田園調布の山荘

「和を以て貴しとなす」・・ 日本人の気質はこの言葉[平和愛好]に象徴されていると思われる。この観点から現代を透視したい。

161028 朝の散歩 昼の散歩(24)・・・緑を求めて2倍の人生を送った友

2016年11月02日 09時46分21秒 | 日本の未来像(future

 

竹林を持った庭を見ると一面に野菜と薬草が適当に栽培されている。そして鶏がたくさん駆け巡っている。あちらこちらに生んだばかり卵が落ちていた。築山に2畳ほどの離れがあり、アームチェアーが置いてある。朝の「日の出ツアー」でここに腰かけて「瞑想」や読書をするのだ。ここと母家をつなぐ渡り廊下にはハンモックがセットされていて、脇の柱に小さな棚が誂えてある。ここに缶ビールを置く。ビールを楽しみながら読書をし昼の庭を見る。2階の「寝室」に行くとなんと枕もと側の一面がガラス張りだ。「えっ?」と驚嘆する私に彼はにやりと笑う。「僕は、夜になるとここからお月様を眺めるのですよ」「僕は朝と昼はお日様にご挨拶をし、夜はお月様にご挨拶するのです」。「2人分の人生を送りたいので…」

彼は、本職は薬剤師。某大病院の薬局長だった。だからあらゆる病気を見てきた。そしてなんと自分も若い時8年間も結核で療養所生活を強いられた。これが彼の思想を作った。患者の苦しみを分かっている。そんな彼が、健康は、クスリよりも医師よりも緑からというのか、一種の悟りを開いた。ありったけのお金(たぶん遺産)を投じて、日本は言うまでもなく、世界中の鉄道の駅前と病院造園の写真を撮ってきた。もう十数ケ国のローカル鉄道を巡り、一つ一つの駅に降りて、駅前造園の風景を納めるのだ。彼に言わせると風景は黙って歴史や文化を語ってくれている。別に面倒な取材もしない。風景を眺め、その地域の自然と文化とか歴史を勝手に想像し、勝手に解釈し、印象をありのままに書き込むだけだ。彼は書斎などは無駄と「寝室」にうつぶせにに横たわり、月見をしながらせっせと書き物をする。50年間以上にわたる鉄道旅行で、その作品はすべて白黒写真のスライドにして7万枚もあるという。それが「寝室」の壁いっぱいにめぐらせた棚に置いてある。

かっぽ酒を振る舞いながら彼は「私は、今この地に、自分の墓場を建てています。自分の髪の毛、抜けた歯はこの庭の一角に自分で埋葬しています。生きながら自分の葬式をしているのです。本来なら土葬にしてこの場に埋めてもらいたいです。」自然こそが支配者だということを信じ、話し、人間のあり方を問い続ける彼らしいことばであった。

 

 

○若き日に8年間病臥して、ひたすら結核療養所の自室の窓から外の植物を見つめていたそうです。春夏秋冬の草木、木々は彼をどんなに励ましたことでしょう。彼は、後になって、車窓という言葉にこだわって「車窓より見た日本の植物 (1961年) (現代教養文庫)」を著しました。私と知り合ったのは1972年で、病院の造園の効用について教えを乞うた時でした。病院造園に関する彼のルポは50年以上にわたって医者向けの薬学誌「大塚薬報」に連載されています。

 


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