大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

アメリカ、過去の減税の経済効果: かならずしもプラスといえず

2017年10月12日 | 日記

 いま世界中がアメリカの減税に注目している。

 ところで減税の経済効果は、私を含め多くの人が考えるほどはっきりしたものではないようだ。

 このことにかんして先日、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)にひじょうに興味深い記事がでた。

 初代ブッシュ大統領とクリントン大統領はそれぞれ1991年と1993年に、所得税の最高税率を引き上げた

 WSJによれば経済が冷え込んだかといえば逆で、それ以降2000年までアメリカ経済は平均4.1%の成長をとげた。

 一方、二代目ブッシュ大統領は2001年と2003年に減税をおこなった。

 その後10年間の経済成長率は平均1.7%にとどまった。

 もちろん、減税のあと強い経済成長が続いたケースもある。

 レーガン大統領は1981年に大規模な減税をおこない、その後さらに法人税を引き下げた。

 その後10年間の経済成長率は平均3.8%を記録している。

 ただレーガン大統領は、大規模な減税と軍備拡張(政府支出の増加)を同時におこなったため財政赤字が拡大し、金利の急上昇が生じた。

 そこから急激なドル高が生じ、輸入増加により米製造業は大打撃を受けることになった。

 WSJはさらに国の比較もしている。

 WSJは、ヨーロッパで税率の高いスウェーデン税率が低いスイスを比較し、1970年から2012年にかけてスウェーデンの方が経済成長率が高かったなどの例をあげ、税率の低さはかならずしも高い経済成長につなるとはかぎらないとしている。

 このブログでも、フィンランドの税率は日本より高いが、日本より高い経済成長をとげている事実を指摘したことがある。

 このことについてWSJは、アメリカでは一般的だが日本ではあまり言われないことを書いている。

 WSJは、もし減税によって財政赤字が増えるなら金利が上昇し、中・長期的にみると経済への悪影響が懸念されると述べている。

 共和党の進める減税がどのようなものになるか、しっかり見ていきたい。

追記

 ワシントン・ポスト紙(2017/10/9)によれば、強気で知られるゴールドマン・サックスはトランプ税制改革による経済成長率の上振れを0.1-0.2%程度と予測している。


電気自動車の急速充電、欧米で急速に進む: 日本は決定的に出遅れ

2017年10月09日 | 日記

 現在、家庭電源をつかうと電気自動車のフル充電には一晩かかる。

 この充電時間の長さが電気自動車普及をさまたげる要因のひとつとなっている。

 しかし、ここにきて、欧米では10分ほどで充電がおわる急速充電が急速に普及するきざしがでてきた。

 ニューヨーク・タイムズ(2017/10/6)は以下のように伝えている。

 ヨーロッパでは今年、次世代型350kw(キロワット)の急速充電施設が登場した。

 これを使うと10-15分で4-500km走れる電気自動車を80%充電することができる(ただしこれを利用できる電気自動車はまだ市販されていない)。

 独フォルクスワーゲンは、20億ドル(2200億円:1ドル=110円)を投じてアメリカの高速道路沿いにこの急速充電施設を設置していく予定-つまりVWは今後、急速充電可能な車を次々に発売していく予定なのだろう-。

 また充電施設で米シェア1位のチャージ・ポイントもシェアを守るため、400kwの急速充電施設を2020年までに千カ所以上設置する計画をたてている。

 なお急速充電を安全におこなうには、特別の設計が必要となる。

 充電メーカーは、2019年ごろには急速充電可能な市販車が登場するとみている(ちなみに急速充電可能なポルシェMission Eは2020年の発売が決まっており、VWがすでに急速充電の技術を獲得していることを示している-ポルシェはVWのグループ企業-)。

 また急速充電は大量の電力を必要とするため、配電施設の改修など送電網のアップデートも必要になる。

 ヨーロッパではすでに、電気自動車の普及を前提に送発電をどのように整備していくか具体的な計画づくりがはじまっている。

 アメリカでも事情は同じ。

 一方日本はメーカー、行政、メディアともに電気自動車懐疑論が強いこともあり、この分野で大きく出遅れつつあるようにみえる。

 気がかりである。


アメリカ9月の雇用統計: 平均時給が急上昇した背景

2017年10月08日 | 日記

 2017年10月6日(金)にアメリカの9月の雇用統計が発表された。

 アメリカはこの夏、フロリダを中心にハリーケーンが猛威をふるい、雇用統計にも大きな影響を及ぼしていることが判明した。

 雇用者が7年ぶりに減少したのはその最たるもの。

 そんななか注目を集めているのが平均時給の急上昇である。

 9月の平均時給は1年前より2.87%上昇した。

 アメリカではこの理由について、ハリケーンの影響を受けた地域で賃金の低い娯楽産業の労働者が多く仕事を失った結果だとする意見が多い。

 その影響はたしかにあるであろう。

 ただ産業別に平均時給をみると先月と今月、小売など一部の例外を除き多くの産業で平均時給が最近数か月より高く上昇している。

 賃金の急上昇がハリケーンによる一時的なものなのか、あるいは長期的な賃金・物価上昇トレンドの始まりを示すものなのかこれから数か月、注意してみていく必要があるだろう。

 なおフィナンシャル・タイムズは、今回の雇用統計後、フェデラル・ファンド先物から計算される12月の米利上げ確率が前日の77.5%から90%以上に上昇したと報じている。


上院共和党の二人、相続税の廃止に反対

2017年10月07日 | 日記

 2017年10月6日(金)のWSJによれば、共和党の2人の上院議員が相続税廃止への異議をとなえた。

 異議をとなえたのは、ラウンズ上院議員(サウスダコタ州)とコリンズ上院議員(メイン州)。

 アメリカでは個人で549万ドル(6億円:1ドル=110円)、夫婦で1098万ドル(12億円)以上の不動産がある場合にのみ相続税が課せられる。

 最高税率は40%

 相続税を払うのは年5千人程度

 5千万ドル(55億円)以上の不動産所有者が、相続税の40%以上を支払っている。 

 NYTは、3千億円相当の不動産を所有するトランプ氏の場合、子への相続で40%の相続税がなくなることで12億ドル(1300億円)の節税になると試算している。

  中立のTax Policy Centerは、相続税を廃止すると10年で2400億ドル(26兆円)の税収減となると試算している。

 民主党は共和党の減税案を富裕者優遇と批判している。


なぜアメリカは景気対策として公共事業より減税を優先するのか?

2017年10月06日 | 日記

 景気対策といえば日本では公共事業ときまっているが、アメリカではそれが減税ときまっている。

 なぜか?

 日本では、減税しても多くが貯金にまわるため経済効果が小さく、公共事業の方が経済への波及効果(産業連関)が大きいと言われる。

 一方アメリカでは公共事業への批判が強い。

 借金によってまかなわれる公共事業は将来世代に負担を転嫁する(受益者と負担者がことなる)、将来の借金返済は将来の経済にマイナスの影響を及ぼす(将来世代が使えるお金が減る)、公共事業では産業によって得られる利益が異なる(利益の生じ方が全産業で平等でない)などである。

 このためアメリカでは景気対策といえば減税ということになっている。

 なかなか興味深い違いである。