コロナ禍が続く中、ワクチンの効用がはっきりしてきました。特にファイザー社のmRNA遺伝子を使ったワクチンが、現状では常識をはるかに超えた優れた免疫力を発揮しています。また、開発の速さで他社を圧倒しています。現在、日本で使われているワクチンが、ファイザー社が開発したものです。
人工的に作られた遺伝子(mRNA:実際には4千ほどの塩基配列)を直接人体に入れて、人の体内で疑似ウイルスを作らせて、免疫を獲得するという全く新しい方法は、18世紀のジェンナーの種痘以来の免疫学に、大きな革命をもたらしています。
以下は、雑学ですが、皆さんよく耳にするデオキシリボ核酸(DNA)とリボ核酸(RNA)は、ともに遺伝子です。役割が異なり、乱暴な言い方をすると、DNAが設計図、RNAがそれをもとに必要なたんぱく質を作るコピー機(あるいは大工さん)のようなものです。DNAの方は、プロ野球球団名にもなっていて馴染みがありますね。
DNAのデオキシとは、直訳すると、‘脱酸素’です。反応性の高いRNAは不安定なので設計図には適さず、DNAは、RNAの末端OH基の酸素1個を抜くことで安定化したようです。
ところが、DNAは、二重らせんを作りやすく、また安定なために、外部から人工的に作られたDNAを人体に入れるのは危険だと、言われていました。
DNAと違いRNAはもともと不安定なため、人の体内でせいぜい数日しか持たず、その点でも格段に安全性が高いようです。ファイザー社のワクチンがマイナス70度で保管されるのは、RNAの不安定性のためと思われます。
ファイザーの大発明の要点は、人の細胞内に疑似ウイルスを作るためのRNAを外部から送り込むことです。コロナウイルスの遺伝子数は、およそ3万塩基ですが、そのうち、ウイルス表面の突起を作る部分が4千ほどです。この表面突起の作製を担うRNAを、遺伝子合成技術により大量に作ります。これが‘ワクチン’として働きます。因みに、人の遺伝子は十億塩基と言われています。
人工合成されたRNAを人体内に入れて、細胞内で疑似ウイルス(要するに、表面突起の部分だけ!)を作らせますが、なんと表面突起部分だけで、体内に抗体づくりを誘発しているようです。一度、体内に抗体ができると、その後、本物のコロナウイルスに感染しても、ウイルスを撃退できます!
200年以上続くワクチンの歴史では、いずれも何らかの形で、不活性化したウイルスあるいは疑似ウイルスを外部から人体内に持ち込むことでしたが、その分、効果にばらつきがありリスクも伴います。イギリスのアストラゼネカ社のワクチンも、遺伝子操作技術を用いてはいますが、人体に入れる前のウイルスを操作しています。
今回のRNAを用いた方法は、外部からウイルスを全く持ち込まず、体内で、その一部だけを作るという、’地産地消方式‘であることが、決定的に違います。人体にはいり込んだRNAが、細胞内で勝手にアミノ酸を使って、’ウイルスもどき‘を作るのは薄気味悪いけれど、結局は、抗体作りを手助けしているので、「まー、いっか」といったところでしょうか。
難題もいくつかあり、非常に不安定なRNAを安定化させる工夫と、人体の細胞内に、異物である人工合成RNAを巧みに潜り込ませるための工夫がなされているそうです。実際にRNAは、タンパク質の薄い殻で、オブラートのように包まれているようです。
面白いのは、難攻不落の細胞の入り口の、‘怖い門番’をだますために、核酸塩基の一部を置き換えることで、変装して細胞内に入っていくそうです。通常、メッセンジャーRNA(mRNA)と呼ばれていますが、まさにメッセンジャーの役割を担っています。
mRNAワクチンが、実際に使われるのは今回が初めてですが、大変残念なのは、各国の激しいワクチン争奪戦の話題にすっかり埋もれて、この大発明の学問的な側面がほとんど注目されていないことです。
もし数年後に、新たなウイルスによりパンデミックが起こったら、開発の速さと安全性により、このmRNA由来のワクチンが世界を席巻することでしょう。
「十勝の活性化を考える会」会員F