枕上書 番外編より
過去の帝君だなど 思いもよらず、鳳九は 口に手を
あてて 小さくあくびをすると「帝君、まだ寝ていな
かったの?私を待っていたの?」と言った。
細かく 少女を観察していた帝君だったが、少女の、
まるで当たり前の日常のような態度に
どう答えたら良いのか、そして どうしたら気分を
害する事なく寝殿から出ていってもらえるかと
思いを巡らせていたのだが・・・考えがまとまらない
うちに すでに少女は靴を脱ぎ ベッドに上がりこんで
当然のごとく帝君の腕の中に潜り込んで来た・・・
そうして「ああ、すごく眠いわ・・・」と言うと
三つ数える間もなく 寝入ってしまった。
帝君には・・・本当に珍しい事に・・・
なにも話す事もできず、どうしたら良いのかも
分からない・・・状態に陥ってしまった
それでも彼は 彼女を押し出したりはしなかった。
蚊帳の中、少女の甘い香りが充満した。
そして、しばらく経った頃 ふと気付いた。
子狐を抱いた時は気付かなかったが、人型に
なって ぴったり寄り添われ 彼女の息遣いを
感じると、少女自身の甘い香り以外に 彼自身の
気息が混じっている!という事に。
彼女の身体 奥深く、血脈から放たれているのは
彼自身の 彼しか持っていない赤金血が発する
かすかな白檀の香りだった。
彼女は 彼の血を沢山飲んだはずだ・・・
今、自分の襟首を掴んでいる 彼女の長く美しい
指。その人差し指にはまっている指輪が 帝君の
注意を引いた。
指輪の表面には 鳳凰の羽。
彼女の額にある 痣と同じ模様だ。
朱色の中に 朝焼けのような赤金色を帯びている。
その指輪が 彼の気息を帯びた 護身用の法器で
ある事は 一目で分かった。
しかも、それは 単なる法器ではなく、彼の血肉
を用いて作られた物に違いない。
指輪から発せられる 彼の仙澤と気息は
そうでなければ 有り得ないものだった。
26万年後の自分が どのような情愛をこの少女に
持ったかなど、今の彼には想像もつかないが
今、彼女を身近に見るだけで 彼女が自分の一部
であると分かるくらいに
この少女を大切に想い、守ったに違いない。
彼女がなぜ簡単に 碧海蒼霊に入って来る事が
出来たのか、帝君はようやく 理解した。
彼女の発する気息は 彼の気息そのものなのだから
彼が有する物はすべて 彼女も有し、彼が施した
結界も 難なく通れるのだ。例えそれが 最高級の
星光結界であったとしても 彼女を阻む事は
出来ないかもしれない ・・と。
帝君は 少しの驚きと放心状態を味わい
不思議さも感じたが、特別 震撼したという
ほどの感情は持たなかった。
と、突然、「ああ、熱い!」(鳳九は仙童に酒を
飲まされている)と言って ぴったりくっついて
寝ていた少女が 寝間着の襟を引っ張りつつ
寝返りを打って帝君から離れた。少女の白い胸元が
露わになる。
帝君は 一瞥して 視線をそらした。
彼女は 横で 一の字になったり人の字になったり
して また 彼の胸に潜り込む。
もとより サイズの大きい寝間着だったので
彼女の寝姿は 見るに絶えないほどになった。
帝君は 目をつむって 彼女の寝間着の襟を整える。
と、今度は 帝君の腰に 足がのしかかって来た。
寝間着からはみ出して 行儀悪いったらない・・
あんなにも優雅に歩いて来た彼女の
この寝相の悪さといったら🤦♂️💦💦💦
帝君は ビックリした・・・😅
帝君は 女性と親しい関係を持つ性分ではない。
当然、異性との接触に気を遣うなどもない。
そして、彼女の足を掴んで自分の腰から
どかそうとした。
帝君は 掴んだ足の 滑らかな皮膚の感触に
一瞬 恍惚となって、二秒ほど固まった(🤣)
慌てて手を離すと 彼女は足をどけて 今度は
帝君の首に 両腕を巻きつけて来た(!)
とうとう、帝君は 彼女を起こして「おとなしく
寝なさい!あまり動くな😩」と言った。
起こされた少女は まだ寝ぼけた様子で
「寝心地が 悪いの・・」という。
帝「どこが悪いの?」
九「ベッドが少し硬いわ」
寝心地が悪いなら、客間に行かせれば良いという
選択をするのがいつもの帝君なのだが、今の帝君は
彼女の為に、ベッドの硬さを何とかしようと
一生懸命 頭をめぐらせた・・・