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シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」の悲劇的結末のきっかけとなった16世紀の感染症

2021-06-13 19:34:35 | シェイクスピア

私たちは今、パンデミックの最中にあります。感染者は減ったかと思えば増え、人々は感染と死の恐怖に怯え、生活や仕事は大きく制約を受けています。しかし、これは今の時代に限ったことではないというのを知った時、人類の存在の脆弱さを痛感せずにはいられません。医学や科学技術が進化しているはずなのに、人類は感染症に苛まれ続けてきました。そしてそれは今も昔と変わっていないのです。

人類史上、大規模な感染症は何度も生じています。英国も16世紀後半から、17世紀初頭まで、ペストが何度も流行します。その頃は、シェイクスピア(1564―1616)の生きていた時代に重なり、感染拡大防止のため、劇場が何度も閉鎖されます。有名なグローブ座ができたのは、1599年。感染が少なくなっていたつかの間のことでした。そのグローブ座もシェイクスピアが名作を書き続けていた間も、何度か閉鎖を余儀なくされてしまいます。

「ロミオとジュリエット」が最初に上演されたのは1595年頃と推測されています。1592年から93年のペストの大流行が一旦収まった後のことでした。今の時代も、劇場や俳優は、コロナ禍で大変な犠牲を強いられていますが、シェイクスピアの時代も大変な状況であったと推察されます。

私は学生時代に、シェイクスピア劇を原語で上演する「シェイクスピア研究会」というグループに所属していました。「ロミオとジュリエット」を上演したのは1978年の5月のことでした。その時、ロミオを演じたのは、今では著名な俳優になっている吉田鋼太郎君でした。私はロミオの親友のベンボーリオと、ロレンス神父の二役を演じました。

これは、運命に翻弄される若き男女の悲劇なのですが、悲しい結末をもたらすきっかけにペストが関わっていることをつい最近知りました。自分で演じている時には全くピンときていなかったのですが、コロナのパンデッミックや隔離を経験した今、あらためてこの作品を振り返ってみると、実は感染症が関わっていたと知り、単なる遠い昔の話などではなかったんだと気付きました。

ロレンス神父は、ロミオとジュリエットを結婚させてしまった手前、パリスとの結婚を回避するため、ジュリエットに薬を処方し、仮死状態にするという作戦を実行します。その間、マンチュアという町に追放になっているロミオに状況を説明する手紙を書き、彼らが再び会えるような段取りをします。で、その手紙を仲間のジョンという修道士に託します。



こちらの写真は1968年の映画「ロミオとジュリエット」の中で、手紙を託すシーンです。右がロレンス神父、左が修道士のジョンです。



映画の中では、ジュリエットの葬儀を目撃したロミオの召使いのバルサザーが、ジョンを追い越して先にロミオにジュリエットの死を知らせるという流れになっています。このすれ違いがまた切ないのですが、原作はこの部分が異なっています。

原作では、ジュリエットが墓所に送られた後少したって、ジョンがロレンス神父を訪ねてくるシーンがあります(5幕2場)。「ロミオは何て言っていた?ロミオからの手紙とか持ってないの?」とロレンス神父はジョンに尋ねます。するとジョンは「実は、マンチュアに行こうとしていたんだけど、一緒に行こうと思っていたやつが、行く前にちょっと病人を訪ねないといけないと言って、寄っていくんだね。その後、検疫官に質問を受けて、あなた方はペスト患者の濃厚接触にあたるので、在宅隔離が必要です、と言われ、家に閉じ込められて、外出ができなかった」と言うのです。

「じゃあ、誰が手紙をロミオに届けてくれたのかな?」と訪ねるロレンス神父に、ジョンは、「手紙はここにある。これをこちらに送り返そうにも、みんな感染を怖がって誰も協力してくれなかったんだ」と答えます。ロレンス神父は、「なんということだ!」ということで、42時間後に仮死状態から目覚める予定のジュリエットをしばらく自分のところで匿い、別途ロミオには新たな手紙を書くというプランBを計画するのです。ところが、バルサザーの報告を受けてロミオは一足先に行動に移していたということで悲劇の結末になるのです。

私は舞台で、ジョンの報告を受けた際には、正直あまり彼の言い訳がよくわかりませんでした。感染隔離のために家に閉じ込められて出られないなんて理由は、言い訳のための理由としてしか思えませんでした。「なんでこんなやつに頼んでしまったのかな」という後悔は感じていたのですが、今思えば、感染隔離が引き起こした悲劇だったわけです。今から思うと、ジョンの弁明がよく理解できます。今更ですが、理解が足らず申し訳なかった、とジョンの役をやった人に謝っておきたいと思います。

今も昔も感染症って大変ですね。皆さん、十分用心してこのパンデミックを乗り切りましょう。
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BTSの“BUTTER”の歌詞を理解する上で知っておくべき7つのこと

2021-06-13 10:41:52 | 音楽
2021年5月21日にリリースされたBTSの“Butter”が数々の記録を塗り替える大ヒットとなっています。私はBTSのファンというわけではなかったのですが、妻から教えてもらって、この“Butter”を何度も聴いています。なんか懐かしい雰囲気もあり、男性で、しかも年齢的にはこの曲のターゲット層からはかけ離れてしまっているオジサンなのですが、この曲の虜になってしまいました。BTSとしては、虜にしたいのは、本来は若い女性なのでしょうが、こんなオジサンが虜になってしまってなんか申し訳ない気がしています。ファンの皆様にもお詫び申し上げておきます。

この曲を何度も聴くうちに、この歌詞に、背景を知らないと、ちょっとわかりにくいところがあると思いました。いろいろと調べて、自分なりに解明できた部分をメモとして書いておきたいと思います。ファンの皆様の参考になりましたら幸いです。自分勝手な解釈もあるかもしれませんが、そういう箇所がありましたらご容赦ください。

まずはこの曲の動画をご覧ください。



そしてこちらがこの曲がリリースされる前に使われていたティーザー動画。固形のバターが溶けて、ハートの形になり、さらにそれが溶けていくというアニメなのですが、何とオリジナルは1時間もの長さです。



このイラストもフォントも可愛いですよね。私はもともと黄色が好きなんですが、イラストのタッチもすごく好きです。この動画のように、女性のハートがとろけていくというのがテーマなのですが、この動画を見て、私の心もとろけそうです(笑)。

さて、この曲の歌詞でポイントとなるところを7点ほど解説したいと思います。

1.SMOOTH CRIMINAL

“Smooth like butter”という歌い出しです。「うまくいく」とかいう意味もありますが
これを訳すとすれば、文字通り「バターのように滑らかに」としたいですね。その後に続く“Like a criminal undercover”ですが、「姿の見えない犯人のように」という感じかと思います。これらはすべて、少し後の“Breakin’ into your heart”「あなたの心の中に侵入していく」という言葉にかかっていきます。実はこの部分は、マイケル・ジャクソンの名曲“Smooth Criminal”をモチーフとしていると言われています。

“Smooth Criminal”の曲のストーリーは、アニーという少女が、何者かに部屋に忍び込まれ、殴り倒されるという犯罪事件。みんな犯人捜しに大騒ぎしますが、Smooth Criminal(鮮やかな手口の犯罪者)は、跡形もなく消えているというもの。参考までにこちらがそのMVです。



この巧妙な犯人のように、そしてバターのように、あなたの心の中に忍び込むというような意味になります。出だしのダンスアクションがこっそり侵入しているような仕草をベースにしていますね。

2.POP LIKE TROUBLE

3行目で問題になるのが、“trouble”という単語。日本語でも「トラブル」というのは、問題とか、いざこざとか、苦境などを意味するのですが、実は、ここで言う「トラブル」とは、アメリカではおなじみのボードゲームの名前なのです。これを知らないと、ここの歌詞がさっぱりわかりません。

何十年も前から人気のゲームなのですが、4人でプレイして、中央部にサイコロが収納されているドームのようなものがあります。ドーム部分を押すと、サイコロが飛び上がるという仕組みなのですが、これを「ポップ」と言います。日本のすごろく的な部分もあり、サイコロの目の数、左回りに駒を進めていき、一周してゴールを目指すというゲーム。対戦相手が陣地に侵入してくると、やっかいなことが起こります。説明してもよくわからないと思いますので、こちらの動画をどうぞ。



私も実際にやったことがないので、よくわかりませんが、このボードゲームでサイコロを振って、いつの間にか相手陣地に侵入しているかのように、あなたの心の中に入ってくる、というようなイメージです。

あと、このトラブルというゲームボード、メーカーによって違うのですが、4つのホームベースが赤、青、黄色、緑に色分けられています。ミュージックビデオの中で、体育館のようなスペースで登場する7人のジャージの衣装が、赤、青、黄色、緑をベースにしているのは、何かこのボードゲームの色彩のような気がするのは私だけでしょうか?



3. MELT YOUR HEART INTO TWO

ここでひっかかるのが、あまりに魅力的な男子が、女子の心をとろけさせるというのは理解できるのですが、「心がとろけて二つになる」という箇所が疑問でした。とろけたら二つに別れることは物理的にはありません。

実はこの歌詞の前に、“When I look in the mirror”というフレーズがあります。鏡を見ているんですね。ここもマイケル・ジャクソンの“Man in the Mirror”を意識しているのかどうかは不明ですが、鏡を見ているということは、自分と、鏡に映った自分の二人がいるということになります。スーパースターとしての自分と、本来の素の自分という二人と言ってもよいかもしれません。こんな鏡を見ているスーパースターというプライベートな空間を共有できるファンはまずいないと思いますが(この状況を想像してしまうだけでファンは胸キュンなのでしょう)、鏡の中と、その前に立っている男性の両方に溶けたハートが二つに分離していくということですね。どっちも魅力的なので、ファンのハートは困ってしまうのです。こんな表現が許されるのはBTS以外にはいないでしょうね。

4.HIGH LIKE THE MOON, ROCK WITH ME, BABY

“Side step, right, left to my beat”「僕のビートに合わせてサイドステップ、右、左」に続いて、“High like the moon, rock with me, baby”「月のように高く、僕と一緒に踊ろう、ベイビー」というフレーズが続きます。マイケル・ジャクソンと言えば、ムーン・ウォークが有名ですが、この“moon”にそれがあるかどうかはわかりません。しかし、“rock with me”というフレーズは、マイケル・ジャクソンの若い頃のヒット曲“Rock with You”をかなり意識したものだと言えるでしょう。ちなみにこちらの動画が、その曲です。



5.DON’T NEED NO USHER

最初のうちは、この“Usher”というのは劇場などの「案内人」という一般名詞かと思っていました。しかし、歌詞をよく見ると、最初の“U”が大文字になっています。これはミュージシャンのUsherのことで、その次の“To remind me you got it bad”に登場する“You Got It Bad”というのは、Usherの20年くらい前のヒット曲です。ここの部分は、「あなたが(僕に)いかれてしまっていることを再認識させてもらうためにUsherは必要ない」という文脈になります。

Usherの“You Got It Bad”の動画はこちらです。



6.ICE ON MY WRIST, I’M THE NICE GUY

“Ice”というのはヒップホップの世界では、ダイヤモンドが散りばめられた時計のこと。ブレスレットでもよいのですが、氷のようにキラキラ輝く装飾品です。この部分、ネットを検索すると、“No ice on my wrist”(ダイヤモンドを手首につけてないけど)と表記してあるのも散見されるのですが、曲を聴いてみると“Ice on my wrist”で、明らかに“No”は入っていません。

ここの部分の補足です。“Ice on my wrist"と表記しているサイトと、"No ice on my wrist"と表記しているサイトあります。オフィシャルビデオのテロップが"No ice on my wrist"になっているので、これが正しいように見えてしまいます。しかし、歌詞をアップしている以下のいくつかのサイトでは、"Ice on my wrist"と表記しています。
- Genius Lyrics
- AZ Lyrics
- Billboard
- Cosmopolitan
- Stylecaster.com
- Seventeen
- Elle
- lyrics4kpop.com
- kpopcords.com

Genius Lyricsによれば、「ミュージックビデオでは、“No ice on my wrist"と書かれているが、正確を期するために音源を重視し、Genius Lyricsとしては“Ice on my wrist"とした」とのことです。また、このパートを担当しているSUGAをはじめ、メンバーの何人かが高級時計の所有者として知られているので、"Ice on my wrist"だと説明がつくとのことです。日本のサイトでは、“No ice on my wrist"が主流になっているので、ここは今後の論争になる可能性があります。ARMYのパワーには負けてしまうかもしれませんが。

ミュージックビデオでは、このラップのパートを担当しているSUGAが手首のブレスレットを見せています。


ダイヤモンドかどうかはわかりませんが、なにやらいろいろと付けています。ですので、この部分は、「手首はじゃらじゃら付けているけど、僕はナイスガイ」ということかもしれません。“N-ice guy”と書かれているのは、アイスと韻を踏んでいるわけです。

7.HOTTER, SWEETER, COOLER, BUTTER!

この曲の締めくくりとして出てくるフレーズ。最初の三つは形容詞の比較級なのですが、最後に“BUTTER”を持ってくるところが面白い。形容詞のように使っているところがとてもキュートな感じがします。この曲のヒットを通して、“Butter”という単語も変化していくかもしれませんね。

この他にも、いろいろと面白い表現があって語り尽くせないのですが、これはまたの機会に解説したいと思います。皆様の参考になりましたら幸いです。
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