風の記憶

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2010年04月19日 | 詩集「ぼくたちの神様」
Baloon


おとうとよ
きみは夕べも帰ってこなかったね
部屋の隅にぶら下がっている白いTシャツ
憎らしいぞよ
抜け殻までが肩いからせておるとは


もう土器の欠けらも入っていない
きみのシャツのポケットは
いつから空っぽのままなんだ
きみの好きなブラックチョコ
空き箱すらもない


1900キロもある大河だぜ
伸ばした両腕が2本の川になる
きみのチグリス・ユーフラテス川
アッシリア
バビロニア
シュメール
古代の文明を抱きよせてみせた


おとうとよ
きみが瓦礫を掘り返すのは勝手だが
砂の山が人類の歴史だとしても
モヘンジョダロに辿りつくまえに
街が廃墟になっているかもしれない


君死にたまふことなかれ
きみは日露戦争もしらない
あれからの1世紀
戦争の命名はなお続いている
ひとの命は甘美なものだ
釈迦のことばに頬を染めるきみは
水鉄砲しか撃てないはずだ


ひとは静かに死ねないのだろうか
死者の数ばかり並べたてる
ニュースなんかもう聞きたくない


たった1行でいい
おとうとよ
きみの消息を伝えてくれ


(2004)


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