無知の知

ほたるぶくろの日記

ヒエログリフと日本語

2010-05-27 23:36:11 | 日記
昨日に引き続き古代エジプトの話題です。シャンポリオンが解読に成功した古代エジプト語、神聖文字ヒエログリフはとても興味深い文字です。昨日挙げた著作の中にはヒエログリフについての解説があり、そのありようがあまりにも日本語のようなので楽しくなってしまいました。まず文字の形は象形文字。それぞれが表意文字であり、ときに表音文字としても使われます。また漢字の部首のように使われる文字もあったりします。さらにいくつかの文字が集まって一つの意味をあらわすなど、漢字熟語や偏や旁(つくり)などによって作られる漢字そのもののようでもあります。このような構造の文字の解読にアルファベットを用いるフランス人、シャンポリオンが取り組んだのですからその苦労は大変なものだったと思います。

ところでこのヒエログリフに関する記述を読んで、白川静先生のお仕事を思い出しました。シャンポリオンが解読に成功したのは、彼が文字そのものを暗号のように考えていたのではなく、古代エジプトの文化全般に興味をもち、ありとあらゆる古代エジプトに関する知識を基礎として蓄えていたためでした。文字の生成はその時代の文化、人間の営み、自然のありようと密接に関係しています。もう少し踏み込んでいうならば、文化そのものの表出であるかもしれません。そのことをシャンポリオンも白川静先生も「知って」いたのだと思います。

話しは少しずれていきますが、このようにある仕事を遂行するために人は様々な経験をすることになっているように思います。一見なんの関係もないと思われることが、何らかのかたちで仕事のある場面に生きてくる。そんな経験を皆さんお持ちではないでしょうか。人生で経験することに何一つ無駄はないのだ、と強く思います。

現在、たとえ自分の本当にやりたいこととかけ離れたようにみえることをやっているとしても、それはいつかどこかで、思いもかけない場面で役に立ってくるのだと思います。おおらかな気持ちで様々なことを経験し、大いに楽しみ、生きていきたいと思います。

ロゼッタストーンのことなど

2010-05-27 00:14:45 | 日記

最近、ロゼッタストーンに書かれた古代エジプト文字の解読を成し遂げたジャン=フランソワ・シャンポリオンの生い立ちと解読が成し遂げられる経過について書かれた本を読んでいます。(『ロゼッタストーン解読』新潮文庫、レスリー・アドキンズ、ロイ・アドキンズ著、木原武一訳)ロゼッタストーンとはエジプトのロゼッタで採集された石碑で、古代ギリシャ語ヒエラティク、エジプト語デモティク(民衆文字)、エジプト語ヒエログリフ(神聖文字)の3種類の文字によって書かれた文章が刻まれていました。これがきっかけになり、古代エジプトの神聖文字ヒエログリフ(絵文字のようにみえます)がシャンポリオンによって解読されました。その経過は大変にドラマチックです。時代はフランス革命後、ナポレオンの帝政、ブルボン復古王政、、と政治体制がめまぐるしく変化していた時です。ローマ教会も絶大な権力をもっていたときであり、聖書の世界観が(例えば世界の創造は6000年前である、とか)支配的だった時代です。彼は大変に遠回りとおもわれるような沢山の苦労を乗りこえ、解読に成功しました。

読んでいて大変印象的だったことは、シャンポリオンの試練の連続です。彼は幼い頃から語学の才能を示していたのですが、家はあまり裕福ではなく、政治的にも不安定な時代であったため、立場も恵まれず、落ち着いて研究をすることがなかなかできない環境でした。しかし、それにも拘らず、彼は常にヒエログリフ解読への情熱の火を心に燃やし続けていました。そして断続的に、そして言語だけでなく、エジプトという文化全体に目配りをしながら少しずつ古代エジプト言語へと近づいていきました。なんとも縁としか言いようのない重要人物との出会い、重要な資料との巡り会いもありました。一見迂遠にみえ、無駄足を踏んでいるようにみえる様々なことが、最終的なゴールへの鍵束として機能していることが感動的でありました。どの経験も無駄ではなかったのでした。彼の魂の旅は、巧妙に仕組まれた幾多の課題を正面突破した立派なものでした。

話しは少しかわりますが、この本の中で古代エジプトの言語、文化が何度となく説明されるのですが、そのなかで一つ気になったことがあります。ヒエログリフの決定詞の一文字に小鳥の形象があり、「悪の小鳥」と呼ばれるものがあります。これは小さなもの、弱いもの、悪いものを表すそうです。これら3つのものは古代エジプトでは緊密に結びついた概念であったということです。小さなもの、弱いものはわかるとして、それが悪いものと結びつくというのは日本文化的には考えられないことです。全く異なる文化であることを改めて認識した次第です。