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肉食の系譜
シギルマッササウルスの反撃(2)
シギルマッササウルスのホロタイプ・参照標本やその他の標本は、カナダ・オタワのカナダ自然博物館(CMN)に保管されており、McFeeters らが記載していた。その他に、モロッコのケムケム産のスピノサウルス類と思われる多くの脊椎骨の化石が、ドイツ・ミュンヘンのバイエルン州立古生物地質博物館(BSPG)とイギリス・ロンドンの自然史博物館(NHMUK)に収蔵されていた。Evers et al. (2015) は、主にミュンヘンとロンドンの未記載標本を記載し、シギルマッササウルスと考えられるものとそうでないものを識別している。
脊椎骨の位置の推定
Evers et al. (2015) の研究で重要なポイントと思われるのが、脊椎骨の位置を同定したことである。分離した1個の脊椎骨を、他の1個の脊椎骨と比較することは困難である。獣脚類では頸椎の位置、つまり頸椎全体の中で何番目の頸椎であるかによって、個々の頸椎の形状は大きく変化する。そのため同じ位置の椎骨でないと比較して論じることはできない。
シギルマッササウルスの場合も、スピノサウルス類の完全な脊椎の情報がないこと、モロッコ産の標本は同一個体でない分離した骨であるため、個体変異や成長段階による違いが考慮できないなどの点で限界はあり、困難であることは認めている。しかしそれでも、Evers et al. (2015)は今回の研究で、シギルマッササウルスの個々の頸椎の位置を同定することができた。
これには、最近発見されたイクチオヴェナトルの完全な頸椎の情報が大きく役立っている。イクチオヴェナトルや、スコミムス、バリオニクスなどの頸椎と比較研究することによって、スピノサウルス類の頸椎の形態が位置によってどのように変化するかという傾向がわかってきたのである。
多くの獣脚類では、頸椎の前後軸上の位置によって横突起の方向が変化する。前方の頸椎では横突起が腹側方ventrolateral を向いているが、後方にいくにつれて横突起は水平方向に近づいていく。この横突起の上昇は一つの判断基準になる。
椎体の腹側正中にあるキールやヒパポフィシスhypapophysis という突起は、多くの獣脚類で中央の頸椎にはほとんどないが、後方の頸椎から前方の胴椎にかけて発達している。頸椎の中ではキールが発達している方がより後方と考えられる。
獣脚類の頸椎は全体としてS字状をなすので、個々の頸椎の位置によって関節面の角度が変わってくる。前方の頸椎では前端の関節面が前腹方を向いているが、後方の頸椎では前背方に傾いている。このような関節面の角度も、位置を推定するための指標となる。
シギルマッササウルスの場合も、横突起の上昇、キールやヒパポフィシスの発達の程度、関節面の角度、関節面の幅と高さの比率などの形質から、多くの頸椎の位置を同定することができた。このようにして、著者らは多数のシギルマッササウルスとされる分離した椎骨を、中央の頸椎、後方の頸椎、最前方の胴椎に分類した。
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