はよく食べていたので、この地中海料理は非常に懐かしい感じがしました。
道路沿いでお弁当を売っているのは、ジェリー・マクラフリンというアイルランド人です。話をしていたら、本当はカメラマンで、世界中を旅していて、たまたま東京に来て、日本が好きになり、そのまま居ついてしまったのだそうです。
彼のサイトを見たら、東京で撮影した写真が紹介されているのですが、素晴らしい作品でした。着飾って構えた写真は無く、無防備な東京の、どちらかと言えば見て見ぬふりをしたいような写真が多いのですが、その表現の力強さに圧倒されました。彼の作品のサイトはこちらです→ www.gerrimclaughlin.com
今年の5月にそのお店で写真展を開催するそうです。
先日の金曜日に、妻とそのお店にランチに行ったのですが、お店の前でジェリーさんと話をした際に、そこに、前は見かけなかった綺麗な色のスイーツを発見しました。「サニーのワイフがロシア人で、これは彼女が作ったロシアのスイーツ。お店でサニーが詳しく話してくれるよ」と英語で教えてくれました。
世界中の美味しいものに目がない私としては、まだ食べたことも見たこともないスイーツには興味津々です。NHKの朝ドラ的に言えば、「ちむどんどん」です。お店に入るやいなや、サニーさんに、カウンターに置いてあるそのスイーツのことを尋ねました。
「これはロシアのスイーツで、名前はゼフィールと言う。何でそういう名前なのかは知らない」とのこと。サニーさんは、イスラエルの生まれで、ロンドンで育ったのだそうです。こちらがSani’z Language and Art Caféのサイトです。レストランの情報はこのサイトの一番端っこのCafeのところだけですが。
http://www.wondersani.com
で、食事を終えた後、そのゼフィールというロシアのスイーツを買ったわけです。購入したのは、ストロベリーとブルーベリーのコンビネーションのものですが、ストロベリーだけのもの、ブルーベリーだけのもの、そしてラズベリーだけのものがありました。ラズベリーだけのものは350円ですが、それ以外のものは550円でした。
早速食べてみたのですが、マシュマロよりも弾力があり、グミよりも柔らかい感じのスイーツでした。甘すぎず、素朴な風味です。言葉で説明するとわかりにくいので、こちらにYouTubeの動画をアップしておきます。ラトビア出身のAllaさんのレシピですが、ロシアおよび旧ソ連圏では定番のスイーツのようです。
ロシアのスイーツというとウクライナ問題とかで、ネガティブなイメージになってしまいますが、お菓子に罪があるわけではなく、ロシアだけでなく、ウクライナ、バルト3国などでも食べられているようです。
ストロベリーや、ブルーベリーのピューレに、卵白と砂糖を混ぜ、寒天で固めにしたものを星型口金付きのクリーム絞りで絞り出して形にします。おそらくその模様が風を連想させるので、この名前がついたのではないかと思いました。
ゼフィールとは、語源を辿ると、ギリシャ語のゼピュロスに辿り着きます。ギリシャ神話にゼピュロスという神様が登場するのですが、これは西風を意味しています。ギリシャでは西風は、春を運んでくるそよ風なんですね。こんな感じで、絵画で表現されていました。
母親はEos(イーオス)という暁の女神で、風の神々(アネモイ)と、惑星の神々がその子供でした。風の神々には、西風のゼピュロスの他に、北風のボレアス、南風のノトス、東風のエウロスという兄弟がいました。この四兄弟の中で、一番の色男がゼピュロスでした。
ゼピュロスは、虹の女神イーリスを妻としていましたが、数々の浮名を流します。有名なのは、精霊(妖精)クローリスを無理やり我が物とし、その後、謝罪のためにクローリスに神の地位を与え、フローラという花の女神になるというエピソードがあります。クローリスを狙っていたのは、ゼピュロスだけでなく、兄弟のボレアス(北風)もだったのですが、最終的にはゼピュロスがクローリスを射止めます。そしてクローリスとの間に生まれた子供がカルポスという果実の神と言われています。
実は、ゼピュロスはボッティチェリが描いた有名な『ヴィーナス誕生』に登場しています。
左上の頬を膨らませて、薔薇の花とともにヴィーナス(またの名をアフロディーテ、愛と美の女神)に風を送っているのがゼピュロス。抱きかかえている女性がクローリス。この時はすでに花の女神フローラになった後なのかもしれません。ちなみに右側でヴィーナスに衣を纏わせようとしているのは、季節と秩序を司る時間の女神のホーラと言われています。
またボッティチェリの別の絵画の『プリマヴェーラ(春)』にも登場しています。
この右端の青白い男性が女性を奪い去ろうとしていますが、これが西風の神のゼピュロスです。頬が膨らんでいますね。そして女性がクローリス。クローリスはギリシャ語の緑(chloros)と関連していて、葉緑素の英語名クロロフィル(chlorophyll)の「クロロ」の部分はクローリスから来ているんですね。先ほどご紹介した『ヴィーナス誕生』のクローリスの姿がちょっと緑っぽく、纏っている布も緑っぽいのはそういう理由なのでしょう。
ゼピュロスは、女性だけでなく、美少年にも恋をしていました。ヒュアキントスというスパルタの王子はイケメンの美少年だったのですが、芸術、光明、予言の神のアポロンとの三角関係となっておりました。ヒュアキントスはアポロンを選んだため、ゼピュロスは嫉妬に狂います。
アポロンとヒュアキントスが円盤投げを楽しんでいる時に、ゼピュロスは突風を起こし、風に飛ばされた円盤がヒュアキントスの頭にあたり、ヒュアキントスは亡くなってしまいます。嘆き悲しむアポロンは、流れたヒュアキントスの血から、花を咲かすのですが、その花がヒアシンスだと言われています。ヒアシンス(Hyacinth)の花の語源は実は、美少年ヒュアキントスだったのです。赤色のヒアシンスの花言葉は「嫉妬」、紫色のヒアシンスは「悲しみを超えた愛」を意味しているそうです。
上の相関図はゼピュロスを取り巻く人間関係というか神様関係(?)の図です。ごちゃごちゃしているので情報を整理するために図式化してみました。左下隅にポダルゲーというのがありますが、これは鳥と人間の女性の合体したような生物です。ゼピュロスはこういうわけのわからない生物との間にも子供をもうけています。生まれたのはバリアスとクサントスという不死の名馬で、後にホメロスの叙事詩の英雄となるアキレウス(アキレス)の馬車となるのだそうです。
ゼフィルスと言う名前で忘れてならないのは、シジミチョウという蝶々の名前にもゼフィルスという名前が付けられていることです。日本にも生息しているようですが、この蝶が何故ゼフィルスと呼ばれるようになったのかは不明です。
1971年に手塚治虫は『ゼフィルス』という漫画を少年サンデーで発表しています。第二次世界大戦中の話で、蝶のゼフィルスの採集に熱中する少年が主人公です。
また、手塚治虫は、1968年4月から1969年7月にビッグコミックに『地球を呑む』という漫画を連載していますが、そこに登場するのは謎の美女ゼフィルス。1968年から71年の間に手塚治虫氏は、何故か「ゼフィルス」という言葉にこだわりました。それは何故かはわかりませんが、不思議な響きがあったのだと思います。
ゼフィール、ゼフィルス、ゼピュロス、それらはすべて同じ言葉を元にしているのですが、スイーツの名前から、時空を超えて果てしない旅をした感じですね。個人的な興味の赴くままの話に最後までお付き合いいただきありがとうございました。