思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

【読書メモ】2016年7月 ②カズオ・イシグロ

2022-08-24 15:13:12 | 【読書メモ】2016年
<読書メモ 2016年7月 ②>
カッコ内は、2022年現在の補足コメントです。


『私を離さないで』カズオ・イシグロ

(以下はネタバレ全開の感想メモです)

提供者という表現が、なんらかの抽象的な概念なのかと思っていたら、
冗談抜きで「提供者」だということに、じわじわと気づかされる。
じわじわと衝撃を受ける。
「提供者」と呼ばれるクローン人間がつくられている世界。
読了してからの衝撃や、考えさせられる感や、
あれやこれやの混乱が半端ない。
名作だと思うけれど、ヘビーだ。
前半を読みながら「輝夜姫」と設定が似てるのかな?と
思ったりしたけれど、
まったくちがう。
キャシーは介護人が終わったら、提供にまわるのだろうか。
臓器にも鮮度があって、30歳を超えたら猶予というか引退できる、
とか、そういう救いがあることを望む。
ヘールシャムや他の施設の暮らしを想像しただけで、
怖くて身がすくむ。

(『侍女の物語』を読んだ際には
 『私を離さないで』を思い出しながら
 「なにこのディストピア!!」と叫んだものですが(脳内で)、
 いやもう、改めて、凄い作品だよなあ。どちらも。
 「侍女」が抽象的(且つ欺瞞的)な呼び名なのに対して
 「提供者」は文字通りなんだよなあ。
 どっちもヘビーである。
 2016年ベストというか、衝撃ナンバー1の作品でした。
 ということをだらだら書いてる当時のブログはこちら

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【読書メモ】2016年7月 ①ばなな

2022-08-23 13:28:55 | 【読書メモ】2016年
<読書メモ 2016年7月 ①>
カッコ内は、2022年現在の補足コメントです。


『デッドエンドの思い出』よしもとばなな
短編集。
吉本ばななと、村上春樹の文章は、
読んでいて気持ちよくてストレスゼロで、
うっかりすると、私も書けそうと思ってしまうところが怖い。
家族に愛されて育って、でもそれだけだと何かが欠落して、
欠落に気づかないままなんとなく幸せに人生を終えてしまうのでは、
という危機感。
わかる気がする。

(『幽霊の家』『おかあさーん!』『あったかくなんかない』
 『ともちゃんの幸せ』『デッドエンドの思い出』
 5篇を収録した短編集。
 吉本ばななは大学生時代に『キッチン』を読んで
 こういう小説があるんだ!と衝撃を受けまして、
 結構、読んでました。
 とはいえ働き始めてからは疎遠になっていたので
 読書メモ(社会人2年目から書き始めた)には
 あまり登場しない。
 なんというか、懐かしい旧友の消息を知るみたいだな)
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『薔薇の名前』お腹いっぱいです

2022-08-22 13:57:53 | 日記
『薔薇の名前』
ウンベルト・エーコ
河島英昭:訳

遠い遠い昔のことですが、
大学の選択授業に「『薔薇の名前』を観る」という、
映画を教材にした授業がありました。
何それ、超おもしろそう。勉強がはかどりそう!
と思うのは私が中年になったからであって、
当時の私は爆睡していました。
映画を流すために教室が暗かったから…。

タイムマシーンに乗って学生時代の自分に
ちゃんと講義を聴け!と言いたい。言っても無駄だと思うけど。

と、後悔しながら読みました。『薔薇の名前』。
わからない部分もあったし、
調べた上でわからない部分もあった。
でもおもしろかったよ!
授業をちゃんと聴いてたらもっと楽しめたと思うけど!
ちくしょう!!

『薔薇の名前』の本筋は、
1327年の北イタリア・ベネディクト派に属する僧院が舞台の
連続殺人事件。

とはいえ物語の大半は、宗教論争やら象徴学やら記号論やら
宗派争いの思想解釈やら、とにかく難しい話。

ベネディクト派とフランチェスコ派と小さな兄弟派と
清貧論争と異端論争と…って、もう出てくるテーマが難しくて
脳みそオーバーフロー。
がんばれ私。(がんばった)

そんな荒波に揉まれながら、
探偵役のウィリアム師と弟子のアドソが殺人事件の謎に挑みます。
奇妙な形をした秘密だらけの文書館、羊皮紙に残された暗号、
「ヨハネの黙示録」の見立て殺人などなど、
おもしろミステリ要素満載!!

なんだかんだで、分厚い割にサクサク読めます。
楽しめます。


今後のために、構成とか時代背景とかのメモ

・『薔薇の名前』は
 エーコ(作者)が中世の写本(アドソの手記の写し)を手に入れた
 という体裁の“枠物語”。
 枠物語代表は『デカメロン』ですが、
 個人的には『アラビアの夜の種族』や『死の泉』だな、と。
 ところで作者が「南米の古本屋」で稀少本を手に入れるパターンって、
 他にもなかったっけ?(思い出せない)

・主人公ウィリアムを派遣したのは、神聖ローマ皇帝ルートヴィヒ4世。
 塩野七生『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』の直後(1250年没)の
 大空位時代(1254~1273)を経た、非世襲時代の王。
 とはいえジワジワとハプスブルク家がライジングしてる時期でもある。
 歴史の知識が接続すると、楽しい。

・ヨハネス22世。
 作中でめっちゃ悪口言われているローマ教皇。
 教皇庁がローマではなくアヴィニョンにある「アヴィニョン捕囚」2代目。
 とはいえ元々がフランスの金持ちなので、アヴィニョン生活に満足だった模様。

・フランスのフィリップ4世
 二つ名は「美男王」「端麗王」、在位1285年〜1314年。(『薔薇の名前』のちょっと前)
 テンプル騎士団の財産を狙って、異端裁判を仕掛けた絶許王である。
 この人が教皇庁をアヴィニョンに力技で移したので、
 この時期の教皇は「アヴィニョン捕囚」と呼ばれる。

・神聖ローマ皇帝フリードリヒ3世(フリードリヒ美王)
 え?誰?
 落ち着け。
 ローマ王の選出がなぜか二重にされたため、
 ルートヴィヒ4世と「共同統治」という立場にあった
 もう一人の神聖ローマ皇帝(仮)。ハプスブルク家の人。
 1330年没後は、ルートヴィヒ4世の単独統治。
 お前も「美王」なんかーい!とか、
 『薔薇の名前』のwikiでウィリアムを派遣したことになってたり(誤り)とか
 色々とややこしい人。


・ところで、京極夏彦の『鉄鼠の檻』って、『薔薇の名前』の禅宗版だよね
 肥溜めでスケキヨしてるし
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『ロシア文学の食卓』ブリヌイ食べたい

2022-08-18 13:35:23 | 日記
『ロシア文学の食卓』沼野恭子

ロシア料理をロシア文学に絡めて紹介する本です。
前菜から始まってスープ、メイン、デザートまで。

コース料理というとフランスのイメージがあるけれど、
もともとロシア発祥。
温かい料理が冷めないように、出来たてを給仕が順番にサーブする
という誠にロシアらしい由来のスタイルだったそうです。

ちなみにフランス料理は、テーブルいっぱいに料理を並べて
豪勢に見えることが良しとされていたみたいです。
なんとなく納得である。

以下、覚えておくと知ったかぶりができそうな用語メモ

【ブリヌイ】
薄いパンケーキ
バターをたっぷり塗って、イクラやキャビアやサーモンを載せる
って、超おいしそう!食べたい!
(チェーホフ『おろかなフランス人』)

【シチー】
キャベツのスープ。
シチューではない。
ロシア南部(ウクライナ側)はボルシチが多く、
北部に行くほどシチー派になるとか。

【カーシャ】
穀物の粒を砕いた挽き割りを煮たお粥。
オートミールぽいのか?
「ひとつのカーシャを食べた者」は
「同じ釜の飯を食う」と同じ意味のことわざ。

【ダーチャ】
都市郊外にある菜園つきセカンドハウス

【ロシアの斎戒期間】
ロシア正教では年間200日前後が斎戒期らしい。
ほとんど肉食べられないじゃん。
大斎期明けの復活祭では御馳走を食べる。
白鳥とか、孔雀の丸焼きとか。
え?

料理に絡めて紹介される小説も、
トルストイのような超メジャー作家から、
現代作家まで幅広くピックアップされていておもしろいです。
『ペンギンの憂鬱』が出てきたのが良かったな。

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『お探し物は図書室まで』ほっこりフォーマットの短編集

2022-08-16 13:26:07 | 日記
『お探し物は図書室まで』青山美智子

人生に悩んでいる老若男女が、
とある場所にいくことで
現状を打開するヒントになったりするやつ。

『猫のお告げは樹の下で』と同じですね。
作者はこのフォーマットがお好きなのかな?

今回は、とある町のコミュニティセンターに併設されている図書室。
ふっくらした年齢不詳・ベイマックスっぽい司書の「小町」さんに
勧められた本がきっかけになる。
(本の付録として羊毛フェルトをくれる。かわいい)

自分の仕事に価値を見出せない量販店勤務の女の子。
定年後、なにをやったらいいのか途方に暮れている男性。
出産した途端閑職に異動させられるバリキャリ女性。

いろんな人生があって、いろんな悩みがあるんだなあと
しみじみできます。

しかしまあ、こういう人生考え直してほっこり系の
フォーマット短編集
この数年ですごく増えた感じありますよね。
時代かな?
昔からあるんかな?
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