読書感想164 耳袋秘帖 赤鬼奉行根岸肥前
著者 風野真知雄
生年 1951年
出身地 福島県
出版年 2007年
出版社 大和書房 だいわ文庫
★感想★
実在した江戸南町奉行の根岸鎮衛を題材にした捕物帳。解説によれば、根岸肥前守鎮衛は、下級旗本の安生家の三男として生まれ、同じ下級旗本の根岸家の末期養子となり家督を継いだ。出仕してからは、勘定奉行、佐渡奉行を歴任し、62歳で江戸南町奉行に抜擢され18年務めた。珍談・奇談を集めた随筆「耳袋」の著者としても知られている。下情に通じ、刺青のうわさもあり、赤鬼奉行とも呼ばれたとか。
本書は根岸肥前守に南町奉行の下命がおりた時から始まる。根岸肥前守の裁きは小さい喧嘩の仲裁や噂話から、アヘンの密輸に関わる犯罪まで及んでいる。奉行所の中で根岸肥前守の動静をさぐる政敵の動きもある。それを二人の腕利きの直属の部下、坂巻弥三郎と栗田次郎左衛門を使って解決していく。夜になると5年前に亡くなった妻のたかと話し合うが、すぐにたかは消えてしまう。寂しい老人かと思うと、あにはからずや深川の売れっ子芸者の力丸とはいい仲だ。しかも妾ではなく恋人だ。年の差35年のカップルなのだ。人魂や幽霊のような度肝を抜く捜査方法も使うが、罪を犯す人の立場や心情にも同情したり、動物好きで言葉をしゃべるといって敬遠されていた黒猫を飼うことにしたり、奉行所に迷い込んだ狐の行方を心配したりする優しさがある。一読後の印象は暖かく明るい。