まわる世界はボーダーレス

世界各地でのビジネス経験をベースに、グローバルな視点で世界を眺め、ビジネスからアートまで幅広い分野をカバー。

シンガポールの夜空に響いた医療従事者へのエール

2020-04-26 11:14:53 | シンガポール
昨日のブログ記事で紹介した”Sing Together Singapore”のイベントが行われました。最前線で働く医療従事者や、生活インフラを支える人々、外国人労働者、ステイホームで防疫に貢献している全ての人たちへの感謝を表すために、シンガポールではおなじみの”Home”という歌を、みんなで歌うというイベントです。4月25日の午後7時55分から、シンガポール国内のテレビ、ラジオが協力し、この曲を作曲したディック・リーと数名の歌手のリードのもと、”Home”の大合唱となりました。

こちらがテレビで流された映像です。音声はラジオでも放送されました。



この曲に関しての解説は、昨日の以下の私のブログをご参照ください。

今夜、シンガポールの夜空に響く「Home」の歌

各家庭で撮影された映像はその直後に、SNS経由で集められ、すぐに編集され、その日の午後10時半には政府のGov.sgのサイトにアップされました。何というスピード!こちらがその映像です。



ちなみに、こちらは私が窓の外から自分で撮影した映像です。



シンガポールでは、このようなイベントが頻繁に行われていて、感染者数を減らすために、みんなで力を合わせる、医療や生活を支えるために頑張ってくれている人々には感謝を表す、という姿勢が徹底しています。なので、行動はかなり規制されているのですが、全体的には悲壮感がなく、着実に終息に向かって努力しているという安心感があります。買い占めや、政府に対する苦情も、罵り合いもほとんど見受けられません。

ほとんどの人がテレワークで、買い物や必要不可欠の外出やジョギングなど以外は禁止されているので、自宅にいることを余儀なくされているのですが、こういうイベントを通して、ステイホームを徹底させるとともに、精神的な安心感、共同体意識、そして未来への希望を常にサポートしているのだと思います。日本にはこういう部分も学んでほしいものです。 
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今夜、シンガポールの夜空に響く「Home」の歌

2020-04-25 13:12:27 | シンガポール
本日、4月25日土曜日、私はシンガポールにいます。それまで防疫では優等生と呼ばれていたシンガポールが感染者数を増やしているので、日本のマスコミでは、シンガポールの対策がうまく行ってなかったのではないか、油断があったのではないか、などと報道されております。シンガポールで感染者数が伸びていたのは、シンガポールで働いているバングラデシュやインドなどから来ている労働者の複数の寮でのクラスターが大半ですが、一般市民の感染者数は割と落ち着いていて。昨日は25人でした。日本のマスコミは、シンガポールがパニックになっているというような風潮で煽り立てていますが、シンガポールの死亡者数は、現時点で12人で、現在ICUにいる人は24人。香港や、台湾の方がわずかに少ないですが、医療崩壊に至らず、極めてコントロールされていると言えるかと思います。感染者数では、日本もシンガポールも昨日時点で12000人を超えていますが、日本の死亡者数は昨日までに317人となっています。日本はStayHome週間を呼びかけていますが、外出はくれぐれも控えていただき、感染を広げないでいただきたいですね。

さて、シンガポールの対策で、特筆すべきは、新型コロナに国民全体で取り組むという姿勢が割としっかりできているのではないかと思います。日本は、まだまだ、自分の金儲けを優先したり、パチンコやサーフィンや夜の街など、自分の快楽を追求するばかりで、新型コロナをみんなで防ぐという意識を持っていない人がかなり多いような気がします。震災の時などは、みんな助け合うという雰囲気があったのですが、今回は、補償金くれなきゃやだとか、他人のことは知らないというような態度ばかりが目について、同じ日本人として悲しくなります。

出だしが硬くなってしまいましたが、シンガポールでこれまでに、二、三回、医療従事者を応援する拍手をするというイベントが行われました。欧米の各都市や、インドなどでも行われていますが、私が先日の4月20日に撮影した映像をご紹介します。



ほとんど暗くて見にくいのですが、ブキティマの住宅地から、その先は、ジュロンや西の方面が見えています。どこまで実際に聞こえているのかわかりませんが、国民全体が拍手をしているという雰囲気がして、感動的でした。

これに引き続き、本日の夜、7時55分から、シンガポール人だとみんな知っている”Home”という曲をみんなで自宅の窓から歌おうというお知らせが、昨日SNSで来ました。医療従事者や生活に必要不可欠の業務に携わる人々、外国人労働者の皆さん、そして在宅でステイ・ホームする全ての人々への感謝のための合唱で、シンガポールのメディアが全面協力するイベントとなります。

テレビやラジオのチャンネルを合わせて、みんなで窓やバルコニーから歌おうというものです。で、この曲ですが、どんなものか解説をしておきましょう。

シンガポールは、毎年8月9日のナショナル・デー(独立記念日)の日は、大イベントで盛り上がるのですが、毎年テーマ曲を作っています。1998年のナショナル・デーでテーマ曲となったのが、この曲で、シンガポールを代表する音楽家のディック・リーが作曲しました。ディック・リーは、20年以上前、日本のテレビでも有名だったのですが、大先輩かと思っていたら、何と私より一歳年下でした。ちなみに彼は、1956年の8月24日生まれです。実は十数年前、インドのジャイプールで広告関係のイベントがあった時、ゲストとして演奏していて、生で見たことがあります。繊細なピアノ曲は、インド人にはインパクトがなく、ほとんど誰も聴いてなかったのが可哀想でした。こちらの写真がディック・リーです。



でもこの曲は素晴らしい曲で、数あるナショナル・デーのテーマ曲の中では、個人的には一番好きでした。私がシンガポールで仕事をし始めたのは1997年のことで、1998年のこの曲はリアルタイムで聴いていました。最初に歌ったのは、女性歌手のキット・チャン(Kit Chan)です。その後、何度かナショナル・デーで歌われるのですが、2011年に39人の歌手がフルオーケストラで歌うという企画があり、このビデオの演出はキット・チャンでした。こちらのビデオの最初に歌うのは、ディック・リー、2番目に登場するのがキット・チャンです。他にシンガポールの歌手が次々と登場します。



いろんなバージョンがあるのですが、こちらは、26人の最近の若手ミュージシャンたちが歌うバージョン。



他にも色々ありますが、興味のある方は検索して見てください。あと、歌詞とその翻訳をこちらに記載しておきました。本日、ライブで歌いたい方は参考にしてください。

HOME

Whenever I am feeling low
気分が落ち込んだ時はいつも
I look around me and I know
周りを見渡すと、私はわかる
There's a place that will stay within me
心の中にずっと残っている一つの場所があると
Wherever I may choose to go
自分の選んだ行き先がどこであろうとも

I will always recall the city
いつも思い出すのはその都市のこと
Know every street and shore
通りや岸辺は知り尽くしている
Sail down the river which brings us life
船で下る河は私たちの活気の源
Winding through my Singapore
私のシンガポールを曲がりくねって流れている
This is home truly
ここは本当に故郷
Where I know I must be
私のいるべき場所はここだと知っている
Where my dreams wait for me
私の夢が私を待っている場所
Where that river always flows
河がいつも流れ続けている場所

This is home surely
ここは確実に故郷
As my senses tell me
自分の直感でわかる
This is where I won't be alone
ここにいると私は決して一人ではない
For this is where I know it's home
ここが故郷だとわかっている場所なのだから

When there are troubles to go through
何とかしないといけない問題がある時
We'll find a way to start anew
再始動する方法が見つかるもの
There is comfort in the knowledge
こんなことを思うと安心できる
That home's about its people too
故郷とはすなわち人々のことでもあると

So we'll build our dreams together
だから夢を一緒に作ろう
Just like we've done before
昔やってたみたいに
Just like the river which brings us life
私たちに生命を与えてくれる河のように
There'll always be Singapore
シンガポールはいつもここにある

For this is where I know it's home
ここが故郷だとわかっている場所なのだから
For this is where I know I'm home...
自分が故郷にいることを自覚できる場所なのだから


Homeという言葉を「故郷」と訳しましたが、本当は、「家」という意味、「住んでいる場所」という意味など色々な意味が込められています。また新型コロナと戦うためのStay Homeの物理的な家という意味ももちろんあります。この時期、ぴったりの曲ですね。

ここに出てくる「河」というのはシンガポールリバーですが、こちら私が撮った写真です。国会議事堂や、マリーナベイサンズも見えています。



今日のイベントのお知らせがCNA(シンガポールのニュースチャンネル)でもありましたので、合わせてご覧ください。


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One World: Together at Home (外出自粛でも音楽が世界を繋ぐ)

2020-04-19 17:13:40 | 新型コロナウィルス

世界の有名歌手が自宅から配信する慈善コンサート”One World: Together at Home” が、4月18日の土曜日の夕方(日本時間で19日午前3時、シンガポールは午前2時)から開催されました。レディー・ガガが発起人となったこのイベントは、医療従事者を応援しつつ、新型コロナウィルスにともに立ち向かうことが目的で、世界保健機関(WHO)と慈善団体Global Citizenが主催、数々の大手ブランドのスポンサーがついて、全米のABC、CBS、NBCが放送局の垣根を超えて放映し、YouTubeなどでも同時に配信されました。8時間にわたるこのイベントには100人以上のアーティストと著名人が参加し、国や音楽ジャンルを超えて盛り上がりました。

私は、シンガポールで早朝から見ていましたが、レディー・ガガをはじめ、スティービー・ワンダー、ポール・マッカートニー、エルトン・ジョン、ローリング・ストーンズ、リゾ、ジョン・レジェンド、ジェニファー・ロペス、ビリー・アイリッシュ、テイラー・スウィフトなどが自宅から出演、あまりよく知らないアーティストもいたのですが、さすがにみんな素晴らしかったです。





アジアからは、ジャッキー・チュン(Jacky Cheung 張学友)が英語で歌っていましたね。香港の四天王の一人でしたが、いまだに健在で嬉しかったです。あと中国出身の世界的ピアニストのランラン(Lang Lang 郎朗)のピアノ、すごかったです。前半では、香港出身のイーソン・チャンや、K-POPからはSuperMが参加していました。

またこのコンサートでは、アーティストだけでなく、様々な著名人がメッセージを届けるのも見もので、ビヨンセ、ビル・ゲイツ、オプラ・ウィンフリー、エレン・デジェネレス、イドリス・エルバ、ヘンリー・ゴールディング(Crazy Rich Asians)などが出てましたね。インドのボリウッド俳優のシャー・ルク・カーンも出ていましたし、アメリカで活躍しているプリヤンカ・チョープラも出ていました。





みんな「ステイ・ホーム」とか、手洗い、ソーシャル・ディスタンス、また医療従事者などへの感謝を語るのですが、説得力がすごいですね。医療現場の写真もたくさん出てくるのですが、感動的です。医療従事者に感謝する拍手は、日本では残念ながらほとんど盛り上がらなかったですが、世界中で行われて、そのシーンが時々出てくるのですが、これを見るたびに感動します。

また、オバマ夫人と、ブッシュ夫人が登場して、二人協力して、メッセージを語るところも良かったです。二人とも元ファースト・レディですが、片や民主党、片や共和党。政治の世界では敵同士です。それが政治の垣根を超えて、お互いをファーストネームで呼び合っている姿にも感動しました。



番組中にいくつものフッテージが登場するのですが、日本が全く無視されてしまっているのが、残念でした。韓国の病院の様子とか、インドやアフリカの医療現場など色々登場します。しかし、日本のものは全くない。世界の中で日本は置き去りにされてしまっているのかと悲しい気持ちになりました。世界が、みんなで一緒に医療従事者に感謝をしている中で、日本だけは、マスクや補償金のことでかかりきりになっているような、そんなことをつい感じてしまいました。

日本では、医療従事者がヒーローであるどころか、差別され、いじめの対象にさえなっているという報道を耳にします。人々のために命を削って、命を危険にさらして、働いてもらっているのです。日本人はなぜ彼らに感謝するという気持ちがないのか、そんなに思いやりのない、薄情な人種だったのか、と感じてしまいました。でも、決して、そんなことはないはずです。なんとか頑張りましょう。

また、番組中、病院の先生が何人か登場し、新型コロナウィルスの解説をしていましたが、一人の先生は、メンタルヘルス(心の健康)について語っており、細かいところまで配慮が行き届いているなあと感心しました。

このコンサートの数日前に、トランプ大統領はWHOへの資金拠出を停止するという発表をしていますが、この番組はWHOが主催者の一人で、テドロス事務局長もきちっとしたスーツ姿で登場していました。複雑な気持ちだったかと思うのですが、そういう部分も含めて面白かったです。

さて、コンサートの最後を飾ったのは、“The Prayer”という曲で、セリーヌ・ディオン、レディー・ガガ、アンドレア・ボッチェリ、ジョン・レジェンドが歌い、そしてピアノのランランの演奏も見事でした。こちらがそのビデオです。



この曲は以前からある曲で、セリーヌ・ディオンとイタリアのテノールの第一人者のアンドレア・ボッチェリはデュエットで歌ったことがあったんですね。これにレディー・ガガとジョン・レジェンドが絡むのですが、ランランのピアノもさすがにすごい!最後を締めくくるには最高の曲でした。



蛇足になりますが、この曲の歌詞をご紹介しておきます。原曲を短めに抜粋したもののようです。途中、イタリア語の部分もありますが、私の方で翻訳をつけておきました。

"The Prayer"

I pray you'll be our eyes
私は祈る、あなたが私たちの目となり
And watch us where we go
私たちの行方を見ていてくれるように
And help us to be wise
そして私たちが賢くあるよう助けてください
In times when we don't know
私たちの知恵が足りない時に
Let this be our prayer
これを私たちの祈りとさせてください
When we lose our way
道を見失った時のために

Lead us to a place
私たちを連れて行ってください
Guide us with your grace
あなたの慈悲の心で、お導きください
To a place where we'll be safe
私たちみんなが安全な場所に

Sogniamo un mondo senza più violenza
暴力などのない世界を夢見ています
Un mondo di giustizia e di speranza
秩序と希望に溢れた世界を
Ognuno dia la mano al suo vicino
みんなが己の隣人に手をさしのべる
Simbolo di pace, e di fraternità
平和と友愛の印のような世界を

La forza che ci dà
それが私らに与えられた力
(We ask that life be kind)
命が優しくあるよう私たちはお願いする
È il desiderio che
それは我らの願望
(And watch us from above)
そして天から見守っていてほしい
Ognuno trovi amor
皆が愛を見つけ
(We hope each soul will find)
全ての魂が見つけることができるように
Intorno e dentro a sé
内側で、そして外側で
(Another soul to love)
愛すべき別の魂を

Let this be our prayer
これを私たちの祈りとさせてください
Let this be our prayer
これを私たちの祈りとさせてください
Just like every child
子供たちの願いのようではありますが
Just like every child
子供たちの願いのようではありますが

Need to find a place
その場所を見つけなければならないのです
Guide us with your grace
あなたの慈悲の心で、お導きください
Sento che ci salvera
私たちは救われる気がしています
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世界は質の高いオモシロ動画で溢れている (新型コロナウィルスの時代に安らぎを)

2020-04-18 10:31:58 | 新型コロナウィルス
新型コロナウィルスの感染拡大で、世界的に”Stay Home”の生活が日常となっています。行動が制限され、精神的にもストレスの多い状況が続いていますが、そんな中で、世界各地でオモシロ動画が作られていて、人々の心のバランスを保つのに役立っています。

世界には、才能をを持っている人がいるもので、またこの時期、たっぷり時間もあり、「新型コロナ」という人類共通の明確なテーマが与えられたので、短期間の間に、続々と名作が登場しています。日本は、緊急事態宣言が発令されたものの、世界的に見ると、危機意識が低く、こんな状況で、こういうコンテンツを紹介すると、意識が緩んでしまうのが心配ではありますが…

著作権の関係でいつかリンクが切れてしまうかもしれませんが、ご了承ください。

1)サウンド・オブ・ミュージックのドレミの歌



歌詞も、歌唱力も抜群です。「まず最初に事の始まりですが、武漢での喉の痛みと咳がその発端でした」から始まり、家にいること、手洗い、ソーシャルディスタンシングなどの注意事項を見事に盛り込んであります。”My favorite things”の歌も面白いので、興味のある方は検索してみてください。

2)オズの魔法使いのオーバー・ザ・レインボー



家にいる事の辛さを歌い上げでいます。"I'm an extrovert pining here with nothing to do" というのは、「私は外交的性格で、ここでは何もやることがないのが辛い」という雰囲気でしょうか。ソリテア(ソリティア)というのは、一人だけで遊ぶカードゲームやボードゲームのことですね。

3)美女と野獣のBelle



村がロックダウンしても、家にいなくて、手洗いなどにも注意しないBelleを反面教師として登場させています。コロナに感染しているかもしれないのにめちゃくちゃ明るいのが怖いです。

4)クイーンのボヘミアン・ラプソディ



クィーンの映像がバンバン使われていますが、替え歌なのに本人が歌っているかのようではありますね。まるでこの曲は新型コロナのために作られた曲かのように思えてしまいます。

5)ウガンダのマサカ・キッズ・アフリカーナの「コロナウィルス」



こちらはパロディではなく、ちゃんとしたオリジナル曲です。 Masaka Kids Africanaというのは、ウガンダのマサカという都市で、孤児たちを保護・教育する団体です。戦争、飢餓、貧困などで大量に発生した孤児たちを、ダンスなどで教育しているのですが、コロナウィルスの危険をダンスで表現しています。子供達のリズム感抜群の動きが素晴らしいし、手洗いや、ソーシャルディスタンスなどの注意点もきちっと押さえています。

まだまだ色んなコンテンツが上がっていますが、この感染拡大の重大局面の時期、外出を避け、何かに触れたら必ず手洗い、除菌、手で目や鼻や口を触らない、人との距離は十分開ける、常にうつらない、うつさないよう注意、仕事は家で行い、これ以上感染を広げないようみんなで注意しましょう。自分だけ良ければという意識を捨て、みんなを思いやり、みんなで社会を守っていきましょう。これらのことは、ここで紹介したオモシロコンテンツのすべてで伝えようとしている大切なメッセージです。ご自愛ください。
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続・続・世界は素晴らしい広告で溢れている (新型コロナウィルスの時代にこそ必要とされる広告)

2020-04-16 16:52:29 | 広告

4月に入ってから世界各地で次々と新しいコマーシャルがリリースされています。それも、感動的な作品が実に多い。ニュース報道は、暗い内容のものが多く、規制の多い生活はストレスが多く、ぎすぎすしたものになりがちですが、そんな時代だからこそ、希望を与えてくれる映像コンテンツが必要性を増しています。ここ数週間の間で、大急ぎで制作され、リリースされたコマーシャルの優れた作品を見ていると、ヒューマニズムに溢れていて、この世界にはなんて思いやりのある人たちがいるんだろうと涙が出てきます。不平不満で誰かを攻撃するのではなく、暖かい愛情溢れるメッセージを発信するという姿勢が、こういう時代に最も必要とされているのではないでしょうか。新型コロナは、生物としての人間の身体を痛めつけていますが、人の心や考え方、社会全体の考え方にダメージを与えています。そのような症状を治療するためには、経済政策や、補助金や、無料のマスクなどよりも、これらの映像コンテンツで人の心を癒すことが重要だと思います。

ということで、今回は、6点の作品をご紹介したいと思います。素晴らしい作品が次から次へと登場してくるので、セレクトするのも大変ですが、取り急ぎ今週の頭の時点で目についたものをここに掲載します。

1) イタリアオリンピックチーム “Grazie”




イタリアはヨーロッパで新型コロナウィルスの感染者・死者数が多い国の一つで、しばしば医療崩壊が報道されていました。このコマーシャルは、イタリアのオリンピック選手たちが登場します。イタリアは、2016年のリオでは28個のメダルを獲得し、メダル獲得数の国別順位は9位、2018年の平昌では10個のメダルを獲得し、国別順位は12位の国でした。オリンピック選手たちはイタリアでも国民的ヒーローです。そんな選手たちが、「私たちは今では、最強ではありません、無敵ではありません、希望を与える存在ではありません、ヒーローではありません」と語りかけます。「今、本当のヒーローはあなたたちです」というコピー、そしてその後に映し出される医療従事者の映像。感動的です。「ICUで働くあなた、研究所のあなた、救急車に乗っているあなた、最前線で戦うあなた、看護の心と微笑みを絶やさないあなた、あなたたちは私たちの希望です。だから私たち、イタリアチームは、心の底から、あなたたちに言いたい、グラーツィエ(ありがとう)」。素晴らしい!本当はオリンピックでメダルを目指したかったに違いない彼らスポーツ選手たちが、医療従事者に、あなたたちこそ本当のヒーローですと、言うのが感動を呼びます。

2)アップルの「クリエイティビティーは続くよどこまでも」



新型コロナウィルスの影響で在宅を余儀なくされた世界中の人々。家の中では、それぞれのクリエイティビティーを発揮して、様々な表現活動が行われているということを見せているだけなのですが、一つ一つのシーンが愛おしい。在宅生活を応援するアップルという企業姿勢が明確に見えています。アップルの製品があちこちに見えているのですが、広告としての押し付けを全く感じませんね。

3)Uberの「乗っていただけないことに感謝」



Uberなどは最も影響を受けている企業だと思いますが、そういう会社があえて広告を出すところが企業姿勢として素晴らしい。人々が外出できなくなった各地の情景が描き出されます。素晴らしい編集です。そして最後に、”Stay home for everyone who can’t”(家に留まることのできない全ての人のために、家に留まりましょう)というメッセージ。「家に留まることのできない人」というのは、医療従事者であったり、宅配業者であったり、社会インフラを支える人々であったりします。そして、”Thank you for not riding with Uber”(Uberに乗っていただかなくてありがとうございます)というコピー。広告というものは、自分のところの製品やサービスを使ってもらうために存在してきたものですが、企業の営利活動よりも、社会的責任を優先させる企業姿勢に拍手したくなります。

4) フォルクスワーゲン商用車の「今一番大切なこと」




デリバリーや電話線工事などで働く人々の映像と、消費者からの苦情のメッセージ。「もっと大切な事があるのではないでしょうか?」という問題提起が文字で提示されます。大切なことは、「みんながもっと一体になること。今、この瞬間にも、外で私たちのために働いている人たちがいるのです。私たちが必要なものを供給するために。この尋常でない時期に、尋常でない仕事を成し遂げている人々がいます。彼らをリスペクトし、感謝すること、それが今最も重要なことなのです」なんという素晴らしいメッセージ。映像に登場している商用車や救急車はフォルクスワーゲンの製品なのですが、ブランド価値の上昇は必至です。また、この会社で働いている人たちのモチベーションがアップしていることは想像に難くありません。#WeNotMeというハッシュタグも人々の一体感をアピールしています。

5) バーガーキングの「ステイホーム」



こちらも拍手喝采のコマーシャルです。ソファーに寝そべる「カウチポテト」は、これまでネガティブな存在でしたが、このコマーシャルで、カウチポテトとしてバーガーキングのウォッパーを注文することに、国家的な意義を与えています。家にいて、外出を控えることが、国家に貢献することになるのですが、ソファーに横になっていることが、ポジティブな社会貢献活動になることを面白く表現しています。配達料も取らないし、売り上げの一部を医療団体に寄付をするというメッセージも。「注文したら、君も一人前のCouchpotatriatesの称号が得られる」というナレーションも面白いです。カウチポテトとパトリオット(愛国者)の合成語だと思うのですが、今年の流行語となりそうな勢いです。

6) BBCのBringing Us Closer




英国のBBCのコマーシャルですが、いくつかの番組や報道のフッテージをつなぎ合わせたものです。映像を見ているだけでも感動的なのですが、さらに理解を深めるために、必要なことが二点あります。一つは、このナレーションが20世紀前半の詩人のエドガー・ゲスト(Edgar Guest)の詩であるということ。そして、これを朗読しているのが、俳優のイドリス・エルバ (Idris Elba)であるということです。



先にイドリス・エルバについて説明しておきましょう。1972年、シエラレオネ人の父と、ガーナ人の母の間に、ロンドンで生まれた彼は、アベンジャーズや、パシフィックリムなどの数々の映画に出演し、ゴールデン・グローブ賞にも輝き、アメリカのPeople誌の「2018年の最もセクシーな男性」にも選ばれた人物です。2013年のネルソン・マンデラの映画で、ネルソン・マンデラを演じたし、直近では、映画Catsでマキャビティを演じた人物でもあります。

実は彼自身、新型コロナウィルスにかかっており、3月13日に陽性が判明、自主隔離を行なっていましたが、4月1日に無事に隔離期間が終了していました。彼自身がこのナレーションを行なったこと自体がすごいです。

そして、詩人のエドガー・ゲスト(1881-1959)ですが、彼はイギリス生まれですが、ほとんどの人生をアメリカで過ごし、”People’s Poet”と呼ばれ、20世紀前半に人気のあった詩人です。下の写真がエドガー・ゲストです。



今回使われているのは、彼の”Don’t Quit”という詩です。先が見えないかもしれないけれど、諦めてはいけないという内容の詩で、今の時代にぴったりの内容になっています。最後に、この詩と私の訳をご紹介しておきます。お時間のある時に読んでみてください。

When things go wrong, as they sometimes will,
物事が悪い方向に行く時、それはよくあることだが、
when the road you're trudging seems all uphill,
歩いている道がずっと上り坂のように思える時、
when the funds are low and the debts are high,
資金額が低く、借金額が多い時、
and you want to smile but you have to sigh,
本当は笑いたいのに溜息をせざるを得ない時、
when care is pressing you down a bit - rest if you must, but don't you quit.
心配事で少しだけダウンしてしまう時、休息を取らないといけないが、決して諦めてはいけない
Life is queer with its twists and turns.
人生は不思議なことに紆余曲折がある。
As everyone of us sometimes learns.
それをみんなが時々知ることがある。
And many a fellow turns about when he might have won had he stuck it out.
そのままやり続けていたら勝利してたかもしれないのに、方向転換してしまう人が大勢いる。
Don't give up though the pace seems slow - you may succeed with another blow.
ペースが遅いように思えても諦めてはいけない。次の一撃で勝てるかもしれない。
Success is failure turned inside out - the silver tint of the clouds of doubt,
成功は失敗が裏返しになったもの。疑惑の雲は銀色に見える。
and when you never can tell how close you are,
どんなにそれが近くにあるのか決してわからない時、
it may be near when it seems afar;
遠くに思えた時は、近くにあるかもしれない。
so stick to the fight when you're hardest hit - it's when things seem worst, you must not quit.
だから痛恨の一撃をくらった時でも戦いを続けなさい。最悪だと思った時でも、決してやめてはいけない。
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