デパートが昔日の面影を失いつつあるらしい。
首都圏・関西圏・地方を問わず、有名デパートや老舗百貨店の閉鎖、改廃が進んでいるようだ。
かつてデパート・百貨店は小売業の華、女性たちのパラダイスだった。
昭和の高度成長期、東京都内の私鉄線の始点ターミナル駅に系列のデパート出店が相次ぎ、全国の中堅都市の街の中心にはデパートが必ずあった。平成期には首都圏の私鉄線の終点ターミナルにもデパートが開店した。
バブルが弾け、流通と消費の構造が変わり始めたとき、呉服店をルーツにもつ日本の百貨店は、ブランドイメージへの依存が強い体質を自ら克服しきれなかった。合併や店舗の統廃合を推めたものの、経営が直面していた構造変化の波を乗り越えることはできなかった。この10年、全国規模で旧来のデパート・百貨店が消えている。
ある時妻とデパート内で食事をし、同じ階の婦人服のバーゲンセール会場に行った。気に入った服があったらしく、当人が足を止めた。どこからともなく現れた年配の女店員さんが早速声をかけてくる。
「お似合いですよ!ご試着してみては?」
「私には派手じゃないかしら?」
「とんでもない!お顔が派手だから、ピッタリだと思いますよ!ねぇご主人!」?!?!?!
あいにく亭主は、子どもの頃から派手な顔は好きでない・・・無礼な!
「お顔が派手」とは、昭和生まれの女性にとって決して褒め言葉ではない。そう言われて嬉ぶ女性は殆どいないと思う。「綺麗」とか「お若い」とかの、女性が喜ぶ賛辞ではない。
私はこの女店員さんは禁句を発したと思った。案の定、妻は忽ち商品に興味を失った。「派手なお顔」は当人には嬉しくない。引け目なのである。不愉快になったであろうことは、亭主にはすぐ判る。
当の店員さんは卸業者の社員で、ノルマがあったのかもしれない。つい売らんかなの意気込みで、禁句を発してしまったに違いない。私は一部始終を観察し、興味を覚えた。私が店員さんだったら、「お顔がエキゾチックだから」とカタカナ語を発しただろう。
日本人は目鼻立ちのハッキリした顔より、個々のパーツが目立たない、地味で調和のとれた面立ちに美を見出す民族である。これは日本人の美意識全般にわたって通ずる、一般的傾向かと思う。
近頃は、グローバル化のせいか、派手な顔が享けているようである。コーカソイド系の容貌を美貌の世界標準に据えると、そうならざるを得ない。メークアップ術や整形美容の普及で、年々日本の娘さんたちの顔は派手になる。地味な顔立ちは旗色が悪い。将来「派手なお顔」は、褒め言葉になっているかもしれない。
デパートでは私自身も不愉快な目に遭ったことがある。
既に老年に達していたが、市内のデパートの紳士服売り場を通り抜けた際、ちょっと立ち止まりマネキンが着ていたジャケットを見ていたら、待ち構えていたように中年の女性店員さんに捉えられた。
「麻ですから、これからの季節とても涼しく、着心地が好いですよ!」と勧めてくる。
「今着ているのが麻混だから要らない」と断り、行き過ぎようとしたら、なんと私の着ているジャケットの裾を右手の親指と人差し指で挟んで指触りを確かめながら、「麻?!麻かしら?」
面倒臭くなったので「ボリエステルかもしれない?」と立ち去ろうとしたら、失礼にも「麻?麻!」と人の服を摘んだまま、隣の売り場まで跟いて来た。強引なセールスというより拘りの強い人だったのかもしれない。男性は大抵、熱心な女店員さんは苦手である。
カジュアルウェアの売り場で、「お顔がカジュアルだからとってもお似合い!」と言われたら、どんな温厚な紳士でもムッとするだろう・・・
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