思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

たまには新書『オスマン帝国 繁栄と衰亡の600年史』

2021-03-10 16:49:23 | 日記
珍しく新書を読みました。
小笠原弘幸『オスマン帝国 繁栄と衰亡の600年史』(中公新書)。

タイトルの通りで、オスマン帝国の600年史を
約300ページで駆け抜けます。
コスパいいな笑

ところでオスマン帝国って何かイメージあります?
私は限りなくゼロでした。
十字軍が戦ってた相手かな?(違う)

オスマン帝国は、1299年ごろから約600年、
つまり今から約100年前の20世紀初頭まで存在した大帝国。
ぜんぜん知らなかった…。
(ちなみに十字軍国家の最後、アッコン陥落は1291年です)

しかも単一王朝が長期存続したという点では
ハプスブルク帝国に匹敵するとか。
しかもしかも、読むとわかりますが、代々のスルタン(大帝)の
イスラム盟主っぷり、平均レベルがだいぶ高いです。
ハプスブルク家とか古代ローマ皇帝とかフランス王家とか
ちょっとクレイジーな当主が結構な確率で排出されていますが、
それを思うとオスマン一家はすごいよ優秀だよ…!

あれこれ読書をしていると、なんだかんだで
ヨーロッパの歴史に触れる機会は多いのに、
イスラム側って不思議なくらい印象が薄いなあ、
ってのが最大の驚きでした。
個人の問題かもしれないけど。

あと、オスマン帝国って、キリスト教の他宗教への厳しさに比べると、
個人の信仰に対してとっても大らかな印象。
多民族、他宗教に寛容な国だったんですね。
だからこそ長期的な繁栄があったし、
第一次世界大戦前の民族意識の高まりというか
ナショナリズムの台頭に、敗北したのかもしれません。
難しいね。

世襲問題に関しては、王族の「母」系の親戚がでしゃばらないように
王太子の母は奴隷から選ぶとか、なるほどと思った。
兄弟殺しはどうかと思うけど。

新書ですし、600年分の歴史でもあるので、
それぞれのスルタンの人間的エピソードとか
歴史豆知識みたいな遊びの部分はありませんが
各章が短くて読みやすいので、入門編としてオススメです!

で、次はまた西欧側視点に戻りますよ。
塩野七生『ロードス島攻防記』!
十字軍の落胤・聖ヨハネ騎士団と、
オスマン帝国スルタン・スレイマンが戦うよ!!
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池波正太郎『散歩のとき何か食べたくなって』健啖である

2021-03-09 11:04:48 | 日記
池波正太郎『散歩のとき何か食べたくなって』。

昭和50年頃に書かれた食のエッセイ。
主に都内の名店を紹介しつつ、
街並みの思い出などを語っています。
当時50歳前後の池波正太郎の思い出だから、
若かりし頃の戦前の風景にかる〜く飛びます。
なんなら祖父や母から聞いた開国前の江戸まで飛びます。

おじいちゃんから聞く思い出話みたいだ。
(うちの祖父は岩かってくらい無口だったけど)

銀座の煉瓦造オフィスが近代ビルに取って変わり、
日本橋が高速道路に蓋されるのを嘆く様は
過去の過去を知っている世代ならではなのかな、と。

我々の世代だと一周まわって、
日本橋の上で踏ん張る高速道路の背骨に愛嬌を感じませんか。
そうでもないか。

江戸時代の甘味処は小部屋もあってあいびきに使われていたとか、
そういう江戸知識はさすがで、おもしろいです。
知らなかった〜。

池波御大は初めてのお店にも気後れせず入れるらしいので、
評判を聞いた店を見つけるとぐいぐいいくし、
とにかく健啖で飲むわ食うわ甘味もいただくわで
読んでいて気持ちいい。

カウンターだけの天ぷら屋とか、
ひとりで入れる大人になりたいもんです…。
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【読書メモ】2014年11月 ②

2021-03-08 14:54:59 | 【読書メモ】2014年
<読書メモ 2014年11月 ②>
カッコ内は、2021年現在の補足コメントです。


『月光ゲーム』有栖川有栖
学生シリーズ。
『孤島パズル』も読んだけど、部長の記憶がほぼない…。
途中で悩まないし捜査や無駄推理しないから
ちょっと影が薄いのかな。
御手洗みたいなパンチがあるタイプでもないし。

(<学生アリス>シリーズの第一作目。
 大学のサークル・推理小説研究会のメンバーで行った
 キャンプ先が「THEクローズドサークル」となり、
 殺人事件が起き…、という本格ミステリの見本のような作品。

 謎解きもロジカルで、読者への挑戦もあって、
 ミステリ入門のためにはとてもとても良いシリーズです。
 読んだ当時は若かったので(と言っても30半ばである。若くはないな)
 青春臭い登場人物の会話が苦手だったんですが、
 もはや温かい気持ちで見守れちゃう年齢なので、
 再読したら楽しめる気がします!
 意外とトリック覚えてるけど!
 そして相変わらず、その動機はどうなのよ?!とは思います。

 青春っぷりを温かい気持ちで読めた
 『双頭の悪魔』の感想はこちら



『ちみどろ砂絵』都筑道夫
<なめくじ長屋>シリーズというものらしい。
先生、思った以上に金に汚く稼いでそうなんだけど、
その割に貧乏だな。
貯金してんのかな。

(初版は1969年なんですね。結構ふるい。
 ビートたけしが主演で映像化もされたそうですが、
 1990年、もはや30年前か…。
 なめくじ長屋に住む砂絵師「センセー」が
 長屋の住人たちを手下がわりにつかって謎を解く短編。
 ショート・ショートと言ってもいいくらいの短さなので
 復刻版は「ちみどろ砂絵」「くらやみ砂絵」2冊合本に
 なっているみたいです)



『ガーデン』近藤史恵
女子の一人称の感じが好きじゃない。
『サクリファイス』を読んだときは面白いと思ったのだけど。

(今泉探偵が出るシリーズは、ほぼほぼ歌舞伎ネタらしいのですが、
 二作目であるこの『ガーデン』だけ異なります。
 不思議な魅力を持つ娘「カヤ」を探す若い女性依頼人。
 謎、、、というか、よくわからん、、、というか、なお話し。
 『サクリファイス』が大藪春彦賞受賞や本屋大賞2位で話題になり、
 私もおもしろいと思っていたので、ちょっと、辛口になってしまった)
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本から本へとモーパッサン

2021-03-04 10:35:24 | 日記
中島京子『夢見る帝国図書館』でとにかくおもしろいのが
帝国図書館の歴史を辿る作中作。

その中にこういう章がある。
「夢見る帝国図書館・15
 昭和8年のウングリュックリッヒ(不幸)
 『女の一生』山本有三」

山本有三の代表作は『路傍の石』だけれども、
かつては『女の一生』もベストセラーだった。
それはともかく『女の一生』という作品はいくつもあるよね。
という話し。

杉村春子の舞台で有名な森本薫『女の一生』を挙げつつ
最も有名なのはモーパッサンの小説ではなかろうか。と。

まあ、日仏いずれも女主人公であるところの
允子(まさこ)だかジャンヌだかが
封建的と言える時代に恋やら失恋やら苦労やらする物語である。
ついでに帝国図書館では山本有三作品にスポットを当てている。

それはさておき、私は最近モーパッサンの話題を
他の読書でも見かけたぞ。
なんだったっけ(読んだ端から忘れる)と思ったら、
井伏鱒二『川釣り』収録の『釣魚雑記』だった。

井伏鱒二にとってモーパッサンは
「釣りの好きな人であったに違いない」作家で、
「釣魚に取材して、これほど釣人の神経を浮き彫りにできるのは、
それだけでも大したものである」という作家だそうで。
ちなみに井伏鱒二が褒めているのは『あな』と『二人の友』で
この評だけ読むと釣り好き呑気おじさんのユーモア短編ぽいけど
まあ、そういう話しではない。
むしろ暗い気持ちになる気がする内容ですが、
井伏鱒二的には「釣り」の話しがしたいだけなのでオールオッケー。

あんまりにも違う角度でモーパッサンが出てきたので
あっちのモーとこっちのモーがすぐに繋がらなかったんですが
ハイボール飲んだくれた後にお風呂入りながら、
最近やけにモーパッサンモーパッサンしてるけどなんだっけ…
と考えて、ようやく繋がりました。

だから何だって話しですが、
読書のちょっとしたこととちょっとしたことが
繋がっているのって、結構うれしくないですか。
私はたのしい。

あと、
お酒とお風呂は、つれづれなる思考にとって、
最高のおともですね。
同時にやると危ないけど。
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中島京子『夢見る帝国図書館』一冊で3度おいしい!

2021-03-03 10:56:56 | 日記
中島京子『夢見る帝国図書館』。
優勝。
あれ?この小説まだ何も受賞してないの?
すでにひと通りの文学賞はお持ちの作者ですが…
こちらに何かください。誰か!山田くん!

はい。

小説家の<わたし>が語る、
上野の図書館が大好きな喜和子さんという変わったおばあちゃん
(と言っては失礼なくらい若々しいけれど)のお話しです。

喜和子さんという不思議な女性の物語に、
<わたし>が喜和子さんから聞き取ったと思われる
帝国図書館の歴史話しが挿入されている。

この作中作が、最高に良い!
真面目にとぼけた文書で、史実はしっかりしている。

永井荷風の父・久一郎氏の憤激。
図書館に通う綺羅星のような一校生徒たち
(和辻哲郎、谷崎潤一郎、菊池寛、佐野文夫、芥川龍之介)。
図書館が恋した樋口一葉(半井桃水ダメ男説には同意だ)。
吉屋信子の日比谷図書館・中条百合子の帝国図書館。
すごく良い。
すごく面白い!!

後半、明らかになる喜和子さんの過去は
ザ・封建時代な女性の扱われ方を浮き彫りにしていて。
それは物語の底に静かにずっと流れているテーマでもある。
ちょっとつらい。
昭和の田舎生まれの私にとっては未知ではないというか、
思うところがたくさんある。

とはいえもちろんジェンダー小説ではないのです。
ものすごく上質な物語の上に、
図書館と文学と政治との知識が凄い濃い。凄い密。リッチ!!
作者は本当に博覧強記なんだな。

優勝!!!

ちなみに単行本の表紙ですが、
以前ツイッターで見かけていいなと思っていた
「路地裏シェルフ」の写真でした。

単行本の背表紙サイズの路地裏ジオラマ。
本棚に秘密の通路が拓ける風景がつくれちゃう!素敵!
mondeさんというアーティストの作品だそうで、
量産はされていないのだけど、見ると欲しくなる。

喜和子さんのおうちも、上野・芸大を抜けた向こう、
路地裏にある元長屋の狭小2階建。
玄関のタタキ脇の狭い台所、その上にかかる急な階段、
6畳一間にちゃぶ台、銭湯通い…、憧れる!
私もそこの2階に下宿したい!!
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