1.クマラスワミ報告と秦郁彦
歴史家の秦郁彦は東京でクマラスワミと一時間ほど質疑した際に「慰安婦の雇用契約は日本軍でなく民間業者との間でむすばれた」と指摘したことが、同報告書では「秦は慰安婦が日本陸軍と契約を結んでおり、月あたり兵隊の平均(15~20円)の110倍(1000~2000円)もの収入を得ていたと信じている。」と歪曲されて記載され、「まことの心外」として批判している。
a.【ミクロネシア慰安婦虐殺事件】
年代も曖昧であることから、これは全くの事実誤認で、かつ史実に基づくものではなく、もともとは直木賞候補にもなった日本共産党京都市議で作家の西口克己による小説『廓』(1969年)における記述(この小説の末尾に、1944年2月17日米軍のミクロネシアのトラック島での空襲中、日本軍が慰安婦を機関銃で皆殺しにしたとある。)に基づくものであろうと考証している。
秦はまた、そのような虐殺があれば戦後の大がかりなトラック島戦犯法廷で裁かれているはずだが取り上げられていない。トラック島第四海軍施設部にいた阿部キヨの回想では、空襲直後に女性陣総引揚命令が出され1944年2月28日には氷川丸などを乗り継いで帰国したが、100人ほどの慰安婦も同乗していたし「そのような事件は当時聞いたことがない」と証言していること、またトラック島で200人の部下を率いた元海軍主計中尉の金子兜太も同様の証言をしていることなどから、これは西口によるフィクションであるとしている。
b.【ジョージ・ヒックスの著作】
秦郁彦は、クマラスワミ報告の参考文献はヒックスの著作のみに依拠しているという。 また、ヒッグスの著作はどの文献を参照したのか脚注もついておらず、また原著にない部分を記していたりしており、初歩的な間違いと歪曲だらけの通俗書と評している。
c.【クマラスワミ報告に採用】
『千葉大学の歴史学者秦郁彦博士は「慰安婦」問題に関するある種の歴史研究、とりわけ韓国の済州島の「慰安婦」がいかに苦境に置かれたかを書いた吉田清治の著書に異議を唱える。秦博士によれば、1991年から92年にかけて証拠を集めるために済州島を訪れ、「慰安婦犯罪」の主たる加害者は朝鮮人の地域の首長、売春宿の所有者、さらに少女の両親たちであったという結論に達した。』
d.【北朝鮮人元慰安婦の証言】
秦郁彦はこのようなチョン・オクソンの証言は事実誤認が甚だしく、拉致された1933年の朝鮮半島は平時で戦地ではなく、また遊郭はあったが軍隊用慰安所は存在していなかったと指摘している。また、この物語は北朝鮮平壌で発行された「労働新聞」1992年7月15日に掲載された別の元慰安婦李福汝の身の上話と酷似している、としている。(李福汝は1943年に満州の慰安所で焼印を押されたあとで生首スープを飲まされたと語っていた)
2.wikipedia
日本軍による「朝鮮半島において婦女子を強制連行し慰安婦とした」ことについては否定的である。1999年、それまでの議論や様々な資料を広く参照し、おもに時代背景やその変化などから慰安所制度や慰安婦の実態を明らかにすることを試みた著書『慰安婦と戦場の性』を出版した。
1992年3月、済州島において慰安婦狩りをおこなったとする吉田証言について現地調査を行い、そのような事実が存在しなかったことを明らかにした。
フィリピン人では強要を認定せず、女性を慰安婦として募集した事例を記す。
オランダ人女性を慰安婦として採用したスマラン慰安所事件については、「承諾書に判を押させているから、みんな自発的だったと言っても、うそにはならんですよ」と言いつつ「なかには違反する部隊もあった」とする。根拠は大戦直後の軍事裁判で、これは判事が全て軍人、本人(慰安婦人)は法廷に出席せず、弁護側からの証人は一切受付けない、拷問(54人)、脅迫・強要(71人)、甘言・強要(38人)、白紙陳述書に署名強要(8人)、等を呈するものであったが、秦は「オランダ官憲の公正な手法に感銘する」と述べている。
「承諾書」に「違反する部隊もあった」については、「自由意志に依る者のみより採用す。本人署名せる宣誓書に依る」「例外は見たることなし。日本語及マレー語にて作成せられあることを要す」と、被告ではない、従って自己正当化する必要の無い監督参謀が証言しているのだが。なお、日本軍は婦人らとの意思疎通をマレー語に依った。
2007年3月5日、首相の安倍晋三が参議院予算委員会において「狭義の意味においての強制性について言えば、これはそれを裏付ける証言はなかったということを昨年の国会で申し上げたところでございます。」と答弁した。秦はこの答弁について、「現実には募集の段階から強制した例も僅かながらありますから、安倍総理の言葉は必ずしも正確な表現とはいえません。「狭義の強制は、きわめて少なかった」とでも言えば良かったのかもしれませんが、なまじ余計な知識があるから、結果的に舌足らずの表現になってしまったのかもしれません(苦笑)。」とコメントしている。
2014年、政府による「河野談話」の検証チームのメンバーとなる。
『慰安婦と戦場の性』英語版をアメリカの出版社から刊行する準備を進めている
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特にこのブログでは辛口の評価である秦郁彦先生であるが、以前から慰安婦問題では一目置いていた。左からは右翼とも呼ばれる秦氏だが、教科書裁判では家永三郎を変節組と批判するなどそれなりに現代史家でありながら右寄りではある。
前回の『秦郁彦の意味』では南京事件、富田メモで新聞社、ナベツネの御用学者と批判した。
よくよく慰安婦に関しての秦氏を調べるとご覧頂いた通りクマラスワミとの質疑では歪曲して記載され、異議を申し立てたが結局は無視されたままである。
日本国内では安倍総理を嘲笑したり、河野談話の検証チームとなるなど依然として重鎮扱いだが、
済州島の現地調査も二番煎じであったし、しっかり吉田清治がクマラスワミ報告に反映されてしまっている。まるで待っていたようなタイミングは
すべての歴史的検証が遅きに失していることを表しているとも言える。
挙句の果て今更英語版で書籍刊行で小銭稼ぎとは恐れ入る。
秦氏は間違いなく右の壁を作り、それ以上右傾化、或いは復古しないようにストッパーとバランサーの役割を果たしているつもりなのだろう。
法学者で歴史家は楽な商売であるとその仕事ぶりからは伝わってしまう。