枕上書 番外編より
帝君の筆頭従者は この十万年来 変わらない風景の
碧海蒼霊を残念に思っていた。しょっちゅう趣きを
変える美しい章尾山にいる従者が羨ましかった。
章尾山に住む少かん神は毎年 庭園を作り変えた。
筆頭従者は機会ある度に 帝君にそれとなく
碧海蒼霊の敷地内を模様替えするような箴言を
してみたが、帝君はそんな面倒な事をするつもり
はない とバッサリ切り捨てられるばかり・・・
従者は生きているうちにこの景色が変わるのを
見る事はない・・と諦めるしかなかった・・・
ところが 「不思議」は起きた。彼が所用で
4~5日留守にして戻ると 石宮の右側、帝君が
花園とよぶ(従者は雑木林とよぶ)場所が
世間一般で言うところの本当の花園になり、
庭には 曲がりくねった小道。鮮やかな花壇や
装飾を施した趣ある築山ができ、更には優雅な
蓮池まであった。
章尾山にも劣らない風景が広がっている・・・
驚いた従者は、そこで 凧揚げをしているゴンゴンに
いったい何が起きたのかを尋ねた。
ゴンゴンは 嬉しそうに説明してくれた。
「四日前 父君と母上がおしゃべりをしていた時、
あそこにあった雑木林の話になって・・・
母上が、あの雑木林は好きじゃない 未来の碧海蒼霊
では 自分が設計した花園や蓮池、野菜畑があって
綺麗だし、実用的だ と言ったの」
「母上はその設計図を書いて 父君に見せたんだ。
そしたら 父君は それには品位がない。天然に
茂っている雅なあの雑木林には 及ぶはずもない。
と嫌がったんだよ。そうして 父君は あの雑木林を
母上の設計図通りの花園に変えたの」
従者「若様・・・そうして、という言葉は 後に
続く内容と合わないような・・・」
ゴンゴンの国語の成績はあまりよくない。特に
文法は。
「あ、そうなの?どういえばいいんだろう・・💦」
「ああ、それには及びません。若様の問題ではなく、
これは 帝君の問題なのです😩」
帝君には、確かに 問題があった。
帝君は自分の色々を変える事には無関心で、
逆に 従者としてみれば 世話をするのは楽
だった。
しかし・・・今の帝君は・・・
この十万年というもの、食事内容が同じでも
構わない人だったのが、最近は 食事内容を
事前に知りたがり、メニューにまで口を出す。
調味料にまでうるさくなった。
服装についても 従者が決めて 同じ生地、スタイル
色のものをなん百着も作っておけば、それを頓着せず
着ていた帝君だったのに、今は 事細かに生地や色あい
素材などを気にして 従者に使い走りさせる・・・
筆頭従者は最初の一週間は頭が混乱したが
ようやく 八日目に その謎が解けた。
本当は 帝君が変わったわけではなかった。筆頭従者
が代理で給仕を務めた時、繊細な小白姫を気遣って
帝君が心を砕いた結果なのだと気づかされたのだった。
小白姫の好みの味つけや材料 メニュー。
小白姫の好みの衣装 肌触り 色あい デザイン・・・
適当な食事や 適当な衣装ではだめなのだ。もちろん。
従者は 事細かに一か月ほど よく観察した・・・
表面上 帝君は今までと変わらず 言う事も辛辣だ。
そのせいで、よく小白姫は怒って 丸一日口を
きかない なんていう事もあった。
筆頭従者は 帝君の人となりを 誰よりもわかって
いる。 小白姫は気づいていないけど、帝君が
どれほど細やかに姫のために心を砕いているかを。
姫の方は筆頭従者の気づかいのおかげで
日々 心地よく過ごせていると思っているが・・
従者がそんなに用意周到なはずなどないのに・・
しかし、帝君は従者に向かってネタばらししない
よう、釘を刺していた。
なぜ隠すのか?・・・まさか 女性に関心を示す
自分を周囲にも姫にも 知られたくない?とか?
従者は更に半月ほど観察を続け、自分の憶測に
間違いない事を確信したが、帝君にそのことを
言う勇気はなく、自分の心に留めるだけにした。
あっという間に三ヶ月が過ぎた。
結局 帝君は 九重天の要請を無視していたため
その三ヶ月で 九重天では 政変が起きていた・・・