またまた脱線である。ちょっぴり塩味と苦味のある文章をご紹介する。
―へぼ医者に―
以前は眼科医をしていたあなたは、今では剣闘士を生業としている。とはいっても、競技場であなたがしていることは、以前治療室でやっていたことですよ。
この文章は、「エピグム」の達人とされるマティリアリスの作である。
現代では「エピグム」と呼ばれるこの詩は、ローマ時代では「エピグランマ」と呼ばれ、もともとは墓碑銘のための短詩型である文章形式で警句あるいは風刺詩である。
マティリアリスは、カエサルより140年後に生まれ、200年後に亡くなっている。
―フラックスに―
多くの人はわたしに言う。長大で荘重で悲壮な文学は、人々から敬意を払われ、賞賛され、崇拝される、と。
それは判ってますよ。だがわたしの文学は、何よりもまず、広く多くの人に愛読されているのです。
小プリニュウスが友人宛に書いた手紙に次のように書かれている。
「創意に富、強烈で激しく、辛らつを極め、塩味と苦味は十分だったが、無邪気さだけは薬にしたくもなかったのが、マルティアリスのエピグラムであった」
こんなふざけた作品はすぐ姿を消すというローマ時代の知識人の思惑を見事にかわして、彼の作った作品は二千年も過ぎた現代でも読まれ続けている。
―ポストゥムスに―
人生をたのしむのは明日からにしよう、だって?それでは遅すぎる。
ポストゥムスよ。愉しむのは今日からであるべきだ。いや、より賢明な生き方は、昨日からすでに人生を愉しんでいる人の生き方ですよ。
案外この考え方が、ヨーロッパの人たちの今日の生き方を支配しているのかもしれない。