道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

乳酸発酵食品

2020年01月30日 | 健康管理
若い頃は食生活を軽んじていた。結婚して妻の手料理を食べるようになって、食が健康の根幹であることを実感し、重視するようになった。以来不自然な食品や加工度の高い食品を避け、なるべく素材を簡素に調理した食物を食べるよう心がけている。

ザワークラウトを家で漬けるようになったのは10数年前だった。そもそもの始まりは、キャベツに常在しているといわれる乳酸菌の存在と発酵の過程を知りたかったこと。同じ頃、ブドウやベリー類に付いている天然酵母の発酵も、興味深く観察した。

植物は、酵母や乳酸菌と共生することで、病原菌や腐敗菌から身を守っている種が多い。ブドウその他の果物に付着している天然の酵母はよく知られているし、キャベツ・白菜・小松菜などのアブラナ科の植物に天然の乳酸菌が常在している。キュウリなどウリ科、トマト・ナス・ピーマンなどナス科、セロリ・ニンジンなどセリ科の植物と、土の中で成長する大根・ゴボウ・レンコンなどの根菜類などは、この菌と共生しないようだ。土壌菌の居る酸素の少ない土壌中では、乳酸菌は生息できないのだろうか?

衛生観念の強固な妻は、初めザワークラウトづくりに難色を示していた。生食または加熱して美味しいキャベツを、なぜわざわざ発酵させるのか?発酵腐敗をどう見分けるのか?これには、乳酸菌の効用を縷々説いたうえ、私が実験台になり、何度も食べて見せ食中毒しないことを漸く納得してもらった。それが今では、わが家の朝食に欠かせない常備菜となっている。

製法は至って簡単、キャベツを刻み月桂樹の葉やキャラウェイシードと塩を加え甕に入れ、重しをする。水が揚がると甕の中は自動的に半嫌気環境となり、乳酸菌が増殖を始める。気温によって発酵速度に違いが出るが、好みの酸味になったら、容器から出し別の瓶に詰め替え冷蔵庫で保存する。

実はザワークラウトをつくるようになって初めて、伝統食品の白菜漬けも本質的にはザワークラウトと変わらない乳酸発酵食品であることに気づいた。私たちは、和風食には白菜漬けや高菜漬け、洋風食にはザワークラウトやピクルスで、年中腸内細菌叢を健全に保つことができるのだった。

ザワークラウトの効能を知って次に試行したのが、乳酸菌を活用したピクルスづくりだった。生野菜嫌いの私でも、香味の強いピクルスなら好んで食べる。特に、ビールを飲むときやチーズを食べるときなど、これが付け合わせにあるのと無いのとでは満足感が違う。

ピクルスの材料野菜のキュウリ・セロリ・ピーマン・ニンジンなどは、天然では乳酸菌と共生していない。アブラナ科のキャベツ・白菜・小松菜などとは異質な植物群であるようだ。したがって塩漬けにしても、そのままでは乳酸発酵はせず、酸味が得られない。

一般のピクルスづくりは、ワインビネガーと香辛料の調味液に材料を浸漬する方法でつくられる。量産されている市販品もこの製法だ。しかしこのつくり方では、体に有効な乳酸菌とその発酵生成物は摂取できない。生菌ピクルスこそ、健康効果のある真正の発酵食品と言える。

ポーランドでは、乳酸発酵によるピクルスづくりが一般的に行われると聞いて、在留の方のレシピをネットで入手し試みたが、成功しなかった。そこであれこれ思案し、わが国伝来の糠床漬けをヒントに、米糠の乳酸菌を補助的に利用する方法を思いついた。

糠漬けは米糠に常在する天然の乳酸菌を繁殖させた糠床を利用して、乳酸菌と共生していない野菜を強制的に乳酸発酵させる方法である。
これを米糠床でなく米糠液ではどうかと試したら、予想以上に上手くいった。

製法

①広口瓶の3分の1程度の米糠に適量の塩を加える。
②瓶の半量まで水で満たし、発酵促進用に乳酸菌が常在しているキャベツの芯や捨てる葉などを入れる。
③液に酸味が出始めてから、材料の野菜を漬け込み、風味付けに月桂樹の葉や好みの香辛料を加える。ただし、殺菌力のあるニンニク・唐辛子・ワサビ・生姜など発酵を妨げる生の香辛料を投入してはいけない。

材料が米糠液の上に出て空気に触れないよう、落し蓋をしたり液量を調整する。材料が空気に触れていると、好気性の産膜酵母が繁殖して独特のシンナー臭を発する。落し蓋ができないときは、1日1回の撹拌をすれば良い。

この米糠液でのピクルスづくりは、糠味噌臭さとは一切無縁である。あの嫌な糠味噌の臭いは、嫌気性の酪酸菌の発酵が原因だという。昔から糠床の天地を毎日返す作業をするのは、米糠床を空気に触れさせることで乳酸菌の繁殖を援け、酪酸菌の増殖を防ぐためのものである。それでも糠床の底の嫌気環境は酪酸菌にとって好適なので、よほどマメに天地返しの作業をやらないと、ぬかみそ臭さが発生する。

糠液は糠床よりはるかに好気環境なので、嫌気性の酪酸菌は増殖しない。したがって糠味噌臭はほとんど発生しない。糠液漬けは糠味噌臭さとは無縁である。

それにつけても、米糠をブースターとして、乳酸菌不在の野菜を乳酸発酵させる仕組みを考えついた先人の知恵には感服のほかはない。

腸内環境の保全に、延いては健康維持に効能が高い植物性乳酸発酵食品について書いてきたが、これらの発酵食品を食べるにあたっては注意を要することもある。

先ず乳酸発酵には塩が必須だから、高血圧や腎機能に問題があって塩分を控えている人には勧められない。
また、甲状腺の機能に問題があって、医師からキャベツその他アブラナ科の野菜を控えるよう指導されている人は、ザワークラウトを常に食べてはいけない。病気を悪化させる微量成分がキャベツなどにはあるという。乳酸菌とその発酵生成物は、動物性乳酸菌のヨーグルトからでも摂れるのだから、リスクを冒すには及ばない。




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7 コメント

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Unknown (stagea_1963)
2020-02-01 18:56:42
はじめまして。小松音楽教室と申します♫
この度はフォローしていただきありがとうございますm(_ _)m
ブログ、覗かせていただきました。
とてもためになりましたが、私には覚えられない(^^;;
メモしておきます_φ(・_・
これからも、ちょくちょく覗かせていただきますので、宜しくお願い致しますm(_ _)m
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Unknown (tekedon638)
2020-02-01 19:10:26
コメント有難うございました。
つまらないことに関心をもつ癖があります。ご笑覧よろしくお願い致します。
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Unknown (はつね)
2023-08-07 06:35:41
はじめまして。
ご自身で試行錯誤して成功に結びつけているのが素晴らしいです!
私は、本場の御年配の方が漬けたぺそら漬けの衝撃的な美味しさが忘れられず、ぺそら漬けに挑戦すること2度目の夏。
何度か漬けるものの、なかなか難しくて思ったように発酵が進まず、似ているというザワークラウト、乳酸菌と酪酸菌について調べていていたところこちらに行き着きました。
乳酸菌より酪酸菌が優位になってるのかなーと思ってどうにかしたいと思いつつも、相談相手もおらず参考資料も少なく右往左往。
ぺそら漬けは水分が多いため酪酸菌が繁殖しやすいのか?温度や湿度が高すぎるのか?はじめに乳酸菌優位の環境を作るため、もっと塩分濃度を上げたら良いのか?水を変えるタイミングは?茗荷のえぐみはどうやったら消えるのか?
などなど謎がいっぱい。難しすぎる......!!😭
迷走しておりますが、なんとか私も成功に辿り着きたいものです......。道のりは果てしない。
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Unknown (tekedon638)
2023-08-07 07:21:11
興味深いコメントをあただきまして、有難うございます。
寡聞にして老生、べそら漬けをこれまで知らず、賞味したこともありませんので、ウィキペディアの記事をもとに、ご回示させていただきます。
先年、念願の最上川が見たくて、銀山温泉、酒田、湯の浜温泉から背炙り峠を越え米沢に下る旅をしましたが、残念ながら、宿でそれと知らず食べたかも知れません。

野菜の乳酸発酵につきましては、散々失敗もしていますので、老生の乏しい知識でも何か参考に、お役に立てたら幸甚と筆をとりました。

先ず素材のナスですが、ナス・ピーマンなどこナス科の植物は、キャベツやダイコンなどアブラナ科の植物と違って、植物自体が乳酸菌と共生していず、むしろ乳酸菌には有害な成分があるかと思います。
ですから、乳酸菌をもってる植物のように、塩をして重石をしておけば乳酸発酵するものではありません。
そのような野菜は、米糠の乳酸菌をつかい、糠の乳酸菌をはブースターにしなければ、乳酸発酵の効果が得られません。糠漬けにするの
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Unknown (tekedon638)
2023-08-07 07:36:26
誤って文が途切れ,失礼しました。
また、薬味として、ミョウガもお使いになるようですが、ショウガ科の植物は、ニンニク同様乳酸菌生育にブレーキをかけます。

酪酸菌は、全ての漬物には有害に働くので、よく攪拌して空気を絶やさないように、酪酸菌の発生は抑えなければなりません。

私の推測では、べそら漬けは、米糠の乳酸の支援を受けなければ、乳酸発酵による効果を得られないと思います。

最上川の船中で水に浸かり、色が抜けたナスが、船内にあった米か、糠と混合して偶然乳酸発酵の効果を得られたことで、べそら漬けが誕生したとしたら、楽しいですね。

私も調べてわかることがあったら,ご報告します。
コメント有難うございました。今後もよろしくお願い致します。tekedon638
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Unknown (tekedon638)
2023-08-07 07:44:39
ご参考までに、当ブログ記事をご高覧ください。
https://blog.goo.ne.jp/tekedon638/e/c6efe631f81198e268475f8f1ab0501b
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Unknown (tekedon638)
2023-08-07 09:58:32
すみません。「ペそら漬け」だったのですね。「べそら漬け」と誤って書いてしまいました。
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