「たがわゼミナール」第4回(10/30)は、「春日神社宮帳と中世の田川」をテーマに、佐藤凌成さん(北九州市立自然史・歴史博物館学芸員)にご講演いただきました。
春日神社宮帳(元亀2年/1571年)は、田川市内に現存する最古の古文書で、福岡県指定有形文化財に指定されています。中世文書の残りが少ない北部九州の中で、重要な史料となっています。
宮帳には、弓削田荘(現在の田川市西部に所在)の荘鎮守であった春日神社の祭祀が詳述されており、16世紀後半における神社祭祀を通じた各村との関係がうかがわれます。
また、宮帳には、当時の政治情勢を解明する手がかりが記述されていることが、最近の研究でわかってきました。永禄年間(1558-1570)に大内氏が衰退するにともなって、大友氏・毛利氏が北部九州へ進出を開始し、北部九州争奪戦を展開します。そのキーパーソンとなったのが、秋月種実でした。種実は父を大友氏に討伐されて毛利氏の領国(現山口県)に亡命しますが、後に秋月(秋月氏の本拠、現朝倉市秋月)に帰還し、反大友の急先鋒となります。
この秋月種実が秋月へ帰還した年はこれまで不明でしたが、春日神社宮帳に「永禄2(1559)年春に、秋月・千手両家が起こした軍事行動のため、神社が焼失した」と書かれており、種実は1559年時点で秋月へ帰還していた可能性が高いことがわかりました。したがって、少なくとも1559年以降には、秋月種実は、北部九州のパワーゲームに加わっていたようです。
春日神社宮帳は、当時の田川の地域社会を知るのみならず、北部九州を巻き込んだ情勢の解明にも一石を投じる貴重な史料といえます。
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次回の第5回「たがわゼミナール」は、田川地域に伝承される民俗芸能や祭礼行事にまつわる講座です。みなさまのご参加をお待ちしております。
「たがわゼミナール」(博物館講座)・第5回
「田川地域の無形民俗文化財」
講師:長谷川清之さん(田川郷土研究会)
○日時 令和4年12月4日(日)13:30~15:00
○会場 田川市民会館 講座室1
○申込 田川市石炭・歴史博物館へ電話にて申込ください(TEL:0947-44-5745)