不動産独立開業は
定年後の今が チャンス
「熱海」再び new
2011年からV字復活 連載中(8)
熱海市の財政事情好転
立て続けに事業をスタートできたのには、ほか
にも要因がある。熱海市の財政事情の好転だ。
熱海市では2006年9月に現職の齊藤栄氏がわ
ずか62票という僅差で市長となったが、この
時点の熱海市財政はいつ「第2の夕張」になっ
てもおかしくない状況だった。連結財政赤字
比率(一般会計収入の標準額に対する、公営
事業を含んだ全会計の赤字額の割合を示す)
は30%超と、全国ワースト6位だったのであ
る。齊藤氏は当選後すぐに5年間と期限を切
って財政改革を掲げ、市役所の人員整理など
も含む人件費カットや公共料金の見直し、緊
急性のない大型事業の凍結などコスト削減を
断行。結果、熱海市の財政調整基金残高は5
年間で17.4億円増加、不良債務残高は逆に
約24.1億円減少しており、V字回復を果たし
たといえる。
(次回ぬ続く)
「熱海」再び
2011年からV字復活 連載中(7)
マルヤの再生には200人が出資
2012年のカフェオープン後も経営的には苦労
続きだったが、市来氏は熱海に人を呼ぶべく、
次々とイベントを開催。続けているうちに、
別荘族と地元の人たちに交流が生まれ、移り
住んでくる人たちもちらほら出始めた。開店
から1年半後には、前述の「あたみマルシェ」
を始めたほか、2015年にはゲストハウスのマ
ルヤを始め、月1回「空き家ツアー」をスター
ト。2016年には、1959年に建てられて以来、
一度も使われたことのなかったビルの2階を
リノベーションし、コワーキングスペース「n
aedoco」を開始した。この矢継ぎ早ともいえ
る、新事業は建築やリノベーション、街づくり
などに関心がある人たちに「熱海が変わり始め
ている」という強い印象を与えた。そのためか、
ゲストハウスマルヤの再生ではクラウドファン
ディングを通じて200人近くが資金を投じ、実
際のリノベーションには70人以上が参加した。
情報を発信し続けたことで人手が着々と増え、
カフェやゲストハウスの経営も軌道に乗り始め
た。
(次回に続く)
「熱海」再び
2011年からV字復活 連載中(6)
資金不足を手作りで乗り越える
それが形となって表れたのが、RoCAだ。当初、
ここでカフェを始めると言い出したときには、
商店街の人たちが一斉に「ここに人が来るわ
けない」と猛反対。資金的な問題もあった。
40坪もある場所でカフェを開くとなると、通
常は最低でも1000万円程度の資金が必要にな
るが、当時に市来氏は自己資金ゼロ。なんと
か親戚や銀行から600万円を調達したが、改
装に充てられたのは350万円。そこで、什器
や家具などはマンションのモデルルームなど
からのもらいもので済ませ、多くの作業は自
分たちでこなした。だからよく見ると店内の
テーブルはなぜか収納家具の扉だったりする。
(次回に続く)
「熱海」再び
2011年からV字復活 連載中(5)
不動産で熱海を変える
観光情報はあるものの、当時の熱海には住む人の
ための情報がなかった。そこで市来氏は子育てマ
マや、熱海唯一の田んぼオーナーなど、地域で活
動している人や店の情報を発信。このほか、取材
で知り合った農家のみかん収穫体験などのイベン
トを開催し、リタイア後に移住してきた人たちを
中心に広く参加者を集めたり、「熱海温泉玉手箱
」略して「オンたま」と呼ぶ街歩きを実施。200
9年に開始したオンたまはこれまでに9回開催して
いる。もちろん、すべてが順調に進んできたわけ
ではない。当初は何かやろうと商店街に相談に行
くと、「お前は何者だ」「誰の許可を得た」「俺
は聞いていない」と話すら聞いてもらえず、門前払
い。イベントなどの手応えは感じていたが、商店
街の空き店舗は増え続け、高齢化も進む一方。行
き詰まりを感じる中で2010年に出会ったのが、
リノベーション街づくりを提唱するアフタヌーン
ソサエティの清水義次氏だった。建物をリノベー
ションして新たな「場」を作ることで、人の流れ
や意識を変え、最終的には街全体をリノベートす
る。そんな清水氏の発想に大きな感銘を受けた市
来氏は、清水氏に教えを受けながら、不動産で熱
海を変える活動に取り組み始めた。
(次回に続く)
「熱海」再び
2011年からV字復活 連載中(4)
仕掛け人はUターンで熱海に
こうした店舗やイベントなどを仕掛けている人
物がいる。熱海に拠点を置くmachimori代表取
締役で、NPO法人atamista代表理事を勤める市
来広一郎氏だ。1979年に熱海市で銀行保養所の
管理人をやっていた家庭に生まれた同氏は、19
99年の保養所閉鎖に伴い横浜に転居したものの、
大学卒業後、3年ほどのコンサル勤務を経て熱海
へUターン。以来、熱海再生にかかわってきた。
懐かしさだけが原動力ではない。決断の背後に
は学生時代に海外を旅して感じた熱海の可能性
がある。日本三大温泉と呼ばれる熱海は1200
年以上の歴史を持ち、湯量も豊富。海、山があ
り、海産物に恵まれているうえに、首都圏から
も近い。それだけの財産がありながら生かせて
いない。これらを生かすことができれば、熱海
は再生できる。そのために市来氏が最初に始め
たのは熱海を紹介するサイト「あたみナビ」(
現在はかかわっていない)だ。
(次回に続く)
「熱海」再び
2011年からV字復活 連載中(3)
4年で6件が開店する
2012年には10軒の空き家があり、シャッター通
り感が否めなかった熱海銀座。が、この4年間で
飲食店など6軒が相次ぎオープン。現在ではゲス
トハウスに宿泊しながら家を探し、移住する人も
出ており、周辺には新しい店舗やギャラリーなど
が目につくようになってきた。銀座通りとその周
辺の路上では2カ月に1回、伊豆を拠点に活動して
いる作家のクラフト作品や、地元農家の野菜など
を販売する「海辺のあたみマルシェ」が開かれ、
数十軒の店が出てにぎわうようにもなっている。
(次回に続く)
「熱海」再び
2011年からV字復活 連載中(2)
老舗商店街に誕生した開放的な施設
熱海駅からバスで10分ほどで着く熱海銀座商店
街も駅前同様、熱気を帯びている。創業100年
を超える老舗なども軒を連ねる歴史のある商店
街の中でも、ひときわにぎわっているのが、商
店街の真ん中あたりに位置する「カフェRoCA」
と、その向かいにある「ゲストハウスマルヤ」
だ。かつて証券会社だった空き家をリノベーシ
ョンしたRoCAが誕生したのは3年前。40坪も
ある広々としたカフェは、通りから店内が見渡
せるオープンさが売りで、店では地元の名産や
野菜をたっぷりと使った自慢料理がふるまわれ
る。無料でWiFiが利用できるほか、テラス席で
はペットもOKと、老舗商店街らしからぬ「自
由さ」が観光客から好評だ。同じく開放的な
雰囲気のマルヤでは、「ゆる酒会」や「朝ヨ
ガ」などのイベントを開催。こうした新たな
取り組みが若者や外国人を引きつけるきっか
けとなっている
(次回に続く)
「熱海」再び
2011年からV字復活 新連載(1)
東京駅から新幹線「こだま」でわずか45分。首
都圏至近の温泉地、熱海が活気づいている。週
末、熱海駅前には外国人を含む多くの観光客が
押し寄せ、足湯に浸かり、大道芸に拍手してい
る。2016年秋の完成を目指して駅ビルの建設が
進み、大型タワーマンションも姿を見せ始めて
いる。実際、入湯税から推察される宿泊客数は
2011年を底にV字回復。宿泊施設は人手不足の
状態が続いている。
しかし、近年まで熱海の印象は決して明るくな
かった。2000年前後から廃墟化した大型ホテル
の姿がテレビ、雑誌などに数多く登場。熱海に
は衰退した温泉地という印象がつきまとうよう
になった。長らく低迷していた熱海にいったい
何が起きているのだろうか。
中川寛子 東京情報堂代表
(今回 新連載です)
「富士そば」 new
人気の秘密 最終回(10)
価格な二極化
また、メニュー選びに関しては二極化も見られ
るという。「1店舗限定ですが、『上かつ丼セ
ット』を990円で出したところ、思ったよりも
売れました。また、今春に全店で『海老天祭り
』を行い、2本入りのダブル海老天そばとうど
んを550円で出した時も予想以上に品数が出ま
した。ワンコインにこだわるお客さまがいる一
方で、価格に見合う商品を提供すれば集客につ
ながると感じています」(同)富士そば史上最
高のメニューが千円札でお釣りがくるのも、同
店ならではといえようか。そんな富士そばが現
時点でやらないことは地方への出店だという。
国内全113店舗の全てが一都三県(東京都、
神奈川県、埼玉県、千葉県)にあり、箱根
の山は越えていない。代わりに海外展開は
「相手次第だが今後も増えそう」だという。
社会人の夏休みを控えて、人の移動が始ま
る時期。そば好き、うどん好きの人は立ち
食いそば店の味比べをしても面白いかもし
れない。
(今回 最終回 有り難うございます)
「富士そば」
人気の秘密 連載中(9)
オフイス街中心の競合他社との差別化
近年は出店範囲も広がり、オフィス街中心の競
合他社との差別化につながっている。「2016年
に出した西武池袋線の富士見台店(東京都練馬
区)のように、店舗の背後に住宅街が広がる場
所の出店も増えました。こうした店は、近くに
住む現役時代に都心店を利用されていた高齢客、
富士そば未体験だった女性客、ファミリー客も
利用されます」(丹有樹氏)客層の変化に応じ
て、曇りガラスの間仕切りのある座席を導入す
る店もある。
(次回 最終回です)
「富士そば」
人気の秘密 連載中(8)
年配の店員が多いのは
どんな業種であっても、新商品が出れば社内は
活性化する。総じて老舗企業は守りに入りがち
だが、そうした保守性を防ぐ効果もあるのだ。
ところで「富士そばには年配の店員が多い」と
いう声もある。ときどき利用する筆者も気にな
っていたので聞いてみたところ、次のような答
えが返ってきた。「“受け皿企業”として、他社
や他業界でうまくいかなかった人の応募も多い
からです。当社はそうした人材に対して安定し
た仕事を提供している自負心はあり、毎年、勤
続30年となる社員も出ています。また、少し
苦労した人の方が地道な接客ができ、お客さま
の満足度にもつながります」(同)
(次回に続く)
「富士そば」
人気の秘密 連載中(7)
競わせる経営で、メニュー開発も活性化
7社に競わせるのは出店だけではない。新たな
メニュー開発も各社に委ねている。全店に「か
けそば」「もりそば」はあるが、それ以外は自
由に開発できるという。サラリーマンの多い店
ではボリュームのあるメニュー、女性客も来店
する店ではヘルシーなメニューなど、立地に合
わせて積極的に開発する。メニュー開発では社
長プレゼンや会長プレゼンもなく、数人の店長
を統括する係長クラスがOKを出せばメニュー
として提供できる。「判断するのは会社ではな
くお客さま」という視点で商品開発もスピード
感を重視する。過去には意外な商品もあった。
例えば「揚げたこ焼きそば」は町田店、「チー
ズクリームそば」は御茶ノ水店が期間限定メニ
ューとして開発したが、人気定着とはいかなか
った。「あまり細かく言わずに積極的に開発さ
せます。そうした中から、最近の例でいえば『
ゆず鶏ほうれん草そば』のようなヒットメニュ
ーが出ればいいと考えています」(丹有樹氏)
(次回に続く)
「富士そば」
人気の秘密 連載中(6)
渋谷と浅草は難しい
これだけインターネットが発達した現代でも、
繁華街の一等地の店舗情報などは、古くから
ビルオーナーとの付き合いが深い地元不動産
店が握っていることが多い。出店するからに
は長年にわたる家賃支払いなどの問題もある。
そうした点を信頼されており、他の飲食店と
の出店競争に先んじるのだそうだ。例えば、
「駅前繁華街」といっても、人の流れによっ
て出店の手法は異なる。若き日の有樹氏は父
の視察に随行して出店手法を学んだという。
「東京・中野北口駅前の中野サンモールには、
ダイタンフードが運営する『富士そば中野店』
があります。人出は非常に多いのですが、実
は通り抜けに利用する人が多い商店街。こう
した場所は間口を広くした店でないと集客が
むずかしいのです」(同)長年の経験で出店
成功率は高いが、もちろん失敗事例もある。
渋谷センター街にあった宇田川店は、店の前
を通る客層が若すぎて売り上げが伸びなかっ
た。逆にシニア層が多い浅草仲町店では、「
歴史ある下町で商売人も多い土地柄なので老
舗個人店も多い。そうした場所でチェーン店
が入り込むのはむずかしかった」(同)そう
だ。
(次回に続く)