カエサルと天文学的な借金を切り離して考えることは出来ないので、もう少し書くことにした。
35歳のカエサルは、政治キャリアの第二段階となる按察官に選出されたが、就任直後から次々と派手な事業を始めた。
アッピア街道の大修復工事、次に640人もの剣闘士を借り切っての大剣闘試合のプロデュースなど、有権者の人気取りを目的にした大盤振る舞いを行った。
この結果、ローマの庶民はカエサルを希望の星と認め好感を持ったが、しかし沢山の事業を国費ではなく自費で行ったので、天文学的な借金となったのであった。
父の代からローマの一の大金持ちだったが、クラッススは自分の代では国家予算の半分にも達する大金持ちとなっていた。この大金持ちがカエサル最大の債権者だった。
経済的にしか金を見ない場合、カネすなわち債権者が強者で債務者は弱者となるが、ひとたび借金が増大するや多額の借金は債務者にとって悩みの種となり、多額の借金は、カエサルに取って「保証」なったのであった。
属州総督としてスペインに出発する直前に借金取りに推しかけられて身動きできなくなったとき、返済保証を行ったのがクラッススだった。
カエサルは借りまくった金を、本代や友達付き合いやおしゃれや愛人達へのプレゼントにももちろん費やしたが、その大半は街道の修復や剣闘士の試合の主催や選挙運動費に費やしたのであった。
このように大盤振る舞いしたカエサルであったが、自分の資産を増やすためにはまったく費やさず墓すらも造っていない。
人によく思われたいという虚栄心いっぱいのカエサルに、稀代の英雄という人間像よりも、女たらしで人を思いやることのできる一人の人間としての魅力を感じたのが、塩野七生女史著作の「ローマ人の物語」であった。