空き地・空き家は
定借でイノベーションえを起こせ
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情報に接するのは無駄 連載中(11)
糸井重里インタビュー
雑誌とネットの違い
糸井 ちぎって載せられるのがネットの特性で
しょうね。どの時間をお客さんからいた
だくか、という話だと思うんです。おカ
ネ以上に、今は。ネットだと、「20分下
さい」じゃもう長い。3分くらいですか
ね。でも、読み始めたら3分経っていた
っていうのが理想。3分経ったら勢いで
10分くらいいっちゃうからね。最初の
3分は信用みたいなもので、好かれてい
たら3分はもらえる。そのうえで、もっ
と読みたくなるとか、人に言いたくなる
とか、SNSでつぶやくとか、転がってい
く可能性が増えるのがネット。雑誌は「
俺が読もう」って取っておくでしょう?
橋 取っておく、という表現がまさにそうで
すが、雑誌ってとても個人的なメディア
じゃないですか? 新聞みたいに家族み
んなで読むものじゃなくて、自分で買っ
て、自分一人で読む。そこには濃密で深
い関係があると思います。
(次回に続く)
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情報に接するのは無駄 連載中(10)
糸井重里インタビュー
多い分量が雑誌の魅力
橋 なるほど。ただ、私は雑誌の騒ぎ屋
的な部分は大事にしたいと思ってる
んですね。東洋経済の記者は『会社
四季報』の記事も書いているので、
数字に強い人が多いんですが、であ
るがゆえに、かつては『週刊東洋経
済』の記事も数字をずらっと並べた
ような記事が多かった。でも自分が
編集長になった時に、それってつま
んないよね、と思って。もっと騒が
れている人物をどんどん載せたいよ
ね、会社の人事一つにも騒ぎたいよ
ね、と、実際そういう記事を増やし
てきました。この前も、トヨタ自動
車社長の14ページ独占インタビュー
を目玉にした「経営者 豊田章男」
という特集を組みました。
インタビューだけで1万4000字くら
いあって、いろんな人に「この分量
はちょっと雑誌でしか読めないね」
って言われたんですけど、こういう
記事はやっぱり印刷メディアのいい
ところだなと再確認しました。『ほ
ぼ日』は、元は長いインタビューで
も何回かに分けて掲載されますね。
(次回に続く)
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情報に接するのは無駄 連載中(9)
糸井重里インタビュー
ジャーナリズムの役割
橋 雑誌の存在自体も窒素というか、社会
の一つの構成要素だというところはあ
るかもしれません。書店や駅の売店で、
表紙の見出しが目の端に入る。「ああ、
こんなことが今話題なんだ」と。並ん
でいるだけで実は雑誌の存在意義って
あると思うんですよね。もちろん、買
ってもらいたいですが。
糸井 あらゆる雑誌の奥付に「どうもすいま
せん」って書いたらどうだろう。今、
スクープを連発している週刊誌は、も
ともと文学好きの人がその出版社に入
社して週刊誌に配属されていたりする
じゃないですか。そこで、自分が組織
の一員として機能するために記事を書
いているんですよね。その時に、「断
罪する」ってところに結論を持ってく
るんじゃなくて、断罪するとか間違っ
て書いちゃったとしても、表3(裏表
紙の内側)には「ホントに申し訳あり
ませんでした」って毎週毎週やれば、
僕はすごく好きだな。「書かれている
人もどうかと思うけど、でもそれ書い
ている俺もどうかと思うよ」という表
明というか。漫才とか落語で「どうも
失礼しましたー」とか「お後がよろし
いようで」って言うじゃないですか。
ジャーナリズムというのも、もともと
の意味をたどればただの騒ぎ屋という
意味もあるんですよね。その手前で社
会の木鐸論があったり、カウンターカ
ルチャーとして権力の暴走を止める役
割があるというジャーナリズム論があ
ったりする。歴史の中では両方あった
はずなんだけど、メディアがどこかで
都合よく解釈して、つまり、おカネを
出して買ってくれる人がいることを理
由に「私たちは正しい」と言っている
だけだと思うんですよね。
(次回に続く)
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情報に接するのは無駄 連載中(8)
糸井重里インタビュー
そこにに行くと何かある
糸井 あ、すみません。(携帯を見て)あぁ、
なるほど……。今、まさしく窒素的な
メールが(笑)。実は昨日、『真田丸
』(NHK大河ドラマ)のことを『ほぼ
日』に書いたんですね。そうしたら、
出演者の方がそれを見てうれしかった
ってメール送ってくれました。これも
深く考えることじゃないですよね(笑)
。もちろん芝居した人がうれしいと思
ってくれたら、書いた自分もまたうれ
しいですよ。でも、会った時言っても
いいんだし。ブラジャーの売り場につ
いて考えるのもそういうことだし、今
日の取材も「この人に今会うべきだ」
じゃなく、あそこに行ったらなんかあ
るんじゃないかということでしょう?
そう思われるのはとてもうれしいし、
何でみんなうちに来てくれるんだろう
かって考えると……、うちも結局窒素
だらけだからかな(笑)。
(次回に続く)
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情報に接するのは無駄 連載中(7)
糸井重里インタビュー
窒素も必要
糸井 ただ時々、週刊誌の「誰々の離婚が
成立した」みたいな情報は入ってき
ていたほうがいい。それは窒素みた
いなものです。人間は酸素吸ってる
はずなんだけど、空気の中でいちば
ん多いのは窒素でしょ。だから、酸
素だと思い込まなければ、雑誌も僕
にとっては必要なのかもしれないで
すね。たとえば、雑誌で「ランチの
おいしいレストラン」特集をしてい
て山形にある店まで載っている。そ
こにはたぶん行きっこない(笑)。
でも、読んでいる時に旅をしている
神経回路みたいのは刺激されている
わけです。糸井事務所が上場する話
も窒素と一緒で、多くの人には差し
支えあるような話でもないんですね。
でも空気が全部酸素になったら火事
だらけになって大変なことになる。
だから窒素も必要なんだろうし、そ
れも含めて人生なのかもしれないな
ぁ。
ピロンピロン♪(携帯が鳴る)
(次回に続く)
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情報に接するのは無駄 連載中(6)
糸井重里インタビュー
自分の言葉で考える
糸井 載っているものかな。追い立てられ
るようにして情報に接するというこ
とを、僕はやはり無駄だなと思って
いて。自分の言葉で考えていること
だったら、時代性とか関係なく、し
つこく考えるべきこともある。たま
たまどこかの女の子が言ったような
ことの中に考えるべきヒントがある
かもしれないとも思うわけです。
たとえば、今日は会社の全員ミーテ
ィングの日なんですね。それで話し
ながらふと思ったんですけど、地下
鉄の表参道駅の誰もが見えるところ
にブラジャーの専門店がある。「あ
れはなんであそこにあるんだろう」
って聞いたんです。そしたら、わか
る人もいないし、買ったことがある
人もいない。じゃあなんだってなっ
たら、それは雑誌一冊買うよりも僕
にとっては考えるにふさわしい題材
なのかもしれない。
橋 そしたら雑誌がいらなくなっちゃいますね。
糸井 そうなんです。
橋 それは困ったものです(笑)。
(次回に続く)
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情報に接するのは無駄 連載中(5)
糸井重里インタビュー
酸素じゃなく窒素としてなら
雑誌も必要かもしれない
橋 当時はどんな雑誌を読まれていたん
ですか。
糸井 マガジンハウス系の雑誌は憧れでし
た。『an・an』や『POPEYE』とか、
あとはマンガ誌かな。今で言う一般
週刊誌は、熱心にではないけど、た
まに読んでました。ああいう雑誌は
やはり劣情を刺激しますから、南の
島に行ったりするとまったくいらな
くなるんですよね。心から劣情がな
くなるんです。でも、日本に戻ると
読みたくなる。
橋 セットなんですね。
糸井 当時はそうでしたね。ただ、今は極
端に言うと、雑誌をまったく読んで
ない。
橋 それは雑誌というパッケージに魅力
を感じないのか、あるいは載ってい
る記事に興味を感じないんでしょう
か。
(次回に続く)
追い立てられるように
情報に接するのは無駄 連載中(4)
糸井重里インタビュー
糸井 そんな大したものじゃないんです。
昔、雑誌『MEN'S CLUB』の知り
合いの知り合いが編集者だったの
で、会う機会があったんですね。
「連載とかやりたい?」って聞かれ
て、「あぁ、ハイ」って言ったら、
「じゃあどういうことが得意なの、
映画とかさ?」。正直に「得意な
ことないんですよね」って答えま
した。僕は、映画が得意とか自分
で言うやつは映画をちょっと余計
に見てるぐらいで大したことない
って思ってたし、若いから生意気
な部分もあって、「そういうのど
っちでもいいんじゃないですか」
って言ったら、「それじゃダメな
んだよ」って言われて。でもなぜ
か連載をやらせてくれることにな
ったんです。
プロレスのことを書いたりしてま
したね。ある時、すごく首が強く
て、首をどれだけひねっても大丈
夫っていうプロレスラーが来日し
たんです。でも、「プロレスで首
はかまれたりしないから、実はた
いしたことないんじゃないか」っ
て書くわけです(笑)。
(次回に続く)
追い立てられるように
情報に接するのは無駄 連載中(3)
糸井重里インタビュー
糸井 そんな頃ですか。「やりませんか」
と言われることが増えてきた頃で
すね。「○○がやりたい」というよ
りも、「やってみませんか」「や
りませんか」と持ちかけられてき
て、そんなに忙しくないんで、「
やれたらやるけど、やれるかなぁ
」「やれますよ!」「そうかなぁ
」って言って引き受けるという感
じでした。非常に受動的で、その
うえ鼻の下を伸ばしている、とい
うような時期でしたね。
橋 20代はだいたい「これがやりたい
」「俺が、俺が」となりがちです
けど。そういう20代の時期を通り
越して……。
糸井 いや、20代はもっとあきらめてた
んです。何かやりたいって言って
もできるものじゃないし、ホント
に夢も希望もなく、くたびれてた
んです。大学も中退してるし、「
こんなワタクシがおカネもらって
いいんでしょうか」みたいな気持
ちもあって。だから、できること
があればお役に立ちたいっていう
気持ちはありました。そしたらち
ょっとずつ「やらないか」という
ことが増えてきた、というのが本
音ですね。
橋 受動的でいるって、実は大変なこ
とですよね。何でも受け止める必
要がある。自分から「やりたい」
と言う時は、自分の得意なことを
やりたいと言えばいいわけですか
ら。
(次回に続く)
追い立てられるように
情報に接するのは無駄 連載中(2)
糸井重里インタビュー
30歳の時の雑誌と情報収集
糸井 「お前ごときが」的なのはありまし
たよ。「うちの旦那の会社がどれ
だけ苦労してもダメだったのに、
お前ごときが何を言ってるんだ」
って。あとは、「『ほぼ日』のい
いところがなくなっちゃうんじゃ
ないか」って心配される人もいま
したね。
高橋 去年のインタビューでも「そうい
うところはさんざん考えた結果、上
場を検討しているんだ」と話されて
いますが。
糸井 周りには僕が考えているようには見
えなかったのかなぁ。でもやってます、
ずっと、着々と。実は、もし上場がで
きたら僕は休もうと思っているんです。
一カ月くらい。上場がゴールだと思っ
てる人というか、思いたがっている人
がいっぱいいる。そうじゃないことを
どう表現しようかと思った時に、答え
が休むだったんです。本当に上場をゴ
ールだと思ってる人は、休まずにやっ
てるフリしますから。
橋 休まれている間に、『週刊東洋経済』
で集中連載をお願いしたいところです
(笑)。さて、今回の一つのテーマが
「30歳の時にどんな雑誌を読んでいた
か」、「どんな情報収集していたか」
ということなんですね。糸井さんの30
歳というと矢沢永吉さんの『成りあがり』
(角川文庫)に携わられていた頃ですね。
(次回に続く)
追い立てられるように
情報に接するのは無駄 新連載(1)
糸井重里インタビュー
上場はゴールではないからこそ
上場できたら1カ月休みたい
橋 ごぶさたしています。前回取材させてい
ただいたのは去年の3月でしたね。
「僕たち、『ほぼ』上場します」(2015年
4月18日号)というタイトルの巻頭特集で。
糸井 あれは去年でしたか。今回ね、「編集長
が会いたい」って企画書が来て、うれし
かったです。「会いたい」と言われたこ
とがたまらなく(笑)。
橋 そこに反応していただけるとは、こちら
もうれしい限りです(笑)。あれから上
場の話はどうなっていますか。
糸井 今僕の周りでは沈静化していますね。当
たり前のこととして、しみ込んじゃった
からかな。ただ、案外後ろ向きにとらえ
ている人もいましたね。
橋 後ろ向きですか。それは意外です。
高橋由里 東経編集長
(次回に続く)