まわる世界はボーダーレス

世界各地でのビジネス経験をベースに、グローバルな視点で世界を眺め、ビジネスからアートまで幅広い分野をカバー。

グローバルキャンペーンに続々と起用されるBTSのセレブリティー力

2021-06-11 14:46:20 | 広告
今やBTSは、世界的なセレブリティーになりました。広告の世界でもひっぱりだこです。韓国やアジアだけでなく、その人気は世界中に広がっています。しかも、その起用の仕方は、日本のアイドルコマーシャルとは一線を画していて、コマーシャルとしてのクオリティもグローバルレベルです。

Kポップや、韓国映画がグローバルに受け入れられているのと同様に、BTSが登場するテレビコマーシャルは国際的にも通じる品質のものが多く、実にスタイリッシュに作られています。非常にカッコいい。アイデアも、撮影も、編集も、音楽も、タイポグラフィーもとても素晴らしいと思います。

私は、広告業界にいて、セレブリティーを起用した広告キャンペーンを中国や、インドで行ったことがあります。台湾のアーティストのワンリーホン(王力宏)や、インドのボリウッド女優のプリヤンカ・チョープラを起用して、撮影にも何度か立ち会ったことがありました。セレブリティーを起用する場合、時間の制約があったり、様々な制約があって大変なのですが、BTSが登場するコマーシャルは、非常によくできています。

コマーシャルは、特に日本はそうなんですが、露出回数をできるだけ多くするために、長さは15秒という短かさのものが大半です。その中にこれでもかというくらい、いろんな情報を詰め込みます。タレントは、広告メッセージを伝えるための素材として、消費されている感じです。

それがBTSが出演しているコマーシャルを見ると、まず長さが違います。長いものが多いです。短かすぎると、ストーリーも、タレントの魅力も、音楽のよさも伝えきれません。ここに紹介する作品は、どれもタレントの魅力が十分伝わってきて、まさにタレントとブランドがコラボした作品として成立していると思います。タレントがアーティストとして大切にされているという雰囲気すらありますね。

余計な前置きはこれくらいにして、実際の作品をご紹介していきましょう。BTSは以前からいろんなコマーシャルに登場しているのですが、ここでは昨年から今年にかけての最近のものに絞ってご紹介していきたいと思います。

マクドナルドのBTSミール
世界49カ国で売り出されるコラボ商品ですが、このセットに含まれるのは、BTSが普段よく頼むメニューと言われている10個入のチキンナゲット、Mサイズのポテト、Mサイズのコーラ。さらに、韓国のマクドナルドで人気のソースから着想を得て作られた、スイートチリ味とケイジャン味のピリ辛ナゲットソース。



世界共通メニューで、2021年の5月末から6月の展開ですが、日本はこのリストから除外されています。ちなみに私の住んでいるシンガポールは、当初5月27日の予定でしたが、6月21日に延期されました。シンガポールは5月16日から感染防止のために、飲食店の店内飲食を禁止しているのですが、解禁になるのが6月21日なんですね。店内飲食解禁日と、BTS ミール発売日が同じだと、シンガポールは大騒ぎになってしまわないか心配です。お隣のインドネシアでは大変な騒ぎだったと聞いています。
で、こちらがそのコマーシャル。



こちらはフィリピンバージョンなので、最後のスローガンが“Love Ko ‘To”となっています、これはフィリピンのタガログ語で、“I’m Lovin’ It”と同じ意味です。

Galaxy S21 Ultra 5G
サムスンのスマホは、世界で圧倒的な人気を誇っていて、2021年の第一四半期の出荷台数では、サムスンが全世界で7650万台で、22%のシェアを誇り世界ナンバー1。BTSはサムスンのスマートフォンのコマーシャルに何度も登場していますが、こちらは、Galaxy S21 Ultra 5Gという商品。モノクロ画面が実にスタイリッシュでカッコいい。1分30秒の長編ですが、前半部分は、ワンカットの映像みたいなのもいいし、ナレーションでいちいち説明していないのも潔い。それでいながら商品の特長はきちっと伝わってきます。



ギャラクシーのコマーシャルは他にもいくつかありますが、3本ほどご紹介します。メンバーを商品事に割り当てて、それぞれ別々のストーリーで展開していますが、どれもかなり質の高い映像です。商品も非常に質の高い商品のように見えますね。

Galaxy x BTS: La Parfumerie


Galaxy x BTS: A Piece of Cake


Galaxy x BTS: The Strange Tailor Shop


Hyundai x BTS | For tomorrow, we won't wait
こちらはヒュンダイ(現代自動車)のブランドコマーシャル。今年のアースデーに合わせて、地球環境保護をアピールするコマーシャルになっています。「もう待てない」“We won’t wait”という言葉で、一刻も早く環境への対応をしなければならないと言っているのですが、こういう真面目な、社会的なテーマを語ってもスタイリッシュだというのは素晴らしいですね。



Coca-Cola – Turn Up Your Rhythm
コカコーラのグローバルキャンペーンですが、BTS本人は登場していません。ここで使われている曲は、X Ambassadorsが2014年にヒットさせた“Jungle”という曲を、BTSがカバーしたものです。“Turn Up Your Rhythm”(あなたのリズムの音量をあげて)というタイトルですが、コカコーラの製造現場からリズムが組み込まれているので、飲んだら、身体が踊り出すというわけですね。2021年の1月、インドネシアを皮切りに、世界各国で放映されているグローバルキャンペーンです。



LOTTE DUTY FREE “You're so Beautiful”
韓国のロッテ免税店のコマーシャルです。もうこれはミュージックビデオですね。ロッテとか免税店とか文字で出てきてもなんかとってもオシャレですね。



Lotte Duty Free - Free
こちらもロッテのデューティーフリーのコマーシャルですが、いろいろな問題から解放される(フリーになる)1日の良さをメンバーそれぞれがコメントします。「複雑な日常」、「ブルーマンデー症候群」、「カロリーチェック」、「就活ストレス」、「お説教」、「将来の不安」、「SNSいいね」、それらすべてからフリーに。旅行中のあなたはフリーでありますように、ということで「デューティーフリー」に落とし込んでいます。



FILA
こちらはFILAのコマーシャル。アンバサダー契約は2019年に行われましたが、ブランドの広告塔として韓国のみならず、アメリカ大陸およびヨーロッパ、アジアでの活動においてブランドのウェアを着用するほか、キャンペーン広告に出演し、世界のファンに向けてフィラの新作を披露するなどして、ブランドが掲げる「One World, One FILA.」のメッセージを伝えていくということです。



Louis Vitton
「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」もBTSをアンバサダーにすることを公式インスタグラムで4月23日に発表しました。「世界で最もシーンを超えて名声と影響力を持つグループの一つ」、「ポジティブな影響を与えるメッセージで知られている」、ラグジュアリーと現代のカルチャーを融合し、ブランドに新たな一章を加えてくれるであろう」とルイ・ヴィトン側は語っています。



これまで、グローバルに起用されるタレントは、ハリウッドスターとか、欧米のスポーツ選手くらいだったのですが、韓国からこのようなグローバル・セレブリティーが登場したというのは画期的です。欧米人のタレントは知名度はあるものの、アジア各国のローカル市場では、人種的な親近感があまりないので、広告訴求力はローカルタレントに比べて劣っているという問題がありました。

しかしBTSは韓国というローカリティーを越えて、ニュートラルで無国籍なアイコンになっています。それでいながらアジアという背景を持っているので、ローカル志向のアジア人のDNAにもアピールするわけです。こういう逸材は、これまでの歴史の中でほとんどなかったんではないでしょうか?

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5年間の眠りから覚めたマグカップが見たものとは?そして私の仕事。

2021-06-10 11:15:00 | 広告

このマグカップは妻が2016年にANAの飛行機に乗った時、たまたま機内販売で売っていたもので、私が好きそうなデザインだと思って、買ってくれたものです。ANAとKinto (atelier tete)のコラボ商品ということですが、今は入手できないレアなアイテムになっています。



カップはコースターとセットになっています。楓の木から作られたそのコースターには、世界地図が描かれています。世界地図は小学生の頃から大好きだったので、このコースターはとても気にいりました。



実はこれ、ずっと使わずにしまってあったのを、コロナ禍のステイホーム中に妻が思い出して、出してくれたものです。5年間も眠っていたのですが、この5年の間、世界はとんでもない振り幅で大きく変わっていました。

2020年の初頭から中国で発生したコロナがあれよあれよという間に世界中に広がり、世界的なパンデミックになり、未だ世界中で大変な状況になっています。この変化は世界の歴史を大きく変える出来事として記録されることでしょう。

海外渡航が制限され、多くの国のビジネスが感染の影響を受けて経済が落ち込み、観光産業や、航空業界は打撃を受け、デリバリーやEコマースやZOOMなどのステイホーム需要が増えました。仕事のやり方も、在宅勤務がスタンダードとなり、これまで長い間あたりまえだと思っていた、会社のあり方、組織のあり方、会議の仕方などが一気に変わりました。学校での勉強の仕方も、家庭での生活の仕方もすっかり変わりました。

これは、グローバルな変化で、世界中、どこの国でも、言語や文化、宗教や政治的な考え方を超えて、人類が共通に受け入れざるを得なかった変化です。どんなにお金を持っている資産家でも、どんなに貧しい人々でも、共通してこの困難に身を任せざるを得ませんでした。

この5年の間にあった世界的な変化といえば、アメリカのドナルド・トランプが2016年の大統領選挙を経て、2017年1月から2021年1月まで合衆国大統領を務め、その後、バイデン政権が誕生しました。合衆国連邦議会議事堂襲撃事件なども起こりました。

英国では、2016年の国民投票でEU離脱を選択。何度か延期されましたが、2020年に正式に離脱、2020年12月末をもって、移行期間が終了しました。香港は中国化が進み、ミャンマーはクーデター後大変な混乱に陥っています。

日本は2019年5月1日、平成から令和に変わっていました。2012年から続いていた第2次安倍政権は2020年9月に菅政権に移行しました。2020年に予定されていた東京五輪は、2021年に延期されました。

SDGsという言葉や、ESG経営 (Environment, Society, Governance)、「脱炭素社会」、「ダイバーシティ」、「インクルージョン」、「アニマルウェルフェア」、「DX」という言葉が一般化しました。

天文的に言うと、2020年の12月22日に木星と土星が20年ぶりに会合するグレート・コンジャンクションが起き、さらに、200年ほど続いた「土の時代」から、「風の時代」に変わったと言われています。知性、情報共有、個性、自由などがキーワードとなり、これまでのルールが変わるということです。この5年間のとくに後半の時代の流れを見ていくと、これも事実のように思えてきます。

私は、2016年から東京の海外向け広告代理店のシンガポール現地法人の責任者として、当地で仕事を始めていて、インドの現地法人立ち上げのためにほぼ毎月インドに出張したり、東京の役員会のために二ヶ月に一回くらいは出張していました。2020年1月、そのシンガポールの現地法人が、撤退するというので、私はその会社を退職し、自分の会社をシンガポールで登記することにしました。その時は、コロナで世界がこんな状況になるとは全く想像だにしていませんでした。

自分で会社を始めた途端に、コロナとなり、シンガポールもサーキット・ブレーカーとなり、しばらくは飲食店や、商業設備、映画館、プール、ジム、展示会場などは軒並み閉鎖されることになります。決まっていた仕事も、すべて無期延期になり、先の見えない日々が始まりました。

それまで、ほぼ毎月一回は乗っていた飛行機も乗れなくなり、シンガポールのそれも家の周辺に留まるという毎日になりました。運動不足解消のために、近所のウォーキングはほぼ毎日行うようになりましたが、一つの国にこんなに長いこと滞在するというのは何十年ぶりかの経験でした。

このカップのデザインは、飛行機の窓から見える雲海の上を飛行機が飛んでいるのが描かれています。この薄い空色がなんともいえない味わいのある色で、コーヒーや紅茶が一層美味しくなる気がします。



じつは、2020年の1月にシンガポールで登記した会社の名前は、Wings2Flyというものでした。「ウィングズ・トゥー・フライ」、つまり飛ぶための翼です。たとえクライアントがあまりよく知らない場所でも、クライアントの代わりに私が翼になって海外のマーケティングを行います、という思いが込められていました。ちなみに「翼をください」という赤い鳥というフォークグループの曲がありますが、これの英語曲名は「Wings To Fly」でした。かのスーザン・ボイルなどもカバーしています。



そして、コーポレートカラーを、ターコイズ・ブルーにしました。海を越えて、国境を越えていくというイメージでした。全くの偶然ですが、このカップの飛行機のデザインといい、色といい、なんか2020年に自分が作る会社を予言していたかのようです。

私は、東京の麹町にあった広告代理店に勤め出した時から、日本企業の海外向けの広告や販促の仕事をしていました。英語や様々な言語の広告を作ったり、カタログを作ったりしていました。撮影や、打ち合わせなどで海外出張することも多くありました。

コロナでこんな状況になってしまいましたが、今年になってからも、インド向けのビジネスマン向けのデジタル広告や、ビジネス雑誌のオンラインサイトを使っての記事広告(アドバトリアル)などの仕事をしたり、バングラデシュの独立記念日に、バングラデシュの英字紙を使って新聞広告を出稿したりしました。

渡航はできなくても、広告メディアのブッキングや管理、クリエイティブの制作などは、できてしまいました。バングラデシュ用の広告のクリエイティブの制作は、シンガポールでのホテル隔離期間中にホテルの部屋からクライアントとオンラインで打ち合わせし、シンガポールの制作会社にブリーフィングしていました。その時は、どこにいても、どんな状況であっても、仕向地がどこであっても、適切なネットワークさえあれば仕事はできてしまうんだと我ながら驚いたものです。

ネットワークというのは、インターネットとかの物理的なネットワークもそうですが、何年、何十年の間に積み上げてきた人的ネットワークというのも大きいです。体力とか、感性とか、デジタルの対応力という点では若い人にはかなわないですが、長い時間を使って作ってきたネットワークは、簡単には作ることができず、そういう部分は年寄りのアドバンテージだと思っております。

シンガポールからはアジア各国の広告メディアの手配が比較的簡単にできます。新聞、雑誌、テレビ、屋外看板、デジタルなどいろいろ可能です。アジアだけではなく、主要メディアでしたらオセアニアでも欧米でも可能です。実際に各国に行けるわけではないのですが、ネットワークの地の利を活かして、日本の広告主の皆さん、広告代理店の皆さんにもっとお役にたてるんじゃないかと思っています。日本からやろうとすると難しいのですが、シンガポールだと簡単です。

バングラデシュ用の広告を作った時、バングラデシュの国語であるベンガル語のコピーも入れたいということになりました。テキストはクライアント側で用意してもらったのですが、メールでもらったベンガル語のテキストをイラストレーターのレイアウトに入れて、アウトライン化してみると、文字化けしてしまうということを今回学びました。

プリント広告を入稿する際は高解像度のPDFが普通なのですが、文字はすべてアウトライン化するのがルールです。文字化けする可能性が高いからです。また文字をアウトライン化した場合、PDFでは縦棒が太ってみえてしまうというようなことも過去の経験で知っていたので、そういう知識も役立ちました。

マイクロソフトのソフトでは、ワードでも、パワーポイントでもきちんと表示されるベンガル語のテキストが、アドビのソフトではそのまま貼り付けただけでは、適合性がなく、イラストレーター側で調整する必要がありました。ちょっとヒヤヒヤしましたが、国際都市のシンガポールなので、なんとか対応できました。

3月26日はバングラデシュ独立50周年でしたが、この日にどのような広告が出ていたのかを検証するために、現地から当日の新聞を取り寄せ、日本のクライアントに送りました。こちらがバングラデシュから取り寄せた新聞の一部です。



また4月には、シンガポール国内でのスチル写真のロケ撮影がありました。日本の会社からの依頼だったのですが、海外からのシンガポールへの渡航は厳しく制限されており、国民か長期ビザ所有者以外は渡航できないので、日本からの出張は不可能でした。

私は前の会社で、スチル写真やムービー撮影のロケ立会いは山ほど経験していたので、現地のスチルカメラマンの手配、ロケ場所の手配、撮影立会いなどを、日本の会社に代わって代行しました。ロケ手配は、食事や、移動などの細々した手配も必要なので、いろいろと大変でしたが、なんとか対応することができました。

シンガポールでは、スチルカメラマンや、ムービーのスタッフなどいろいろとネットワークがありますので、出張ができなくてもリモートで撮影を行うことができます。ムービーなどは編集、録音、テロップ対応なども可能です。CG作業なども対応できますね。

リソースとしてはいろんなことができるので、是非いろいろと活用していただきたいと思っております。

5年間眠っていたマグカップで、ゆっくりと紅茶を飲みながら、いろいろと思いをめぐらせてみました。パンデミックで国際的な渡航は停滞しているのですが、世界のビジネスは決して停滞していないのです。時間が止まっているわけではありません。渡航できない向こう側では、知らず知らずのうちにアフターコロナを目指してビジネスが進展しているのです。

国際ビジネスの現場で、お役にたてたらいいなと思っております。

ちなみにこちらが会社のフェイスブックページです。もしご興味があればご覧になってください。

https://www.facebook.com/wings2fly.co
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たまたま見かけた魔法の鏡の広告から"Fair"という言葉の意味を考える

2021-06-07 10:52:16 | 英語
先日シンガポールの地下鉄に乗ろうとしたら、プラットホームのホームドア脇にある一つの広告が目にとまりました。” “Who’s the fairest of them all?”というキャッチコピー。おとぎ話の鏡のようなイラストにレイアウトされたその言葉は、「白雪姫」の中に登場する意地悪な継母が魔法の鏡に向かって投げかける言葉でした。



日本語では「鏡よ、鏡よ、鏡さん、この世で最も美しいのは誰?」と訳されたりしています。原文では、「美しい」という意味でこの”fair”という単語を使っています。鏡に向かって自分の評価を問うというのは、今の時代では、SNSでフォロワーの数を気にしたり、ツイッターでの自分の評価を気にしたりする、いわゆるエゴサーチの象徴のような気もしますね。エゴサーチの結果は、優越感の自己満足あるいは、嫉妬のどちらかになる場合が多く、両者は紙一重です。白雪姫の物語では、嫉妬が大きなテーマになっています。



「美しい」という意味は今や古語となってしまっていて、現在では、「色白の」という意味で使われるようになっていますが、昔話の体裁の白雪姫の物語の中では、美しいという意味で使われています。継母の嫉妬のため、みすぼらしい外見にさせられてもなお、白雪姫は王子様を魅了するというのは、外見だけでなく、内面の美しさも意味しているのではないかとも思います。

実は、“fair”という言葉にはいろいろな意味があって、「公正な」という意味や、”fair wind”(順風)などの「順調な」という意味や、天気が「晴れ」という時にも使います。ゴルフなどで”fairway”といえば、ティーとグリーンの間の芝生区域を言います。”Fair Play”という言葉は、スポーツマンシップに則り、道徳を守ったきちんとした行いという意味で使われますね。何か揉めた場合、よく「それはフェアじゃない」とか言ったりもします。シンガポールのスーパーマーケットに”FairPrice”というのがありますが、適正な値段(のお店)というような意味です。

人格という点では、白雪姫が汚れのないフェアな心を持っているというのに対し、継母はプライドが高く、ひねくれていて、嫉妬心が強く、自分のためならどんな悪いことでもしてしまいます。白雪姫の対極のアンフェアの象徴です。そういう意味で、鏡に「この世で最もフェアなのは誰か」と問いかける継母に、鏡は外見という意味で継母だと答えていますが、でも内面を含む総合点では白雪姫だと答えているのは当然です。

この物語の世界は、お城と小人たちが住む森だけという小さな世界なのですが、継母が広い世界を知ってしまったら、さらに衝撃を受けて、立ち直れなくなるでしょう。狭い世界の中では人と比べて優越感を感じることはできますが、世界が広がれば広がるほど、競争相手は増えていき、どこかで挫折をすることになります。

ところで、学校でレポートなどを評価する時にも”Fair”という言葉が使われます。これは、実はそれほどいいわけではなく、優良可で言えば「可」あたりに相当する雰囲気です。「落第点」や「不可」ではないけど、それほど優れているわけではない。「とりあえず合格点」という感じです。優れている場合の評価は、”Excellent”とか”Very Good”などになります。

ちなみに、コロナ感染者の統計で有名なJohns Hopkins Universityの評価によれば、5=Excellent, 4=Very Good, 3=Good, 2=Fair, 1=Poorという順位付けになります。下から二つ目なので、あまり喜べない感じですね。この基準はこの大学だけでなく、いろんなところで使われているようです。



さて、この鏡の広告では、「公正な」という意味で”Fair”を使っています。もちろん、「白雪姫」の継母の台詞を踏まえているのですが、ダブルミーニングで、「最も公正な(サービスを提供する)のは誰?」という意味になります。英語のコピーライティングでは、こういう言葉をもじった表現がよく好まれ、このジョークがわかった読者は思わずニヤリとしてしまうのです。

英語では、”tongue-in-cheek”という言葉があります。「冗談めかして」というような意味です。若い頃勤めていた海外向けの広告代理店のフィリピン人のコピー部長がよく言っていました。「コピーは、真面目にストレートに表現するのではつまらないし、結局メッセージが伝わらない。ちょっと距離を置いて、冗談めかして、ユーモアを交えて表現するのがよいのである」と。この白雪姫の鏡のコピーはまさにそれです。日本では「オヤジギャグ」と紙一重で、興ざめしてしまう人もいるかもしれませんが、こういう英語のコピーは私は大好物です。

この広告の広告主は、EndowUsというシンガポール発のフィンテックの会社で、資産や年金のコンサルティングをする会社のようです。この分野では新進気鋭の会社で、数々の賞も受賞していて、シンガポールから海外にも拡張しているようですね。この広告を通して、「私たちのコンサルテーション費用は他のどの会社よりも公正です」というメッセージ。私はこの広告のターゲットに該当しないのですが、この広告のメッセージは非常によく伝わってきます。

で、ここまでこの広告に惹きつけられてしまった私ですが、この”Fair”という単語のことをいろいろと考えてしまいました。

シェイクスピアの時代、「美しい」という意味で、やたら”Fair”が登場します。例えばロミオとジュリエットで、一時的に眠りに入ったジュリエットを死んでしまったものと誤解したロミオが語る台詞があります。
Ah, dear Juliet, why art thou yet so fair?
「おお、親愛なるジュリエットよ、お前は何故まだそんなに美しいままなのか?」
この時は実際にはまだ死んではいないので、綺麗なままであるのは当然ですが。

“My Fair Lady”という映画もあります。オードリー・ヘップバーンが主演したミュージカル映画。ここで使われている”Fair”も「美しい」という意味です。薄汚れた下町の花売り娘が、言葉を特訓することで、上流階級の淑女に変身してしまうというストーリーですね。

現代英語では、理由はわかりませんが、「色白の」という意味になってしまいました。主観的な美しさという判断ではなく、物理的な皮膚の色の比較の問題になってしまいました。「白雪姫」(Snow White)という物語のタイトルにはぴったりになってしまいましたが、よく考えてみると、これは人種差別表現であり、”Black Lives Matter”などが叫ばれる昨今では、時代に逆行する表現になってしまっています。

「白雪姫」はもともとドイツのグリム兄弟が書いた童話だったのですが、ドイツ語では、"Wer ist die Schönste im ganzen Land?”という原文で、「最も美しい」という単語になっています。これが英語に翻訳された際に、”Fairest”と訳されたようです。

「最も美しい」としても、今のダイバーシティとインクルージョンとコンプライアンスの現代には問題になりかねません。人を外見で差別するということにつながります。「美女と野獣」のようなストーリーのほうが今の時代には求められれいると言えるでしょう。

さらに英語圏では、”Fair”が皮膚の色の物理的な白さを意味するようになったため、よりややこしくなってしまいました。インドなどでも、女性は白っぽいほうが美人と思われる傾向はあります。

以前、私は、広告の仕事でインドのボリウッド女優を起用した仕事に関わったことがありました。インドでの撮影に立ち会ったのですが、メイク前の素顔はやや黒かったのに、メークをバッチリしたらかなり白っぽくなったのを覚えています。女優の素顔は企業秘密(?)なので、本当は目撃してはいけなかったのかもしれませんが。

日本やアジア圏でも、日焼けは嫌なので、日焼け止めをし、日傘をさして紫外線を避け、美白効果のスキンケアを行い、肌の色が明るく見えるような化粧をしたりしています。色白に見えることが美の基準の一つになっています。

しかしながら、同時に、人を肌の色で差別することはますます忌避されるようにもなっています。

“Fair”という言葉だけでもこれだけの問題を抱えている「白雪姫」ですが、この物語をよく見ていくと、問題がいくつか出てきます。

そもそも、継母が白雪姫の美貌に嫉妬して部下に暗殺を命じるということだけで重大犯罪だし、さらに毒リンゴを使って白雪姫を殺害しようとしたことは、殺人罪になってしまいます。このような犯罪を周囲の関係者たちが全く知らなかったとは考えられず、継母の犯行を食い止められなかったことで、周囲の責任も問われることでしょう。特にこの物語にはほとんど登場しない王様の責任は重大だと思います。自分の娘が命を狙われているというのに何も気づかなかったというのは何と鈍感なのでしょう。父親として、お城の責任者として、継母の暴走を食い止めることはできなかったのでしょうか?

また、白雪姫にも罪があります。7人の小人たちが住む家に勝手に侵入してしまうのですが、現在の法律で言えば、住居不法侵入罪です。運良く小人たちが善良な性格で、ややこしいことを言わなかったので問題なかったですが、邪悪な心の人たちだったらどうなっていたことでしょう。

王子様が、死んだ白雪姫にキスをして目覚めさせるというのは、グリム童話のオリジナルにはなく、ディズニーの創作とのことです。毒リンゴの魔法を解く手段として、「恋人のファーストキス」と継母が参照したマニュアルには記載されているのですが、王子様がこれを認識していたとは思えず、偶然です。王子様は、死体だと思ってキスをするのですが、変態的行為です。死体だとはいえ、女性に同意なく(死体なので同意を求めることは不可能ですが)キスをしてしまうというのは、現代ではセクハラの問題になりはしないか心配です。悪くすれば強姦未遂です。

王子様がたまたまハンサムな若者だったので、目覚めた白雪姫は喜んだのですが、もしもその王子様が醜悪で肥満で変質者だったらどうだったのでしょう。目覚めた白雪姫は、死んだほうがマシだと思い、再びかじりかけのリンゴをかじって自殺しようと思ったかもしれません。

こんな感じで、掘り下げれば次々と問題が出てくるお話しです。偶然にも結果オーライになったのですが、白雪姫はただただ運がよかったのだと思います。一つ間違えば不幸になる可能性は随所にありました。しかし、彼女は何とかフェアウェイをキープして、幸せに到達してしまうのです。そういう順風満帆の人生って、なんかフェアじゃない気もします。

物語としては、評価をつけるとしたら、まあ「フェア」ということになるのかもしれません。
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映画「ボヘミアン・ラプソディ」の中の5つの台詞に関して語っておきたいこと

2021-06-04 15:59:00 | 映画
2018年に公開された映画「ボヘミアン・ラプソディ」ですが、最初、飛行機の機内で見てから、はまり込んでしまいました。映画館でも何度か見ました。それまであまり聴いたことがなかったQUEENの曲をスポティファイでダウンロードし、その頃始めたチョークアートでは、フレディ・マーキュリーに関する作品ばかりを描いていました。トップの画像は、自分で描いた作品を貼り合わせたものです。

映画を何度も見るうちに、この映画の台詞に非常に奥の深い内容が含まれていて、映画を見ているだけではわからないことも多くあり、これは解説をしないといけないと思いました。吹き替えになってしまうと、原文のニュアンスは失われてしまうことが多いのですが、その背景を知っておくと作品をより深く味わえるのではないかと思いましたので、こちらに5箇所ほどの台詞を解説させていただきます。

こちらは2019年頃に、私の個人のSNSに掲載したものですが、そのままではなかなか見られることもないので、こちらに転載させていただきました。ちょっとマニアックな部分もありますが、映画鑑賞のご参考になりましたら幸いです。


MIAMI BEACH



映画”Bohemian Rhapsody”の中で、Freddie Mercury が、Jim Beachに出会う場面の台詞。やりとりが実に面白い。名前が退屈なので、Jim Beachではなく、Miami Beachにした方がいいということで、”dub thee “(汝を〜と命名する)という言葉を使う。女王とかが、ナイトの称号を授与する時に使う言葉です。グループの名前がQueen なので、まさにぴったりですね。英国女王と言えば、大英帝国。ビクトリア女王の頃、太陽が決して沈まない帝国と言われていました。それを踏まえて、Miami と命名されたJim Beachは、「マイアミ・ビーチだったら、太陽はいつも沈む、自分の背中側にね」と発言します。大英帝国が世界を制覇していた頃、「太陽は決して(Never)沈まない」と言われていました。Never をAlwaysに変えたところが実に上手いですね。その後は、マイアミビーチの地理がわかってないと、このジョークがちょっと理解に苦しみます。実は、マイアミビーチは東向きなので、朝日は海から登りますが、海を見ていたら太陽は自分の背中側に沈むというわけです。Jim Beach はその後、Queenにとって重要な人物となり、この映画もプロデュースすることになるのですが、自分のところで太陽が沈んでいくというのは、Jim Beach自身の人生を象徴している気もします。

FORTUNE FAVORS THE BOLD



私の周りで、この映画に極度にハマっている人が数名いて、ちょっと解説してあげると喜ぶので、調子に乗って解説をしています。こんなマニアックな長い文章は非常識ですが、お忙しい方は無理におつきあいいただく必要はございません。

今回は、レコード会社のEMIのレイ・フォスター(マイク・マイヤーズが演じている)が、クイーンに次の作品の方向性に関して討議する場面。このシーンで最も重要と思われるのは、マイアミ・ビーチ(ジム・ビーチ)のこの台詞でしょう—”Fortune favors the bold”(幸運は勇者に味方する)。マイアミ・ビーチは言葉数は少なく、感情を露わにしないし、ボソボソと話すので、印象が薄いのですが、実は要所要所でとても重要なこと言っています。このフレーズもその一つ。古くから使われていた元々はラテン語の諺で、世界各国の軍隊のスローガンにもよく使われていた言葉です。レイ・フォスターがなかなか納得せず、結論に至らない中で、「多少のリスクをとっても、新しいことにチャレンジしたほうがいい結果がもたらされる」ということを、この古典的な諺を引用して、議論を収束させます。こういう場面で、これをすっと出せるという才能がすごいですね。フレディにマイアミと命名された時の受け答えも、短い言葉の中に、教養とユーモアのセンスが満載でしたが、この人、とても頭のよい人なんですね。

さて、この議論、EMIのレイ・フォスターから、キラー・クイーンみたいな次のヒットを考えてよという要求から始まります。いわゆる「二匹目のドジョウ」ですね。”Formula”(公式、定石、決まったパターン)を使えば、確実にヒットを狙えると主張するレイに対して、フレディおよび、クイーンのメンバーは、同じことはやりたくないと反論します。

ここでフレディは強引に、オペラのレコードをかけます。ビゼーの「カルメン」です。渋い顔をして、レイ・フォスターは、「わかっとらんね。実際オペラなんて好きな人間、一人もいやしないよ」と言うのですが、間髪を入れず、マイアミ・ビーチが発言します。”I like opera”(私はオペラ好きですけど)。これまた、最小限の言葉での反論です。お見事!これでレイ・フォスターの一方的な議論に釘をさします。

この後、フレディーが、「自分たちが目指しているのは、オペラというわけではなく、ロックンロールのレコードで、オペラのようなスケールを持ち、ギリシャ悲劇のペーソス(情念)を持ち、シェイクスピアの機知を持ち、ミュージカル劇の束縛のない喜びが全部入ったものなんだよ」と語ります。彼が語っているのは、これから形になる「ボヘミアン・ラプソディー」のコンセプトそのもののような気がしますが、すごく雄弁です。”unbridled joy”という言葉を使いますが、こんな議論が白熱しているところで、”unbridled”(束縛のない状態、馬から馬ろく=くつわなどを外した自由な状態)という日常会話ではほとんど使わない、難易度の高い単語をよく使えるなと感心しました。かなりの教養の高さを感じます。

ところで、次のアルバムは”A night at the Opera”とフレディが語ります。そして実際にこのタイトルのアルバムが発売されることになるのですが、実は、20世紀初頭に一世を風靡していたアメリカのマルクス兄弟の喜劇映画のタイトルと同じなんですね。この映画、フレディが大好きだったようですが、全く同じタイトルにしたんですね。ちなみにその次のアルバム”A day at the Race”もマルクス兄弟の喜劇映画のタイトルと同じです。マルクス兄弟の数ある作品の中で、この二作が特別に人気があったとのことです。マルクス兄弟の映画を見て、フレディは何を感じ、どんなインスピレーションを得ていたのでしょうか?

I AM A PERFORMER, DARLING, NOT A SWISS TRAIN CONDUCTOR



映画”Bohemian Rhapsody”の中で、 “We Will Rock You”を作っているシーンで、遅れてきたFreddie が言う台詞。「スイス鉄道の運転手ではなく、パーフォーマーなんだよ」(だから時間なんか守れなくて当然だよねー)と言います。日本語字幕だと、「時計じゃない」のようになっていましたが、”not a Swiss train conductor”と言っております。スイスの鉄道はそれほど時間に正確という評判なのですね。日本の鉄道も時間が正確と言われてますが、地震や台風ではすぐ止まるし、人身事故なんかもよくありますね。Freddieはよく時間に遅れるのですが、この台詞をもう少し深読みすると、「自分は、音楽を楽譜どおりに完璧に歌うのは嫌いだ。歌手ではなく、パフォーマーなのだ」と言っているようにも聞こえます。で、スイスなのですが、Freddie はスイスのモントルーを気に入って、Jazzから後のアルバムをモントルーのスタジオで制作します。モントルーにはFreddie の銅像があり、博物館もあります。何年か前に、モントルーの街を通過したのですが、その時はそんなこと全然知らず、もったいないことをしました。Jim Beachは今もモントルーに住んでいるみたいですね。

A QUEER CATHOLIC BOY FROM BELFAST



映画”Bohemian Rhapsody”の中で、FreddieがマネージャーのJohn Reidを首にして、車から追い出した後、Paul Prenterが言う台詞。”queer”とは、変態とか、同性愛のというような言葉。実は、カトリック国のアイルランドでは、1993年まで、同性愛は犯罪でした。Paulの出身は北アイルランドのベルファストで、国としてはUKに属していますが、カトリックの同性愛への立場は、アイルランドと同様に厳しかったと思います。さらに、20世紀後半の北アイルランドは、英国との一体化を求めるプロテスタントと、アイルランドとの一体化を求めるカトリックの間で紛争が続いていました。北アイルランドのベルファストで、カトリックであることだけでも、難しい状況だったのですが、カトリックでありながら、ゲイであるということも複雑な状況でした。自分がどこにも属せないマイノリティだとアピールすることで、同じような境遇のFreddie の気持ちをつかもうとしていたのでしょう。Freddie とPaul の関係がさらに深くなっていくきっかけになった台詞です。
「ぼくの父親は、ぼくが自分らしく生きるくらいだったら、死んでてもらったほうがましだと思っていると思う」というPaulの台詞。当時、北アイルランドでは紛争で多くの人々が亡くなっていたので、死んでいるのを発見されるというのは、かなりリアリティのある話です。北アイルランドという存在自体が、ややこしく、アイルランド島という北海道より少しだけ大きい島の住民はカトリックなのですが、北アイルランドはプロテスタントが過半数。EU離脱がなかなか進まなかったのは、離脱してしまうと、北アイルランドの国境を厳格化しないといけないということになり、そのために様々な問題が生じるためでした。

ところで、ベルファストは、あの北大西洋で氷山に接触して沈没した豪華客船タイタニックが作られた町として有名です。映画に登場するジャックもアイルランド人という設定。随所にアイルランド音楽が使われていました。

Paul Prenterの頃は、同性愛が犯罪だったアイルランドですが、2015年に同性婚が合法化され、2017年にアイルランドの首相になったレオ・バラッカー氏は、インド系でゲイであることを公表しました。簡単には説明しきれませんが、Paul Prenterのこの短い台詞、じつはかなり複雑な、政治、宗教、歴史が絡み合っているのであります。

BETA



映画”Bohemian Rhapsody”の中で、ライブ・エイドのコンサートの直前に、母親のJer Bulsaraが、フレディに”Love you, beta”と呼びかけるシーンがあります。ここがずっとひっかかっていました。「ベータ」って何?それまでそんな名前で呼んでなかったのに、最後で唐突に登場する”Beta”。Freddieや本名のFarrokhの愛称としては、全く関連性がなさそうだし、英語で何か特別な意味があるのかと調べてみてもわかりませんでした。日本語吹き替えでも唐突に「ベータ」という言葉が現れます。

ところで私は、インドの仕事にもいろいろと関係しているのですが、たまたま家にヒンディー語の辞書がありました。まさかと思って、調べてみたら、何と、”Beta”というのは、ヒンディー語で「息子」という意味ではないですか!これで長い間もやもやしていた謎が解けました。同じことで悩んでいる人がいるといけないので、お知らせしようと思いここにアップしました。

フレディの親は、インド人です。インド人もいろいろいるのですが、パルシー(Parsee)という一族です。映画の中でもお父さんが説明しようとしているのですが、もともとはペルシャに住んでいたゾロアスター教の人々です。7世紀頃、ペルシャがイスラム教に征服され、その迫害を逃れて、彼らはインド西部に逃れてきます。

インド社会の中で、比較的肌の白いパルシーは、カースト制度にも組み入れられず、要職を任されたとのこと。ゾロアスター教は、親がゾロアスター教でない限り、信者になることはできないので、その数は減少する一方なのですが、インドの大財閥のタタ・グループはパルシーとして有名です。製鉄、自動車、電力、IT、化学、通信、食品、ホテルなど傘下企業は100社超と言われています。

フレディは、ザンジバルで生まれましたが、ここは現在のタンザニア。タンザニアは、タンガニーカと、ザンジバルが合わさってできた連合共和国です。ザンジバルは島国ですが、王国と呼ばれていました。1964に革命が起き、ブルサラ一家はロンドンに逃れてきます。1964年の東京オリンピックには、タンガニーカとして参加していますが、その頃は、ブルサラ家は大変な状況だったんでしょうね。

千何百年前にパルシーが、ペルシャを追われたのもあり、革命でザンジバルを逃げなければならなかったのもあり、ブルサラ家が運命に翻弄され、放浪をしてきたという過去が、ボヘミアン・ラプソディーに繋がっているのですね。「ボヘミアン」というのは、ヨーロッパの放浪民で、ジプシーとも呼ばれますが、迫害を受けながらも各地をさまよう人々でした。「ボヘミアン・ラプソディ」というのは、フレディの自分のルーツでもある壮大な歴史の物語だったんですね。

フレディは、自分の出自を説明されるのを極端に嫌がっていました。しかし親は、幾度もそれをフレディに認識させようとします。早親が、フレディに”Beta”と呼びかけるのは、「あなたは誇りあるインド人の、しかもパルシーの血を引いている」という意味があってのことなのかもしれません。

実際の母親のJer Bulsaraは94歳まで生き、2016年に亡くなっています。あと少しでこの映画を見られたんですね。



まだまだ説明しなければいけない台詞がこの映画にはいろいろとあると思いますが、この記事が、何かの参考になりましたら幸いです。
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5月31日のシンガポールの首相の演説

2021-06-02 16:12:14 | シンガポール
5月31日(月)の4時にシンガポールのリー・シェンロン首相がスピーチを行いました。4月後半からシンガポール市内でのクラスターの発生に対応して、5月16日から6月13日までの4週間を警戒期間とし、飲食店の店内飲食の中止や、集まりは二人までとする規制を行っているのですが、残り2週間というちょうど中間地点でのタイミングでした。

約24分間の演説だったのですが、これをテレビで見ていて、感動してしまいました。個人的に感動した演説としては、フィクションの世界ですが、映画「インディペンデンス・デイ」の大統領の演説 と、ケネス・ブラナーのシェイクスピアの「ヘンリー五世」の演説 などがあるのですが、それらに近い感動を与えられた気がして、シンガポールの自宅でところどころで拍手をし、誰も見ていないのにスタンディング・オベーションをしてしまいました。(笑)

まずは、こちらが大統領演説の動画です。



演説の全文はこちらの政府のサイトに掲載されています。

PM Lee Hsien Loong on the COVID-19 'New Normal'
Transcript of speech by PM Lee Hsien Loong on the COVID-19 'N
www.pmo.gov.sg


何がそれほどよかったのか、それについて述べてみたいと思います。あくまで個人的な感想です。

1. 困難の先に待ち受ける明るい未来が提示されていたこと

まずは、これから先どのようになるか、この難局を乗り越えることで、どのような未来が待ち受けているかということが明確に示されていたということです。このような状況下では、人々は様々な理由で不安になってしまいます。影響を大きく受けている仕事も多いでしょうし、海外への渡航ができないことで困っている人も多くいます。日常生活も不便を強いられています。精神的にも追い込まれている人も多いでしょう。そんな人々にとって、首相のこの演説は希望をもたらしたと思います。

演説の終わりのほうのこの一説は印象的です。

In the new normal, COVID-19 will not dominate our lives. Our people will be mostly vaccinated, and possibly taking booster shots every year. We will get tested often, but it will be fast and easy. We will go to work or school, meet friends and family, participate in religious services, and enjoy entertainment and sports events. We will re-open our borders safely. Visitors will again come to Singapore. Singaporeans will travel again to countries where the disease is well under control, especially if we have been vaccinated. And eventually we will even go about without masks again, at least outdoors. Right now, we are some ways off from this happy state, but we are heading in the right direction.

日本語にしてみますとこんな感じになります。「ニューノーマルの時代においては、COVID-19が私たちの生活を支配することはなくなるでしょう。国民のほとんどがワクチン接種を終え、おそらくは毎年定期的に接種をすることになるかもしれません。職場や学校に行ったり、友達や家族に会ったり、宗教的な行事に参加したり、エンターテインメントイベントやスポーツイベントを楽しむことができるようになるでしょう。私たちは国境を安全に再開していきます。再びシンガポールへの訪問客が来るでしょう。シンガポール人も感染がコントロールされた国に渡航することが再びできるようになります。とくにワクチン接種を受けた場合なのですが。そして、やがて、少なくとも屋外に限っては、再びマスクをしないで外出できるというようなそんな時もやって来るでしょう。今現状では、こんなハッピーな状況からは少しばかり離れていますが、私たちは正しい方向に向かって着実に進んでいるのです」

こんな誰もが望んでいる未来図を言葉で描き出しています。検査と、追跡、ワクチン接種を促進することに国民が一致団結して協力してくれれば、このような未来もすぐそこに来ているというわけです。このように目的が明確化されることにより、国民一人一人のモチベーションも強化されます。

そして演説はさらに続きます。

In this new normal, the countries which are united, disciplined and put in place sensible safeguards, will be able to re-open their economies, re-connect to the rest of the world, grow and prosper. Singapore will be among these countries. More confident and resilient than before, and toughened by what we have overcome together, and experience together as one nation.

「このようなニューノーマルの時代には、一致団結し、規律が取れて、きちんとした安全対策を行っている国は、経済活動を再開し、世界の他の国と再び繋がり、成長繁栄することができるようになります。シンガポールはそのような国々の一員となるでしょう。私たちは、これまで共に力を合わせて困難を克服してきたことにより、また一つの国家として経験を共にしていることで、以前にも増して自信に満ち、持久力がある国となるでしょう」

言葉の一つ一つが希望を持たせます。未来に光が射した感じで、気持ちが明るくなります。そして、コロナを乗り越えてさらに成長したシンガポールの姿が実感できます。このためにはみんなで力を合わせて協力しようという気持ちが湧き上がってきますね。

2. 具体的で事実に基づいた現状認識

首相の演説の中で、感染状況の説明など具体的なデータが使われています。シンガポールで演説を聞いている人たちには説明する必要もないことですが、最近の状況を捕捉しておきます。こちらのグラフは、シンガポール保健省が発表しているものですが、5月4日から6月1日までのシンガポールの1日あたりの新規感染者です。緑の部分が、経路が確認できている人、黄色が未確認の人です。経路が確認されている人が大半ですが、何箇所かでクラスターが発生しています。



日本の感染者数に比べれば非常に少ないのですが、これまでほぼ市中感染を押さえ込んできたシンガポールにとって二桁の感染者数は大ごとです。数は徐々に減ってきてはいますが、まだまだ予断は許されません。

そしてこちらは、同じく保健省のデータですが、重症者の数。



オレンジ色がICUで治療を受けている人、青が酸素吸入が必要な患者数です。日本に比べればかなり少ないです。また死者数に関してですが、6月1日時点で、昨年頭からの累積の死亡者が33人。2021年になってからは4人です。

日本のマスコミは、欧米に比べて死者数が少ないということを自慢していますが、6月2日時点での累積死者数が1万3048人。最近でも一日の死者は数十人から100人を越えることもあります。医療先進国のはずの日本で、どうして死亡を防げないのか悲しくなります。そんな状況にありながら、時々「日本は死者がこんなに少ない」と発言する人がたまにいますが、とても不謹慎な気がするのは私だけでしょうか?

首相の演説の中で、検査方法の種類に感しても、かなりきめ細かく情報が提示されています。PCR検査以外にも、各種ある検査の説明があります。追跡方法や、ワクチン接種に関しても同様です。現状を極めて正確に把握しているという姿勢がここに現れています。

3. 積極的な各種対策

首相の演説では、ワクチン接種や、検査対応に関して新たな取り組みが示されています。たとえば、次のようなものです。



12歳から16歳への生徒に対してのワクチン接種を始める。6月1日から予約開始。学校での感染は心配ですからね。



39歳以下の接種予約は6月中旬から始める。



60歳以上でまだワクチン接種していない人に対しては、予約しなくても、ワクチンセンターに行けばその場でワクチンをしてくれる!これはすごい!日本は高齢者が予約できなくて困っているという状況なのですが、こういう対応は素晴らしいですね。

8月9日の独立記念日までにはシンガポール国民の大半が少なくとも一回の接種をしていることを目指す。

妊婦や、癌患者など、これまでワクチン接種から除外されていた人たちも受けられるようになる。

検査もどんどん増やしていくことを発表しています。

こんな感じで次々と具体策が発表されることは非常に好感が持てますね。

4.言葉の端々に示される国民への感謝の気持ち

これまでの協力に対しての感謝の言葉が述べられています。政府からの高圧的、一方的な命令となることを防いでいます。これにより、政府も、国民もワンチームであるという印象が作られています。偉そうな感じがないのがいいですね。この最後の項目に関しては、あまり説明することもありません。映像を見ていただければ、人柄が伝わってくると思います。



シンガポールはこういうリーダーの元で着実にコロナ禍から抜け出そうとしている感じです。日本も学ぶべきところは学び、日本もコロナを克服していってほしいですね。
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